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第30話 そして彼女は言った
しおりを挟む陽の光が斜陽を迎え、黄昏の時を迎えようとしている。
浮島を取り囲んでいる内堀は陽の光を浴びて黄金の輝きを放っていた。
それはまさに芸術の都と呼ばれるにふさわしいカーラの姿を映し出している。
「・・・・・」
私はクッションにボケーっと座りながら、黄昏時の日の入りを眺めていた。
この光景を見るのはこれで2度目だが、恐らくこの先何度見ても飽きることは無いだろう。
自然と文明の調和がなした光景はある種の情緒的な美を感じることが出来る。
自然は無秩序であり、そこから歴史の積み重ねを感じることは難しい。
一方で、文明には秩序が有り、人や物、建物全てに歴史の奥深さを感じることが出来る。
大自然がすべてを無秩序に回帰させようとする動きの中にあって、
文明が秩序を維持し歴史を紡ぐことが出来るのは人類の知識の伝承が行われているからに他ならない。
この世界で言えば魔法科学という叡智の結晶がそこにあり、自然の無秩序な動きに打ち勝っているのだ。
・・・神話の時代に自然は文明を滅す寸前まで追い込んだという。
だが人類はそこから生き延び、今の繁栄が眼下に広がっている。
かくも厳しい大自然の中にあって、文明の証が威風堂々と陽光に照らされて輝いていた。
その光景はまるで神々が祝福し、文明の偉大さを際立たせているかのようにも見えるのだ。
「・・・こうやって眺めていると、この世界が滅亡しそうになっていたなんて嘘みたいね・・・」
しみじみと私の口からそんな感想が漏れる。
・・・まあ、神話の世界の話だから本当なのかどうかは分からない。
しかし、エノクが言うには先史文明の遺跡が世界各地に実際に存在しているらしい。
彼は当初、超古代文明のロストテクノロジーは信じていなかったが、最近はその考えを変えた様だ。
神話のアイテムを直接見る機会を経てどうやら確信したらしい。神話の一部は実在すると・・・
太陽の光は徐々に水平線の中に吸い込まれていく。
内堀の輝きも失われていき、カーラの王都は徐々にライトアップされた町並みへと変化していく。
月明かりが雲間の向こうから存在感を主張し始めていた。
私は町並みから視線を外すと部屋に立てかけてあった時計に視線を移す。
17:48
そろそろ夜の6時になろうとしている。
エノクが出かけてから既に4時間程経過していた。
私達はエノク御用達の宿屋にまたお世話になっていた。
宿屋の女主人のクレアさんはエノクの来訪を予感していたのか、また同じ部屋を空けておいてくれたのだ。
「・・・エノクの方は大丈夫かな」
景色を見てまどろみながらも、彼の動向を気にしていた。
首尾よく行っていれば、今頃クラウディアさんにこちらの要望を聞いてもらっているはずだ。
クラウディアさんの出頭令が届いたあの日・・・私は今の窮状をエノクに説明した。
その際、クラウディアさんに援助を仰ぐ事がベストだと伝え、
彼女の捜査に協力して恩を売ることや、工房の親方のコネを使って要望を聞いて貰うように仕向けるべきだと彼に訴えた。
「・・・・・」
「・・・・うまくいっているといいけど」
クッションの上で足をパタパタさせながら思案に暮れる。
もし、クラウディアさんにまともに取り合って貰えなかったらどうするか・・・?
それも一応考えていないわけではなかった。
・・・もし、そうなったら次善策として工房の親方のツテを使うことになるだろう。
・・・というかその可能性も考えて、実は旅立ちに必要な最低限の家財道具をもう持ってきているのだ。
部屋の中を見渡すと私が入るいつもの防護カバンに加え、2つの大きな旅行カバンがあった。
一つにはエノクの着替えなどの私物が入っており、もう一つには調理器具や工房ギルドの商売道具が入っていた。
首尾よくクラウディアさんとの話がまとまり、隠れ家を提供して貰うことになっても結局エノクは一時的に今の家を出ることになる。
この1ヶ月半住んできて、既に私のホームだと感じているあの家を離れるのは寂しい気もするけど、命あっての物種だ。
まあ・・・エノクは最初私のプランにあまり乗り気じゃなかったんだけどね・・・
商人ギルド連盟が彼を口封じに動くかもしれないという私の考えについては半信半疑だった。
だけど、エノクがオークションの生還者として今後注目されることは間違いなかったし、
もし万一予想が当たって、あの家が襲撃されたら誰も助けには来てくれない。
エノクの家の周辺地域は治安もあまりよくなかった。
これらのリスクを考えたら一時的にでも避難場所を作ったほうがいい事はエノクも同意してくれたのだ。
エノクの住所はカーラの行政機構や工房ギルドのメンバーを始め、多くの人達が情報を持っている。
悪意を持った第三者がエノクを消そうとした時、彼の家の情報を知ろうとすれば容易に入手でき、その上襲撃もやりやすい状況にあった。
そう・・・“実行のしやすさ“が最大の懸念材料だった。
私がもし商人ギルド連盟の幹部だったらどう考えるだろうか・・・
・・・連盟の評判を落としそうな奴がいる。
しかもそいつの住所は簡単に割り出す事が出来、住んでいる場所も町の郊外で人目につかず襲撃も容易。
対象はまだ15・6の子供で、レベルも低く、殺すのは赤子の手を撚るように楽。
・・・そして、同居人もいない。
治安の悪い場所での強奪・空き巣は当たり前。
エノク宅が襲撃されても誰も不自然に思わないだろう。
そこらのごろつきに安い金を掴ませて襲撃させれば足もつかない。
実行に手間取ることもなく、大したリスクもなく、金もかからず、目標の達成は容易。
さて・・・そんな状況でやるか、やらないかの判断をするとき、連盟の幹部はどちらを選択するか・・・
・・・やるわね。
私が連盟の幹部だったら・・・やるという判断を下すわ・・・
奴らの中には自分たちの面子を守るために、犠牲者が出る事を厭わない冷酷無慈悲な連中がいるのだ。
万一の事を考えたらやはり住居を移動しておくに越したことはなかった。
パタ・・・パタ・・・パタ・・・・
「・・・んっ?」
「戻ってきたかな?」
私が自分の計画を反芻していたら、外から近づいてくる足音に気がついた。
足音からしてエノクが戻ってきたのだろう。
「・・・よっと!」
私はクッションから勢いをつけて跳ね起きる。
エノクを出迎える為に部屋の入口に近いテーブルの端に移動した。
パタ・・コツ・・パタ・・コツ・・パタ・・コツ・・・・
「・・・・!?」
足音は2つあった・・・
えっ・・・?
