女勇者をゾンビにしたら、回復魔法でダメージを受けるし、聖剣も持てません……

亜久里遊馬

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第3話:魔王討伐、続行宣言

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「あっれー、キノコ食べてそれから……どうなったんだっけ?」

 目の前の少女は、自分の身体を調べていた。
 肌は軽く灰色がかっている。
 唇は紫色で、目の下には隈。
 目は濁っていない。人間のそれと同じようだ。
 
 兜を脱ぐと、長く青い髪が現れる。
 髪の毛まではゾンビ化しないようだった。
 ゾンビと対立するような爽やかで、澄み切った青。
 彼女の腐敗が進んでいないせいで、違和感はそれほどなかった。
 端正な顔と相まって、むしろ美しいとさえ言える。

 全体的に、俺が想像していたゾンビとは異なる。

 鎧を脱ごうとした彼女に、思い切って俺は声をかけた。

「あのー、お前って今普通な感じ?」

 自分を殴りたくなるような質問。
 もっと聞くべきことはたくさんあるのに、第一声がこれだ。

「あれ、おじさ――ご主人。ってなんで私、ご主人なんて呼んでるんだろ? ちなみに普通…‥じゃないかな。身体が少し重い。あと、剣とロザリオがすごい熱い」

 ご主人、というのはクリエイト・アンデッドで生み出した者が使う言葉ではあるらしい。
 ただ、少女は言葉に疑問を持った。
 つまり……。
 
「今お前には、感情があるんだな!? 怒ったり、笑ったり、それについて考えたり」

「当たり前じゃない、ご主人。人間に感情があるなんて。それより、このご主人って呼んじゃうの何? なんか魔法でもかけた?」

「魔法というか副作用というか……。それよりも、今からお前に、重要な事を言おうと思う」

 今言ってしまって良いものか迷う。
 街へ帰って正式な医師、あるいは教会関係者に任せるべきではないだろうか?
 
 ただ……説明せずに街へ連れて行くのも難儀しそうだ。

 何しろ俺はランク外の死霊使い、彼女は勇者。
 ご主人、とまでは言っているが、ゾンビとして従うかどうかは不明だ。
 意思のあるゾンビ誕生は偉業のはずなのに、いざ成功してしまうと色々と問題点が出てくる。

「感情があると耐えきれないかもしれない。……それでも話していいか?」

「説明してよ。私だって暇じゃないんだし! これから仲間と合流して魔王の幹部を叩きにいかなきゃ」

「お、お前ってそんなにレベルの高い勇者だったのか!?」

「そ。Sランクの勇者は今のところ私だけよ。すごいでしょ」

 ぬおおおお。
 そんな重要な人材が、こんな所で野垂れ死んでいたのか!?
 Aランクの勇者だと、この森の半分ぐらいは薙ぎ払える実力と聞いたことがある。
 それがSランク……だと?

「な、なあ。説明する前に聞きたいんだが、そこにあるキノコと同じやつ食べた?」

 俺は一見無害に見えるキノコを指差した。
 木の根元に生えたキノコの毒は、口をつけただけで、人間を死に至らしめる。
 この辺りの者の間では常識であり、外から来た者にもすぐに伝えられる。

「食べたけど? 意外と美味しかったから、もう一個食べようっと思って。手を伸ばしたところから覚えてないや」

「お前、それ強力な毒キノコ。で、それ食って死んだんだ」

 ノリであっさりと言ってしまった。
 今は聖剣を使えないようだが、勇者が暴れだしては手に負えない。
 クールダウンさせよう。

「そっか。じゃあ今、私ゾンビなんだ」

「か、軽いな! ショックじゃないのか? 魔王討伐もままならないまま、こんな所で毒キノコ食って死んだんだぞ!?」

「だって、しょうがないじゃない。過ぎたことは気にしない主義なの。ご主人も覚えといてね」

 なんという順応性だろう。
 これは彼女が元々持っていたものか?
 それともゾンビ化して思考が変わったんだろうか?

「あ、傷がついてる。魔法詠唱、キュア」

「待ていいいいい!!!」

「あ、あああああ熱いー! 熱いーー!! 死ぬーー!!」

 自分の回復魔法でダメージを受けている。
 当然だろう、ゾンビなのだから。
 ついでに言えば、もう死んでいる。

 魔法は聖魔法込みで使える、しかし自分の身体は聖魔法を受け付けない。
 魔法は自分の内から出るのではなく、外にある何かに魔力が干渉している、ということか?

 例えば、空気中の聖なる成分に魔力を送り込み回復魔法とする。
 それならば、ゾンビ勇者が聖魔法を使えるのにも、とりあえずは納得できる。

 まあ、聖魔法を身近に出現させた時点でダメージを受けるのは確定。つまり、自分にも仲間にも使えなくなってしまっているが。

「水かけてー、水ー!!」

「いや、こっちの方がいいだろう。今投げるからじっとしてろよ」

 地面でごろごろ転がっている勇者へ向けて、俺は荷物に入っている小さな玉を投げた。
 俺はクリエイト・アンデッドしか使えないので、念のため闇系の攻撃魔法を詰めておいてもらったのだ。

 玉は勇者に当たってはじけると、真っ黒な炎をあげた。

「あー、気持ちいいー」

 回復魔法でダメージを受け、闇系攻撃魔法の炎の中、笑って立っている。
 実に異様な光景だ。

 ただ、顔立ちが端正なので、魔王の娘、と言われると納得できる。
 こう考えると、限りなく魔王よりの勇者になってしまったんだな。

「色々聞かなきゃいけない事はあるんだが、とりあえずお前の名前はなんていうんだ?」

 少女は暗黒の炎に抱かれながら、笑って言った。

「私はエリス。勇者エリスよ。よろしくね、ご主人」

「俺は死霊使いをやっているカフカという。つまり、お前をゾンビにしてしまったのも俺だな。急なゾンビ化で、不満が色々あるかもしれない。すまない。俺の出来ることであれば何でも……」

「別にいいよー。魔王討伐はこのまま続ければいいし。出来ることは何でもって事だから、ご主人もついてきてね。私はゾンビだから色々大変でしょ? メンテとか」

「ああ、魔王討伐ね。わかった」

 ……え!?
 何それ。今の何!?

「聞き間違いだよな。『魔王討伐を続ける』って聞こえたんだけど」

「間違ってないよ。勇者として当然のことだもん。えっと、そこの聖剣はご主人が持ってね」

 俺は呆然としたまま立ち尽くす。
 エリスに急き立てられると、幻の聖剣リガールを持って彼女の後ろに付いた。

 俺ランク外の死霊使いなんだけど、まさか、このまま魔王討伐に同行するのか?
 聖剣に尋ねてみたが、当然答えは返ってこなかった。
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