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鉄と蒸気の国、マキナガルド
反デウス派レジスタンス
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…。
ガスマスクを付けたロキが相変わらず不気味なサイボーグが行き交う大通りを歩いている。持っているのはショルダーバッグ一つ。中身まではわからないが、おそらく入っているのは商売道具だろう。
俺は何をしているのかって?彼をつけてるんだよ。こっそりな。
まず今の俺に必要なのは、この世界での金だ。別の世界に行く方法や元の世界に帰る方法を探すにも、まずはここで生き延びる事ができなきゃ話にならない。特にこの世界ではガスマスクの分生きるのに必要な費用が多い。だからまずは当面の生活費を工面する為に稼ぎの方法を知らなければならない。
そして俺にはロキという立派な先人がいるのだ。今彼は俺に必需品を渡した為にそれらを補給調達しなければならないはずだ。という事は、彼は調達資金をどうにかして稼ぐはず。その方法を模倣できれば、道が開ける筈だ。
命の恩人から仕事まで分けてもらおうなんて厚かしましいにも程がある、そんな批判はクソ喰らえだ。こっちだって命かかってんだよ!
しばらくすると、ロキは大通りから路地に入っていった。入り組んだ路地をドンドン進み、やがて足元が怖くなるほど暗い階段を下りて行く。もう何m下りて行ったか。マンション一棟分程度を優に超える高さを降りていくと、ようやく開けた場所に出た。
暗闇に巻かれた高い天井の下、上の物とはまるで違うガラクタを寄せ集めたような低い建物がろくな区画もなくひしめき合っていた。
木の葉を散らすようにナットやネジが転がり、氷柱から滴る水のようにドス黒い廃液が道を濡らしている。
道の隅に座るホームレスの老人や立ち尽くす子供は心なしが機械の部分が少ないように思えた。だがその目はカメラのレンズの奥底よりも深く暗い闇を湛えていた。
奇しくも俺の落ち着くような雰囲気があるな、ここ。
…おそらくだが、ここは貧民街か何かなのだろう。この世界は上層と下層に分かれていて、身体の大部分を機械に置き換えられるような資産を持つ上流階級とそうでない下流階級とで世界を二分しているのだ。
結局どの世界でも同じか、無情なもんだね。
「何してるんだい?」
「ヒェッ!?」
不意に背後から声が聞こえる。おそるおそる振り返ると、そこには呆れた顔のロキがいた。
「いや、これはその…旅人の身で金を稼ぐってどうやるのかなーって…ちょっと参考に」
「で、あわよくば自分も真似できればって?」
なんでもお見通しのようで。
「はぁ…いいよ、見せてあげるよ」
やったぁ神様仏様ロキ様ぁ!
「でも参考にならないと思うし、やり方を教えた所で君にはできないよ」
「大丈夫です!そこは自分で何とかして真似してみます!」
「…ホント図々しい事極まりないな」
同じ人間がやってるんだ。真似して出来ない事なんてありゃしない。
しめしめと思いつつ、彼の後をついて行った。
やがて、彼は一軒のボロ小屋を見つけると、戸を叩いた。いや小屋とも呼べないな。屋根は崩れ、柱は折れてる。叩いた扉も端が腐食して崩れてる。こんなところに人が?
しばらくすると、扉の向こうからビープ音が聞こえてきた。それは壊れたラジオのようにめちゃくちゃに音程を変え、一頻り耳を掻き回したかと思うとプツリと止んだ。
それに対してロキとそれを真似るかのようにウーイーウーと声を出した。
「これってもしかして…」
「そうだ、マキナ語というここの言語だ。音階の組み合わせで喋ってる」
嘘だろ…!?音階ってドレミファソラシドってあれだろ!?絶対音感がなきゃ聞き取れないじゃん!
「今の言葉わかるのか?」
「ああ。『甘い苺が二つ用意された。幽霊は君と同じだ。幽霊は君を待っている。さて君は何だ?』という質問だ」
意味が分かっても意味が分からないな!?
