巡り巡って風車 前世の罪は誰のもの

あべ鈴峰

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第六十ニ集

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 沈天祐は穏やかな日常に幸せを感じていた。全ての問題が片付き、新しい門出について考えていた。しかし、運命の歯車が止まっていない。


 先に戻った天祐がのんびりしていると、
昼食帰りの同僚がどやどやと帰って来た。すると、李水波が手を振りながら近づいてくる。何処か嬉しそうだ。
良く見ると皆紙袋を持っている。女子は買い物が好きだ。
「天祐さん、文房具屋がポイント三倍セールですよ」
「ポイント?」
李水波が机の上に紙袋を置くと、中からチラシを取り出して指差す。それは大学近くの店だ。既に買い物を済ませている。
この時代、文章を書くのはパソコンが主流だが、此処はパソコンに無い文字を書くから皆文房具に拘る。私も極力手で書いている。よく其処で買い物をするが、一緒に行った事など無いのにひいきにしていると知っているようだ。
どれどれ。チラシを手に取る。しかし、大して安くなっていない。
これくらいの値下げでは大した事は無い。
興味は無いとチラシを李水波に戻す。
「私は良い」
「どうしてですか? ポイントが三倍ですよ。三倍。絶対お得です」
「………」
そんな事言われてもポイントなど気にしたことが無い。ポイントカードと言う物も作る気は無かったのに店員が頻りに勧めて来るから作っただけだ。
「三ポイントが九ポイント。五ポイントが一五ポイント。……八ポイントなら二四ポイントですよ」
断ろうとした天祐だったが、彼女の言葉に何かがひっかかる。
「李水波。今何と言った?」
本能が警告しているような、何か見落としているような、言葉にならない 違和感を持った。
「えっ?ポイント三倍で……」
「その先!」
「三ポイントが九ポイント。五ポイントが一五ポイント。……八ポイントなら二十四ポイントですよ」
「……二十四ポイントだ!」
「えっ? えっ?」
そうだ。
向こうと此方では時間の流れが違う。処刑されたのは過去の時間の十月二十四日。
こっちの時間に合わせると……三倍だから……。
ええと……ええと……。落ち着いて正確に 割り出せ。
翌々月の……十二日だ。

「張勇、今日は何日だ?」
パッとしてカレンダーを見る。
「えっ? 十二日ですけど」
何てことだ! 処刑されるのは今日だ。徐が入れ替わろうとするはずだ。
なんて愚かなんだ。知っていたのに。忘れていた。何としてでも阻止しないと。
スマホを手に取ると、
「急用が出来た。後はよろしく」
「あっ、天祐さん!」
そう言い捨てると部屋を飛び出した。どうか無事で居てくれ。駐車場へ急ぎながら電話を掛ける。
「出てくれ。容容。出てくれ!」


5の12

 遅めの昼食を済ませ 洗い物をしているとスマホが鳴った。
「はい。はい。出掛けないで待っています」
天祐さんの切羽詰まった声に首を傾げながら電話を切った。日に何度もかかってきた電話が収まったと思ったのに、またかかってきた。
過保護がぶり返すさしてきた。 
(一体どうしたんだろう?) 
この前も仕事を休んで厳しい顔で一日中イライラしていたが、夜中の十二時を回った途端、お祝いだと言ってシャンパンで乾杯をした。何のお祝いか聞いても教えてくれなかった。それは不満だったけど、それ以上に上機嫌な天祐さんを見ているうちに私の気分も良くなった。きっと今回もそんなところだろう。サプライズが好きなのかもしれない。肩を竦めるとお風呂の掃除に取り掛かる事にした。



