お人好しアンデッドと フローラの旅は道連れ世は情け。 骨まで愛してる。

あべ鈴峰

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パラダイスへの潜入

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貧乏人だからと用心棒に入店できないと追い払われた私たちは、ジャックの提案でメイドたちの住まいを探すことに。
「これだけ敷地が広いんだ。メイドたちの住まいも中にあるんじゃないか?」
 
***

言い出しっぺは俺だが、今のこの状況は・・。
パラダイスの敷地の様子を探らせるためにフローラを肩車したが、その心地よさに誘惑に負けそうになる。  
「どうだ。見えるか?」
「ちょっと、待ってください」
フローランが体の向きを変えたようで、ぐらつく。しゃべって気を紛らわそうとしてるのに、バランスをとろうとフローラのふくらはぎをギュッと握る。その引き締まった感触に、すらりとした足だとドキリとする。

「えっと・・ああ、多分あれがそうです」
「よし、それじゃあ。入れそうな場所はあるか?」
「・・・」
 当たったな。メイドたちは大事な商品だ。絶対、管理できるように手元に置くと思っていた。後は中に入って、フローラの姉か確かめれば完了だ。

どうなんだと返事の催促をする。
「どうした?フローラ」
「んー・・・見えま・・」
「見えま?見えま、何だ?」
しかし、フローラから返事が来ない。
 下で踏ん張っていると、やっと答えが出た。
「・・・せん」
「・・・」
 ジャックは無言でフローラを下ろす。
人目につかないこの場所を見つけるのにも苦労した。
となれば、塀の中が覗ける高い周りの建物から見るしかない。
しかし、夜も遅くなった。
「フローラ。今晩はここまでにしよう」
「はい・・」
 仕方なく出直そうと帰路についたが、フローラが落ち込んでいる。その姿に元気を出せと頭をわしゃわしゃする。

「明るくなったら、また探そう」
そう言って慰めると、分かったとフローラがこくりと頷く。
(・・・)
自分の思い通りに行くことなんか、ほんのわずかだ。フローラだって分かっている。それでも期待してしまうのは仕方ない。
甘い物でも食べさせて元気づけよう。
そこへガタゴトと大きな音を立てて荷馬車が俺達の横を通り過ぎる。随分重そうな荷馬車だと、なんとなく気になって振り返ると荷馬車がパラダイスに横付けする。
(もしかしたら・・)
それを見て自然と足が止る。
「ジャック?」
「しっ」
多分、そうだ。
フローラの口を指骨で黙らせると手を引いて近くの街路樹に隠れて様子を伺う。 門が開いて使用人たちが出てくると荷台から大きな酒樽を運んでいく。搬入口だ。

思わぬチャンスに、フローラと顔を見合わせると木から木へと移動しながら近づく。
荷馬車に御者の姿が無い。
きっと、酒樽を運ぶのを手伝っているんだろう。酒樽はまだ残っている。と言うことは、まだ運び終わるまで時間がかる。
 ここからなら敷地に入れたそうだ。
「中に入ろう」
開けっぱなしになっている扉をくぐる。

首尾よくメイドたちの宿舎見つけたが、留守らしく鍵がかかっていて入れない。窓から覗いてみたが、やはり人の気配がない。
反対側を調べていたフローラが戻ってくる。
「ダメですね。誰もいません」
「今は全員、仕事中か・・」
 予想できたことだが、一人くらいいると思った。考えが甘かったな。
入って来たあそこの搬入口も営業中しか開かないな。どこかに隠れて女の子たちが 戻ってくるの待ってもいいが、人数が多いだろうから見つかれば騒ぎになるかもしれい。
しかしせっかく見つけた入り口だ。
利用しない手はない。
(・・・)

「フローラ。メイドの格好をしてパラダイスの中に入ってみるか?」
 客として入店するより、裏から従業員として入ったほうが自由に動けるだろう。少し危険だがキャサリンを探すためには店に潜入するしかない。
「そうしましょう」
フローラの即答にジャックは下顎骨を上げる。聞くだけ野暮か。
すぐでも入ろうと 歩き出したフローラを止める。
「いろいろ準備するから、潜入するのは明日にしよう」
成功させるには下準備が肝心だ。
まずは店内にても 不自然じゃない服装に着替えないと。

*****

降り出した雨に急き立てられるようにその場を後にした。観光客が多いらしく宿屋もピンきりだった。
運良く手頃な宿屋を見つけると、ジャックは買い出しに行くとその場で別れた。

フローラは一人、湯船に浸っていると、天井から雫が落ちてくる。
外で雨が降っていて静かだ。
浴室は湯気で霞がかっている。
お湯をすくう。清潔で透明で手のシワが見える。
贅沢だ。
こんな風に入浴するのは多分これが最初で最後。お姉ちゃんが見つかれば、また野良仕事の日々だ。随分留守にしたから家も荒れ放題だろう。まずは後片付けから始めないと・・。

