小人女子高生の異世界冒険譚~転生したらグロースとミニマムが使えない件~

異世界サボテン

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第29話 謎の友人

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私は奴の後ろ姿を見送りながら、その場に崩れ落ちる。

足から力が抜け落ち、全身には冷や汗とやり場のない怒りが烈火の如く巡っていた。







ドン!!!







「・・・くっ!!!」







背後の壁を思いっきり叩いた。







「私が貴様の后だと・・・!」


「ふざけるな!!!」







考えただけでおぞましい。

あんな男と結婚するくらいなら、魔物と結婚したほうがマシだというものだ。

奴に口づけされた首筋を手の甲で必死に拭う。

近衛騎士ともあろうものがこの様な事で脱力するとは情けなかった。







「くそっ!!」







この猛る怒りは私に対する仕打ちだけが原因ではない。

私の事だけならまだいい。

あろうことか奴は私の敬愛するエレオノーラ様を貶したのだ。







貴様がこうしてのうのうとカーラの王子をやっているのは誰のおかげだと思っているのだ!!

王妹殿下がいなかったら今頃貴様はスラムの地べたに這いつくばって物乞いをしているはずだ!!!







いや、それすらまだ良い方だ。

もしクーデターが起きて、王宮が占領されればそこにいる王族は皆殺しにされるだろう。

100年前カーラ王家が政治の権威を取り戻した時、国内を牛耳っていた門閥貴族が一掃された。

門閥貴族の家族もろとも文字通り皆殺しにされたらしい。

当然、貴族もそれは知っている。

クーデターが成功すれば、仕返しとばかり今度は王族を皆殺しにするだろう。

・・・歴史は繰り返すのだ。







「私は絶対に認めない・・・!」


「必ずエレオノーラ様の権威を復活させて、貴様を引きずり下ろしてやる・・!」


「カーラを・・・殿下をお守りせねば・・・!」







新たな決意が私の中にみなぎってきた。

私は立ち上がると、足早にヘルヴォルの館を去った。













「団長、お帰りなさいませ」


「15時にお約束されていた出頭者が団長に面会を求めております」







騎士団の詰所に戻ると、執務室にいたディーナが私に声を掛けてきた。

私は気のない返事を彼女にしてしまう。







「・・・・ああ」


「・・・?」







ディーナが心配そうに私の顔色を伺う。







「団長・・・どこかお加減が悪いのですか?」


「顔色があまり良くないようですが・・・?」


「・・・いや、大丈夫だ・・・」







私は手を上げて彼女の視線を遮った。

先程の事は誰にも悟られたくない・・・







「それよりディーナ、役目ご苦労」


「出頭者のエノク・フランベルジュはどこだ?」


「さっそく事情聴取を始めるぞ。お前も準備をしろ!」







私は意識的に声を張り上げて、彼女に威勢を見せた。

ディーナも少し違和感を感じただろうが、私がいつもの調子を見せるとそれ以上深入りはしてこなかった。

私の質問に彼女もハツラツと返事をしてくる。







「・・・はっ!」


「出頭者は応接間に通しております!」


「今回の事情聴取では私とアイナが同席する予定です」


「うむ、分かった。よろしく頼む」







彼女に相槌を打つと私はそのまま応接間に向かう。







ガチャ!







