《R18》春告と紫に染まる庭《セクサロイド・SM習作》

サクラハルカ

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第9話

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 部屋の中には、ただ私の呼吸音と、時折漏れる嬌声のような、啼き声のような。そういう音だけがくっきりとした波紋を作っている。それを起こさせているはずの木蓮からはただ、彼の着ている服の密かな衣擦れの音が、ほんの一瞬の静寂に、カサリ、と混じるだけだった。

 次第に大きくなっていく快感を何とか散らしたくて、私はぎゅっと閉じていた両目を開いて頭に視界からの情報を入れた。少し上向いた私の前には、大判の木蓮の刺繍が静かに立っていた。
 自分が刺した一つ一つの糸の形を追いながら、木蓮の手の動きから気を逸らそうとしたけど上手くいかない。
 眼前の自分の刺繍にすら笑われている気がする。

 蘭に抱かれているときは、もっと相手の存在がわかる。だというのに、木蓮はこんなにも私を弄んでいるくせして、その存在自体はただそこにずっと立っている樹木のように密やかで、そのことに私は混乱させられていた。

 とにかく木蓮を拒否しなければと思うのに、背中から抱きしめられて彼の膝に座らされているこの状況では、抵抗らしい抵抗はさせてもらえない。
 口で嫌だ、と言っても彼はそれに返す言葉もくれず、全然取り合ってくれない。私一人で喘いで、暴れて、それでも望んだ状況に転換する事ができなくて、馬鹿みたいだと泣きたくなった。

 両胸を揉みしだいていた木蓮の手が、不意にその頂きを強く握って、私の体が自分の意思とは関係なく大きく跳ねた。

「あっ。木蓮、やだっ」

「やだやだって、春告、さっきから子どもみたいだ」

 私が逃げようとするのを難なく引き止めながら、木蓮は笑った。ようやく彼の声が聞こえたというのに、揶揄されたように感じて顔が火照る。

「ホントに、蘭が、いったの?」

「うん。春告を温めてあげてって。クーラーをつけたら春告が寒いって言うはずだからって」

 やり方はだいぶ前から教えてもらってたんだけど、と木蓮はいつものようにのんびりとした口調でそう言う。

「……ら、蘭は、どこ……あっ」

 喋っていれば少しは手を緩めてくれるのではないかという期待は、さっさと壊されてしまった。木蓮は私と言葉を交わしながらも、私の弱いところを的確に突いてくる。初めてこうやって触れられているはずなのに、もう何度もそういう行為をしているかのように、木蓮の手の動きは淀みない。

「仕事に行ったよ。春告も朝、俺と一緒に玄関先まで見送りに行ったじゃない。覚えてないの?」

「おぼ、えてるけどっ……んっ、だからそこ、やだって、ゆってる!」

 何度も何度も胸の頂きをつまんだり引っ掻かれたりして、私は堪らず怒鳴った。振り向いて睨もうとしたけど、体はがっちりと固定されていて、視界には彼の白髪が映っただけだった。

「怒らないでよ、春告」

 余裕すら感じる声色で、耳元で囁く木蓮。

 私の胸で好き勝手していた彼の両手のうち、片方がシャツの内側で、肋骨、お腹、おへそ、とそれぞれを確かめるように這いながら移動して、ジーンズのベルトにかけられる。その手から腰を遠ざけたくても、後ろに木蓮がいる状態ではどうにもならなかった。
 あっけなくベルトは引き抜かれ、次いで、フロントボタンを外し、ご丁寧にファスナーまで下ろしてくれる。そこからショーツの模様が見えた。
 私は慌てて木蓮の手を抑えたけれど、彼の手は猫のようにスルリと私の抵抗をかわしてショーツの中に侵入してきた。
 そのまま指の腹で割れ目を何度も往復され、直接的な刺激に思わず腰が浮く。

