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終
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お昼休みになって、上の空のまま最上階までの階段を上る。
一年生最後の試験、魔術の実技試験は緊張しすぎて最初の魔術が成功せずに496点で満点は取れなかったが、廊下に張り出された表に書かれていた順位は紛うこと無き一位だった。復讐が成功したかは分からない。他の人の反応よりもノアが何て言うか、ノアはどうするのかが気になりすぎて周りの声が何も聞こえなくなっていたし視界にも入って来なかった。
一位を取れたことを報告したら、ノアは死んでしまうのだろうか……。止めなきゃ……。でも僕に止める権利なんて無い。ノアが死にたいならそれは僕にはどうしようもないことだと思う。結局はノア次第なんだ。そもそも、そういう約束だから。これはずっと前からもう決まりきっていることなんだ。
……そうか、そうだったのか。
僕は何回もノアが死ぬ瞬間とその後を経験してたんだ。だってノアに時間を戻す魔術をちゃんと教えてもらったんだから。でも僕は満点が取れるほど魔術が得意じゃ無いから、ノアみたいに記憶することが得意じゃないから、何回も失敗して記憶がない状態で時間だけが巻き戻ってただただ同じことを何回も繰り返していただけだったんだ。
そうだ、思い出した。
やっと思い出せたんだ!
完璧では無いけど僕の魔術が成功したんだ。今回は上手くやるからさ。見ててよ。
最上階に着き、何回も繰り返したセリフを心の中で呟いて小さく息を吸ってから建付けの悪い扉を開ける。
「こんにちは、僕、ちゃんと一位取れましたよ。って、あれ?」
もうすでに声が震えてしまったがきっとこのときノアは僕に気付いてないはずだ。
外に出ていつも最初に見えるノアがいなくて、後悔とか、悲しさとか、怒りとか、色々な感情に押し潰されそうになりながら辺りを見回すとフェンスの前に座っているノアがいた。
何回繰り返しても慣れないなぁ。
平生とは明らかに様子の違うノアに近付く。
「ああ、お前、一位取れたんだな。さっき廊下に張り出されてた順位表、ちゃんと見たよ。おめでとう。それじゃ、俺は死ぬとするか。おい、何でお前が泣いてんだ?」
「死なないでくれませんか。」
「言っただろ。目標が無い人間は生きててはいけないんだ。別に飛んでもいいって、止める義務も権利も無いって前に言ってたじゃないか。何で急に止めるんだよ。もう俺に用なんて無いだろ。」
「なんで止めるかって?そんなん決まってるじゃないですか。あなたが愛しいから死んで欲しくないんですよ。あなたがいないと僕は生きていけないです。」
やっぱり僕には止められないんだろうか。いや、絶対に止めてみせる。
ノアが離れないように、手を掴んだ。
「愛なんて無いんだよ。そんなのは一時的なものに過ぎないに決まってるんだ。虚像なんだよ。それにお前の目標はしっかり達成出来たのにどこに俺がいなきゃならない理由があるのか、全く分からないな。手、離せよ。天国に行かなきゃならないんだ」
そう言ったノアの声と手は震えていて、涙を流していた。
まただ、またそうやって微塵も思ってないことを言う。止めなきゃ。
「あんたはいっつもそうだ。本当のことを隠そうとする。」
ノアの手をもう一度握り直して深呼吸する。
「この胸にある感情は確かに愛なのに、あなたに触っただけで上がる熱も、そもそも触れたいって気持ちも、死んで欲しくないって気持ちも全部本物で全部確かにあるのに。どうやったらあなたに伝わるんだろう。すんごい悔しくて、悲しいです。俺の感情に土足で入ってきて踏み荒らしてきた癖にあんたは鍵をかけて入ってこないようにするなんてあんまりです」