「失礼するぞ」







私が扉を開けると応接間の椅子で静かに腰掛けているエノクの姿が目に入ってきた。

彼は先日会った時のような正装ではなく、工房で着用する作業着を来ていた。

ガングマイスター工房の意匠であるハンマーのワッペンはカーラの人間なら誰でも知っている。

魔法技師である事の身の証明にもなるし、本来の彼はこの作業着姿なのだろう。

彼は私を認識すると椅子から立ち上がり、お辞儀ボウ・アンド・スクレープで挨拶をしてきた。







「・・ク、クラウディア団長!」


「こんにちわ!先日は大変お世話になりました!!」


「改めてお礼申し上げます!!」


「今日は事件解決のためぼく・・私に何なりとお尋ね下さい!!」







テンパるように声を裏返しながらのぎこちない挨拶だった。

しかし、慣れない貴族の作法を頑張って披露しているその姿に私の心は暖かくなる。

先程までの悶々とした感情が洗い流された気がして、思わず破顔してしまう。

私は彼に手を差し出して、微笑みながら声を掛けた。







「・・・エノク・フランベルジュ」


「無事で何よりだ」


「まずはお互い無事だった事を喜び合うとしよう」


「今日は良く来てくれた。再び会えて嬉しいぞ」


「・・・・は、はい!ありがとうございます!」







エノクは私の手を取り照れくさそうに笑った。

彼の純真さと感謝の気持ちが伝わってくる。

やはり彼の純真さは私にとって暖かく癒やされるもののようだ。

あの時地下牢で尋問した時も、彼の話を聞いている内に妙に同情させられる気分になったのを覚えている。

私達は握手を交わした後、応接間のテーブルを挟んで着席した。

応接間の扉の前にはアイナ。

そして、筆記係としてディーナがペンを取り私達の様子を伺っている。







「・・・エノク。色々積もる話はあるだろうが、それは後にしよう」


「今日お前に出頭令を出したのは他でもない」


「先日のオークション事件について事情聴取をするためだ」


「犯人討伐と神遺物の奪還のため是非協力して貰いたい」


「・・・はい。もちろんです!」


「僕で良ければ、クラウディア団長のお役に立てるよう全力で頑張ります!」







エノクの返事に私は深く頷くと、私は立ち上がり彼にお辞儀カーテシーをした。







「・・・ありがとう、エノク」


「よろしく頼む」







先程の彼のお辞儀に対する返礼だった。

そして、惜しみない協力の申し出に対する私の最大限の感謝の現れでもある。

ディーナとアイナが少し驚いた様子を見せていたが、私にとっては別におかしなことではない。

彼はあの事件で牢に投獄した私を責めることもなくただ純粋に感謝と協力だけを表明してくれている。

そんな彼に礼をするのは貴族の令嬢として、いや、王妹殿下に使える者として当然のことだろう。

私は再び着席すると、彼を見据えて本題に入った。







「では、早速だが始めるとしよう」







私の言葉にエノクも頷いた。

ミーミルの泉は今回用意していなかった。

前回のことでエノクの人柄は知ることが出来たし、

彼は事件の黒幕との繋がりもない以上この場で隠し事をする理由がない。

彼への信頼を示す為にも使う必要はないと判断した。







「まずはそうだな・・・ギルド会館に入る前のところからだ」


「お前の見てきたことを私に話してもらえるか?」


「出来るだけ詳細に。どんなつまらなく、細かいことでも構わない」


「前回尋問したことと内容が被ってもいい。お前が会場を出るまでの事柄を順を追って話してくれ」


「・・・・分かりました」







私の言葉にエノクは大きく頷くと、あの日彼が見てきたことをゆっくりと語り始めた・・・













「・・・それで、僕は間一髪会場から脱出できたんです・・・」


「あと少しエレベーターの到着が遅れていたら僕は踏み潰されていたでしょう・・・」


「これが僕が会場で見てきた事です・・・・・」







エノクがオークション会場に入る所から、脱出するまでの長い話が今終わったところだ。

彼がエレオノーラ様と神遺物を初めて見て感動した話。

謎の老人との会話。

ネクタルの落札者を追った際のいざこざ。

地下牢での摩訶不思議な塔の伝説。

・・・そして、巨人たちに遭遇して九死に一生を得た話。

エノクの姿を見れば、彼の得た恐怖が言語を絶するものだった事は容易に想像が付く。

巨人と遭遇した話になるとエノクの身体は小刻みに震えていた。

その表情は強張り、時折嗚咽のような声が交じる。

彼に語らせているこちらのほうが申し訳ない気持ちになってしまった。







「・・・そうか。それは大変な思いをしたのだな」


「話してくれて感謝する、エノク」


「いくつかまだ聞きたいことがあるのだが・・・その前に一息入れるとしようか」







私は長い陳述をしてくれたエノクに礼を言うとともに、入口に立っていたアイナに顔を向けた。







「アイナ、彼に何か飲み物を持ってきてやってくれ」


「はっ!承知いたしました」







アイナは執務室の横に設置されている給湯室に行くと、ジュースが入ったグラスを持ってきた。







「どうぞ。葡萄ジュースです」


「あ、ありがとうございます・・・」


「でも、あの・・・これって」







アイナからグラスを渡されたエノクはグラスの中に入ったジュースをまじまじと見つめた。

彼が狼狽えている様子がおかしくて、頬が緩んでしまう。







「安心しろ。それは普通のジュースだ」


「ワインではないよ」


「・・・あ、そうなんですね。頂きます」







