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【完結】物実の鏡【冒険の書続編/甘め】
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「そのくらい自分でできると言っているだろう!」
「ならん。安定期に入ったとはいえ、何かあったらどうする」
身体を洗うだけで何かあって堪るか。毎日毎日この男は。
俺は泡まみれの手で全身を撫で回そうとしている魔王を押しのけて、その手から石鹸をもぎ取った。
腹に子を宿してからこちら、魔王の甲斐甲斐しさは度を越して酷くなった。
今この状況のように、俺に一切の自由を与えないと言わんばかりに先回りして全てのことを自分がやってしまおうとする。
服を着替えようとすれば次の瞬間にはそれは完了していて、衣擦れの感覚だけが後から襲ってくる。本を取ろうと思えば次の瞬間にはベッドに座っていて、膝の上に目当ての本がある。
俺は魔王に、俺に対して能力を使うことを禁じた。
そうすると今度は精神攻撃で全てを解決しようとしてきた。
「私に身体を触られるのが嫌なのか?」「まさかひとりで子を育てようというのか。私の子でもあるのに?」と、俺の心を揺さぶるような言葉を吐いて、躊躇した俺からすべての行動を奪ってしまう。
「私に妃の心配をさせてはくれんのか」
これだ。そんなわけはないとわかっていてそうしているのだからタチが悪い。
ただ、魔王の目を見ればそれが全て本心からくるものだというのも見て取れて、心苦しく思ってしまう自分もいる。
「心配するなとは言わん。だが、身体は自分で洗う」
それでなくても慣れない生活と変化していく身体に戸惑う毎日なのだ。この先これがもっと顕著に表れてくるのは目に見えている。今のうちに慣れておきたい。
少し目立って来た腹を撫でると、腹の奥にずっと居る魔力がぽわぽわと暖かくなった。その内これが胎動に変わるのだろう。
それに、魔王に触れられると、疼く。
その手にいやらしさはないのに反応してしまう身体が恨めしい。
ここまで数カ月。この先また数か月。まだまだ我慢を強いられるのだ。ただでさえ最初のころに感じていた魔力酔いのような不調が収まって来たところで、身体がどうしようもなく高ぶることがある。俺の身体を想うならそんなに優しく触れないで欲しい。
名残惜し気に俺の背中を洗う魔王の手は意識しないようにして身体を洗ってしまうと、肩からゆるゆると湯がかけられてまみれていた泡がすっかり流された。
「さぁ、湯に入ろう。身体が冷えてしまう」
手を取られて促されるまま湯船に浸かる。
全身を暖かい湯に包まれて脱力した身体を背中を支える魔王に委ねると、後ろから優しく抱き締められた。
「あぁ、愛しい。この腹に私たちの子が宿っているのかと思うと堪らなくなる」
腹を撫でられながら耳元で囁かれてぞくぞくと首筋が痺れる。湯に包まれているのとは違う熱が込み上げてきて身を捩ると、それすら許さないとばかりに魔王の腕に力が籠った。
「こうしていやらしく腰をくねらせるお前も可愛いよ」
「っ…!」
こいつ、分かってて…!
弄ばれているような感覚にかっと身体が熱くなって、半身に振り返って魔王を睨みつけると、久々に見た意地悪気な視線で射止められた。
「私だって我慢しているのだ。そう煽られるとつい手が出てしまう」
身体を弄るように這わされる手にあっという間に溶かされてしまう。
「…無茶をしないのなら…」
魔王の身体に擦り寄ると、ぱちゃ、とお湯の跳ねる音がした。
「あぁ、愛しているよ。――――」
名を呼ばれて、心が溶けた。
「ならん。安定期に入ったとはいえ、何かあったらどうする」
身体を洗うだけで何かあって堪るか。毎日毎日この男は。
俺は泡まみれの手で全身を撫で回そうとしている魔王を押しのけて、その手から石鹸をもぎ取った。
腹に子を宿してからこちら、魔王の甲斐甲斐しさは度を越して酷くなった。
今この状況のように、俺に一切の自由を与えないと言わんばかりに先回りして全てのことを自分がやってしまおうとする。
服を着替えようとすれば次の瞬間にはそれは完了していて、衣擦れの感覚だけが後から襲ってくる。本を取ろうと思えば次の瞬間にはベッドに座っていて、膝の上に目当ての本がある。
俺は魔王に、俺に対して能力を使うことを禁じた。
そうすると今度は精神攻撃で全てを解決しようとしてきた。
「私に身体を触られるのが嫌なのか?」「まさかひとりで子を育てようというのか。私の子でもあるのに?」と、俺の心を揺さぶるような言葉を吐いて、躊躇した俺からすべての行動を奪ってしまう。
「私に妃の心配をさせてはくれんのか」
これだ。そんなわけはないとわかっていてそうしているのだからタチが悪い。
ただ、魔王の目を見ればそれが全て本心からくるものだというのも見て取れて、心苦しく思ってしまう自分もいる。
「心配するなとは言わん。だが、身体は自分で洗う」
それでなくても慣れない生活と変化していく身体に戸惑う毎日なのだ。この先これがもっと顕著に表れてくるのは目に見えている。今のうちに慣れておきたい。
少し目立って来た腹を撫でると、腹の奥にずっと居る魔力がぽわぽわと暖かくなった。その内これが胎動に変わるのだろう。
それに、魔王に触れられると、疼く。
その手にいやらしさはないのに反応してしまう身体が恨めしい。
ここまで数カ月。この先また数か月。まだまだ我慢を強いられるのだ。ただでさえ最初のころに感じていた魔力酔いのような不調が収まって来たところで、身体がどうしようもなく高ぶることがある。俺の身体を想うならそんなに優しく触れないで欲しい。
名残惜し気に俺の背中を洗う魔王の手は意識しないようにして身体を洗ってしまうと、肩からゆるゆると湯がかけられてまみれていた泡がすっかり流された。
「さぁ、湯に入ろう。身体が冷えてしまう」
手を取られて促されるまま湯船に浸かる。
全身を暖かい湯に包まれて脱力した身体を背中を支える魔王に委ねると、後ろから優しく抱き締められた。
「あぁ、愛しい。この腹に私たちの子が宿っているのかと思うと堪らなくなる」
腹を撫でられながら耳元で囁かれてぞくぞくと首筋が痺れる。湯に包まれているのとは違う熱が込み上げてきて身を捩ると、それすら許さないとばかりに魔王の腕に力が籠った。
「こうしていやらしく腰をくねらせるお前も可愛いよ」
「っ…!」
こいつ、分かってて…!
弄ばれているような感覚にかっと身体が熱くなって、半身に振り返って魔王を睨みつけると、久々に見た意地悪気な視線で射止められた。
「私だって我慢しているのだ。そう煽られるとつい手が出てしまう」
身体を弄るように這わされる手にあっという間に溶かされてしまう。
「…無茶をしないのなら…」
魔王の身体に擦り寄ると、ぱちゃ、とお湯の跳ねる音がした。
「あぁ、愛しているよ。――――」
名を呼ばれて、心が溶けた。
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