エノクだけじゃない・・・!?
・・・誰!?
私は急遽テーブルの奥に潜むと、物陰から入口のドアを伺った。
足音が部屋の前で止まると、話し声が聞こえて来た。
「・・・あっ、すみません」
「ちょっとここで待っててもらっていいですか?」
「荷物を取ってきますので・・・」
「分かりました。私はここで待っています」
エノクの声が聞こえてきた。
そのすぐ後に、若い女性の声も聞こえてくる。
ガチャッ!
エノクが扉を開けて入ってくる。
彼の後ろで甲冑を着ている青髪の女の人の姿が一瞬見えた。
バタン!
エノクは部屋に入ってすぐに入口の扉を閉める。
「・・・レイナ・・・いるかい?」
彼は辺りをキョロキョロと見回し、控えめな声量で私に話しかけてきた。
「・・・エノク・・・こっち」
私は物陰から出ると、手を振りながら彼に返事をする。
エノクは私の姿を認めると、テーブルの前にやってきた。
「・・・あっ、そこにいたんだね。良かった」
「姿が見えないからちょっと探しちゃったよ・・・」
エノクはそう言うと表情を和らげる。
「・・・いや、足音が2つ聞こえてきたから驚いちゃってね」
「一応、用心のために隠れたのよ」
「あ、そっか、そっか。いきなりだったもんね・・・」
エノクが納得したかのように首を縦に振った。
「・・・それで、外の人は誰なの?」
「見たところクラウディアさんところの騎士の人っぽいけど・・・」
クラウディアさん配下の騎士は以前アモンギルドで見かけている。
同じ衣装と甲冑を着ていたからたぶん彼女もそうなのだろうと予想は着く。
「あっ!そうそう、それをまず話さなきゃいけないね!」
エノクはそう言うと嬉しそうな顔をして話を続けた。
「・・・レイナ、やったよ!」
「クラウディア団長が僕の要望聞いてくれたんだよ!」
「・・・え、本当!?」
エノクの言葉に私は思わず耳を疑ってしまう。
「・・・うん!隠れ家の提供をしてくれるって!」
「外にいる人はアイナさんと言って、クラウディア団長の部下の人なんだ」
「彼女が隠れ家の案内してくれるってことになったんだよ」
今の朗報を聞き、私はその場にへたり込む。
「・・・はぁ・・・そっか。良かった・・・!」
「クラウディアさんエノクの要望聞いてくれたんだ・・・・」
安心すると同時に私の全身が脱力してしまった。
「・・・うん!クラウディア団長との話のいきさつは、隠れ家についたら詳しく話すね」
「アイナさんを外で待たせているから、すぐに荷物をまとめてここから出よう」
「・・・了解!」
彼の言葉に頷いた私は早速防護カバンへと身を潜ませる。
そして、カバンの中に置いていたふりふりのフリルの衣装に私は着替えた。
防護カバンに同居している他のお人形達に成りすますためだ。
私のイメージ的にはあまりフリルは似合わないと思うが・・・まあ、仕方ない。
・・・私達はすぐ支度を整えると、アイナさんと一緒に宿の外へ出る。
そのまま外で待機していた馬車に乗り込み、王宮へと向かった。
宿を出る際クレアさんの惜別の抱擁がエノクを襲ったのは言うまでもない・・・・
・
・
・
ガラガラガラ・・・
馬車は街道を突き進んでいく。
先程浮島への検問を抜けて、今は長い橋を渡航している最中だ。
ゴールド通りの喧騒は徐々に過ぎ去り、月明かりが反射した内堀の光が馬車の中を照らしている。
内堀にある河は王都に隣接する大河から流れ込んでおり、大河から吹き込む風によって時折馬車の窓をガタガタと揺らしていた。
私は防護カバンの中から車内に腰掛ける二人の様子を見ていた。
「・・・・・」
「・・・・・」
二人は対面で腰掛けたまま、お互いに視線を向けることもなく物思いにふけっていた。
一人は私もよく知っているエノク。
そして、もう一人は“アイナさん“というクラウディア団長の部下の騎士だ。
彼女を一言で表すとすればクールビューティーという言葉がぴったりだろう。
後ろのクリップで綺麗に結えられ、耳にかかったロングボブの青髪。
アイシャドウで整えられた切れ長の目。高さがありつつ真っ直ぐに通った鼻筋。
そして、気品が感じさせられる程度にリップが薄く塗られたキューピッドボウの唇。
知的でクールな雰囲気があると同時に、彼女は気高さと勇ましさも持ち併せているようだ。