ゴクゴクと葡萄ジュースを飲む彼を微笑みながら見つめる。

彼は政略や闘争とは無縁の世界の住人であり、自分の信じるものに真っ直ぐな少年。

私とは真逆な世界に生きている彼を見ていると何故か私も救われた気分になる。

彼のおかげで巨人たちの容貌とその行動について詳細に知ることが出来た。

これは捜査における大きな前進だといえよう。







「・・・・ふう」







ジュースを飲み終わったエノクは深く息を吐く。

休憩を入れた事によって彼もどうやら落ち着きを取り戻したようだ。







「おかわりはいるか?」


「いえ、大丈夫です」


「それより僕の方からも聞いてもよろしいでしょうか?」


「・・・あの後、事件はどうなったのでしょうか?」


「良ければ巨人たちや神話のアイテムがどうなったのか詳しく教えて欲しいのです!」


「お願いします!」


「・・・・・」







エノクの質問に私は考え込んでしまう。

どう回答すべきか悩むな・・・

彼は事件に無関係ではないとは言え、軍務には関係ない一般人だ。

普段ならにべもなく回答を断っているのだが、

ここまで協力してもらいながらこちらからは何も出さないというのは正直気が引ける。

それに事件が公にされてしまっている以上、隠してももはや意味はないかもしれない。







「・・・ふむ。そうだな」







私がどう回答するか悩んでいると、エノクの方から話を振ってきた。







「・・・あの!僕は興味本位で聞いているのではありません!」


「王妹殿下や、クラウディア団長のお役に立ちたいのです!」


「僕は幸か不幸か、事件に深く関わって生き延びた貴重な当事者だと思うんです!」


「当事者でしか分からない事件の見方もあると思いますし、僕は魔法技師でもあります」


「もし、事件解決が難航しているのなら何かお役に立てるかもしれません!」


「・・・それと、これは親方からの手紙です」







エノクはそう言うと懐から手紙を取り出して、私に手渡してきた。







「・・・ブラッドフォード殿が!?」







私は思わぬ人からの手紙に驚きながら、手紙を受け取った。

すぐに手紙を開封して中身に目を通す。







ペラ





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クラウディアの嬢ちゃん


久しぶりだな。

すまんが、俺の弟子が迷惑を掛ける。

どう使ってやってくれても構わん。役に立ててくれ。

それと、最近は何かと物入りだろ。

今度、武器や魔道具の新調が必要な時は俺んところ来い。

礼は弾むぜ。



ブラッドフォード・ガング


---------------------------------------------





短く、端的な要件の手紙だった。







「・・・ふっ。ブラッドフォード殿らしい」







私は手紙を折りたたむと、顔を上げてエノクを見据える。







「・・・エノク、話は分かった」


「私も魔法技師の協力があればそれに越したことはないと思っている」


「・・・事件の後、お前のことは少し調べさせてもらった」


「お前はその若さで既に工房ギルドのメンバーに選ばれているらしいな?」


「流石ブラッドフォード殿が期待する弟子だと私は感心したよ」







私が賛辞を送るとエノクは謙遜して首を横に振る。







「いえ、そんな・・・僕の両親が親方の友人だったから目を掛けて貰っているに過ぎません」


「僕自身これからが魔法技師の正念場だと思っています」


「魔法や道具の知識はもちろん、自分の持っているスキルの熟達や戦闘経験も積まなければならないと思っています」


「いずれは神話のアイテムを自分の手で作れるようになりたいと思っていますので・・・」


「・・・・ふふ、そうか」







エノクの言葉に私は微笑みながら相槌を打った。

彼が神遺物を自らの手で作りたいと言っていたのは前回の尋問でも分かっていたことだ。

神話の時代に作られた遺物を自らの手で生み出すなど、何も知らない人間からすればホラ吹きの戯言だと思われてもおかしくない。

だが、私は彼が大口を叩いているとは全く思っていなかった。

それどころか、彼が本気で目指していることを知り、応援する気持ちすらある程だ。

・・・ブラッドフォード殿が気に入るわけだ。

大物になるかもしれないな、この少年は・・・







「・・・エノク。本来であるなら軍の関係者以外に機密情報を教えるわけにはいかない」


「だが、事件は既に公に知れ渡っており、お前は事件の当事者でもある」


「それに私も今は余裕がなくてな。手掛かりを掴むために猫の手も借りたいほどなのだ」


「だからお前の申し出はありがたく受けさせてもらうとしよう」


「・・・ありがとうございます!」







エノクは私の言葉を聞くと彼は嬉しそうに頭を下げてきた。

私は彼を元の席に座らせると、ディーナの方に振り返る。






「ディーナ、筆記を止めてくれ」


「ここからは記録する必要はない」


「・・・はっ!承知いたしました!」







私の言葉にディーナは素直に頷くと、筆記を止める。

一方、アイナは怪訝な表情で言葉を挟んできた。







「・・・隊長。よろしいのですか?」


「軍の機密情報を教える事になってしまいます」


「軍規に違反することになりますが・・・」


「・・・責任は私が取る」







アイナに手のひらで静止を掛けると私は彼女に向かって諭すように言った。







「軍の機密を守る事や、そういう議論が出来るのも全てカーラ王国と王家が安泰だからこそ出来るのだ」


