僕はまた君に会いにいく

tattsu君

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 今日も僕は、いつものベンチに座っていた。今日の天気はくもり。予報では雨は降らないらしいが、昨日までずっと晴れ模様が続いていたために、少し憂鬱な気分を誘う。

 ベンチに来てから10分ほど経過したが、茉由は来ない。いつもなら、僕よりも早く来て待っており、僕が来ることに気づくと笑顔で手を振ってくれるのだ。今日、ベンチに来た時に茉由の姿がなかった時は、こういう日もあるだろう程度にしか思ってなかった。

 さらに10分が経過した。流石にここまで待っていたら、茉由に何かあったのではと心配になってきた。取り敢えずそのまま座って待っていられなくなり、茉由の病室に行こうと思い松葉杖をついて立ち上がる。

「あ、そういえば病室どこかきいてなかったな…」

 思いたったまでは良かったが、肝心の病室を知らないのでは意味がない。そこで、病院の受付まで足を運ぶことにした。

「あの、峰月茉由さんの病室ってどこですか?」

 受付にいた看護婦さんは峰月と聞くと、途端に申し訳なさそうな表情になった。

「峰月さんは只今、面会することができません」
「…え?なんでですか」
「詳しくは言えないのですが、昨日の夜中、急に体調を崩してしまったようです」
「そ、そんな!大丈夫なんですか!?」
「命に別状はありません。ですが、最近、具合を悪くすることが多かったようなので、容体が良くなるまで要検査となりますので面会はどうかお控えください」

 想像もしてなかった。確かに峰月は色白で体もガリガリとまでは言わないが細かった。明らかに病弱という程ではないにしても、彼女を健康と表現するには無理があるように感じた。
 しかし、最後に茉由と会った昨日の昼過ぎでは、いつも通り明るく元気な姿を見せていた。そんな茉由があの後、体調を崩したって…。

「そう、ですか…。すみません、ありがとうございました…」

 このまま受付にいるわけにもいかない。重くなった体を引きずるかのようにゆっくりと自分の病室に戻ることにした。


 ベットの上に寝っ転がり、音楽プレイヤーで好きな曲を聴いていても気が少しも晴れる気がしない。
 落ち着いてから考え直してみれば、茉由が体調を崩したのは自分に原因があったのかもしれない。夏の炎天下の中、木によって出来る日陰にあるベンチにいたとしても、蒸し暑い炎天下の中、1時間も2時間も話しっぱなしでいたら体力に自信があっても気分を悪くする可能性だってある。
 茉由はとても体力に自信があるようには見えない。理由はわからないが車椅子生活をしており、少なからず僕よりも病院生活が長い。そんな彼女と少し前までは現役で部活のサッカーに打ち込んでいた僕とでは、体力の差なんて歴然としてるし、暑さへの慣れも違かっただろう。
 そう考えると僕に原因があったとしか思えないようになっていた。看護婦さんは
「最近、具合を悪くすることが多かった」と言っていた。僕と茉由があのベンチで話すようになったのはつい1週間前。辻づまが合う。

「お兄ちゃん?」

 不意に聞こえた声にハッとして顔を上げると郡が心配そうに顔を覗き込んでいた。考え事に集中しすぎて周りが全然見えてなかった。

「どうしたの?具合悪い?」
「あ、いや。大丈夫」
「…そう。じゃあ、何かあったの?」
「それは…」

 僕は口籠もった。郡はこういう場面になると察しが良いというか鋭いところがある。

「何かあったなら教えて。私、お兄ちゃんの力になりたいよ」

 ベットの端に座って、僕と同じ視線の高さにする郡。その表情は心配さと真剣さを混ぜたような表情だった。僕はその郡の表情を見て悲しくなった。また、心配をかけてしまったんだな、と。

「実は、最近毎日会ってた友達がさ、急に具合悪くしちゃったみたいなんだ。その原因が僕にあるんじゃないかって思って…」
「なんでそう思うの?」
「僕と毎日毎日、外で何時間も話してたから、熱中症にでもかかって、もともとの病気が悪化したんじゃないかって…」

 僕は思ってたことを郡に素直に話した。思ってたことを口にすると余計辛くなった。
 その時、そっと僕の手を郡が包み込むように優しく握る。

「お兄ちゃんのせいじゃないよ」

 そう優しく言って微笑む。

「それでも、お兄ちゃんが責任を感じるのなら、お友達の容体が良くなるように心の中で応援してあげて。お兄ちゃんが悲しんでたら、その友達さんもきっと悲しくなっちゃうよ」

 妹の握る手が暖かい。それは体温的な暖かさとは別に優しさというか思いやりというか、何というかそう言った感じの暖かさを手を通して感じた。

「…そっか、ありがとな郡」

 自然とそう言っていた。まだ、自分が…と思ってしまう。だけど、郡のおかげでだいぶ肩の荷が下りたような気がした。
だから、その時の僕はこう思えた。

「僕、彼女の容体が良くなるまであのベンチのいつもの時間で待つことにするよ」
「うん、それがいいと思う」

 いつの間にか手にあった暖かさが僕と郡の周りの空間にまで広がったような感じがした。だけど、そう感じたのは少しだけ。さっきまでの微笑みから少し目を細め問い詰め気味に妹が口を開く。

「んで、彼女ってどういうこと?友達のこと?」

 あ、まずった…。茉由のことは、いつも友達って伝えてたから郡にはそれ以上のことは伝えてなかった。郡はなぜか僕の女友達のことを目の敵にしてるような節がある。

「そっかそっか、お兄ちゃんは郡のことをそっちのけで女の子といる方が楽しかったんだね」

 微妙に女の子という部分を強調してる気がした。

「いや、僕は郡といる時間も楽しいっていうか安心するっていうか…」
「そうだよね、その友達と会ってからだもんねお兄ちゃんが変わったのは。私よりいるよりも楽しいのは当たり前だよね」

 慌てて否定しようとしたけど、聞く耳すら持たない郡。もうこうなったら1週間は口を聞いてくれないかも…。

「ごめんね、お兄ちゃん。楽しい楽しい時間を邪魔しちゃって」

 声が冷たい。明らかに不満を隠すことなくじとーとした目で睨みつけてくる郡はそのままくるっと向き直って病室の出口へと歩き出す。

「じゃあねお兄ちゃん」

 ぴしっ!
少し強めに扉が閉められた。同室している2人の患者さんも怪訝そうな目で扉と俺の方を見向きしている。

「…えっと、騒がしくしてしまってすみません」

 とりあえずそう言ったが、2人の患者さんは何事もなかったかのようにスルーした。

…その日はずっと空気の重い状態が続いたのだった。

 なんで、あんなに怒るのだろうか?そうずっと考えてみたが、答えが出ることはなかった。だから、理由はわからないが次会った時は謝ろうと決めた。…次会うのが退院後になるかもしれないけど。
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