巡り巡って風車 前世の罪は誰のもの

あべ鈴峰

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第八集

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 大したものは用意できなかった。
俊豪は廊下を歩きながら持っている膳を見た。こんなものを食べられないと ひっくり返されても仕方がない。
だが、特別扱いはできない。ダメなら後で 応時を使いに出そう。そう考えていた。


✳✳✳


 俊豪さんが膳を持って入って来た。私に気付くと笑顔になった。良かった機嫌が良さそうだ。私みたいにグズな人間は 相手の感情を読むことがなぐられない為には必要な事だ。でなければ 今頃は父さんになぐり殺されていた。本当も、嘘も、関係無い。相手が望む言葉を言えばいいんだ。この前はそれが出来なかった。もう失敗は許せない。
「起きていたか。丁度いい。朝餉を持って来た」
起き上がると俊豪さんが布団の上に膳を置いた。それを見てパッと気持ちが明るくなった。漬け物とお茶碗一杯の冷や飯に、口の中によだれがたまる。食べて良いのかと俊豪さんを見るとうなずいた。まともな食べ物が食べられるのは何時以来だろう。バイト先で食べた賄いが最後だ。箸をつかんで一口食べる。美味しい。かめばかむほどご飯の甘さが広がる。ご飯って美味しかったんだ……。家でも賄いでも炊飯器にへばりついた米粒しか食べた事が無かったから、これはご馳走だ。


2の12

 冷や飯に茶を掛けただけの食べ物、嫌いだと言っていた漬け物も何の躊躇いもせず口にしている。自分の目の前の娘が全て平らげた。徐有蓉は、牢で出された食事には一切手を付けず。空腹でも平気な振りをしていた。
それほど自尊心の塊だった。しかし目の前の徐有蓉はそんな物を微塵も感じさせない。
(落ちている物でも平気で食べそうだ)
やはり、この徐有蓉は私たちが知っている徐有蓉とは別人だ。
では、本物の徐有蓉は何処に逃げた? 
そもそもどうやって入れ替わった?
有蓉を捕らえてから彼女を一度も一人にしなかった。必ず複数人の手下で見張らせていた。その目をどうやって掻い潜ったのか?
その答えを知る娘を見る……。本人は知らないと言っているが、それは気付いてないだけで何かしらの事情は持っているはずだ。

 聞き出すには、やはり少しでも関係を築かなくては。そうすれば向こうから素直に白状するだろう。しかし、それより先に伝えておかなければならないことがある。
俊豪は優しく話しかけた。
「お前と同じ顔で同じ名前の女人が居る事はそなたも知っておるだろう」
「はい」
「そこで同じ名前だとややこしいから小徐有蓉と呼んで区別しても構わぬか?」
小徐有蓉は、「はい。大丈夫です」と答えて手で口を拭った。

2の13

 有容は茶碗に残っていた最後の一粒を口に入れた。
食べ終わっちゃった……。
もっとゆっくり食べれば良かった。
「ごちそうさまでした」
あっという間に空っぽになった器を名残惜しい気持ちで膳に戻すと俊豪さんが、お茶を差し出してくれた。
「……あっ、ありが……とうござい……ます……」
(人に給仕してもらうなど初めてかも)
どう言う態度を取っていいか分からずペコペコと頭を下げながら受け取る。
こんな事までしてくれるんだ。いたれりつくせりだ。これが続けば、ここでの生活は私にとって天国かもしれない。清潔な服に食事。暖かい布団。何よりお父さんが居ない。帰ってからもこの日を忘れないだろう……。
辛いときがあったとき思い出せば 楽になるかも。薄緑色のお茶の味を覚えようとじっと見つめる。これが最後かもしれない。大切に飲もう。有容は、ゆっくりと口をつけた。
温かくて良い香り。一口飲む。美味しい……。
「実は、お願いがあるんだ」
「なんでしょう……」
(やっぱり……)
こんたんがあったんだ。そりゃそうだ。
ただより高いものはない。
でなかったら私なて相手にされない。私に無条件で優しくしてくれる人はお母さん以外居ないのに……。親切にされたとかんちがいした自分がバカだ。
でも、ご飯を食べたから……ことわれない。
「人違いだと言うことは分かったが、それを
他の者たちに信じてもらえそうにない。
だから、暫くこのまま徐有蓉のままで居て欲しい」
ここに居るのは何の問題は無い。むしろ、その方がうれしい。でも、徐有蓉の振りをすると言う事は……。恐る恐る俊豪を見る。
「あの……」
「何だ。問題でも?」
不安で、もうお茶の味もしない。何処へ行ってもひどい目にあわされる。それが私の運命なのかもしれない。でも違って欲しい。
ゴクリとつばを飲み込む。
「その……ごうもんするんですか?」
怒られるのを覚悟で聞いてみる。
もしそうなら嫌だ。あんな苦しい思いをしたくない。水の冷たさや床のかたさを思い出してみぶるいする。やらなくちゃダメだろうか? それともやらなくていいのだろうか? 何て言えばゆるしてくれかな? 
嫌だと言っても叩かれないかな?
全身を強張らせて答えを待った。