「・・・だが、神遺物が奪われ、その安泰が崩れ去ろうとしているのが今の王国の現状だ」


「神遺物の奪還は私の命より優先される。これは王妹殿下のお言葉でもある」


「私はなんとしても手掛かりを突き止め神遺物を奪還しなければならない」


「今は綺麗事を言っている暇はないのだ。分かってくれ、アイナ」


「隊長・・・・」








私の覚悟が伝わったのか、アイナが無言で敬礼をしてその場を下がった。

私はエノクの方に顔を向き直ると話を続けた。







「・・・待たせたな。エノク」


「あの後何が起こったのか話すとしよう」


「何か分かったら遠慮なく言って欲しい」


「・・・はい。お願いします!」








エノクの返事に私も頷く。







「・・・では、襲撃が起こった翌日の朝から話すとしよう」


「時間帯としてはお前が脱出して丁度気を失っている間になる」


「あの時、私と騎士団は――――」







私はあの後起こった事について、知る限りのことをエノクに話した。

王宮で起こった災害のような爆発と、救助活動。

王妹殿下からくだされた新任務とミンツの町への派兵。

そして、巨人や神遺物が蒸発したかのように消え失せてしまったこと。

事情聴取で得た情報を含め、一連の流れを詳細にだ。













「――――と、言うわけだ」


「・・・・なるほど。連盟魔術士の探知でも見つからなかったのですね・・・」


「そして、巨人の足跡も消えたままだと・・・」







エノクが真剣な表情で私の言葉を反芻する。

私の見落としていた点や、気づきにくいところを彼が拾ってくれることを私は期待していた。







「そうだ・・・正直途方に暮れたよ」


「私は連盟魔術士の探知スキルで確実に神遺物の位置を特定できると思っていたのだ」


「だが、結果は今話した通りオークション品も巨人たちも痕跡を残さず何処かに消えてしまった」


「・・・念の為、トール山脈方面にも一応探索を掛けたのだが、徒労に終わってしまったよ」


「・・・・・」







半ば懺悔をするかのようにエノクに自分の失態を告げる。

糾弾できるならして貰いたいくらいだった。

私としては最善の手を打ったつもりだったが、

あの時どうすればよかったのか今でも判断が付かない状態だ。







「1つお伺いしてもよろしいですか?」


「その連盟魔術士のラナさんは探知に引っかからない原因については何かおっしゃられていましたか?」


「・・・ああ、少しな」







私は頷くと続きを話した。







「・・・私も必死だったからな」


「彼女の能力のせいでない事は分かっていたのだが、どうして探知できないのか何回も聞いてしまったよ」


「ラナ殿が言うには、理由がいくつか考えられるそうだ」


「1つ目として単純に対象の宝箱が既に探知(サーチ)の範囲より遠方にある場合だ」


「彼女の探知スキルは周囲300Kmに対象物が会った場合は探知が可能だという」


「逆に言えばそれ以上宝箱が遠方に持ち去られていた場合は追跡が出来ない」


「ただし時間的にこれは考えにくいがな」


「・・・ええ、そうですね」







エノクが相槌を打つ。

・・・彼も同意見の様だ。







「2つ目としては探知範囲の中にあっても効果が遮断される場合だ」


欲望の塔マーセナリータワーの中にあったオークション品が納められていた保管庫」


「王宮の特別管理区画や、各ギルドの宝物庫等の倉庫は特殊な術法が掛けられており、外界の魔力を遮断しているという」


「もし、そういう所の中にあった場合は探知サーチも効果が及ばないとのことだ」


「まあ、これは私も知っていたことではあったのだがな・・・」


「あの時の私は取り乱しており、こんな基礎的な事も忘れ彼女に何度も理由を問い正してしまった」


「・・・恥ずかしい限りだよ」







私がそう言って自嘲すると、エノクは首を振る。







「・・・いえ、そんな事はありません」


「原因を突き止めるために齟齬がないようにしておくのは当然のことです」


「僕も知識としては知っていましたが、やはり同じ状況なら担当者の方に納得するまで聞いていたと思います」


「・・・ありがとう」







エノクに礼を言った。

私より年少の子供に気を使わせてしまうとは、私も焼きが回ったものだ・・・







「・・・それで、早速だがお前の意見を聞きたい」


「今の話を聞いて巨人や神遺物が消えた理由に思い当たるものはあるか?」


「そうですね・・・・」







エノクはしばし考えを巡らせた後、私に返答をしてきた。







「能力の中には姿を消すものもあるので、巨人たちがそれを使って逃げたという可能性はもちろんあるでしょう」


「ただし、クラウディア団長が仰った隠蔽スキルを使って足跡を消したという線は考えにくいと思います」


「それならスキルの効果時間が消えた後、足跡が浮かび上がってくるはずだからです」


「あの後、足跡は見つからなかったのですよね?」


「・・・ああ、そうだ」







彼の問いかけに、肯定の言葉を返す。

・・・そう、結局あの後周囲を探索しても巨人はおろか、その足跡すら私達は見つけることが出来なかったのだ。

もう、何が起こったのか私には見当もつかない







「もしかしたら奴らは・・・“巨大化の魔法“を使っていたのかもしれません・・・」


「・・・なに?」







エノクがボソリとそう呟いた。

突拍子もない言葉に私は思わず首を傾げてしまう。

・・・巨大化の魔法だと?







