心ゆくまで異世界観光

natuumi

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砂と骨の都市、サザノール

カーニバル

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 地平線の上に乗った真っ赤な夕日が蜃気楼のせいで眠そうに溶けている。逢魔時の砂漠は赤熱したように輝き、これから夜の寒さで鉄のような黒へと変わっていくのだろう。
 そしてサザノールの全てを闇が包んだ時、カーニバルが始まる。
 
 町はカーニバルの準備で賑わっている。露店、祭壇、パレードのキャラバン。昨日の騒ぎを物ともせず、逞しく準備は整えられている。
 私はまとめた少ない荷物をオモイカネのソリへと積み終え、腰を落ち着かせて彼女を待った。
「旅の人!」
 聞き覚えのある野太い声。大通りの斜向かいで手を振っているのはドワーフのボンベだ。
「町を出るのかい、旅の人」
「ああ、カーニバルが始まる前にね」
 アレだけの口論をした後でも、やはりあの健気な少女が惨たらしくバラバラになる光景は見てられない。
「あれ、ボンベさんは?」
 彼は明らかに軽装で帰り支度をしているようには更々見えない様子。もしかして…。
「俺は…やっぱり見に行くことにしたよ、カーニバル」
「え!?どうして!」
「色々考えたんだ。アイツは生贄になる事を誇ってる。同時にアイツは俺達みたいな外の人間がそれを理解し得ない事も重々承知してる。だからこそ、自分の最期を見てほしいんじゃ無いかってな。『私は幸せです。後悔なんてないから、心配しないで』って姿を、俺たちに見せたいんじゃないかってな」
 虚勢を張った大きな声は根元で揺れていた。聞いているとこちらまで胸が痛くなるような、締め付ける声だ。
「だから俺は見に行くぞ。涙は流さねぇ。目も背けねぇ。サザニアが息絶える最後の最後まで、アイツを見続けて、お前の人生は、誰が見ても何一つ後悔することなんてなかった。そう伝えてやるんだ」
 自分に言い聞かせるように言い放ったその言葉は、どんな神々の福音よりも響いた。
 それに心動かされつつも、彼女の最期を見届ける気にどうしてもなれない。それどころか、彼ならばやってくれるかもしれないという期待が何処かにあって、こんな事までしてしまうのか…。
「ボンベさん。カーニバルの合言葉、知ってますよね」
「ああ、もちろん」
「実は、アレには別の意味があります。『サザン・デ・トゥルティン』。あれは、自分の身を挺して他者を守る魔法の呪文です」
 自分でなければ縊り殺したい程の邪悪さだ。
「あなたが望めば、この魔法でサザニアを助けられます」
 決意を固めた漢にちゃちな期待で水を差すなんて…!でも、心とは裏腹に言葉は止まらなかった。
 彼は案の定、揺れた。目を開き、魔法の言葉を小さく復唱する。
「お前さん…」
 震える声でそう言いかけて彼は踵を返した。そしてそのまま人混みの中に逃げるように消えていった。
 やはり私は正義を語れるような神じゃない。世界に混沌をもたらす悪戯の神、ロキだ。

 遠く離れた砂丘から見下ろす今夜のサザノールの夜景は綺麗だった。煌々と光る松明が飛び交う蛍のように動き回り、さざめきの様な祭囃子をたてている。
 サザニアは今、あそこで舞っているのだろうか。ボンベさんはちゃんとそれを見届ける腹づもりなのだろうか。ここから先の彼女達の物語に、私達はもう立ち入れない。いいや、もとより立ち入るべきでは無かったのかもしれない。
 私は…どうしてそんな余計な事を…。
「どうした、ロキよ」
 心配したのか、操縦席に座った老人姿のオモイカネが言葉をかけてくる。
「…その名前で読んで欲しくない」
「そうかそうか。じゃがワシは話し相手が欲しくてソリに載せたのに、お前さん先程から塞ぎ込んで一言も喋らん。一体どうしたもんかの」
 理由でも話せってか。何も知らないくせに…。
「元神だからって完璧を振る舞う必要などないのじゃぞ。今は人間じゃし、神だって悩むことはあるわい。そして悩みは人に話せば9割楽になる。これも人間も神も同じ事じゃ」
 このクソジジイめ…上手いこと言って自分が知りたいだけだろ。
 はぁ…。でもまぁ一理あるか。

 どうして私はあんな事をしたのだろう、と思いを馳せる。
 元々はヨルムガンドを止めるために来たのだ。それが、いつの間にか冷静さを失い、あろう事か町を滅ぼしかけた張本人になってしまった。
 きっかけはカーニバルという町の伝統を自分が受け入れられなかった事。それを自分のエゴによって止める為に動いたんだ。
 でもなんで?オモイカネからこの町に来る前に忠告されていたし、自分だって他の神の世界で波風立てる様な事は望んで無かった筈だ。なのにどうしてこんな事を…。
 それらのピースがハマる絵は一つしかない。

「私は、サザニアが好きだったんだな」

 涙が一筋、頬を伝った。熱い涙は夜風に冷える事もなく、掌の上に落ちた。私はその熱さをギュッと握りしめてから涙を拭いたり

「なんじゃ!お前さん、この短い間で恋をしとったのか!」
「こんの…!クッソジジイめ!!!!人がセンチに浸ってるのにそういう事言うか普通!?」
「ハハハッ!若いのぅロキよ!旅先で出会った愛しい人と別れるのが辛くて泣いてしもうたか!若い若い!」
「黙れ!今度こそ本当に便所紙にするぞ!」
「で、そやつはどんな者じゃった?男か?女か?おっと、種族によっては両性具有なんて事もあるかのぅ」
「ヘル・デ・ゾルデロカ・シン!!!」
「そう何度も同じ手は喰わんわい!」

 さようなら、サザニア。
 死んだにしろ、生きてるにせよ、もう会う事は無いだろう。でも、君が私の魔法で華麗に踊る姿は心の中に永遠に残り続ける。
 サザニア、砂漠に舞う花の様に、その命を悔いなく全うする美しき人よ。
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