2の14

 俊豪は娘がきつく湯呑を握りしめた手を見て、この娘が暴力に対して恐怖している事が
伝わってくる。全身に力を込めて耐えている。
その姿に顔が陰る。
長年、虐げられてきた者は相手が暴力を振るうと分かっていても逃げたりしない。只、耐えるだけ。他人から見れば信じられない事だろうが、本人にしてみれば逃げて捕まれば今以上に暴力を振るわれると擦り込まれているからどうしようもない。
そんな娘に対して身代わりと分かったからには酷い扱いをするのは躊躇われる。しかし、娘を囮にするにことは変わらない。
心配そうに私の答えを待っている娘に対して計画を話すのは止めようと思った。
実際は隔離して他者の者がワザと侵入しやすようにし、部屋に一人にして格好の暗殺の的になってもらう。だが、その事を娘が知る必要は無い。怖い目には合わせないとか、命の保証はするとか約束しても良いが……。言えば怖がって計画が頓挫する可能性がある。
やはり、何も知らせないことが、どちらにとっても一番安全だ。
「否、それはしない」

2の15

 俊豪さんが首を横に振るのを見てホッとして緊張からかいほうされる。
「だがしばらくは、この部屋から出られない」
「それなら大丈夫です」
ゴウモンされないならどんな事でもたえられる。

***

光海

 沈天祐はコンビニ袋のから下着一式を取り出すと早速 着替えた。三日に一度の儀式のようなものだ。朝食を食べに行こうとスマホを手に取ると電話が鳴った。
王元だ。
「なんだ?」
「行って確かめてきました。本人で間違いありません」
「………」
本当に戻ってきたんだ。だったら 策を考えないと。( 噂を頼りに店を訪ね歩いていた)
この前は、店に客として入ったがすぐに正体が見破られて 取り逃がしてしまった。
「 もしもし?」
 今度は店ではなく 住居の方を訪ねてみよう。
そうすれば 用心棒のようなものもいないだろう。
「 もしも~し」
ホームページで店の場所は分かっている。
王元に確認もさせた。次に進む時だ。
「お~い。聞いてますか~」
今度こそ絶対に捕まえてやる。固い決意 奥歯を噛んだ。
「王元、頼みがある」
「 はい、はい。この王元に、何なりとお任せください」


***

 ごちそうさま と 空になった茶碗に手を合わせた。あの日から寝て、ご飯を食べてまた寝てご飯を食べる。そんな幸せな時間を過ごしている。誰にも罵倒されず叩かれもしなかった。それが、こんな心おだやかな気持ちになれるなんて……。
楽しく過ごせると思ってたのに、何もしないと言う事に落ち着かない。もちろんたのまれた事はちゃんとしている。仕事をしたいと言ったけど何もしなくていい 自由にしていろと言われた。でも、春節の時も働いていた。私
では何をすれば良いのかさえ分からない。
待遇の良さに不安になる。

 少しでもちゃんとしてると、アピールしたい。部屋の中を何度も雑巾がけをしながら隠しカメラを探す。天井から床まで目を皿にして調べたが出て来ない。
コンセント一つ無い………。
ここに来て頭に一つの言葉が浮かぶ。
もしかしてここは……別の時代? ドラマであるタイムスリップ?
そんな体験をした人など聞いた事も無い。
(………)
よく分からないが全く別の場所に来た事だけは確かだ。
沢山の人も、庭や建物を見ても昔風だ。
(やっぱり過去の時代なんだろうか?)
こういう時、歴史に強ければ 皇帝の名前とか有名な将軍の名前とか聞いて、どの時代とか、どの国とか分かるのに……。
だけど……どうしても信じ切れない。そう言う事が起こる人はきっと特別な人だ。
私にそんなものは起きない。
でも本当に……そうなんだろうか? どうしても信じきれない。

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