「・・・どういうことだ?」


「巨大化の魔法があの巨人たちの正体だと言うのか?」







エノクを見据えて問いかける。

私も巨大化の魔法の存在は知識としては知っている。

セカンダリースキルとして強力な補助魔法らしいのだが、直に見たことは一度もなかった。

カーラの中では見かけない魔法だ。







「・・・はい。そうです」


「奴らが消えてしまったのも、足跡が無くなってしまったのも、奴らが巨大化した姿であるのなら説明が付きます」


「あの巨人たちは追跡部隊を振り切った後、巨大化を解き一般の旅人に紛れ込んだんじゃないでしょうか?」


「奴らが身に付けていたフルプレートも元のサイズに戻せば隠すのは容易です」


「・・・ちょっと待て」







私は手の平で制すと、言葉を挟んだ。







「・・・正直半信半疑なのだが、巨大化の魔法は本当に存在するのか?」


「私は直接見たことが一度も無いのだが・・・」


「はい。あります」







エノクは私の問いかけに迷うことなく頷く。







巨大化魔法グロースはあまり一般社会では見かけないですが、冒険者の間では使用する人もいると聞きます」


「他の魔法との掛け合わせの難しさや、効果時間が短いという弱点はあるものの、使用者の全能力が数倍に高められる強力な補助魔法だからです」


「それに僕の友人で使用できる人を知っています。僕も実際にその能力を見たことがありますので・・・」


「・・・そうだったのか」







確かに普通に生活している中では巨大化の魔法の使用用途は限られる。

冒険者など戦闘に特化している奴らなら会得者がいてもおかしくはないか・・・







「しかし、それでも疑問は残る・・・」


「巨大化の魔法はせいぜい3・4倍程度の効力だと聞いているぞ?」


「あの巨人たちは全長20メートルを超えているという報告があった」


「そうなると普通の人間の10倍以上はある計算になるが、さすがに大きすぎやしないか?」







私はまだ完全に巨大化魔法の存在を受け入れられていなかった。

頭の中に引っかかった事をそのままエノクに尋ねる。

エノクはしばし逡巡した後、少々の迷いを見せながら答えてきた。







「うーん・・・そうですね」


「確かに熟練の冒険者でも、3・4倍が良いところでしょうね・・・」


「・・・だけど、10倍くらいまでなら巨大化魔法で実現は出来るはずです」


「最近見た補助魔法効果の研究書では、Lv133の魔術師が8倍くらいの巨大化を達成してました」


「それ以上の使い手であるなら10倍は恐らくできるんじゃないでしょうか・・・?」


「あの巨人たちが相当の使い手であることを前提にした話にはなるんですが・・・」


「・・・・・」







しばし考え込む。

・・・今の説が正しかったとすると、あの巨人たちは英雄級冒険者にも迫る実力者だと言うことになる。

もし、接敵していたらジェラルド殿でも危なかったかもしれない・・・

私の心情的には信じがたいのだが、彼の話には説得力があった。

何より巨人たちや、足跡が消えた理由に説明がつくのが大きい。







「・・・エノク、分かった」


「さらに調査は必要だろうが、今の話は非常に興味深い」


「何よりお前の話には道理が通っている」


「奴らが巨大化魔法を使っていたという線でも調査をしてみるとしよう」


「・・・・はい!ありがとうございます!」


「いや、礼を言うのはこちらの方だ」


「お前のお陰で、巨人たちの行方については突破口が開けそうな気がするよ」


「ありがとう。エノク」







私は表情を緩めながら、エノクに礼を言った。

正直全く想像していなかった回答だが、彼に聞いて良かったと思う。

私一人では巨大化魔法を使用していたという結論を導くのは難しかっただろう。

その柔軟な発想と魔法の知識は流石魔法技師といったところか。







「・・・巨人の方はそれで良いとして、神遺物の方はどうだろうか?」


「そちらの方ではなにか気になる点はあったか?」







私としてはやはりこちらの方が気がかりだった。

巨人達を倒したとしても肝心の神遺物が手に入らなければ意味がない。

しかし、その足取りを追うのもままならない現状だ。回答が難しいのは分かっている。

なにかキッカケがつかめる回答が得られれば十分だと思ったのだが、

ここで私はこの少年の凄さを目のあたりにすることになる・・・







「・・・はい。あります」


「宝箱の情報についてはもう少し詳細をラナさんに聞かなければ断定は出来ませんが、」


「巨人たちは宝箱を持っていなかったのではないでしょうか?」


「・・・なに・・!!?」


「・・・どういうことだ・・・!?説明しろ!!」







エノクの言葉に私は驚愕した。

奴らが奪った神遺物を奪還するために私達は動いていたのに、

実は持っていなかったなんて言われたら青天の霹靂もいいところだ。

しかし、私が急かすようにエノクを問い詰めたのが悪かったのか、彼はそれで尻込みしてしまった。







「・・・・・・あ、すみません」


「驚かせるつもりはなかったんです・・・」


「それに・・・僕もこれが確実のそうだと言えるほど自信があるわけでもないんです・・・」


「間違っていたらすみません・・・」


「・・・い、いや。いいのだ!すまない!」


「私が急かしてしまったな。お前の話を疑っているわけではない。ただ、ちょっと驚いてしまっただけだ!」


「間違っていてもいい!気にせずお前の考えを話してくれ!」


「・・・あ、はい。分かりました」







エノクが急にシュンと縮こまってしまったものだから、私は必死にその場を取り成す。

ふぅ・・・いかんいかん。つい騎士団の他の者達と同じように接してしまった・・・

彼はやり手の魔法技師とは言え、多感な年頃の少年なのだ。

私も気を長く持たねばいかんな・・・







「うほん!・・・それで、何故そう思ったのかな?」







ニコッ







今度は柔らかく、穏やかに言った。

エノクもそれで気を取り直したのか、続きを話し始めた。







「・・・ええと。そうですね」


「巨人たちが隠蔽スキルを使っていたにしろ、巨大化魔法を使っていたにしろ、あの宝箱を捕捉されずに逃げるのは出来ないと思ったのです」


「あの宝箱のプロテクトは、よほど強い魔力を込めた時は別として、あらゆる補助魔法を無効化するはずです」


「あれを外界から遮断するには宝箱をスッポリと多い隠せるほどの大きさで、かつ魔力を遮断する術法が掛けられた特別な囲いがなければいけません」


「神話のアイテムの魔力は膨大ですし、捕捉するのは意外に容易だったと言われています」


「魔力が漏れてしまう場所だったら、簡単に外部から位置を特定されてしまいます」


「だからこそ、太古の昔から争奪戦が行われてきた歴史がありますし、連盟やギルドの宝物庫といった場所でしか神話のアイテムを安全に保管できなかったのです」


「巨人たちはもちろんそんなものは持っていませんでした」


「もし、持ち運んでいたら必ず目立つものですし、人目に付かず運ぶのは不可能です」


「・・・それで、奴らはそもそも宝箱を持っていなかった可能性の方が高かったんじゃないかと僕は思ったんです」







エノクの今の言葉を聞いて私はハッ!として、彼の顔を伺った。

その考えは私には無かったものだ。

だが、確かに言われてみれば隠蔽スキルを巨人が使ったとしても、あの特別な術法が掛けられた宝箱も消せるとは考えにくい。

それに英雄冒険者の追跡があることも想定したら、宝箱を持っているリスクは非常に高いのだ。

奴らとしてもさっさと手放せるのならそうしたいと思ってもなんら可笑しい話ではない。

完全に盲点だった!

なんということだ・・・!

こんな事を見落としているとは、私はどうかしていた・・・







「・・・・エノク。流石だな・・・驚いたよ」







素直に彼に賛辞を送ると、彼はゆっくりと首を振りながら否定した。







「いえ、僕が今気づいたことはこれくらいしかありません・・・」


「ではどこにあるのかと言われても分からないです」


「もしかしたら、王都のどこかの宝物庫に密かに隠されていると思ったのですが、余り自信はありません・・・」


「・・・・・いや、だが、その視点は私には全く無かったものだ」


「なるほど・・・内部犯が絡んでいるとしたらそれもあり得る話だ!」


「巨人達は王都から逃走する前に密かに内部犯に宝箱を渡し、内部犯はそれを位置を特定できない宝物庫に保管した・・・!」


「時間さえ稼ぐことができれば神遺物の宝箱のパスコードも解錠出来るだろう!」


「中から取り出せてしまえば連盟魔術士の追跡を振り切って持ち運ぶことも可能だからな・・・!!」







エノクの助言を得て、私の口から流れるように推理が飛び出す。

今までの閉塞していた空気。

八方塞がりで淀んでいた空気が一気に窓から開放された感覚だった!