目線を下げ彼女の身体を観察する。
胸当ての上からでもハッキリ分かる膨らみが女性らしさをアピールしつつ、
盛り上がった腕の筋肉や引き締まった脚が彼女の身分を物語っていた。
「・・・・・っ」
エノクはアイナさんに視線を合わせようとせず、さっきからずっと落ち着きがない。
その少し火照った顔や、せわしなく動く視線を見ていれば、
彼の気持ちが手に取るように伝わってくる・・・
まあ、そうりゃあね・・・・
こんな美人がこんな狭い空間の中で目の前にいるんだから、
初心な少年のエノクにとっちゃ刺激が強すぎるわよね・・・
それにこのバラの香りも卑怯だわ・・・・
馬車に入ったときから上品な香水のかおりが鼻腔をくすぐっていた。
同性の私でさえ彼女の魅力に惹かれそうになる。
ましてや異性で女性経験に乏しいエノクがそれに抗うなんて無理な話だろう。
向こうにすれば私達を籠絡する気なんてさらさらないだろうが、
結果的に感情をかき乱されて、不利な心理状態に追い込まれてしまっている。
女性ばかりで構成されたこの騎士団において「美」は明確な武器になるということだ。
こんな刺客をエノクに差し向けて来るとは・・・・
クラウディア・・・奴は油断ならん!
一方、そんな事を思われているとはつゆ知らないアイナさんはじっと窓の外を眺めていた。
その眼光は時折鋭く変化し、馬車に近づく外部のものに警戒を払っていた。
詳しい話はエノクから聞いていないが、彼女はエノクの案内役兼護衛役で付いてきているらしい。
先程のエノクとのやり取りを思い出す。
彼女は言葉のやり取りは丁寧だが、あまり積極的にコミュニケーションを取りたがるタイプではなさそうだ。
馬車に乗り込む前に簡単な事務連絡を交わした以降、彼女からは一切会話を振ってこなかった。
まあ・・・それはエノクも同様なのだけどね・・・
ただ、エノクは決してコミュニケーションを取りたくないわけではないだろう。
彼の性格から考えたら初対面の人間とはむしろ積極的に取りたいと思うはず。
それをしないというのは目の前の女性に気後れしているか、単純に緊張してどういう言葉を掛けていいか迷っているだけだろう。
まあ・・・・いずれにしろ私は見守るしかないわけだが・・・
頑張れ・・・エノク・・・・・
防護カバンの片隅から彼の健闘を祈っていると、
祈りが通じたのかエノクは顔を上げてアイナさんを見据えた。
「あ、あの・・・・・」
「前にもお会いした事ありましたよね・・・?」
ナンパか!!
掛ける言葉に困ったからといって、それはないわよ・・・
心のなかでエノクに思わずツッコミを入れてしまう私。
だが、展開は意外な方へと転がる。
「ええ、そうですね」
アイナさんはエノクに顔を向けると肯定の返事をしてきた。
ええっ!?
そうなの・・・?
予想外の返事に私は驚く。
「やっぱり・・・そうでしたか・・・」
「僕を地下牢に連行したときでしたよね・・・」
あっ、なるほど。あの時か・・・
エノクの今の言葉で私も合点がいった。
「はい。私があなたを後ろから見張っておりました」
「大した記憶力ですね」
「あの時あなたは満足に私を見ている余裕もなかったはずです」
「顔を覚えられているとはちょっと驚きました」
抑揚をつけず、アイナさんは淡々とそう語る。
エノクは苦笑いをしながら、そんな彼女の疑問に答えた。
「その、失礼ですけど印象に残っていたんです・・・」
「・・・グレースさんとは対照的な髪の色をされていたので」
「・・・ああ、なるほど」
少し間をおいて、アイナさんは僅かに目を見開く。
それはささやかな感情の表出で、彼女のクールな表情は変わらなかった。
基本的に感情をあまり表に出したがらない人のようだ。
「髪の色の対比で覚えられているとは盲点でした」
「今度グレースと組む時は気をつけるとしましょう」
アイナさんはそう述懐した後、言葉を続けてくる。
「しかし、やはりあなたの着眼点は変わっていますね」
「そのおかげで今回調査に進展があったのです」
「あなたのその変わったところも肯定的に捉え直すべきかもしれません」
「私はあなたには期待していなかったんですけどね」
彼女は涼しい顔をしながらさらりと心を抉ってきた。
結構、ハッキリモノを言うのね。この人・・・
