巡り巡って風車 前世の罪は誰のもの

あべ鈴峰

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第五集

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 俊豪は山より高い 自尊心を持つと言われ徐有蓉が生きる気力をなくし 弱音を吐いたことに驚いた。最後の最後まで我を通して死を選ぶと思っていた。突然の心変わりに 裏があるのではと思っていた俊豪はさらに堀下げることに。

すると その腕には入れ墨ではなく 火傷の跡があった。
「それはお父さんに付けられた根性焼きのアトです」
根性焼き? それがどう言うモノか知らないがこの火傷の痕は昨日今日、出来たものでは無いと言うことは判る。
見れば肌艶も悪い。
次々に出てくる 証拠が別人だと訴えている。しかし……。
考えなくてはいけないことが多すぎる。
静かなところに行きたい。
「………」
一度考えをまとめないと、痛み始めたこめかみを押さえながら徐有蓉に背を向けると牢を出た。

 歩き出した私の後ろを何時の間にぞろぞろとと若渓たち小鴨のようについてくる。
「あの女は、徐有蓉本人じゃないのですか?」
「皆の見たと思うが、刺青がないし別人の可能性が強い」
みんなの考えはどうだと視線を向けた。誰も首を横に振らないが、だからと言って縦にも振らない。私も同じだ。
「別の方法でも確かめてみようと思う」
これだけで別人だと決めつけるのは時期尚早だ。

*✳✳

 若渓は改めて殺そうとして徐有蓉の姿を思い返してみた。確かに自分の目から見ても別人の可能性があることは理解できる。
あの娘からは漂う雰囲気も気品が感じられない。育ちと言うものは隠せないものだ。どうやらこの娘の家は貧しいらしく体つきも鳥ガラのように痩せていて肉が付いてない。
でもどうして あの娘はここに?
いつ入れ替わったの?
手引きしたのは誰?
何より あんな そっくりな女をどうやって見つけたの?
謎ばかり。しかし 若渓の胸を締め付けるのは、それを用意したのが 兄上かもしれないということだ。
(何処までも愚かなのか……)
そんな兄上の一途な想いに悔しさが溢れる。私や家族は蔑ろにしてまで徐有蓉を助けたかったの? 遣り切れなさに瞼を閉じると笑顔の兄上の顔が浮かぶ。死んでからも妹を悲しませるなんて……。
「大ばか者……」

2の8

 人違いだと言っても証明出来なければ意味が無い。俊豪は手分けして調べる事にした。私は人違いだと言う徐…有容の話を聞こう。
「医師が診れば、女の火傷がどのくらい前の物か分かるはずだ。手配しろ」
「御意」
応時に指示を出すと若渓に向き直る。
「悪いがこの女の衣の用意してくれないか、別人ならこのまま牢に入れては置けない」
「承知しました。行きましょ、小橘」
コクリと頷くと小橘を連れて出て行く。
その姿に 笑いが漏れそうになる。ほんのちょっと前まで殺そうとしていたのに……。こういう切り替えの早さは兄弟だな。


 一人になった俊豪は娘から聞き取りをしようと場所を牢屋から取り調べ室に移す事にした。運が良ければ仲買人が分かって、そっちの線で本物の行方が分からかも知れない。
大人しく自分の後ろをトボトボと付いて来る娘の様子を観察する。物珍しいのか落ち着きなく辺りを見まわしている。
(純朴そうだ)
だからと言って見に行ったりはしない。躾というより罰を恐れているように見える。
親に売られたとしても泣くだけで 反抗
はしないだろう。ただ許しを乞うだけり良くも悪くも強いものには従うそういう教育をされている。