今後の調査の方針について悩んでいたのが嘘のように私の心は晴れやかになる。







「早速、神遺物が保管可能な王都の倉庫を洗ってみるとしよう!!」


「流石ブラッドフォード殿の弟子だな」


「感謝するぞ、エノク!お前のおかげで新たな光明が見えたよ」


「・・・あ、ありがとうございます」


「・・・クラウディア団長のお役に立てたのなら僕も嬉しいです」







私の言葉を受けて、エノクはほっと一息ついた。

そんな彼の姿を見て私も和む。

だが、和んでばかりもいられない。

今後の方針がようやく決まったのだ。早速手筈を整えねばなるまい。

光明が見えたと言っても課題はまだまだ多い。

宝物庫の調査をさせてくれなんて言っても誰も聞き入れてくれないだろうし、内部犯に感づかれてしまっては意味がない。

調査の立ち入りには慎重を期す。保管場所の特定にも時間がかかるだろう。

だが、王都の中にまだ神遺物があるのなら少しは時間の余裕があると言っていい。

例え首尾よく宝箱から取り出せたとしても、王都の外へと持ち運ぶのは至難の業だからだ。

転送魔法陣は軍が押さえているし、王都の出入口は衛兵達によって厳格に出入りを管理され、荷物検査も徹底されている。

下手に隠して出ようものなら、神遺物の内部から出る魔力波動で周囲の者がすぐに違和感を感じることが出来るだろう。

エノクの言うように特別な囲いでも用意しなければいけないだろうし、あの宝箱を覆えるような囲いなら衛兵が気づかぬはずがない。

念の為、衛兵達には今まで以上に検問を厳しくするよう伝える必要があるだろう。

後は、時間との勝負だな・・・・・







私は思考を一旦区切ると、改めてエノクに向き直った。

実は先程から気になっていたことがある。







「・・・エノク。協力感謝する!」


「・・・だが、一つ聞きたい」


「私や王妹殿下の為に事件解決に協力したかったというお前の気持ちを疑っているわけではない」


「しかし、それだけだったらわざわさブラッドフォード殿の手紙を持ってくる必要はなかったのではないか?」


「ブラッドフォード殿が述べている“弟子が迷惑を掛ける“という文章が気になるのだ」


「お前は事件解決に協力する見返りを私に何か求めようとしているのではないのか?」


「・・・・はい。仰るとおりです」







エノクはあっさりと見返りを求めようとしたことを認めた。

彼としては別に隠すつもりはなかったのだろう。

あるいは話が前後しただけで、ブラッドフォード殿の手紙を出した時に話そうとしていたのかもしれない。

彼の正直過ぎる回答に思わず笑みがこぼれる。







「ふっ・・・あっさりと認めるのだな」


「はい。元々クラウディア団長にお願いをさせて頂くつもりでしたから・・・」


「たとえ事件解決に貢献できなかったとしても、要望だけは聞いてもらいたいと思っていたんです・・・」


「それでブラッドフォード殿の手紙という訳か・・・・・」







私の言葉にエノクがコクリと頷く。

私はしばし思案した後、彼に諭すように返答した。







「・・・エノク、知り合ってまだそれほど経っていないが、お前の人柄はある程度分かったつもりだ」


「お前は“恩“を知る人間だと私は思っている」


「・・・私は立場上色々な者と交渉する機会も多いのだが、中には無礼な奴もいてな」


「欲の皮が突っ張っている輩がなんと多いことかと、溜息が出てしまうくらいだ」


「そしてそういう輩は漏れなく人の窮状に付け入ろうとする・・・」


「自身が協力する見返りとして、要求を高く飲ませようと法外な条件を提示してくるものだ」


「・・・だが、お前は条件を先に提示せず、私への協力を優先し、それを叶えた後で要望を伝えようとしている」


「・・・これらは一見同じ様に見えて全く違う」


「前者では私の不利な状況を利用して“利“で私を使役させようとする者」


「一方後者では、私の窮状を解決し、その“恩“によって私の協力を引き出そうとする者だ」


「お前は私を恩を返す人間だと信用してくれた。恩へは恩で返さねばなるまい」


「だから、私は喜んでお前の要望を叶えたいと思う」


「もちろん、私が叶えられる範囲の中ではあるがな」


「・・・クラウディア団長・・・・ありがとうございます!」







エノクは私から視線を逸らし目をしばたたかせる。

そして、私の方へ再度向き直ると、深々と頭を下げてきた。

私は静かに頷くと、彼が顔を上げるのを待ってから問いかける。







「それで・・・私に協力をお願いしたい事とはなんだ?」


「・・・はい。それなんですが、その前に確認したいことがあります」


「・・・・ん、なんだ?」







エノクはすぐに要件を切り出そうとせずワンクッション置いてくる。

私が首を傾げると、エノクはすぐに事情を説明してきた。







「すみません。回りくどくて・・・だけど、これはお願いしたいことに関係するんです」


「・・・確認したい事というのはエレノア様が告知した内容についてなんです」


「告知内容はあの巨人達について全く触れられておりませんでした。あれには何か意図があったのでしょうか?」


「犯人に懸賞金を掛けるのなら、巨人達の風貌に触れられるべきだと思いますし、」


「神話のアイテムの行方を求めるのなら、事件の内容も詳細に告知すべきだと思ったのですが・・・」


「・・・・・」







・・・確かに彼の言うことも一理ある。

あの告知の内容については王室のメンバーと顧問大臣。

それに各ギルドの要人が参加した会議で決定されたと聞いている。

私が事件調査のため王都を留守にしていた時に告知が決まり、

具体的な経緯については私も聞いていなかった。







「・・・あの告知か」


「あれは国内の要人達との会議の中で決定されたものだと聞いている」


「・・・ディーナ。お前は確か会議に参加していたな?」







私がディーナに問いかけると、彼女は前に進み出て敬礼をしてきた。







「はっ!」


「会議にはエミリア副団長と、キース隊長、それに私が参加しておりました」


「・・・ふむ。私も興味が湧いた。経緯を話せ」


「はっ!申し上げます」







そう言うとディーナは経緯について話し始めた。







「・・・あの告知は事件から5日後、ヘルヴォルの館で開催された会議の中で決定されたものです」


「会議の議題は、事件の影響を踏まえたカーラの今後の対応策が主なものでしたが、」


「議論が犯人討伐と神遺物の奪還に焦点が当たった時、そこに強い意向を示されたのが商人ギルド連盟・外交局長の“グレゴール“殿でした」


「グレゴール殿が仰るには、“巨人たちにカーラの兵士が無惨に殺された事はカーラの臣民に失望感を与え、また諸外国に対する軍の威信を損なう恐れがある“」


「“商人ギルド連盟としても、我等連盟の会館の中で無惨な事件が起こったことをツラツラと書き立てるような告知に対しては断固として反対する“」


