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18話 暗殺者
しおりを挟む2人しかいない夜の闘技場。しかし、そこにはもう1人影に潜んでいる者がいた。深海を思わすような深い青色をしたロングヘアーに対照的な赤い角を左右に2本生やした女の悪魔、サキュだ。
彼女は怜が修行開始から気配察知能力を習得してからもずっと気付かれることなく怜の事を見守っていた。いや、監視していた。
「気配察知を身につけましたか。まぁ、私に気付かないのは仕方がないですね。しかし、こんな短時間で。やはりお父様の見込みは正しかったようです。」
淡々と語る口はいつものように微笑んでいるサキュ。
そして視線を逸らすことなく口を開く。
「…そろそろ出て来てくださいませんか、牧野さん?」
気配を殺し物陰から怜を見ていたサキュの更に後ろから牧野は出て来た。
「…気付かれるとは思わなかったわ。」
渋々といった様子で姿を現わす牧野。
それに振り向きもせずに続けるサキュ。
「貴方の気配遮断は素晴らしいものでした。証拠に怜さんは貴方の存在に気づいておりません。復讐者というのも伊達ではないようですね?」
「っ!?…どこでそれを知った?」
「調べなくても貴方の行動、醸し出す雰囲気から復讐者だと判断は簡単に着きます。私の実態を知りたいなら直接お聞きになってくださればよろしかったのに、牧野さん?」
牧野はサキュの発言1つ1つに恐怖を覚えていた。怜とサキュが仮契約を交わしたという情報を掴んだ牧野は、その不自然なタイミングでの仮契約に疑問を感じ、1人、サキュの裏を探っていた。
しかし、どんなに調べてもサキュの情報はなに1つ出てくることはなかった。それこそこの世に存在しないものの如く…。
そして、そんな存在が次々と自分の正体を言い当てていく。牧野はサキュから深い闇を感じてしまったのだ。同じ暗殺者だが、自分とサキュとでは決定的な何かが違うと。
「私の行動に怪しさを感じてさぐっていたのでしょう?それなら安心してください。私は、怜さんに危害を加える気はありません。むしろ協力したいと考えています。」
「私にはそうは思わないわね。しっているわ、暗殺者達を従えている悪魔族最恐の暗殺者が悪魔王の側近の指示で怜に近づいていたことは。悪魔軍暗殺部隊隊長は貴方の事でしょう、サキュ・アスフィール。」
この牧野の発言で初めてサキュは牧野のいる方に振り向いた。
「さて、どうでしょうか。立場上お答えすることは出来ませんが、貴方が私の邪魔をしないのであれば貴方にも危害を加える気はありません。しかし、そうでないなら危険因子とみなし…」
サキュはここで言葉を切ると今までの淡々とした口調から声を落とし
「…処分することになりますよ?」
そう言った。普段から常に微笑んでいたサキュの表情から感情が完全に消え失せ、普段閉じている瞼を開く。そこにある黒い双方の瞳には明確な殺意を滲ませていた。
「私も怜とは協力関係にいる身。貴方に少しでも疑問に思う点があるのであれば、敵と見なすつもりよ。あなたが私を納得させるような説明をしてくれるのなら争わずに済むのだけど」
しかし、牧野は動じる事なく、状況に対して恐ろしいぐらいの冷静さを持って言葉を返す。
「そうですね、私も貴方と刃を交えるのは得策でないと思っています。しかし、私とお父様…いえ、私とエアル様との主従関係状、話すわけにはいきませんので。」
「…そう。残念ね。」
「場所を移しましょう。お互いここで怜さんに気付かれるのは避けたいでしょう?」
そう言い2人の暗殺者は殺意を残したまま深い闇へと消えていった…。
◇
見渡す限りの草原が広がった広大な夜の大地の真ん中に2つの人影があった。
「最終確認よ。話す気は本当にないのね?」
先に口を開いたのは牧野だった。
「すみません。私の口からは話すことができません。」
しかし、その問いに否定で返すサキュ。
「そう…なら仕方がないわね。」
「仕方がありません。」
そう言うと牧野は懐から小型ナイフを、サキュは何もないところから身の丈ほどある鎌を出現させ構えた。
「なかなか凶悪そうなもので戦うのね。」
「はい。今までいくつもの武器を使用していましたが、これが1番扱いやすかったので。」
やや緊張しているのを隠せない牧野に対してサキュの態度はここの場に移ってからさっきの消えた表情がなかったかのように微笑みを続けていた。
(私なんて眼中にないってことかしら。舐められたものね…)
そんなサキュの態度の変化の無さに牧野は苛立っていた。
(いくら得体が知れなくても一瞬で決めればいいはなし…!!)