エノクも今のアイナさんの言葉に苦笑いをしてしまう。
「・・・あ、あはは・・・」
「率直に聞きますが、初対面の僕はどういう印象だったんですか・・・?」
エノクが自ら地雷を踏みに行った。
おい・・・やめときなさいよ・・・
また、気になって仕事に集中出来なくなっちゃうわよ、エノク・・・
心のなかでエノクにそう突っ込みを入れるが、
もちろん口に出して言う訳にはいかない。
アイナさんはエノクを見据えると、表情を崩さず案の定毒を吐いてきた。
「率直に言って頼りない印象が大きかったです」
「貴賓席に紛れ込んで、リスクを考えない行動を取るあたり、」
「状況判断が出来なく目の前のことにしか集中できない浅はかな少年といったイメージです」
「私は地下牢での尋問の詳細を知っているわけではありませんが、」
「後で隊長があなたの安否を気にされていると聞いた時、正直理由が分かりませんでした」
「あの後事件に遭遇してあなたが死んだとしても、自業自得だと思いましたからね」
「う・・・・」
アイナさんの容赦のない言葉がエノクに突き刺さる。
エノクは彼女の言葉を咀嚼しきれずに固まってしまった。
まあ、しょうがない・・・・
これは少なからず私も思ったことだ。
「しかし、先程のあなたの推理を聞いて考えを改めなければなりません」
「私もまだまだ人を見る目は未熟だったようです」
「やはりその道のプロフェッショナルの考えは一聴に値する事がよく分かりました」
「お見事でした」
「あ・・・えっ・・・はい?」
まさかの突き落としからの持ち上げ・・・これは混乱するわ・・・
・・・ていうかアイナさん。
そんな感情がこもらないで淡々と言われちゃ、こっちも褒められてるんだか貶されているんだか分からないわよ・・・
彼女は相変わらず無表情のままだった。
「・・・・あの・・・今、褒めていただいたんですよね?」
エノクが恐る恐るアイナさんに聞く。
「・・・?」
「はい、そのつもりで言いましたが・・・?」
彼女は眉をひそめて首を捻った。
ここで初めて彼女が明確な感情を表に出す。
悔しいけど、そんな挙動ですら彼女は絵になった。
ふむ・・・これが噂のクールビューティー系女子か。
これは私も彼女の挙動を勉強せねばならんな・・・
「・・・あの、アイナさんはいつもそうなんですか?」
「感情が読みにくいというか、掴みどころがないんです・・・」
「それとも、なにかアイナさんに気に障ることを僕はしてしまったのでしょうか・・・?」
エノクが躊躇いがちに彼女に尋ねた。
エノクに指摘されたことを受けて、アイナさんの表情に少し変化が表れる。
「・・・ああそうですよね。失礼」
「これは職業柄意識してこうしているのです」
「護衛の任務は常に冷静沈着さが求められます」
「特に護衛対象となる方の傍らにいる時は常に周囲に気を張らなければなりません」
「エノクさんのせいでは決してないですよ」
「だから、そんなにお気になさらないでください」
そう言うとアイナさんはニコリとエノクに微笑みかけた。
それは彼女の初めて見せた喜びの感情。
インパクト絶大な天使の笑みだった。
「・・・・・」
エノクは顔が真っ赤になって固まってしまう。
これを見たのは2回目・・・
1回目はクラウディアさんとアモンギルドですれ違った時だ。
つまり、クラウディアさんの騎士団に彼は2回も魅了を受けて固まったことになる。
まあ、この無感情ギャップからの笑顔は卑怯よね・・・
ていうかエノクさんよ・・・私にはそんな反応見せた事1回もないんじゃないのぉ!?←鈍感
彼女にはエノクを赤面させる魅力があって私にはないとでも言うのか。
私だって女だし、そんなイケてないわけじゃないと思うんだけどなぁ・・・なんかムカつくんですけど。
ガラガラガラ・・・・・
馬車はそんな私の愚痴など気にもせず、ひたすら目的地へと進んでいた。
ちなみに、固まっているエノクとは対照的に、アイナさんはもう元の状態に戻っていた。
クールな表情でまた周囲の警戒に当たっている。
馬車は緩い傾斜がある小高い丘を上っていき、見晴らしの良い場所へ出る。
先日事件があったばかりの欲望の塔の横を通り過ぎ、程なくして王宮の正門の前に到着した。
警戒に当たっていた衛兵たちが馬車の側にやってくると中を伺ってきた。
ガラッ!
