巡り巡って風車 前世の罪は誰のもの

あべ鈴峰

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第五十集

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4の20

 皇太子に対して何も思わなかったわけではない。しかし 疑うまでには至らなかった。
今 点と点がつながった。天祐からの話がなかったらもっと 時間がかかっただろう……。

 俊豪は胸のしこりを撫でた。
真実を知っても何一つ覆すことが出来ない。無力感に苛まれる。応時も暗い顔で思い詰めている。それぼど、大局を覆す事実だ。
(徐有蓉さえ居たら……)
そう思わずにわずにいられない。
俊豪は拳を自分の手に打ち付ける。
訴えても大臣たちを黙らせるほどの証拠か証人が現れない限り無理だ。相手にされない。肝心の徐有容も現代国に行ってしまい捕まえる事も出来ない。だが、現実的に考えて、例え真実が明らかになったとしても陛下がそれを認めてくれるだろうか?
認めないだろう。地位が高ければ高いほど、自分の間違いを認めるのは難しい。
だが、皇太子に対して不信感が芽生えるのは確実だ。それで妥協するしかない……。

「私、お役に立てましたか?」
心配気に聞いて来る小徐有蓉に笑顔を向けた。真相が分かったのは良いけれど、そのかわり対策を天祐から丸投げされた感が否めない。しかし、それは此方の問題だ。
「有難う。恩に着る。そんたの情報は役に立つものであった」
「ええ、私からも礼を言いますわ」
「そうだ。ありがとう」
「そうですか。それは良かったです」
ホッとしたように小徐有蓉が自分の胸に手を置く。しばらくぶりに見たが前よりふっくらして明るくなった。二人が巡り合ったのは天の采配 かもしれない。現代国では天祐の所で女中として働いているらしい。
大事にされているのだろう。


4の21

 若渓は眉間に深い皺を作っている俊豪に事件は任せて小徐有蓉の手を引いて自分の部屋に連れて来た。彼女には聞きたいこともらしたこともたくさんある。急に消えてしまって、 ああすれば良かった、こうすればよかったと後悔した。

 小橘を下がらせて二人で茶を飲みながら話をしていた。縁とは不思議なものだ。小徐有蓉は兄上の元で働いている。兄上の事だから彼女の身の上に同情して強引に雇ったに違いない。死んだと持っていた兄上が生きていた。徐とは恋仲では無かった。
久し振りに心が穏やかになる。
遠くに行ってしまって簡単には会えないのが少し残念だけど……。
小徐有蓉の口から聞く出会いから今日に至るまでの話に微笑んでいたが、次第に強張っていった。話を聞けば聞くほど申し訳ない気持ちになる。

兄上が小徐有容を使用人のように身の回りから家事に至るまでこき使っている姿が容易に想像できる。昔から武芸と仕事以外の事は無頓着。そのくせ完璧を求める。それを楽しそうに話すから余計に申し訳ない気持ちになる。貴族の子息は幼いときから従者がいる。俊豪様には応時と言うように。でも、兄上には従者がいない。だから、私が面倒を見ていたから小徐有蓉の苦労が手に取るように分かる。兄のことは全て知っている。
口が達者で、人をその気にさせるのがうまい。何も言わないと次々と指示が来る。
「兄上が困らせるような事を言ったらキッパリ駄目だと言わないと図の乗るだけよ」
「そんな事……何も出来ない私の事をクビにしないでくださる天祐さんには、感謝しかありません」
両手を振って否定する彼女は 嬉しそうに笑みが浮かんでいる。

 兄上は女子供に手は上げるような事はしない。虐げられていた事を考えれば今が幸せなのかもしれない。だけど、あの偏屈な兄上がずっと手元に置くのは意外だ。
従者も侍女も続かなかったのに……。
「よほど小徐有蓉の事が気に入っているのね」
「天祐さんは優しいから、私をあわれんで仕方なく雇ってくれただけです」
それは無いと両手を振って違うと言う。妹の私には分かる。
小徐有蓉は兄上の好みだ。話を聞くに料理上手で気遣いの出来る娘だもの。
(………)
兄上のことだ。小徐有蓉に気があってもどうしていいか分からないはずだと若渓は考えた。
女な子の手だって握ったことないんだから、
ここは私がひと肌脱ごう。
俊豪様とは違う不器用なところがある。

