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僕は今日もあのベンチの所に来ていた。
茉由が突然来なくなってからもう1週間。それから僕はこうして毎日、会っていた時間に来るようにしていた。
幸い雨が降ることはなかったが、ここ最近は曇り模様が続いていた。それがまるで僕の心情を表しているかのようで、僕の気分をより憂鬱なものにさせていた。
しかし、今日は昨日までが嘘だったかのように雲ひとつない晴天だった。だから、もしかしたら今日は来てくれるかもしれないと明るい気分になれのだが…。
「…来ない、か」
30分待っても茉由は来なかった。心地よい風が頬を撫でるように優しく吹いているが、僕の気分は一向に優れそうになかった。眩しいほどの陽の光は暑さを倍増させ、それによって溢れ出る汗はベタベタして鬱陶しい。
「帰るか」
すでに使い慣れてしまった松葉杖を取り部屋に戻ろうとした時に、こちらに近づいて来る気配に気付く。立ち上がりつつそちらに目を向けて、僕は目を見開いた。
「…湊くん?」
その先にいたのは車椅子に乗っている茉由だった。やや垂れ気味の優しい目に、人形のように整った顔立ち、そして雪のように真っ白な肌色。そして、大きな麦わら帽子。それは、僕が知っている茉由本人であったが、ただひとつ大きく違うところがあった。長かった髪が短く切れ揃われていた。
「ひさしぶり茉由さん」
僕は立ち尽くしたままなんとかそう言うことはできた。聞きたいことはたくさんあったにも関わらず、それ以上に言葉が続かなかった。彼女も驚いた表情をしばらく浮かべていたが、不意に目線を彷徨わせたあと、口を開いた。
「…ずっと待っててくれたの?」
その声は少し震えているように聞こえた。
「もちろん」
「何も言わずに来なくなったのに?」
「来なくなったんじゃなくて、来れなくなったんだろ」
そう言うとまた茉由は驚きの表情を浮かべる。そんな茉由に、あの日、看護婦さんに聞いて茉由が体調を崩したことを知っていたこと。そして、また会えることを信じて毎日ちゃんとここにきていたことを説明した。
「…そっか」
いつものようにベンチの隣に車椅子を停めて座っている茉由は俯きながらそうこぼした。
「ごめんね、何も言わずに来れなくなって」
「気にするなよ、しょうがないことだったんだから」
それに…。
「…それに、僕こそ謝らなくちゃならない。ごめん」
「…なんで湊くんが謝るの?」
「僕と毎日ここで長話してたから体調崩した原因で」
「違うよ」
僕の声を遮るように言い切る茉由。
「私ね、体調崩すことが多いの。だから、湊くんのせいじゃないんだよ?」
ポタポタと茉由の膝の上に涙が落ちる。
「それどころか、私は嬉しかった。毎日毎日お話ししにきてくれてすごく嬉しかったの」
茉由の体が小刻みに震え始める。
「だから、謝らないで。湊くんは何も悪くないから」
顔を上げた茉由の顔はやっぱり涙でぐちゃぐちゃになっていた。でも、その顔には笑みがあった。嬉しさとか悲しさが混ざり合ったような笑みが。
「ごめんね、心配させちゃって。そして、心配してくれてありがとう。すごく嬉しかった」
それを聞いてすごく救われた気分になれた。背負ってきたものから解放され身軽になったようなそんな感覚だ。
「友達だから心配して当然だろ…」
語尾が少し小さくなってしまった。なんとなか恥ずかしいというか照れ隠しというか、そういった感情から顔がすごく熱くなるのを感じて、咄嗟に顔をそらしてしまった。
「とも、だち…?」
茉由はそんな僕の言葉に対して不思議な反応をとった。驚き、疑問、もしくは落胆とも取れるような響きのある声だった。その時の僕は、その声音の変化を気にすることができないぐらいに気分が高揚していたから気付けなかったが、はたから見れば、僕と茉由には相当な温度差があったのだと思う。
しばらく無言になった茉由に、ようやく違和感を感じた僕が振り返る。ほんの少し前までは優しい笑みはなく感情が一切感じられない無表情になった茉由がいた。
「ど、どうしたの茉由さん?」
その変化に流石の僕も確実な違和感を感じ、恐る恐るそう聞いてみた。
しかし、茉由からの返答はそんな質問からズレた返答だった。
「私、もう湊くんとは会えない」
え…?会えない…?