アイナさんは自分から客室車の扉を開けた。
兵士に敬礼をしながら、先程までとは打って変わり威厳と覇気のある声で兵士に呼び掛ける。
「役目ご苦労!」
「私は第9近衛騎士団第1小隊所属、アイナ・テグネールだ!」
「我が近衛騎士団専任の魔法技師として、ここにいる同行者のエノク・フランベルジュが着任する」
「今後この者の王宮への出入りが発生するのでご承知願いたい」
エノクが近衛騎士団所属の魔法技師として紹介される。
隠れ家を利用するにあたり、そういう扱いにした方が都合がいいのだろう。
アイナさんの言葉に兵士も敬礼を返した。
「はっ!お勤めお疲れ様であります」
「クラウディア騎士団長より承っております」
「・・・こちらが出入りに当たる通行許可証になりますのでどうぞお持ち下さい」
「うむ、受け取った」
アイナさんは兵士から許可証となるカードを受け取ると、そのままエノクに手渡してきた。
エノクは衛兵とアイナさんに会釈をして感謝の意を表す。
「開門!!」
ガラガラガラ・・・・
衛兵の大きな言葉とともに、王宮正面ゲートが開いた。
馬車は王宮の中に馬の蹄の音を響かせながら入場していく。
それから王宮の中をゆっくりと進んでいき、10分ほど経った地点でその歩を止めた。
「・・・着きました」
「ここが第9近衛騎士団の宿舎です」
・
・
・
既に外は漆黒の闇が支配していた。
アイナさんの言葉を受けて僕は窓の外を伺う。
馬車の外には赤レンガで造られた2階建ての建物があり、
月明かりと外壁の魔光灯によってライトアップされた建物が見える。
これがアイナさん達が起居している騎士団の宿舎なのだろう。
商人ギルド連盟の会館や冒険者ギルドのように芸術性に凝った作りはしていないが、
レンガ造りということもあり、シックで落ち着いた雰囲気を醸し出していた。
入り口横には兵士が立って周囲を見張っている。
ガラッ
アイナさんは馬車の扉を開けると、こちらに振り返って僕の荷物に目線をやる。
「・・・さすがに大荷物ですね」
「私が持ちましょうか?」
そう言ってアイナさんは僕の私物が入っている旅行カバンを指差してきた。
今回の避難は一時的なものを想定しているとは言えかなり大荷物になってしまっている。
荷物の中身はレイナの仮設住宅(折りたたみ式)や工房ギルドで使う仕事道具。
それに加え、僕の着替えや包丁やフライパンなどの調理器具などだ。
普段携帯しているショルダーバッグに加え、巨大な旅行カバン2つ。レイナが入っている防護カバンを合わせると荷物が合計4つにもなってしまっていた。
今回の荷物で特に重いのはこの巨大な2つの旅行カバンだ。
流石にこれを女性に持ってもらうのは酷というものだろう。
「ちょっと大変ですが、大丈夫です」
「それにその2つは特に重たいので女性に持たすわけにはいかないですよ」
そう言って僕は控えめに断ろうとしたのだが、彼女はそれで眉をひそめてしまう。
「・・・エノクさん。どうやらちょっと誤解されているようですね」
「ちょっと失礼しますね」
彼女はそう言うと、僕の横まで来て巨大な旅行カバン2つ同時に馬車の外へ引っ張った。
そして、外に出るとひょいっと軽い食器でも持つかのように片手で持ち上げてしまう。
「えっ・・・」
僕は目を疑ってしまう。
・・・アイナさんは確かに一般的な女性より筋肉質な身体はしていた。
しかし、それでも全体的には女性らしさを感じさせる華奢な体型であり、身長も僕より少し高い程度。
とてもじゃないがあんな巨大で重量がある旅行カバンを軽々と持ち上げてしまうようには見えなかった。
アイナさんは目を丸くした僕を涼し気な目で見てくる。
「・・・理解して頂けましたか?」
「鍛えている私達にとってはこんなの大した重さではないのですよ」
「そちらもお持ちしますよ」
アイナさんはそう言って、僕のショルダーバックや、レイナが入っている防護カバンも指さしてきた。
「いえいえ!!これは僕の方で持ちますんでいいです!」
「割れ物とか、取り扱い注意なものが入っているんで、本当にこれは大丈夫です!!」
「・・・そうですか」
さすがにレイナが入っているカバンを乱暴に持たれるわけにはいかないのでお断りを入れた。
アイナさんの表情は相変わらずクールだったが、その表情は僅かに残念そうな色を帯びていた。
少しだけ彼女の感情を読み取れるようになってきた気がする。
僕は防護カバンとショルダーバックを慎重に持って、馬車の外に出ると赤レンガの建物を見上げた。
「これがアイナさんたちが居住している騎士団の宿舎なんですね・・・」
周囲を見回すと同じ様な建物が何棟もここら一帯に密集していた。
どうやらこのエリアは兵舎棟があるエリアのようだ。
先日の事件の影響なのだろう。
兵舎棟のいくつかは倒壊しているものもあり、現在修繕が行われているものがちらほらと見受けられる。
周囲をキョロキョロと見回しながらアイナさんに続いて宿舎の中に入る。
アイナさんが片手で荷物を持ちながら、もう片方の手で見張りの兵士に敬礼をした。
僕も建前上はこの騎士団に新しく着任した魔法技師ということもあり、彼女を真似て敬礼をしながら中に入る。
ギィ・・・
宿舎の中に入ると、奥行きがある空間が広がっていた。
赤レンガの空間があるのは外面と変わらないが、
入り口には白いスズランの花が活けてあり、高級さと上品さを醸し出している。
建物全体からはバラの良い香りが漂ってきており僕の嗅覚を刺激してきた。
いい匂いなんだけど、なんか目眩がしそうだ。
ちょっと慣れるのに時間がかかるかもしれない・・・
ガングマイスター工房は男性の割合が圧倒的に多かったので、こういう女性ばかりが在居する空間は初めてだった。
クラウディア団長が僕の「居心地の良さは保証できない」と言った意味がちょっとわかった気がする・・・・・
「部屋は2階にあります」
アイナさんが僕に目配せした後、階段を上がっていく。
騎士団の居住する兵舎はどんなところだろうと思っていたが、一般的な宿屋の内装とそんな変わらないようだ。
騎士団の団旗や甲冑が飾られているところはさすが兵舎という感じはするが、そこまで無骨な感じは受けない。
アイナさんに連れられ2階の廊下の最奥まで来ると、彼女は部屋のドアノブに手を掛けた。
「ここです」
ガチャ!