そうだ。こんなの全然フェアじゃない。絶対この手は放さない。止める権利がなんだ?無くても動かなきゃノアがいなくなってしまうんだ。許可なんて、権利なんてそんなのどうだって良い。
「なぁ、ノア、本当は生きたいんだろ?なら俺と生きて欲しい。俺に言わせればあんたのいない世界で生きる意味なんて無いんだよ。魔導師になる夢を叶えるためにはあんたが必要だし、あんたに否定された愛の存在を証明するにはあんたがいなきゃだめなんだよ。目標なんて、生きて行くうちに決めてけば良いんですよ。あなたが生きたいなら生きるべきだ。天国なんて無いんだ。人は死んだらそのまま腐ってくだけ。だから、だからさ、天国じゃないけど、むしろ地獄みたいだけど、この世界を一緒に生きてくれないか、ノア」
やっと、本当に言いたいことが言えた。ノアの返事を聞くのが怖くて手を握りしめて俯く。
しばらくして、ノアが静かに口を開いた。
「分かったよ、やめとくよもう少し生きてるからさ、手、放してくれないか」
「だめです。絶対放さない。もう放さないです、何処にも行かないで下さい。ずっと一緒です、やっとこの時間に存在してるノアに会えた」
「もしかして愛がないなんて言っとことを怒ってるのか? 悪かったよ、謝るから、訂正するから。愛があるかは分らない。だけどさ、俺もアルといれるなら生きるのも悪くないかなって思えるよ、って急に抱き着くな涙で冷てぇよ」
「だって、だって……。放したら離れるじゃないですか。やっぱ死ぬってなったら嫌です」
「そう簡単に変わらねーよ、アルが止めてくれたんだから死ぬに死ねないって」
「それは良かったです。んー、でもノアの存在を実感したいのでこのままで!」
そう言っても頑なに離れようとするノアに抗議しようと目線を送るとノアと目が合った。ノアの顔が赤くなって、せめてもの対応として後ろを向こうとしたのですかさず阻止する。
「やめてくれよ、もう許してくれ、死なないから、生きるから。……って実感したいなら別に後ろ向いてもいいじゃねーか、離せばか、ばか!」
可愛すぎる。動揺して口が悪くなるところまで好きすぎて思わず口角が上がってしまう。腕が緩んでしまい、隙ありと言わんばかりにノアが逃げ出してしまった。
「また明日!」
名残惜しいが今日は良しとしよう。
ノアの口から「また明日」が聞けるなんて、これ以上嬉しいことは無いだろう。
一年生最後の試験、魔術の実技試験は緊張しすぎて最初の魔術が成功せずに496点で満点は取れなかったが、廊下に張り出された表に書かれていた順位は紛うこと無き一位だった。復讐が成功したかは分からない。他の人の反応よりもノアが何て言うか、ノアはどうするのかが気になりすぎて周りの声が何も聞こえなくなっていたし視界にも入って来なかった。
一位を取れたことを報告したら、ノアは死んでしまうのだろうか……。止めなきゃ……。でも僕に止める権利なんて無い。ノアが死にたいならそれは僕にはどうしようもないことだと思う。結局はノア次第なんだ。そもそも、そういう約束だから。これはずっと前からもう決まりきっていることなんだ。
……そうか、そうだったのか。
僕は何回もノアが死ぬ瞬間とその後を経験してたんだ。だってノアに時間を戻す魔術をちゃんと教えてもらったんだから。でも僕は満点が取れるほど魔術が得意じゃ無いから、ノアみたいに記憶することが得意じゃないから、何回も失敗して記憶がない状態で時間だけが巻き戻ってただただ同じことを何回も繰り返していただけだったんだ。
そうだ、思い出した。
やっと思い出せたんだ!