姉が居るパラダイスに明日潜入する。
長かった旅も、もうすぐ終わる。
お姉ちゃんと会えたら・・ジャックとはお別れ。そう思うと寂しい。離れがたい。
(そう思う事は我が儘なのかな・・)
でも、お姉ちゃんに アンテッドの村で一緒に生活しようと言えない。ジャックにも人間の村で一緒に生活しようとも言えない。
どうしてアンデッドと人間は理解し合えないんだろう。


手のひらのお湯にジャックの顔が浮かぶ。しかし、天井から落ちてきた雫が 手のひらに落ちてジャックの顔を歪ませる。波紋が消えた手のひらには姉の顔が浮かぶ。
私は・・・どちらかを選ばないと駄目なの?
 「はぁ~」
ため息をつくと手のひらのお湯で 顔をじゃぶじゃぶと洗う。

とにかく今は、明日のことに集中しよう。まだお姉ちゃんの状況が分からないのに、自分の事をあれこれ考えるのは早い。
当初の予定通りお姉ちゃん助ける。
私のことは、それから考えればいい。


**いざ、パラダイスへ**

ジャックは部屋のドアの前で、フローラの着替えを待ちながら、ズレてしまった骨を元の位置に戻そうとポキポキと鳴らす。
フローラと並んで寝ることは日常になっている。そのこと自体不満は無いが、フローラの寝相が悪い。
のしかかってきたり、上肢骨を抱き枕にしたり、大腿骨に頭を乗せていたり・・。寝相というより、寝心地が悪いのか?

「お待たせしました」
ドアを開けるとメイド姿のフローラが登場する。
潜入するにあたって パラダイスと同じ服を購入した。パラダイスは思ったより規模が大きい。メイド服が普通に売ってるのが、その証拠だ。
黒い短めのドレスに白いエプロン。 
頭にはヘッドドレス。
(可愛い・・)
やはり服装が変わると可愛らしさも5倍増し・・いや、10増しか?
見とれているとフローラが目の前で腕を広げて一回転する。

「どうですか?」
スカートがふわりと揺れて足首があらわになる。ジャックは、そんな姿に想像が膨らむ。
『お帰りなさいませ。ご主人様』
『お食事の用意が整っています』
『どんな事でも言いつけて下さい』
メイド姿で尽くしてくれる言葉を言うフローラを妄想してるうちに 、顎骨が開く。
(ああー良い・・。嫌々、良くない)

 いけない事を考える自分を戒め。
メイド服の力は絶大だ。
見ないようにしよう。それなのに調子に乗ったフローラがスカートをつまんで膝を曲げる。
「ご主人様。お帰りなさいませ」
「っ!」
妄想が現実になって言葉を失う。
想像の何倍も刺激が強い。

しかしすぐに、自分の邪な気持ちを放り投げる。お世話してもらってる場合じゃない。
我に返ったジャックが頚椎を振る。
「はい。はい。着替えたら、さっさと行こう」 
 茶番を終わらせると、つまらないと頬を膨らませてフローラが拗ねる。
「もう!そこは乗ってくださいよ」
 乗ったら、降りられなくなるんだよと、心の中でつぶやく。



開店準備の時間帯に例の搬入口に行くと、予想通り荷馬車が横付けされている。

いざ潜入しようとすると、フローラが鞄の中からズタ袋を取り出す。ついでに金目のものでも盗む気なのか?
「フローラ。それはなんだ?」
顎でしゃくると、フローラが袋の口を広げる。
「さあ入ってください」
「へっ?」
 意味が分からず頚椎を傾けると、フローラが、逆に驚く。
「まさか、ついてきてくれないんですか?」
ついて行くのに何故 ズタ袋が必要なんだ?・・!

そこで初めてフローラの意図を理解する。頭と胴体をバラバラにしろと言うことか。確かにそうすればコンパクトにならるが、あんな経験二度と御免だ。
「否、否。無理。無理」
突拍子もない考えに顔の前で中指骨を振る。しかし、フローラも引き下がらない。
「忘れたんですか?私、ジャックの胴体を担いで村まで行ったんですよ」
「そうだけど・・」
フローラが力持ちなのは知ってるが、ズタ袋に入るのは男としてのプライドが・・。

「大丈夫です。これに入れば荷物と
しか思われません」
 鼻息荒く迫ってくるフローラを見て、逃げようとジャックは塀の高さを測る。このままでは力ずくでバラバラにされかねない。
「俺は、これぐらいの高さなら乗り越えられるから心配するな」
「そんなんですか?だったら私も一緒に」
「いや、フローラの脚力じゃ無理だ。中で落ち合おう」
そう言うとレンガに指骨を刺して、 がむしゃらに塀を登る。搬入口に向かう
余裕はない。今すぐフローラの前からいなくならないと。

「あっ・・」
呼び止める暇もなくジャックが壁の向こうの側に消えた。
おんぶして、という意味で言ったんだったんだけど・・。それが無理ならロープを垂らすとかしてくれたら、私も乗り越えられたの・・。 
仕方ないと肩を竦めると、当初の計画通り搬入口に向かう。

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