彼女とともに僕も部屋に入った。
「・・・これが僕の部屋ですか・・・!?」
荷物を持ちながらゆっくりと部屋の中に入ると、僕は予想外の部屋の広さに驚いた。
部屋の中にはテーブルや衣装棚。ダイニングテーブルやキッチンなどの家具・設備が整っていた。
さらに寝室と執務室はそれぞれ別にあって、バスルームももちろん備えてある。
明らかに僕の自宅より広い。
「・・・お気に召しませんでしたか?」
「いえいえいえ!逆です!!」
「こんな広い部屋をむしろお借りしちゃってもいいんですか!?」
アイナさんが訝しげな視線を向けて質問してきたので、思わず身振りを交えながら僕は否定した。
「それはお気になさる必要はありません」
「ここは元々隊長が使う予定だったのですが、結局使われずに空いてしまったお部屋です」
「隊長の使う予定のお部屋だったという事もあって、他の団員が遠慮して中々使おうとしないのです」
「宿舎の部屋はまだ空きに余裕がありますし、今回の件はちょうどよかったと思うので是非ここをお使いください」
クラウディア団長が使う予定だった部屋を僕なんかが使って良いのかな・・・?
「・・・そんなお部屋をぽっと出の僕なんかが使っちゃっていいんですか?」
「ちょっと恐縮してしまうんですけど・・・」
顔をひきつらせながらアイナさんに尋ねる。
「大丈夫ですよ」
「隊長もようやく人が埋まったということで喜ぶと思います」
アイナさんはそう言ってピシャリと僕の懸念を一蹴する。
彼女の表情は相変わらずクールで、返事も淡々としたものだった。
暗にこの部屋で我慢しなさいと言われている気もしなくもない・・・・
この部屋は2階で建物の一番奥にあるし、僕の護衛をする上でも都合がいいのかもしれない。
ここは素直に頷いておこう。
「・・・分かりました」
「ここを使わせていただきます」
僕が相槌を打つと、アイナさんも本題を切り出してきた。
「それでは生活するに当たり、いくつかお伝えしておきましょう」
「この宿舎を出て、中央街路の内側に進めば日用雑貨や食料品が売ってある市場があります」
「そこに行けば基本的な生活必需品は揃うはずです」
「先程正門で貰ったその通行許可証は肌身離さず持っていてください」
「王宮から入退出する時は必ずそれの提示が求められますので・・・」
僕は先程もらったカードを確認する。
カードには盾と白薔薇の印章が印字されていた。
一番下には、第9近衛騎士団 魔法技師 エノク・フランベルジュの文字も入っている。
「それと改めて言わなくても分かると思いますが、私がエノクさんの護衛役を引き受けます」
「王宮内であれば大丈夫ですが、もし外に出るのであれば事前に仰ってください」
「この部屋の対面の部屋が私の部屋になっています」
「午後は基本的にいるようにしますので、ご用命があったらいつでもお越しください」
そう言ってアイナさんは任せなさいと言わんばかりに自分の胸に手を当てた。
先程の彼女の怪力を見たから・・・って言ったら失礼かもしれないけど、自分より明らかに強い人からそう言われると安心する。
本当は自分の身は自分で守れるようならなきゃいけないんだけどね・・・
だけど、今は無い物ねだりをしてもしょうがない。
ここは素直にアイナさんの言葉に甘えるとしよう。
「・・・分かりました。ありがとうございます」
「その時はよろしくお願いいたします」
親方に上流階級の挨拶として教わったお辞儀で彼女に深々と頭を下げる。
アイナさんはそんな僕に微笑みを返すと、荷物を置いて敬礼をしてきた。
「それでは、私はこれで・・・」
ガチャン!