「そうかな? 小有蓉が兄上に尽くしているからじゃないかしら」
「えっ」
小首を傾げると疑問形で言ってみる。まずは自覚させることが大事。
「そんなことは……」
「あるわ」
「でも……」
私の言葉に小有蓉が顔を向ける。喰いついて来たわね。
「兄上は好き嫌いがはっきりしているの」
「好き……嫌いですか」
信じられないけど言っている事は当たっている。そんな戸惑ったように眉を寄せた。
「そうよ。誰だって嫌いな人は傍に置かないでしょ」
「違います。私は家政婦です。身の回りの世話をしてお金を貰ってます」
成程、身分の差を気にしているのね。そんなのどこかに養子してもらえば解決する。
やはり本人の気持ちが一番重要でしょ。
う~ん。小有蓉は店主が自分のところの奉公人と恋仲になっら駄目だと考える人間かも。
でも、よくある話だ。彼女の話では兄上は貴族では庶民として働いているらしいから問題無い。 
「それでも、自分の身の周りの世話をしてもらうんですもの。絶対、好きな人じゃなくちゃ無理でしょ」
「………」
小有蓉が口に手を当てて首を何度も傾げている。
「あなただって嫌いな人は傍に居て欲しくないんじゃなくて?」
「それは……そうですけど……」
考え込んでいる。考え込んでいる。これで種は蒔いたから後は兄上次第ね。
(兄上、健闘を祈るわ)

 未来の姉上だものもっと仲良くなっておこう。また入れ替わるかもしれないけれど、今は此処に居るのだから、それまでは私が面倒を見よう。
兄上がヘマをしても私の顔に免じて許してくれるかもしれない。恩を売るのは悪い事じゃない。
「それはそうと、小徐は何かしたい事はある?」
「えっ?」
「せっかく戻って来たんですもの。色々遊びましょ」
「でも……」
「何か食べたい物とか見たいものとかないの?」
兄上がお世話になっているんだ少しでもお礼をしたい。
「いえいえ、泊めていただくだけで十分です。他はお構いなく」
遠慮する小徐有蓉の手を取る。
「そう言わないで、ねっ」
「………はぁ」



4の22

 若渓さんに押し切られる形で外出する事になったけど、誘ってもらって良かったと思っている。ここには陳芳みたいな知り合いは居ない。何をしても大丈夫だ。
それでも本物の徐さんと間違われないように布のついた笠を被った。
だけどそれが、ドラマで見るお忍びのお嬢様みたいだ。浮かれ気分で若渓さんと街をぶらつきながらも、顔を見るたび真実を言うべきか悩んでいた。
楽しいと思うたび 罪悪感が襲ってくる。

こっちに居る天祐さんの代わりの人間が死んでしまったため二度と帰れない。でも、兄が生きていたと喜ぶ若渓を見ると言い出せない。
若渓さんも俊豪さんも現代と言う国がこの時代にあると思い込んでいる。
地図にない国だから帰るのに時間が、かかっているだけだと思っている。
現実は時代が違う。会う事も声を聞くことも出来ない。生きてはいても一生会えない。その事を伝えたい。だけど、この時代の人に言っても理解できないだろう。このまま黙っているのは嘘を付くみたいで後ろめたい。
(だけど……)
本当のこと言って悲しい気持ちにさせるのは可哀想だ。それに私に、どうにかしてと泣きつかれても困る。やっぱり駄目だ。黙っていよう。若渓さん、ごめんなさい。心の中で手を合わせる。その代わり現代に戻ったら天祐さんのお世話を頑張ります。

4の23

 俊豪は東宮御所へ向かって歩いていた。
その足取りに迷いはもうなかった。
探りを入れて見ることにした。徐が死んで事件は全て終わったと皇太子は思っている今なら気が緩んでいるはずだ。
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