「“もしこの要望が受け入れられない場合は、商人ギルド連盟からの今後の援助は厳しいものになることをご承知願いたい“・・・と告知の内容に待ったを掛けられたのです」


「――――えっ!!?」







そこで、急に驚きの声を上げたのはエノクだった。

何事かと私もディーナもエノクの方へと振り返る。

彼の様子を伺うと、目を大きく見開き手が強く握りしめられていた。







「あ、あの?今の話は本当なのでしょうか!?」


「その、商人ギルド連盟が告知の内容に干渉したというのは!?」


「・・・え、ええ。そうですが・・・」







エノクの勢いにディーナが気圧されそうになる。

彼の尋常じゃない雰囲気に私も少したじろいでしまった。

エノクを落ち着かせるべく、私は彼の肩に手を置いて席に着かせた。







「エノク、落ち着け・・・」


「何がそんなに気になるのか知らんが、急にそんなに凄まれたらこちらもびっくりするぞ・・・」


「あ・・・す、すみません!」


「ちょっと、取り乱してしまいました・・・・」







エノクはまたシュンと縮こまってしまう。

私は少し間を置くと、ディーナへ続きを促した。







「・・・おほん。話を戻そう」


「それで、続きはどうなった?」


「はい。その後ですが・・・」







気を取り直したディーナは話を続けた。







「グレゴール殿は、本件は繊細な対応を要するため、襲撃の内容に関しては黙秘をするようにと関係者に釘を刺されました」


「国王陛下も王妹殿下もそれは最な事だと判断し、告知内容に商人ギルド連盟の意向が反映される事になりました」


「その結果、襲撃の内容に関しては最小限に触れられる程度に留められ、署名も王妹殿下の単名で出される事になったのです」


「・・・・・なるほどな」







・・・商人ギルド連盟に思うことがないと言えば嘘になる。

王家の専権事項である民衆への告知に連盟が干渉するのは好ましいことではない。

それに共同主催をしておきながら、エレオノーラ様単名で告知に謝罪文を載せていることも腹立たしかった。

・・・しかし、連盟の言うことに理があるのも分かる。

だからこそエレオノーラ様もリーファ殿も私に何も言ってこなかったのだろう。

告知の内容が簡略化されたのも頷ける話だった。

後はこれをエノクがどう受け取るかだが・・・・・







「・・・・・」







私はチラリとエノクの方へ視線を向ける。

・・・彼は剣呑な雰囲気で物思いにふけっていた。

先程ディーナの言葉を受けてから、彼はこんな調子だった。







「・・・エノク。告知が決められた経緯については今聞いたとおりだ」


「先程、取り乱した訳を話せ」


「お前の依頼したい事とやらに今の内容が関係するということか?」


「・・・はい。そうです」







私の問いかけに頷くと、エノクは伏し目がちに理由を話し始めた。







「・・・実は先程の事情聴取で言っていなかった事があったのです・・・」


「非常にセンシティブな話題ですし、僕自身オロフさんに聞いただけで実際に現場を目撃したわけではありません」


「だから、素直にこれを話してしまっていいものか迷ってしまって・・・」







そう言うとエノクは一旦目線を下げて、大きく息を吐いた。

彼の緊張が伝わってくる。

話したくても素直に話すことが出来ないジレンマがあるのだと私はようやく悟ることが出来た。

私も配慮が足りなかったな・・・

当然彼の話は他の者の秘密にも関わってくる。

この話をキチンとしておかなければならなかったか・・・







「・・・エノク、先程言ったであろう。どんな些細な事でも話して欲しいと」


「例えそれが誰かの毀損に関わることであったとしても、それでお前を責めることはない」


「・・・もちろんそれが“商人ギルド連盟に関わること“であってもだ」


「お前がここで何を話そうが、お前の不利にならないように配慮はする」


「だから安心して話せ」


「・・・はい!ありがとうございます・・・」







エノクが再び私に頭を下げてきた。

彼も今ので決心がついたのか、確信に迫る話を切り出してきた。







「・・・もう予想していらっしゃると思いますが、これは商人ギルド連盟に関係することです」


「話は前後しますが、エレベータから脱出する際にオロフさんが言っていたのです」


「外へとつながる回廊が“ストーンウォール“で塞がれていたと・・・」


「それによって多くの兵士や避難客が逃げることが出来ずに犠牲になってしまったと僕は聞きました」


「・・・なに!?」







驚いた私はエノクの顔を凝視した。

彼の表情にも戸惑いの色が見て取れる。

信じがたい事を聞いた。

確かにストーンウォールを構築したことは連盟の魔術士から聞いているが・・・







「・・・ストーンウォールの件は私も聞いている」


「だが、それは逃げられる者の避難が終わってから封鎖したと聞いているぞ?」


「なにかの間違いではないのか?」







再度エノクに尋ねる。

私は信じられなかった。

同胞であるカーラの兵士が連盟の一存で見捨てられたなどとあっていいはずがない。

だが、エノクは私の力のこもった問いかけにも今度は動じなかった。

彼は静かに首を振った・・・







「いえ・・・残念ながら間違いではないです」


「ストーンウォールそのものを僕は目撃したわけではありませんが、巨人がそれを蹴破ろうとした“破砕音“を聞いています」


「それにオロフさんの行動を見ても確かです」


「彼はわざわざ会場の出口から引き返して2階席に行ったことになります」


「もし、ストーンウォールで回廊が塞がれていなかったら、引き返すことなどせずそのまま地上に上がっていたはずです」


「オロフさんや兵士、他の大勢の避難客が巨人に追い詰められて入口付近に留まっていたのは、ストーンウォールがその時点で既に張られていた明確な証拠でしょう」


「なんということだ・・・・」







エノクの言葉が衝撃とともに私に突き刺さる。

確かに、会場の入口付近には“人の踏み潰された跡“が多かった・・・

そして、エノク・フランベルジュとそれを助け起こしたオロフ・フロールマンは2階席から脱出しようとした・・・

彼のこれまでの証言と会場の犠牲者の場所を勘案すれば今の話に筋が通ってしまうのだ。







「・・・エノク、この事を他に話した者はいるか?」


「お前の話を今この場で完全に鵜呑みにする訳にはいかないが・・・」


「・・・もしお前の話したことが真実だとすれば由々しき事だ」







私の言葉にエノクは再び首を振る。







「いえ、クラウディア団長以外にはまだ誰にも話していません・・・」


「僕自身さっきまでどこか商人ギルド連盟を信じたい気持ちがあったからです」


「同じカーラの人間を見捨てるような非道な真似は流石にしないだろうと・・・」


「だけど、先程のディーナさんの話を聞いて疑念が確信に変わってしまいました・・・」







・・・・!!?

そういうことか・・・!







