ロリコンの珍事情

tattsu君

文字の大きさ
19 / 33

18話 暗殺者

しおりを挟む

 2人しかいない夜の闘技場。しかし、そこにはもう1人影に潜んでいる者がいた。深海を思わすような深い青色をしたロングヘアーに対照的な赤い角を左右に2本生やした女の悪魔、サキュだ。
 彼女は怜が修行開始から気配察知能力を習得してからもずっと気付かれることなく怜の事を見守っていた。いや、監視していた。

「気配察知を身につけましたか。まぁ、私に気付かないのは仕方がないですね。しかし、こんな短時間で。やはりお父様の見込みは正しかったようです。」

 淡々と語る口はいつものように微笑んでいるサキュ。
そして視線を逸らすことなく口を開く。

「…そろそろ出て来てくださいませんか、牧野さん?」

 気配を殺し物陰から怜を見ていたサキュの更に後ろから牧野は出て来た。

「…気付かれるとは思わなかったわ。」

渋々といった様子で姿を現わす牧野。
それに振り向きもせずに続けるサキュ。

「貴方の気配遮断は素晴らしいものでした。証拠に怜さんは貴方の存在に気づいておりません。復讐者というのも伊達ではないようですね?」
「っ!?…どこでそれを知った?」
「調べなくても貴方の行動、醸し出す雰囲気から復讐者だと判断は簡単に着きます。私の実態を知りたいなら直接お聞きになってくださればよろしかったのに、牧野さん?」

 牧野はサキュの発言1つ1つに恐怖を覚えていた。怜とサキュが仮契約を交わしたという情報を掴んだ牧野は、その不自然なタイミングでの仮契約に疑問を感じ、1人、サキュの裏を探っていた。
 しかし、どんなに調べてもサキュの情報はなに1つ出てくることはなかった。それこそこの世に存在しないものの如く…。

 そして、そんな存在が次々と自分の正体を言い当てていく。牧野はサキュから深い闇を感じてしまったのだ。同じ暗殺者だが、自分とサキュとでは決定的な何かが違うと。

「私の行動に怪しさを感じてさぐっていたのでしょう?それなら安心してください。私は、怜さんに危害を加える気はありません。むしろ協力したいと考えています。」
「私にはそうは思わないわね。しっているわ、暗殺者達を従えている悪魔族最恐の暗殺者が悪魔王の側近の指示で怜に近づいていたことは。悪魔軍暗殺部隊隊長は貴方の事でしょう、サキュ・アスフィール。」

 この牧野の発言で初めてサキュは牧野のいる方に振り向いた。

「さて、どうでしょうか。立場上お答えすることは出来ませんが、貴方が私の邪魔をしないのであれば貴方にも危害を加える気はありません。しかし、そうでないなら危険因子とみなし…」
 
 サキュはここで言葉を切ると今までの淡々とした口調から声を落とし

「…処分することになりますよ?」

 そう言った。普段から常に微笑んでいたサキュの表情から感情が完全に消え失せ、普段閉じている瞼を開く。そこにある双方の瞳には明確な殺意を滲ませていた。

「私も怜とは協力関係にいる身。貴方に少しでも疑問に思う点があるのであれば、敵と見なすつもりよ。あなたが私を納得させるような説明をしてくれるのなら争わずに済むのだけど」

 しかし、牧野は動じる事なく、状況に対して恐ろしいぐらいの冷静さを持って言葉を返す。

「そうですね、私も貴方と刃を交えるのは得策でないと思っています。しかし、私とお父様…いえ、私とエアル様との主従関係状、話すわけにはいきませんので。」
「…そう。残念ね。」
「場所を移しましょう。お互いここで怜さんに気付かれるのは避けたいでしょう?」

 そう言い2人の暗殺者は殺意を残したまま深い闇へと消えていった…。





 見渡す限りの草原が広がった広大な夜の大地の真ん中に2つの人影があった。

「最終確認よ。話す気は本当にないのね?」

 先に口を開いたのは牧野だった。

「すみません。私の口からは話すことができません。」

 しかし、その問いに否定で返すサキュ。

「そう…なら仕方がないわね。」
「仕方がありません。」

 そう言うと牧野は懐から小型ナイフを、サキュは何もないところから身の丈ほどある鎌を出現させ構えた。

「なかなか凶悪そうなもので戦うのね。」
「はい。今までいくつもの武器を使用していましたが、これが1番扱いやすかったので。」

 やや緊張しているのを隠せない牧野に対してサキュの態度はここの場に移ってからさっきの消えた表情がなかったかのように微笑みを続けていた。

(私なんて眼中にないってことかしら。舐められたものね…)

 そんなサキュの態度の変化の無さに牧野は苛立っていた。

(いくら得体が知れなくても一瞬で決めればいいはなし…!!)

