僕はまた君に会いにいく

tattsu君

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 部屋に戻ると妹の郡が椅子に座って待っていた。いつもと変わらずりんごを向いていたが僕が帰って来ることを確認すると表情を明るくした。

「おかえりお兄ちゃん」
「ただいま。テストはどうだった?」
「んー、ぼちぼちかな?」
「うそつけ」

 妹の言うぼちぼちは一般で言うよくできましたレベルだ。普通に80後半は言っているはずだ。「えへへ」と笑う妹を横目にし、ベットに腰を下ろす。庭からは近い病室ではあるが、それでも松葉杖で移動するのはとても疲れた。

「今日もお友達のところ?」
「ん。そうだよ」

 お友達とは茉由のことだ。会ったのは3日前だったが、それからは毎日あの庭のベンチで会って話をしていた。茉由は僕よりも長く入院をしているようで、この病院について詳しかった。病院食を美味しく食べられる方法だったり、院内から見ることができる絶景ポイントだったりと、話題が尽きるどころかどんどん盛り上がり楽しさも日に日に増していった。
 でも、茉由は決して自分が入院してる理由を言うことはなかった。遠回しに聞いてみても上手くかわされる。あの時、僕にした悲しそうな、申し訳なさそうな顔は、自分が何か辛い思いをして入院をしていたからなのかもしれない。それを僕と重ねてしまったのかもしれない。そう思うと好奇心より、聞かない方が良いと思う気持ちの方が強くなった。

「お兄ちゃん変わったね」

郡が不意にそう言った。「そうか?」と反射的に答えたが、自分的にはそんな風には感じない。

「うん。前は何て言うかすごくつまらなそうにしてた。笑っててもちょっと影が指してるような感じだったけど、最近は本当に楽しそうに笑ってるなって思うの」
「ん~そうかな?」

 少し考えてみる。茉由と出会ってからは退屈しなくなったような気がする。病院生活も見方を変えたらこんなにも面白くなるんだなって思えたからだ。
 でも、少し前までは代わり映えしない病院生活に飽き飽きしていた。大好きだったサッカーを取られてしまったことを引きずっていたのかもしれない。
 そう考えると、確かに自分でも無自覚に表情に出していたのかもしれない。

「今のお兄ちゃんを見てるとすごく安心するんだ。サッカーをやってる時のお兄ちゃんが戻ってきたなって思えるから」

 そっか。自分では気にしてない風を装っていただけで精神的にはかなり限界だったのかもしれない。強がることで自分を支えようとしていたんだ。

「そうだな。確かにちょっと詰まってたのかもしれない。心配してくれてたんだなありがと郡」

わしわしと郡の頭を撫でる。

「ううん。大事なお兄ちゃんだもん。心配して当然だよ」

そう言って「えへへ」と笑う郡はやっぱり心優しい思いやりのある妹なんだなって思った。

「でも、お兄ちゃん!元気になったのは良いけど無理はしすぎちゃだめだよ!」

腰に手を当て、頬をぷくっと膨らませる郡。おなじみの心配してますポーズ。

「ははっ、郡お姉ちゃんって感じだな」
「おぉ…。いいね!これからは私のことをお姉ちゃんと呼びたまえお兄ちゃん!」
「早速台無しじゃん」
「あ、間違えちゃった」

「あはは」と2人で笑いあう。

「じゃあ、また明日来るねお兄ちゃん」
「あぁ、また明日」

「バイバイ」と言って郡は踵を返して帰って行ってしまった。

 今日も1日が終わった。今となっては1日がすぎてしまうのは本当に早く感じる。あっという間な1日だった。

僕はまだギブスの取れてない足を見る。

「明日は、ちゃんと伝えよう」
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