私はそこでようやくピンときた。

グレゴールが告知に干渉した事と今の話が繋がったのだ。

あれが隠蔽工作だとすれば話に辻褄が合う。







「・・・エノク、先程お前が驚いていたのはそういうことか!」


「お前がもし連盟の非道を目撃していたとしたら、奴らからしたらお前は余計なものを目撃した邪魔者になるということだな!?」


「・・・はい。その通りです・・・・」







エノクは項垂れながら肯定の言葉を返してきた。

私はここに至って彼の要件も悟る。







「・・・なるほどな。お前の私への要求が分かったぞ」


「状況が落ち着くまで、お前の庇護・・・もしくは隠れ家などの避難場所の提供・・・といったところか?」


「・・・はい。それもご明察の通りです」


「・・・・・」







しばし私は頭の中で考えを巡らせる。

エノクの証言を受けて、我が騎士団はどう動くべきだろうか・・・

一個人としては商人ギルド連盟のしたことは許しがたい・・・

だが、今の私は近衛騎士団の団長なのだ。

不用意な発言や行動は私だけではなく、王妹殿下にも被害が及ぶ。

・・・それだけはなんとしても避けねばなるまい。







「ふぅ・・・」







私は一度深呼吸をして荒立った気持ちを落ち着かせる。

エノクに掛ける言葉を慎重に選びながら彼を見据えると、私はゆっくりと言葉を発した。







「・・・・・エノク。お前の心配はもっともだ」


「・・・だが、お前には酷な話になってしまうが、今の話が本当だったとしても商人ギルド連盟を告発することは出来ない」


「・・・・・!」







エノクの目が大きく開いた。







「・・・知っていると思うが、王妹殿下と商人ギルド連盟は協力関係にある」


「我々は神遺物奪還の為に彼らから多額の援助を得ている状況だ」


「彼らの援助の下私達はカーラの秘宝を取り戻そうとしている」


「そして、王国にとって秘宝の奪還より優先すべきものはない・・・」


「・・・つまり、連盟が少し問題を起こしたところで今の私達は何もすることが出来ないのだ」


「・・・・・」







彼は黙ったまま、固唾を飲んで私の話を聞いていた。

そんな彼の挙動に若干の申し訳無さを感じながら、私は話を続ける。







「・・・それにな・・・たとえ奴らを告発したとしても恐らく大した問題にはなるまい」


「確かに奴らの犯したことは許しがたい・・・だが、大事を小事の犠牲にしてはならないという考えが政治の世界にはあるのだ」


「この場合の小事とはオークション会場で逃げ遅れた者たちの犠牲を指す」


「逃げようとした者すべてを救うことは出来ず、ストーンウォールで回廊を封鎖していなければ、会場の外にいる人間に更に被害が出ていた可能性もあるのだ」


「多くの者を救うためのやむを得ない判断だったと言われれば、奴らの行動にも合理性が出てくる」


「奴らを追い詰めることが出来ないどころか、不要な不信感を買うだけになってしまうのは我々としても避けたい」


「・・・結局、今の私達には連盟に対して何も出来はしないのだ・・・すまないな・・・」


「・・・いえ」







エノクはただ一言そう述べて首を振った。

とても納得しているようには見えないが、彼も理解はしているのだろう。

私は彼に相槌を打つと一転して声を和らげた。







「・・・だが、エノク。これだけは約束できる」


「お前の身は我が近衛騎士団の名誉にかけて守ることを誓おう」


「小事の犠牲とは非常事態の時だから通用するのだ」


「連盟がこの期に及んでお前の身を侵そうというのであれば、それは断じて私が許さない」


「だから安心してほしい」







私のこの言葉を聞いたエノクは泣き笑いのような顔を見せる。

彼は私に頭を下げると、声を震わせながら礼を述べてきた。







「・・・ありがとうございます・・・」


「そのお言葉が聞けただけで僕は十分です・・・」


「・・・そうか。良かった」







彼の言葉に私も頷いた。

1から10とまではいかないが、彼の願いをある程度叶えてやることは出来るだろう。

早速彼の要望を叶えるべく、私は段取りを進める。







「・・・エノク、まずはお前に隠れ家となる住居を提供しよう」


「我が騎士団の宿舎の一角だ」


「男子である君にとって“居心地の良さ“はあまり保証出来ないが・・・まず安全だ」


「そこにほとぼりが覚めるまで好きに滞在してもらって構わない」


「また、必要なら専任の護衛も付けてやるがどうだ?」


「お前と一緒の部屋で暮らすことになるが、色々と助けてやることも出来るだろう」







しかし、私のこの言葉にエノクは心底驚いたようだ。

彼は頭と両の手のひらをブンブンと振る。







「・・・い、いえいえ!!隠れ家の提供だけで十分です!」


「護衛のために同居までしていただくなんて、悪いですよ!」


「それはすみませんが、お断りさせてください!!」


「・・・そ、そうか?」







思いのほか強い拒絶を返されたので私も驚いた。

流石にいきなり過ぎたか・・・?

まあ、年端も行かぬ少年が見知らぬ女性と同居するのは流石に抵抗があるというものか・・・







「・・・・分かった。まあ、必要があったら言うが良い」


「しばらく外出の時は用心の為付けたほうがいいだろう」


「ここにいるアイナは私の直属の部下だ」


「護衛の件も含め、何かあったら彼女に頼め」







そう述べると、私はアイナの方に振り返った。







「アイナ」


「はっ!」







私の呼びかけにアイナが進み出て敬礼をしてくる。







「エノクに宿舎を案内してやれ」


「それと彼が生活するにあたり色々と便宜も図ってやれ」


「はっ!承知いたしました」







エノクは立ち上がり、再度貴族の礼で私にお辞儀をしてきた。







「ありがとうございます!クラウディア団長」


「1度ならず2度までもお助けていただいて・・・」







私も立ちあがり、彼の前に手を差し出して握手を求める。







「・・・礼を言うのは私の方だ、エノク」


「こんなのお前が貢献したことに比べれば安いものだ」


「お前のおかげで調査に光明が見えた」


「今後も我々に是非協力してくれ」


「他にも何か分かったことが出たら、いつでも尋ねてきてほしい」


「神遺物の足取りを掴むことが出来れば、王妹殿下からの報奨も十分あり得るぞ」


「はい・・・!頑張ります!」







彼は気合の入った返事とともに私の手を取る。

そして、私達は固く握手を交わした。

私はエノクに微笑みかけると彼に賛辞を送る。







「・・・それにしてもエノク。お前の推理力のキレは大したものだ」


「それに立ち回りの良さにも感心したぞ」


「よく商人ギルド連盟の動きを察知できたものだな」







私は素直にエノクを褒めたつもりだった。

しかし、彼は微妙な顔をして返事をしてくる。







「・・・・あ、あはは。そう言っていただけると嬉しいのですが」


「僕はそんな大したことしてないですよ・・・」


「半分以上は僕の“友達“のおかげなんで・・・」


「・・・?」







友達・・・?

だれだ・・・?

前言っていた、例の友達とやらのことか・・・?







「では、エノクさん、宿舎にご案内いたします」


「私について来てください」


「・・・あっはい!よろしくお願いいたします」







私達が別れの握手を済ますと、アイナがエノクを連れて詰所の外へと出ていく。

エノクは部屋から出る際に私に顔を向けてにこやかに挨拶をしてきた。







「では、クラウディア団長。しばらくお世話になります!」


「他にもなにか分かったらお知らせさせて頂きます!」


「あ、ああ・・・そうだな」







彼の意味深な言葉に首を捻りつつ、私はエノクを見送った。















To Be Continued・・・
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