 牧野は能力を発動させ目にも止まらない速さでサキュの横を通り過ぎた。サキュは身じろぎひとつしない。

「決まっ…!?」

 勝利を得たと牧野が思い振り返ろうとしたところで牧野の体の至る所から血が噴き出した。だが、どの傷も浅く血が出たのも一瞬であった。
 切られたことに衝撃を受けた牧野はサキュから大きく距離を取るように後ろへ飛び引いた。

「…なにをしたっていうの?」

 切られたことに気づくことができなかった牧野は素直にそう聞いてしまった。

「私は切り刻みに来た貴方のナイフをすべて受け流し、反撃しただけです。」

 信じられなかった。今の一閃で完全にサキュの事を切り刻んでいたはずだ。その手応えもあった。しかし、現にサキュはこうして立っていた。無傷で。

(どんな能力なのよ…)

 今、牧野は能力をセカンドステージまで解放していた。牧野の能力名は『復讐者』。牧野が恨み又は殺意を持った相手に対して能力を封じ込め、身体能力を低下させるというものであった。その能力段階もファーストからファイナルの5段階。セカンドだとそこそこの能力なら封じ、身体能力も半分近くまで奪っているはずだ。
 それにも関わらず、サキュの動きを捉えるどころか攻撃を受けたことにも気付けなかったのだ。

(出来れば殺せずに済めば良かったのだけど、これは本気を出さないと逆に殺されてしまいそうね…)

 牧野は目を閉じる。全ての感情を消す。思考を復習対象へ。

(段階をファイナルへ……サキュ・アスフィールを……コロス。)

 牧野は能力段階をファイナルまで解放。瞼を開けたその目には血を思わせるような真っ赤な目があった。
牧野から発せられる殺意は悍ましいオーラとなって目視すら出来ているように錯覚させられる。
 しかし、それでもサキュは微笑みを崩さない。

 そして、次の瞬間、サキュの首が飛ぶ。飛んだ頭が弾け飛び残った体は支えを失ったかのようにガタガタと膝から崩れ落ちながら倒れようとして、倒れ切る前に半分、また半分、と切り刻まれていき最終的に霧散した。
サキュのいた場には何も残らなかった。まるで元から何もいなかったかのように…。

 サキュの消滅を確認し牧野は能力を解除する。牧野は自分の能力を決して過信していない。しかし、ファイナルステージまで解除すれば、王クラスでさえ屠る事が出来るのは確かなのだ。
 いくら、サキュに得体の知れない何かを感じていたとしても本気を出せば殺すことなどどうにでも…

「能力解除をすれば無防備になってしまいますよ牧野さん?」

 首筋には冷たい刃の感触。背後からは悪寒と殺意を感じる。そして何よりこの口調。

「私を殺した夢はどうでしたか牧野さん。しかし、もう現実に戻って来てください。勝負はとっくについています。」

 (なぜ、後ろに、いや、それよりもなんで生きてる!?夢ってどういうこと!?)

 「いろいろと思うことはあると思いますが、簡単に言いますと、貴方は私の能力によって夢を見ていたのです。」
「…夢って何よ?」

 牧野は完全に恐怖を感じていた。数ある戦いの中で死を感じる事は何度もあった。しかし、ここまで絶望的で圧倒的な死を、恐怖を感じた事は初めてであった。

「私の能力は『幻夢』。能力は名前のままです。対象に現実にない事を見せるというものです。」
「…それじゃあ、初めから勝負は」
「はい、闘技場で私の瞳をみてしまった時点で決着はついてました。」

 牧野は全身から力が抜けていくのを感じた。ストンと座り込む牧野を見てサキュは鎌を構えるのをやめる。

「私としては、貴方に死なれては困るのです。怜さんを守れる人を残しておきたいですから。私から言える事はただ1つ。私は貴方たちの敵ではありません。それだけは信じてください。全てが終わればいずれ話しますので。」