彼女が部屋を退出する。
僕はアイナさんが部屋を退出したことを確認してから、
ショルダーバッグと防護カバンをダイニングテーブルの上にゆっくりと下ろした。
「レイナ。お待たせ」
カバンを置いてから中にいるレイナに声を掛けた。
蓋を掛けるとレイナがぴょこっと顔を出す。
「ふぅ、はぁ・・・」
「やっと出れたぁーー」
レイナが盛大に深呼吸と溜息を繰り返した。
今回はアイナさんが同行していたこともあって、レイナはずっとカバンの中だった。
揺れる馬車の中で長時間じっとしていたのは大変だっただろう。
僕はレイナにねぎらいの言葉を掛けた。
「お疲れ様。大変だったね」
「本当よ!もう!」
「しばらく馬車には乗りたくないわ・・・」
うんざりという感じでレイナが愚痴をこぼしてきた。
レイナはそのままカバンから出てくると大きく伸びをする。
「それにしても、ここが避難場所か・・・なんかVIP待遇受けているみたい・・・」
彼女は周囲をキョロキョロと見回しながらそう言う。
彼女の言葉に僕も頷きながら答えた。
「確かに・・・僕もこんなにいいところ紹介してもらえると思わなかったよ」
地下牢でも取りなしてもらったし、今回はこんなにいい場所を提供してもらって、さらにアイナさんという護衛まで付けて貰っている。
しばらくクラウディア団長には頭が上がりそうもない。
「・・・まあ、何はともあれこれで住居は何とかなったわね」
「とりあえずお疲れ様」
レイナの言葉が心に染みる。
僕の顔にも自然と笑みが浮かんだ。
「うん。ありがとう」
「レイナもお疲れ様」
レイナの前に人差し指を出す。
彼女はそれを認識するとニコリと笑い、人差し指を握り返してくれた。
お互いの健闘を称え合う小さな握手。
ひと仕事終わった感じはするけど、大変なのはこれからだ。
あくまでこれは一時的な避難生活。
いつまでもクラウディア団長の厄介になっている訳にはいかない。
自分達自身で今の状況を打開していく必要がある。
「さて、とりあえずは荷ほどきしないとね・・・・」
「レイナの仮設住宅も急いで組み立てちゃうよ」
僕はアイナさんが運んできてくれた巨大な旅行カバンの中を開け、道具を引っ張り出した。
そして、そのまま組立作業に入る。
「うん。ありがとう!」
「作業しながらでいいんだけど、クラウディアさんとどういう話になったか私にも教えて欲しいな」
レイナが僕の作業を見ながらそんな言葉をかけてきた。
「・・・あっ、そうだね」
「分かった。作業しながら話すよ」
僕は頷くと、仮設住宅を組み立てながらこれまでのいきさつを話し始める。
僕が神遺物捜査へ協力を申し出たこと。
クラウディア団長が巨人たちを追って手掛かりを見失ったこと。
また、事情聴取で分かったオークション事件のこと。
そして、それに対する僕の見解と推理を披露したこと。
商人ギルド連盟が告知にやはり干渉していたこと。
クラウディア団長が僕の要望を快く引き受けてくれて、避難場所と護衛を付けてくれたこと、等。
僕はクラウディア団長とのやり取りを事細かくレイナに共有した。
・
・
・
「――――それで、僕とアイナさんは宿屋に向かったというわけなんだ」
トントントン!
まな板の豚肉を切りながらレイナにこれまでの経緯を語る。
時間にして1時間以上は話していただろうか。
既に仮設住宅の組み立ては終わっており荷解きも済んでいた。
今は今晩の料理を作っているところだ。
既に夜もだいぶ更けており、この時間では市場も閉まっているだろう。
今晩はショルダーバッグに詰めてきた食材の余りを使えばいいが、明日は市場に買いに行く必要がある。
幸いなことにここの調理場にはフライパンや、包丁、まな板など基本的な調理道具や食器類が予め用意されていたので
これらを準備する必要がないのは助かった。
持ってきた調理道具はあったが、さすがに手持ちだけだと心もとない。
一式揃えるだけでも経費が馬鹿にならないから、僕にとってこれは嬉しい誤算だった。
「・・・・・♪」
少し鼻歌を交えながら作業を進める。
いつもより料理が楽しく感じられた。
肩の荷が少し下りたということもあるだろう。
「・・・・うーん」
「なるほどね・・・とりあえず経緯は分かったけど・・・」
んっ・・・・?
レイナの声の調子が気になり、ちらりと目線をやる。
彼女は新しく出来た仮設住宅の前のクッションの上で何やら考え込んでいた。
浮かれ気分の僕とは対照的だ。
「何か気になったことがあったのかい?」
「うん・・・まあね・・・・」
彼女は頷きながら、肯定の返事をしてきた。
「・・・いくつかあるけど、特に気になったのは巨人たちの行動ね」
「巨人たちがオークション品を持ち去った理由がなんかしっくり来ないのよ・・・」
「えっ・・・?」
意外な言葉を聞いて僕は包丁を動かす手を止める。
「クラウディア団長が推測した理由がしっくりこないってことかい?」
「・・・うん。具体的にはそう」
「巨人たちはあんな虐殺と目立つ強奪劇を繰り広げてまでオークション品を奪ったのよ?」
「それなのに、その目的が神遺物を王都のどこかの宝物庫に隠すためっていうのがどうもね・・・」
「うーーん・・・・」
レイナの言葉に僕も考え込む。
確かにそう言われてみれば、なんか目的がしょぼく感じる・・・
「リスクとリターンが見合っていないのよ」
「あれだけのことをやるんであれば、カーラ王国の監視の目が届かない遠い場所まで宝箱を運ぼうと思うはず」
「私がもし犯人一味だったら、王都のどこかの宝物庫でゆっくり宝箱を開錠してから持ち出すなんてことは考えたりしないわ」
「なんとかして、そのまま巨人たちに持ち逃げさせる方法を考えると思う」
「王都の中から検問をパスして外に運び出す事だって一苦労だろうし、」