 そう思って身上書を作ろうと色々話を聞いたのだが余計に悩む破目になった。
光海生まれで、今年で二十一。父親の名前は徐博。仕事は食堂の皿洗い。兄弟は無く母親は死亡。
「はあ~」
光海と言う国は聞いた事がなかった。地図を広げて場所を指せと言ったが、この地図に乗っているのは知らない国名ばかりで、光海は乗っていないと返ってきた。そんな話到底信じられない。この国は四百年続く大きな国だ。それをどの地名も聞いた事も無いと言う。嘘を付いているのかと意地悪な質問をしてらスラスラと答えて辻褄が合う。嘘をついているとしたら天才的だ。考えられるとしたら、ものすごい世間と隔絶された山奥の村の出だ。
昔 狼の頭のついた毛皮をかぶった集団を見たことがあった。魔族かと思ったが 移民だった。
それだけ知らないことはあるということだ。
迷子の仔犬のような表情からしても、そう言う娘では無い。
(………)
徐有蓉に会った事はあるのかと聞くと、新しく登場した徐有容は知らないと首を激しく横に振る。どうやって探し出したか知らないが、徐有蓉と瓜二つだ。
(と言っても1人は病み上がり)
姉妹だと言っても通じる。
「本当です。会った事もありません。気付いたら、ここに居たんです」
(………)
必死に訴えるのを見て、この娘も徐有蓉の被害者の一人なのかもしれないと思い始めた。
しかし 心証だけでは駄目だ。別人だと認めさせるなら、物的証拠が必要だ。暫し黙考した後、娘の前に墨と紙を用意した。
「これに名前を書け」
「なっ、名前ですか?」
「そうだ」
ぎこちない持ち方で名前を書いた。虫がのた打ち回ったような字に困惑する。
三歳の子供でももっとましだ。ワザとなのか汚い。書き順も違う。それを見て顔が曇る。
「………」
娘が、もじもじしながら私を盗み見る。
目が合うと直ぐに俯いた。ずっとこの調子だ。常におどおどしている。しかし、演技かもしれない。念には念を入れないと。
「十回、連続で名前を書け」
「はっ、はい」
有容がベタベタと筆に墨をつける。
嫌な感じがする。案の定、字を書く前にボタボタと神に墨が落ちた。ため息を押し殺し、無表情を貫く。徐有蓉は字が美しいことで有名だ。皇太子主催の茶会で書を見たこともある。それを引き立てるように描かれて絵も見事だった。
しかしこれは………。十回と言ったのに七つ目を書いたときには余白が無くなってしまった。文字を覚えたての者がする失敗だ。
新しい紙を渡した。


 何回書かせても変わらない。これは演技以前の問題だ。
「分かった。もういい。早く寝ろ」
「誰かおらぬか。牢屋に連れて行け」
見張りの者に指示を出すと娘が何度も頭を下げながら出て行った。
こんな事をして意味があるのか?
大して収穫は無かった。自分自身信じたいのか? 信じたくないのか? 偽物であって欲しいのか? 本物であって欲しいのか分からなくなってきた。


 書類を何度読み返しても何も出て来ない。
「はぁ~これはどうしたものか……」
机に肘をつくと 額を押さえた。
本物の徐有蓉に繋がる情報はなかった。
パサリと書類を放り投げると戻って来た応時が書類を拾い上げた。
「俊豪様。あの娘の話を信じるんですか?」
不満そうな応時を見る。私自身、理解できない事ばかりだ。だが……。
「信じる……とは言えないが、嘘だとも言い切れないと言うところだ。お前はどうだ。あの娘が嘘を付いていると証明できないだろう」
「それはそうですが……でも、そうなると我々の知っている徐有蓉は光海という国に居る事になりますよ。そんな地図にも乗ってない地の果ての国にどうやって探せというんですか?」
「………」
俊豪は手元にある あの娘が書いた地図を見る。確かに雲を掴むような話だ。
だが、あの徐有容が偽物でも、本物でも、黒幕が捕まりさえすればいい。しかし、そこである事に気付いた。
(まさか黒幕が入れ替わりの手引きをしたのか?)
そうなると計画は失敗だ。だがそれなら最初から入れ替わらせなかったんだ。
こんな荒唐無稽な術が使えるなら見た目など
簡単に変えられるはずだ。
態々似た人間を用意したのはどうしてだ? 
まさか天祐が?………
依頼人が死んでいるんだ 約束を反故にしたって構わないのに。罪人の身代わりになるか!?

駄目だ。とりとめのない話に先が読めない。惑わされるな。今やるべきことをやれば良い。時間は掛かっても辿り着きさえすれば良いんだ。そう考え、自分を諌める。まるで答えが浮き出るのを待っているかのように、また地図を見ていた。

**

 俊豪は自宅の庭に咲くアジサイの花を若渓と見ながら応時からの報告を待っていた。
応時は、突然現れた徐有容を診断した医師の見解を聞きに行っている。横目でチラリと隣に並んでいる若渓を見る。今日も眉間に皺を寄せている。
若い娘がする表情ではない。
(しかし、あの日からずっとこうだ)
後で知らせを送ると言ったが頑なに断られた。一度言い出すと梃子でも動かない。困ったものだと小さく首を振る。
そして、それを許す自分に呆れる。
それも致し方ない。私が五つ。若渓が三つ。それくらいからの付き合いだ。妹も同然、無下には出来ない。

 あの娘も若渓と歳が変わらない。それなのに過酷な運命を背をわされている。
(しかし、あの娘は、どこから来たのだろう)
あそこまで酷似している娘をどうやって探し出したんだ? 名前だけでなく生まれも同じ。前もって、こうなることを予想して準備していたのか? 
誰一人 知るものがなく、馴染みの無い
土地で一人。 別人だと証明されても行く宛はないだろう。それより誰が連れてきたかが重要だ。

そんな事を考えているとパラパラと花びらを雨粒が打ち付ける。俊豪は降り出した雨に空を見上げる。天祐が死んだ日もこんな雨だった。そこへ応時が戻ってきた。
「俊豪様」
応時の声にコクリと頷くと、若渓に向かって部屋に入ろうと手を向ける。

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