牧野は能力を発動させ目にも止まらない速さでサキュの横を通り過ぎた。サキュは身じろぎひとつしない。
「決まっ…!?」
勝利を得たと牧野が思い振り返ろうとしたところで牧野の体の至る所から血が噴き出した。だが、どの傷も浅く血が出たのも一瞬であった。
切られたことに衝撃を受けた牧野はサキュから大きく距離を取るように後ろへ飛び引いた。
「…なにをしたっていうの?」
切られたことに気づくことができなかった牧野は素直にそう聞いてしまった。
「私は切り刻みに来た貴方のナイフをすべて受け流し、反撃しただけです。」
信じられなかった。今の一閃で完全にサキュの事を切り刻んでいたはずだ。その手応えもあった。しかし、現にサキュはこうして立っていた。無傷で。
(どんな能力なのよ…)
今、牧野は能力をセカンドステージまで解放していた。牧野の能力名は『復讐者』。牧野が恨み又は殺意を持った相手に対して能力を封じ込め、身体能力を低下させるというものであった。その能力段階もファーストからファイナルの5段階。セカンドだとそこそこの能力なら封じ、身体能力も半分近くまで奪っているはずだ。
それにも関わらず、サキュの動きを捉えるどころか攻撃を受けたことにも気付けなかったのだ。
(出来れば殺せずに済めば良かったのだけど、これは本気を出さないと逆に殺されてしまいそうね…)
牧野は目を閉じる。全ての感情を消す。思考を復習対象へ。
(段階をファイナルへ……サキュ・アスフィールを……コロス。)
牧野は能力段階をファイナルまで解放。瞼を開けたその目には血を思わせるような真っ赤な目があった。
牧野から発せられる殺意は悍ましいオーラとなって目視すら出来ているように錯覚させられる。
しかし、それでもサキュは微笑みを崩さない。
そして、次の瞬間、サキュの首が飛ぶ。飛んだ頭が弾け飛び残った体は支えを失ったかのようにガタガタと膝から崩れ落ちながら倒れようとして、倒れ切る前に半分、また半分、と切り刻まれていき最終的に霧散した。
サキュのいた場には何も残らなかった。まるで元から何もいなかったかのように…。
サキュの消滅を確認し牧野は能力を解除する。牧野は自分の能力を決して過信していない。しかし、ファイナルステージまで解除すれば、王クラスでさえ屠る事が出来るのは確かなのだ。
いくら、サキュに得体の知れない何かを感じていたとしても本気を出せば殺すことなどどうにでも…
「能力解除をすれば無防備になってしまいますよ牧野さん?」
首筋には冷たい刃の感触。背後からは悪寒と殺意を感じる。そして何よりこの口調。
「私を殺した夢はどうでしたか牧野さん。しかし、もう現実に戻って来てください。勝負はとっくについています。」
(なぜ、後ろに、いや、それよりもなんで生きてる!?夢ってどういうこと!?)
「いろいろと思うことはあると思いますが、簡単に言いますと、貴方は私の能力によって夢を見ていたのです。」
「…夢って何よ?」
牧野は完全に恐怖を感じていた。数ある戦いの中で死を感じる事は何度もあった。しかし、ここまで絶望的で圧倒的な死を、恐怖を感じた事は初めてであった。
「私の能力は『幻夢』。能力は名前のままです。対象に現実にない事を見せるというものです。」
「…それじゃあ、初めから勝負は」
「はい、闘技場で私の瞳をみてしまった時点で決着はついてました。」
牧野は全身から力が抜けていくのを感じた。ストンと座り込む牧野を見てサキュは鎌を構えるのをやめる。
「私としては、貴方に死なれては困るのです。怜さんを守れる人を残しておきたいですから。私から言える事はただ1つ。私は貴方たちの敵ではありません。それだけは信じてください。全てが終わればいずれ話しますので。」
そう言って消え去ってしまったサキュに、ただ何もする事ができずに座り込む牧野だけが暗い草原の上に残されていたのだった。
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