「木蓮、やだっ」

 そう言うのがやっとだった。異なる二つの場所を執拗に責められて、頭ではこのままじゃダメだと思うのに、蘭に慣らされた体はさらなる刺激を求めて熱を帯びてくる。

「蘭に言ってよ。俺はあいつのいう事じゃないと聞かない」

「じゃっ、せめ、て……蘭が、いるときっ」

「だからさ、俺は蘭に頼まれたの。分かる?」

 まるで、駄々をこねているのが私であるかのように言う。

 だんだん息が上がってきて、頭の中から思考が溶け出して、うまく反論できない。
 とにかく抵抗だけはしないと、とショーツの中に突っ込まれた木蓮の手を、何度もグーで殴った。そうすると、木蓮は長くため息をついて、不機嫌そうな口調で

「もー、なんで叩くの。それに、嫌だ嫌だって。そんな風に言われながらやる俺の身にもなってよ。蘭には、ただこうやってすれば良いって言われただけなのに、春告、変だよ」

 変なのは木蓮、いやこの場合蘭なのだけど、あの人に変だと言っても首をかしげるだけだろうから、訴えるだけ無駄だろう。それにしても木蓮、初めて言葉を交わしたあの喫茶店で常識的なアンドロイドだと言っておきながら、これはないでしょう。

 なけなしの抵抗を続けていたけれど、私の手はもう動かすのがやっとで、全然力が入っていない。木蓮の腕を握ろうとしても、握力がほとんど失われていて、指が彼の腕の曲線に沿って滑るだけだ。

「ねぇ、春告。もう抵抗するのやめて。俺にとってはどうって事ないんだけど、蝿がたかってるみたいで鬱陶しい。全然、蘭が言ったみたいにならないし」

 珍しく苛立たしそうに言いながら、彼はわざとだろう。胸の頂きを強く弾いた。
 その刺激に背がしなる。

「春告は下よりもこっちが弱いんだね、こういう反応を可愛いっていうんだって、蘭が教えてくれた」

 そういう解説は欲していない。もう、ほんと黙ってほしい、と胸中でだけ悪態をつく。

 どれくらいそうやって木蓮に弄られていたのか、私は時間の感覚すら失っていた。クーラーがかかる部屋の中にあって、私の胸の間や背中は薄っすら汗ばんで感じる。
 いつまで続けられるのだろう、と苦しさから現実逃避しそうになったところで、急に拘束が緩んだ。

 力が抜けた私は、畳の上に綺麗に伸ばされたバスタオルの上にうつ伏せに寝かされた。確かに寒くなくなったけど、こういうのは望んでいなかった。
 これで終わった、と安心していると、緩くなったジーンズのウエストに手が掛けられて、ショーツごと乱暴に引きずり下ろされた。油断していた私には為すすべなく、足からそれらが無くなる感触だけが強く残った。

「なにっ……」

 文句は最後まで言わせてもらえなかった。

 遮るものが何もなくなった私の太ももに、遠慮なくのし掛かってくる木蓮の体重と彼の纏う布が擦れる感触がした。何事かと振り返ろうと顔を上げた時だった。
 木蓮は突然、タオルを私の口に噛ませて、後ろ側できつく縛り上げた。私が汗を拭くのに使っていたもの。舌に触ったところから自分の汗の味がした。
 丁度いいところあったから、と彼は悪びれなく笑いを漏らす。

 私が呆然としているのをいいことに、さっきジーンズから引き抜いたベルトを持って私の両手首を掴む。
 まずいと抵抗を試みたけど、掴まれた後では為すすべなく、手首も後ろで縛り上げられた。

「これで、蘭に教えてもらった通りできるかな」

 楽しげで無邪気な木蓮。

 私は抗議の声をあげてみたが、ウーという獣のような唸り声になっただけで、意味を成さなかった。手首を拘束から抜け出させようと、無茶苦茶に引っ張ったけれどビクともしない。
 その状態を上から見下ろしていたのだろう。
 木蓮は満足そうにふふっと笑って、私の腰骨を指でなぞった。

「春告、あんまり腕引っ張ると、痛いよ。傷になっちゃう。お願いだから大人しくしてて」

 そう言って木蓮は、私の背に一度だけ身を寄せた。
 背に感じた彼の髪の感触は、まるでそよ風のようだった。
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