「答えは『体制崩壊』。合言葉だから質問に大した意味なんて無いよ。こういう質問をすれば相手が合言葉を知ってるかどうかすぐにわかるから聞いてるだけで」
あ、そうか。合言葉を知らなければ質問に答えがあると思って悩み始めるからか。面白いシステムだ。
で、合言葉が必要なボロ屋って…現世の記憶だと第二次世界大戦中のフランスレジスタンスかユダヤ人の隠れ家くらいしか無いわけだけど。
「ここから先は反デウス派レジスタンスの隠れ家だ。粗相の無いようにな」
デースーヨーネー。
やっべ。この世界の権力者も体制も知らないうちに反社会勢力から入門しちゃったよ。大丈夫かこれ。
話しているうちにドアが開いた。ドアを開けたのは髪のないボロを纏った青年。右目から顎にかけて画面の様な装備をつけている。
「ウイエーオイー」
だが口を開いても聞こえるのはやはり耳障りなビープ音。ピアノはおろか鍵盤ハーモニカすらまともに弾けなかった俺にそれらの音階が聞こえるはずもなく。
その青年は俺達を小屋の奥へと案内した。床に敷かれた鉄板を剥がし、現れた階段を下りていくと、そこは会議室の様な空間が広がっていた。
何人もの人間がビープ音を撒き散らしながら怒鳴り合い、極薄の鉄板にチョークの様な白く細長い石を擦り付けて文字を書いている。何を話しているのかは分からないが、ここのレジスタンスは体制転覆に躍起になっているようだ。
青年に招かれ、ロキが彼らの前に立つ。そして青年が警戒音のような音を張り上げる。すると白熱した論議は一斉に鎮まり返り、ロキに目が向けられた。
ロキは同じようにビープ音で身振り手振りを加えながら話し始める。おそらく自己紹介だろう。
やがて、彼は床に散らばっていた一枚の鉄板を取り上げ、机の上に置いてそれに向けて言葉をかけた。すると鉄板が一瞬光った。それ以外には何も起こっていないようにも見えるが、彼が披露するように別の鉄板の切れ端をそれに向けて落とすと、青い稲妻と共に派手に火花を散らした。
これは…鉄板に帯電させた、雷の魔法か!
その後、しばらくして彼のプレゼンが終わると、そこにいた人間は皆立ち上がり両手を上げて甲高いビープ音で彼を讃えた。
レジスタンスに雷の魔法を使ったプレゼン…そうか。
「雷の魔法の使い方を武器としてこの人達に売り込むつもりなんだな?」
「その通り。普通の武器や兵器はレジスタンスよりも良い物をデウスの正規軍は使ってる。だがここの人間は誰一人魔法を全く知らない。こういう規格外の武器は彼らとしても喉から手が出る程欲しい筈だ」
この人…顔に似合わず悪どい商売するなぁ。
現在おそらく価格相談中なのだろう、レジスタンス達は再び机を囲んで話している。
「今のうちに、ここの世界の事を少し話してあげようか。と言っても、知り合いの受け売りなんだけどね」
1000年前、別世界からその神はやってきたらしい。デウス・エクス・マキナ。不思議な箱に繋がれた人型の機械だったそれは、原始的な生活をしていたこの世界の人類に様々な知識を与えた。
最初に火、道具、次に言語。他世界の一般的な人類史の縮図のようにその神は人間達に次々と知識を与えて行った。
やがて彼は知恵を与える神として崇められるようになり、次々と勢力を伸ばしていった。
500年ほどすると与えられた技術は蒸気機関に至り、そのきょういてきな生産能力と軍事力を持って地上の全てを支配した。
しかしデウスの展開する社会は余りに厳しすぎた。「神の目」による上空からの徹底監視と、「神の手」による反社会分子の排除。仕事や資産はすべてデウスの管理下の元配分され、この世界に自由という言葉が無くなった。
勿論、それを良しとしない者も過去に出てきたが、尽くデウスに抹殺され、人間は不自由な暮らしが当たり前のものだと思わざる得なかった。
しかし、ある日転機が訪れる。
世界の狭間でその根を伸ばし続ける世界樹が、ついにこのマキナガルドにも届いたんだ。そこから流入する異世界人、そしてそこから旅に出るマキナ人。彼らは外の文化や情報をマキナガルドに広め、何人かの人々に忘れかけていた自由の二文字を思い出させたんだ。