「ごめん、どういうこと?」
茉由の拒絶とも取れるような言い方を初めて聞いた。その声で僕を動揺を誘うのは十分だったらしく、思考が追いつかない。
「私もう長くないんだ」
追いつかない思考にとどめを刺すかのように告げられた事実に僕の頭はとうとう思考を放棄した。ただ、目を見開いて茉由の方を向くだけだった。
そこから茉由が自分の病のことを説明してくれたが、はっきりと詳しい内容が僕の耳に届くことはなかった。でも、1つ確かに覚えていたことはあった。
「…でね、お医者さんが、もって今月いっぱいでしょう。って言ってたんだ」
余命宣告を受けた内容だけが記憶に残っていた。今月いっぱい。それは、茉由があと1週間しか生きられないことを意味していたのだった。
茉由が突然来なくなってからもう1週間。それから僕はこうして毎日、会っていた時間に来るようにしていた。
幸い雨が降ることはなかったが、ここ最近は曇り模様が続いていた。それがまるで僕の心情を表しているかのようで、僕の気分をより憂鬱なものにさせていた。
しかし、今日は昨日までが嘘だったかのように雲ひとつない晴天だった。だから、もしかしたら今日は来てくれるかもしれないと明るい気分になれのだが…。
「…来ない、か」
30分待っても茉由は来なかった。心地よい風が頬を撫でるように優しく吹いているが、僕の気分は一向に優れそうになかった。眩しいほどの陽の光は暑さを倍増させ、それによって溢れ出る汗はベタベタして鬱陶しい。
「帰るか」
すでに使い慣れてしまった松葉杖を取り部屋に戻ろうとした時に、こちらに近づいて来る気配に気付く。立ち上がりつつそちらに目を向けて、僕は目を見開いた。
「…湊くん?」
その先にいたのは車椅子に乗っている茉由だった。やや垂れ気味の優しい目に、人形のように整った顔立ち、そして雪のように真っ白な肌色。そして、大きな麦わら帽子。それは、僕が知っている茉由本人であったが、ただひとつ大きく違うところがあった。長かった髪が短く切れ揃われていた。
「ひさしぶり茉由さん」
僕は立ち尽くしたままなんとかそう言うことはできた。聞きたいことはたくさんあったにも関わらず、それ以上に言葉が続かなかった。彼女も驚いた表情をしばらく浮かべていたが、不意に目線を彷徨わせたあと、口を開いた。
「…ずっと待っててくれたの?」
その声は少し震えているように聞こえた。
「もちろん」
「何も言わずに来なくなったのに?」
「来なくなったんじゃなくて、来れなくなったんだろ」
そう言うとまた茉由は驚きの表情を浮かべる。そんな茉由に、あの日、看護婦さんに聞いて茉由が体調を崩したことを知っていたこと。そして、また会えることを信じて毎日ちゃんとここにきていたことを説明した。
「…そっか」
いつものようにベンチの隣に車椅子を停めて座っている茉由は俯きながらそうこぼした。
「ごめんね、何も言わずに来れなくなって」
「気にするなよ、しょうがないことだったんだから」
それに…。
「…それに、僕こそ謝らなくちゃならない。ごめん」
「…なんで湊くんが謝るの?」
「僕と毎日ここで長話してたから体調崩した原因で」
「違うよ」
僕の声を遮るように言い切る茉由。
「私ね、体調崩すことが多いの。だから、湊くんのせいじゃないんだよ?」
ポタポタと茉由の膝の上に涙が落ちる。
「それどころか、私は嬉しかった。毎日毎日お話ししにきてくれてすごく嬉しかったの」
茉由の体が小刻みに震え始める。
「だから、謝らないで。湊くんは何も悪くないから」
顔を上げた茉由の顔はやっぱり涙でぐちゃぐちゃになっていた。でも、その顔には笑みがあった。嬉しさとか悲しさが混ざり合ったような笑みが。
「ごめんね、心配させちゃって。そして、心配してくれてありがとう。すごく嬉しかった」
それを聞いてすごく救われた気分になれた。背負ってきたものから解放され身軽になったようなそんな感覚だ。
「友達だから心配して当然だろ…」
語尾が少し小さくなってしまった。なんとなか恥ずかしいというか照れ隠しというか、そういった感情から顔がすごく熱くなるのを感じて、咄嗟に顔をそらしてしまった。
「とも、だち…?」
茉由はそんな僕の言葉に対して不思議な反応をとった。驚き、疑問、もしくは落胆とも取れるような響きのある声だった。その時の僕は、その声音の変化を気にすることができないぐらいに気分が高揚していたから気付けなかったが、はたから見れば、僕と茉由には相当な温度差があったのだと思う。
しばらく無言になった茉由に、ようやく違和感を感じた僕が振り返る。ほんの少し前までは優しい笑みはなく感情が一切感じられない無表情になった茉由がいた。
「ど、どうしたの茉由さん?」
その変化に流石の僕も確実な違和感を感じ、恐る恐るそう聞いてみた。
しかし、茉由からの返答はそんな質問からズレた返答だった。
「私、もう湊くんとは会えない」
え…?会えない…?
「ごめん、どういうこと?」
茉由の拒絶とも取れるような言い方を初めて聞いた。その声で僕を動揺を誘うのは十分だったらしく、思考が追いつかない。
「私もう長くないんだ」
追いつかない思考にとどめを刺すかのように告げられた事実に僕の頭はとうとう思考を放棄した。ただ、目を見開いて茉由の方を向くだけだった。
そこから茉由が自分の病のことを説明してくれたが、はっきりと詳しい内容が僕の耳に届くことはなかった。でも、1つ確かに覚えていたことはあった。
「…でね、お医者さんが、もって今月いっぱいでしょう。って言ってたんだ」
余命宣告を受けた内容だけが記憶に残っていた。今月いっぱい。それは、茉由があと1週間しか生きられないことを意味していたのだった。
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