あなたの想い、お預かりします。

ハルノ シオリ

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1.ヒーローになりたい

1.ヒーローになりたい⑤

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どうやら郵便局のような、手紙を書いて手紙を取っておいてくれるサービスがあるようだ。

…正直言って、怪しさしかない。

手紙を書いたものはいいものの、保管期間がないとなると、どれだけの量の手紙が保存されているのか。
もしや、この手紙の中に書いてある個人情報を流出させて…


などという色々な疑問が浮かびあがった。
いつもであればこんな怪しいモノに手は出さない。
少しでも疑念があるものには手は出さない。
そうやって生きてきた。



だけど、今日は違った。

安全で失敗しない人生を歩んできた。
だけど、本当にそれでいいのかと思っていた自分もいた。


僕は、人生の転機を求めていたのかもしれない。



僕は一息吸って、吐いて、店員さんを呼んだ。



「すみません。カプチーノと、これお願いできますか…?」




そういって『あなたの想い、お預かりします。』という文字を指さす。
いつもなら変化を求めず、新しいことには挑戦しない僕だが、今日は挑戦したい気分になった。



「かしこまりました。少々お待ちください。」
「かしこまりました。」


手紙か…
手紙を書くのなんていつぶりだろう…


僕はふとお店の壁に目がいった。
クリーム色の壁に黒い模様がついていると思っていたが、
よく見るとたくさんの文字が書かれていることに気づいた。


『この旅行楽しすぎた!』
『女子旅最高!!』
『また一緒に来ようね♡』


という楽しそうな思い出がつづられる一方で、

『あなたとの思い出のところへ来ました。』
『幸せになってね!大好きだったよ!!』



という楽しいとは少し違うものをあった。
僕がいろんなメッセージに夢中になっていると、お姉さんが話しかけていた。



「海っていろんな人が訪れるんです。

観光で来た人だけじゃなくて、
楽しかったここでの思い出を思い出すために来る人とか、
失恋してどこか遠くへ行きたいと思ってくる人もいるし、
都会の日常に疲れて、海へやってくる人もいます。


海はいろんな想いが集まるところなんです。


なのでそんな人たちの思い出が集まったカフェにしたいって言って、
おじいちゃんがやっていた喫茶店をリメイクするときに私の母が壁にメッセージを書けるようにしたんです。

あと、この裏メニューも。」



そういって便箋などのお手紙セットと万年筆と鉛筆、消しゴムを机の上に置いた。



「お手紙の中は誰もみませんので自分の想いをご自由に綴ってください。
万年筆と鉛筆はお好きな方をご利用ください。
基本的に何時までいていただいてもかまいませんが、バスでお越しのようなら11時にこちらを出れば間に合いますよ。ごゆっくりしていってください。」
「ありがとうございます。」


お姉さんは最後に笑顔を見せて、またお店の掃除をしに戻った。

観光地だからか、思ったよりもバスは遅い時間までやっているのか。
でも、海に来る人は車で来る人が多そうだが、こうやって声をかけてくれるということは、
僕と同じようになんの目的もなく、海にたどりついてしまった人が多くいるということだろう。


僕と同じような悩みを抱えている人が他にもいると思うと、
少しだけうれしいような感情が芽生えた。




僕は鉛筆と手に取ったが書き始めることができなかった。
何を書けばいいのか。
今の自分の想いと言ったって、自分が今何を思っているのかすらわからなくなってしまっている。
しいて言うなら将来の不安ぐらい。



すると、急におじいさんが話しかけてきた。



「なんでもいいんですよ。
何を書いてもそれが正解なんです。
上手に書かなくてもいい。
何を書いてもいいんです。



さっき正解が分からないと言っていましたよね。


これは僕個人の意見ですが、人生に正解なんてないんだと思います。
といいますか、選択するときは正解というものは存在しないと思っています。


その時はその選択が失敗だったと思うこともあるかもしれないです。
だけど、その失敗も、成功のために必要な肥料にしていけばいいのだと思います。



大事なのは、
選んだ道をどう正解に持っていくかだと思っています。



なので、どちらを選ぶか、何を選ぶかは正直重要ではないような気がします。


世の中正解とされている人生はただの多数決なんです。
多くの人が正解だと思っているだけでそれがあなたの正解とは限りません。


あなたの好きな方、
心がひかれる方を選べばいいんです。




あなたがさっきカプチーノを選んだように。」




そういってカプチーノをカウンターからそっと置いた。



僕は、カプチーノを一口飲んだ。
ほろ苦さを感じた後、ふわっと包み込むようにミルクの甘みを感じる。



僕は自分の口角が自然に上がったことに気づいた。




僕はもう一度鉛筆を持った。
次はすらすらと書き始めた。





『人生はいつだって何等かの選択を求められる。

正解・不正解があるわけではなく、
自分で選んだ道を正解にしていくしかないということ。


人生お金がある人が幸せになれるようにできていない。
人が正解か不正解かを決めているのはいつだって多数決でしかない。


それを正解だと思っている人が多かったとしても、
その中には別の選択が正解だと思う人だっている。


それでもあなたがどうやって選択したらいいかわからないというのなら、
自分が好きなものを選べばいい。

その日の天気や気温、自分の今の気分によって、
とりあえず、何かしら言い訳をつけて。

大事なのは、自分が自分の選択は正解だったと信じ続けること。


だから、今日の僕の決断は大正解だったのだ。

これから大正解に変えていこう。』




僕はマスターの言葉を自分の想いをのせてつづった。


この想いを忘れないように。



正直、今の自分にとってはこの決断が正解だったかどうかはわからない。


この手紙に正解だったと書いたのは、
正解だったと思いたいから。




だから、
これからの人生で自分の今の決断を正解に変えることができた時、
この決断が本当に正解だったと思えた時、


もう一度、この手紙を取りに来ようと思う。

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