「そもそも王都の中に隠していたら、場所がバレた時点でそれまでの犯行が全て水の泡になっちゃうもん」
「・・・・・」
レイナの言う事にも一理ある。
しかし、事実として巨人たちは宝箱を持っていなかった可能性が非常に高い。
結局、彼らも宝箱を持ったままの逃走は不可能だと結論づけたんじゃないかと僕は思ったわけだ。
クラウディア団長も僕の意見に賛同してくれたからこそ、王都の他の宝物庫に隠したという推測に至ったわけだし。
「確かにちょっと肩透かしを食らったような感覚にはなるね・・・」
「だけど、巨人たちはそれだけ宝箱を持って逃げるリスクを恐れていたという事なんじゃないかな?」
「あの宝箱を持っていたら捕捉されずに逃げ切ることはほぼ不可能だ」
「そして、カーラ王国にはLv200を超える英雄級冒険者を始め、腕利きの冒険者が揃っている」
「巨人たちは確かに恐ろしい存在だけど、冒険者もまた規格外の化け物揃いなんだよ」
「王国の冒険者が集結してしまえば、あの巨人たちと言えどもひとたまりもなかっただろうからね」
「・・・それはそうかもしれないけど・・・」
レイナは首を捻りながら、険しい表情で考え込んでいた。
彼女はまだ納得していないようだ。
「・・・でも、それならなおさら巨人たちを使ってあんな目立つ強奪をする必要はないんじゃない?」
「だって単純に宝箱を盗んで、王都の他の場所に移動させるだけなら奴らはたぶん出来たと思うのよね」
「内部犯はオークション会場の奥深くにも入り込むことができ、何人もの兵士が裏で殺されているんでしょ?」
「それに王宮に大規模な爆発物を仕掛けられるくらい王国の内部にも精通している」
「警備の穴を縫って秘密裏に宝箱を持ち運ぶという事だって計画できたはずよ」
「・・・そ、それは・・・確かにそうだね」
僕も感じていた拭いきれない違和感をレイナは的確に突いてくる。
「・・・私に言わせれば、巨人たちが襲撃したことにより冒険者達の余計な介入を招いてしまっている」
「本当に宝箱を王都のどこかに隠す事が目的なら、巨人たちはいないほうが都合がいい」
「だけど、巨人たちは実際に犯行に加担しているのだから、私達の見立てている敵の目的の見当が外れていると考えるべきよ」
「そうなると、やっぱり襲撃の計画の段階で王都の外へ持ち運ぶ算段はつけていると思うのよねぇ・・・」
「でも、巨人たちは宝箱を持っていない可能性が高いし、宝箱はロストしたまま・・・」
「何か見落としていないかなぁ・・・」
「・・・・あれ、でも待てよ・・・・」
「・・・・・」
最後の方はもう僕に向かって話しかけていなかった・・・
彼女は自問自答を繰り返した後、視線を虚空に漂わせながらそのまま黙り込んでしまった。
深い思考の渦の中に入り込み、事件への洞察を巡らせているのだろう。
・・・この状態のレイナを僕は過去に2度見たことがある。
1度目はオーゼットさんに謎掛けを仕掛けられ対応に困っていた時。
2度目はつい先日、エレノア様の告知が出てクラウディア団長から出頭令が届いた時だ。
両方とも僕の進退を大きく左右する重要な瞬間だった。
そしていずれの時も、レイナの助言が僕を大きく助けてくれたんだ。
今はレイナの邪魔をしないほうがいいな・・・
僕は視線を厨房に戻すと、料理を再開した。
今の僕に出来るサポートは彼女のお腹を満たすくらいのものだ。
切った豚肉と野菜をフライパンで炒めながら味付けの調味料を加えていく。
フライパンを振りながらも頭に浮かんでくるのは先程のレイナの言葉だった。
彼女の言葉を聞けば聞くほど、犯人たちの目的が別にあるのだと思えてくる・・・
レイナの洞察力は前から凄いと思っていたけど、改めてその凄さを実感している。
あんなに小さな体だと言うのに、その内にある智慧に大きく頼っている僕がいた。
・・・もっとも、彼女の考えが理解できずに最初は驚かされることも多い。
そして案の定今回も僕を驚愕させてくるのだけど・・・・・
「ねぇ、エノク」
「さっきの話でもう1度確認したいことがあるんだけど・・・」
「・・・うん、なんだい?」
僕が料理を食器に盛り付けている時だった。
考え事をしていたレイナがふと僕にそう尋ねてきた。
僕は手を止め、彼女へ目線を向ける。
「ネクタルのオークションが終わった後に、確か化粧室に立ち寄ったんでしょ?」
「化粧室に大きな姿見があったというのは間違いない?」
「えっ?・・・・・うん、それは間違いないけど・・・・」
突飛な質問を投げかけられ僕は困惑した。
「・・・あと、化粧室に入る時に二人組の銀髪のワーウルフの人にも会ったと言ってたわよね?」
「“あいつらなんであんな所にいるんだ?“的な事を愚痴ってた人」
「・・・えーっと、うん・・・確かに会ったね・・・・それが、どうしたんだい?」
なんでそんなことを急に聞いてくるんだろう・・・?
レイナの意図が読み取れず頭の中に?がいっぱい浮かんできてしまう。
「・・・ふーん。なるほどねぇ・・・」
「エノク・・・私、宝箱を持ち去った犯人分かったかもしれない」
「・・・へっ?・・・」
混乱している僕をよそに、レイナはとんでもない事を口走ってきた!!
ポカーンと口を開けて僕は固まってしまう。
「・・・え、本当?」
「・・・犯人が分かったって今言ったのかい!?」
信じられない気持ちで、僕はレイナに質問する。
犯人が分かったって・・・冗談だろう?
「・・・うん。そう言ったわよ」
「巨人たちの正体ではなく、あくまで宝箱を持ち去った犯人って意味だけどね」
「犯人はあの“見世物小屋の劇団“よ」
To Be Continued・・・
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