 そう言って消え去ってしまったサキュに、ただ何もする事ができずに座り込む牧野だけが暗い草原の上に残されていたのだった。
しおりを挟む
感想 1

あなたにおすすめの小説

ギャルい女神と超絶チート同盟〜女神に贔屓されまくった結果、主人公クラスなチート持ち達の同盟リーダーとなってしまったんだが〜

平明神
ファンタジー
 ユーゴ・タカトー。  それは、女神の「推し」になった男。  見た目ギャルな女神ユーラウリアの色仕掛けに負け、何度も異世界を救ってきた彼に新たに下った女神のお願いは、転生や転移した者達を探すこと。  彼が出会っていく者たちは、アニメやラノベの主人公を張れるほど強くて魅力的。だけど、みんなチート的な能力や武器を持つ濃いキャラで、なかなか一筋縄ではいかない者ばかり。  彼らと仲間になって同盟を組んだユーゴは、やがて彼らと共に様々な異世界を巻き込む大きな事件に関わっていく。  その過程で、彼はリーダーシップを発揮し、新たな力を開花させていくのだった!  女神から貰ったバラエティー豊かなチート能力とチートアイテムを駆使するユーゴは、どこへ行ってもみんなの度肝を抜きまくる!  さらに、彼にはもともと特殊な能力があるようで……?  英雄、聖女、魔王、人魚、侍、巫女、お嬢様、変身ヒーロー、巨大ロボット、歌姫、メイド、追放、ざまあ───  なんでもありの異世界アベンジャーズ!  女神の使徒と異世界チートな英雄たちとの絆が紡ぐ、運命の物語、ここに開幕! ※不定期更新。 ※感想やお気に入り登録をして頂けますと、作者のモチベーションがあがり、エタることなくもっと面白い話が作れます。

わたしの下着 母の私をBBA~と呼ぶことのある息子がまさか...

MisakiNonagase
青春
39才の母・真知子は息子が私の下着を持ち出していることに気づいた。 ネットで同様の事象がないか調べると、案外多いようだ。 さて、真知子は息子を問い詰める? それとも気づかないふりを続けてあげるか? そのほかに外伝も綴りました。

九尾と契約した日。霊力ゼロの陰陽師見習いが大成するまで。

三科異邦
ファンタジー
「霊力も使えない。術式も出せない。 ……西園寺玄弥、お前は本当に陰陽師か?」 その言葉は、もう何度聞いたか分からない。 霊術学院の訓練場で、俺はただ立ち尽くしていた。 周囲では炎が舞い、水がうねり、風が刃のように走る。 同年代の陰陽師たちが、当たり前のように霊を操っている。 ――俺だけが、何もできない。 反論したい気持ちはある。 でも、できない事実は変わらない。 そんな俺が、 世界最強クラスの妖怪と契約することになるなんて―― この時は、まだ知る由もなかった。 これは―― 妖怪の王を倒すべく、九尾の葛葉や他の仲間達と力を合わせて成長していく陰陽師見習いの物語。

妻からの手紙~18年の後悔を添えて~

Mio
ファンタジー
妻から手紙が来た。 妻が死んで18年目の今日。 息子の誕生日。 「お誕生日おめでとう、ルカ!愛してるわ。エミリア・シェラード」 息子は…17年前に死んだ。 手紙はもう一通あった。 俺はその手紙を読んで、一生分の後悔をした。 ------------------------------

あべこべな世界

廣瀬純七
ファンタジー
男女の立場が入れ替わったあべこべな世界で想像を越える不思議な日常を体験した健太の話

最強無敗の少年は影を従え全てを制す

ユースケ
ファンタジー
不慮の事故により死んでしまった大学生のカズトは、異世界に転生した。 産まれ落ちた家は田舎に位置する辺境伯。 カズトもといリュートはその家系の長男として、日々貴族としての教養と常識を身に付けていく。 しかし彼の力は生まれながらにして最強。 そんな彼が巻き起こす騒動は、常識を越えたものばかりで……。

勇者の様子がおかしい

しばたろう
ファンタジー
勇者は、少しおかしい。 そう思ったのは、王宮で出会ったその日からだった。 神に選ばれ、魔王討伐の旅に出た勇者マルク。 線の細い優男で、実力は確かだが、人と距離を取り、馴れ合いを嫌う奇妙な男。 だが、ある夜。 仲間のひとりは、決定的な違和感に気づいてしまう。 ――勇者は、男ではなかった。 女であることを隠し、勇者として剣を振るうマルク。 そして、その秘密を知りながら「知らないふり」を選んだ仲間。 正体を隠す者と、真実を抱え込む者。 交わらぬはずの想いを抱えたまま、旅は続いていく。 これは、 「勇者であること」と 「自分であること」のあいだで揺れる物語。

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

処理中です...