5の13東 岳国 過去

 昼も夜もわからぬほど薄暗い 牢屋にも朝は来る。俊豪は異変があったらすぐ行動に移せるように牢の詰め所で一夜を明かした。
何処からともなく鳥の声がして人の気配が増えて行く。
今日は徐の刑が執行される日。
パッと目を開けると青い空が飛び込んできた。その空に誓うように立ち上がる。
死刑が決まってから今日まで徐は何の行動も起こしていない。皇太子は既に廃位され処刑された。協力者も同じように官職を解かれ財産を没収された。ただ主犯が皇太子だったこともあり連座は免れた。
この事件の最後の一人。
諦めたのか? 否、徐の事だ。簡単には諦めない。最後の最後まで悪あがきするに決まっている。自害しないように手枷をしてある。
それでも、隙を付いて小徐と入れ替わろうとしているのか?
三度目はあってはならない。奥歯を噛み締める。
「今からそんなに緊張されておられては身が持ちませんよ」
ハッと振り返ると若渓が笑顔で佇んでいた。
見られたかと、バツの悪さを誤魔化すように茶碗を裏返す。
「来ていたのか」
「ええ。一人でいると落ち着かないものです」
若渓は二人が入れ替わるのを目撃しているから不安なんだ。それは私も同じだ。
毒など即効性のある物は使わない。入れ替わる条件は死にそうだ。死んでしまっては入れ替われない。方法が分かれば幾らでも打つ手があるのに。そこ事が歯痒い。万全を尽くしていても一抹の不安は残る。
何事も無くその時が過ぎるのを祈るしかない。
「お願いします。私も同席させてください」
「見て気分の良いものでは無いぞ」
若渓の気持ちも十分理解出来る。
しかし、首が切り落とされる所を見せるのは幾ら私でも許可できない。
「構いません。この目で徐の最期を見届けたいのです」
処刑に立ち会うと言うのを何とか止めたいのだが言う事を聞きそうにない。
私を見据える目は真剣で強い意思が見える。徐が絡むと何をしでかすか分からない。仕方なく頷いた。傍に置いて監視した方が私も安心出来る。

 若渓と一緒に部屋を出ると一緒に見届けようと席に付いた。しかし、幾ら徐を憎んでいるとしても処刑されるのを見るのは残酷過ぎる。心の傷となっても困る。
「若渓……。今からでも」
「いいえ。最後まで見届けます」
言う前に言いたい事を察したのか若渓が首を横に振る。
「そうか……」
決意が固そうだ。覚悟してきたのだろう。

 無機質な広場。
人の腰丈ほどの高さの舞台の中央に斬首台。
等間隔で壁づたいに 兵士が並び。まばらな 観客の中に自分たちも入った。
ザッザッと足を立てて執行官が入場した。
その時は近い。
徐が牢から出て来るのを待ち受ける。
首と手が一緒になっている四角い板状の枷をした徐が兵に前後を挟まれながら斬塔台に登って行く。今のところ何かする気配は無い。

5の14

 徐は牢から処刑場に歩きながら心の中で何度も天に向かって助けてと願った。
しかし、何も聞こえない。入れ替わろうと計画していたのに。何も出来なかった。
このままでは本当に処刑にされてしまう。
今迄の経験から命の危機に瀕してないと天は返事もしてくれない。
だったら、そう言う場面を作りだせばいいんだ。ただ、自害するなら簡単だ。でも私は死なない程度に自害したい。それが、入れ替わる条件だ。首吊りが一番手加減しやすい。でも、手枷のせいでそれが出来なかった。自害できそうな場所はないか辺りを見まわしていると溜め池が見えた。思わず目を背ける。水責めは思い出したくない。
何度も死にそうになった。あの息苦しさ。忘れられない。死ぬ思いだった。あの時入れ替わらなかったら死んでいた。そう思った瞬間閃くものがある。二度と経験したくないと思っていたがこの方法なら自分で調整できる。
死によりはましだ。

5の15

 他の罪人のように逃れようとしたり、喚き散らしたりも無い。達観したのかまるで、散歩に出かけるかのように凪いでいる。その態度に言い知れぬ不安を感じる。
ただ歩いているだけなのに何処からか助けが来そうで息が詰まる。徐にそんな当てなど無いのに。処刑場を取り囲んでいる壁に目をやる。少しの隙もあってはならない。
念には念を入れないと。
「応時」
呼び寄せると徐の傍に居るように指示する。応時が近づこうとすると徐が行き成り兵士に体当たりして走り出した。

5の16

 俊豪は捕らえようと立ち上がるとテキパキと指示を出す。
「門を守れ!」
しかし、予想に反して徐が向かったのは、外ではなくため池だった。死体を洗ったり血をながしたりするために作られた人工池だ。まさか、入水自殺?
徐がそのまま池に飛び込む。突然の事に部下たちが異変に気付いているのに、呆けたように水面に釘付けになっている。
「何をしている。早くしろ!」
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