完璧では無いけど僕の魔術が成功したんだ。今回は上手くやるからさ。見ててよ。
最上階に着き、何回も繰り返したセリフを心の中で呟いて小さく息を吸ってから建付けの悪い扉を開ける。
「こんにちは、僕、ちゃんと一位取れましたよ。って、あれ?」
もうすでに声が震えてしまったがきっとこのときノアは僕に気付いてないはずだ。
外に出ていつも最初に見えるノアがいなくて、後悔とか、悲しさとか、怒りとか、色々な感情に押し潰されそうになりながら辺りを見回すとフェンスの前に座っているノアがいた。
何回繰り返しても慣れないなぁ。
平生とは明らかに様子の違うノアに近付く。
「ああ、お前、一位取れたんだな。さっき廊下に張り出されてた順位表、ちゃんと見たよ。おめでとう。それじゃ、俺は死ぬとするか。おい、何でお前が泣いてんだ?」
「死なないでくれませんか。」
「言っただろ。目標が無い人間は生きててはいけないんだ。別に飛んでもいいって、止める義務も権利も無いって前に言ってたじゃないか。何で急に止めるんだよ。もう俺に用なんて無いだろ。」
「なんで止めるかって?そんなん決まってるじゃないですか。あなたが愛しいから死んで欲しくないんですよ。あなたがいないと僕は生きていけないです。」
やっぱり僕には止められないんだろうか。いや、絶対に止めてみせる。
ノアが離れないように、手を掴んだ。
「愛なんて無いんだよ。そんなのは一時的なものに過ぎないに決まってるんだ。虚像なんだよ。それにお前の目標はしっかり達成出来たのにどこに俺がいなきゃならない理由があるのか、全く分からないな。手、離せよ。天国に行かなきゃならないんだ」
そう言ったノアの声と手は震えていて、涙を流していた。
まただ、またそうやって微塵も思ってないことを言う。止めなきゃ。
「あんたはいっつもそうだ。本当のことを隠そうとする。」
ノアの手をもう一度握り直して深呼吸する。
「この胸にある感情は確かに愛なのに、あなたに触っただけで上がる熱も、そもそも触れたいって気持ちも、死んで欲しくないって気持ちも全部本物で全部確かにあるのに。どうやったらあなたに伝わるんだろう。すんごい悔しくて、悲しいです。俺の感情に土足で入ってきて踏み荒らしてきた癖にあんたは鍵をかけて入ってこないようにするなんてあんまりです」
そうだ。こんなの全然フェアじゃない。絶対この手は放さない。止める権利がなんだ?無くても動かなきゃノアがいなくなってしまうんだ。許可なんて、権利なんてそんなのどうだって良い。
「なぁ、ノア、本当は生きたいんだろ?なら俺と生きて欲しい。俺に言わせればあんたのいない世界で生きる意味なんて無いんだよ。魔導師になる夢を叶えるためにはあんたが必要だし、あんたに否定された愛の存在を証明するにはあんたがいなきゃだめなんだよ。目標なんて、生きて行くうちに決めてけば良いんですよ。あなたが生きたいなら生きるべきだ。天国なんて無いんだ。人は死んだらそのまま腐ってくだけ。だから、だからさ、天国じゃないけど、むしろ地獄みたいだけど、この世界を一緒に生きてくれないか、ノア」
やっと、本当に言いたいことが言えた。ノアの返事を聞くのが怖くて手を握りしめて俯く。
しばらくして、ノアが静かに口を開いた。
「分かったよ、やめとくよもう少し生きてるからさ、手、放してくれないか」
「だめです。絶対放さない。もう放さないです、何処にも行かないで下さい。ずっと一緒です、やっとこの時間に存在してるノアに会えた」
「もしかして愛がないなんて言っとことを怒ってるのか? 悪かったよ、謝るから、訂正するから。愛があるかは分らない。だけどさ、俺もアルといれるなら生きるのも悪くないかなって思えるよ、って急に抱き着くな涙で冷てぇよ」
「だって、だって……。放したら離れるじゃないですか。やっぱ死ぬってなったら嫌です」
「そう簡単に変わらねーよ、アルが止めてくれたんだから死ぬに死ねないって」
「それは良かったです。んー、でもノアの存在を実感したいのでこのままで!」
そう言っても頑なに離れようとするノアに抗議しようと目線を送るとノアと目が合った。ノアの顔が赤くなって、せめてもの対応として後ろを向こうとしたのですかさず阻止する。
「やめてくれよ、もう許してくれ、死なないから、生きるから。……って実感したいなら別に後ろ向いてもいいじゃねーか、離せばか、ばか!」
可愛すぎる。動揺して口が悪くなるところまで好きすぎて思わず口角が上がってしまう。腕が緩んでしまい、隙ありと言わんばかりにノアが逃げ出してしまった。
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