デウスは直ちに世界樹の出入りを禁じた。しかし一度火がついた人の憧れは止まらない。こうしてデウスの監視を掻い潜って組織したのがこの反デウス派レジスタンスだ。
彼らの目的はただ一つ、デウスを破壊して人の手による自由な社会を構築する事。その為に戦う事だ。
「だから彼らは異世界人に対して優しい。こうして異世界の有益な物を与えてやれば、相応の対価をくれるはず。知人がそう言ってた」
「んー…」
「退屈しのぎにもならなかったかな?」
「いや、むしろ興味深かったよ」
まるで江戸末期の列強の存在を黒船で知った日本のようだ。経済学部生的にも、まるで共産主義の完成形のような社会の在り方にそそらざるをえない。
話を聞き終わって丁度、案内をしてくれた青年が大きな鉄の箱を抱えてやってきた。そして短いビープ音を鳴らすと、彼はロキにその箱を渡した。中を開けると、そこには石綿に包まれたガスマスクが5個と2Lほどの円筒の鉄容器が6本入っていた。
「よし、これで当面は大丈夫だな」
「うーん…雷魔法の対価にしてはなんか…安くない?」
「この世界でガスマスクを使うのも作るのも異世界人だけで貴重だし、水も地下水と異世界からの輸入だけに頼っているからとても貴重なんだ。破格といっていい対価だよ」
うちの世界ではたまたま金が価値基準になっただけで、他所様では違うのは当たり前か。
ロキは受け取った鉄箱の中身を確認すると頭を下げ、その場を後にしていった。
「世界樹を通じて色んな世界を旅する旅人はこうして自分の知識や能力、他の世界の知識や物を売って生計を立ててるんだ」
なるほど…。と彼をじっとみると、ロキは箱を身体で隠すように身動いだ。
「…いや、流石にそれを分けてくれとは言いませんよ」
「じゃあなんだっていうんだい?その目は」
んーそうだなー。
俺はこの世界に来てお決まりの神から能力を授けられるイベントにはエンカウントしてないし、別世界の物や知識と言ったって動画の見過ぎで早くも電池を切らしたスマホと講義の資料ぐらいしかない。俺に売れるものなんて無いわけで…。
「ロキ、良かったらさっきの魔法教えてもらえないかな」
「はぁ…やっぱり物乞いじゃないか」
物乞いとは失礼な。ただの知識欲。自分だって学生ですから。その後どう使うかは俺の勝手だけど。
「魔法なんかの知識だって立派に価値のある財産だ。タダでは教えられないよ。それに、おそらく君はこれを使えない」
「どうしてわかるのさ。そりゃ魔法なんて使った事ないけどさ。やってみなけりゃわからないじゃん」
「はぁ…歴史の授業だけじゃなくて魔法学の授業もしなきゃなんないのか…」
俺も溜息もんだよ。せっかく異世界転生して大学から離れたのにお勉強しなきゃならないなんてな。
ガスマスクを付けたロキが相変わらず不気味なサイボーグが行き交う大通りを歩いている。持っているのはショルダーバッグ一つ。中身まではわからないが、おそらく入っているのは商売道具だろう。
俺は何をしているのかって?彼をつけてるんだよ。こっそりな。
まず今の俺に必要なのは、この世界での金だ。別の世界に行く方法や元の世界に帰る方法を探すにも、まずはここで生き延びる事ができなきゃ話にならない。特にこの世界ではガスマスクの分生きるのに必要な費用が多い。だからまずは当面の生活費を工面する為に稼ぎの方法を知らなければならない。
そして俺にはロキという立派な先人がいるのだ。今彼は俺に必需品を渡した為にそれらを補給調達しなければならないはずだ。という事は、彼は調達資金をどうにかして稼ぐはず。その方法を模倣できれば、道が開ける筈だ。
命の恩人から仕事まで分けてもらおうなんて厚かしましいにも程がある、そんな批判はクソ喰らえだ。こっちだって命かかってんだよ!
しばらくすると、ロキは大通りから路地に入っていった。入り組んだ路地をドンドン進み、やがて足元が怖くなるほど暗い階段を下りて行く。もう何m下りて行ったか。マンション一棟分程度を優に超える高さを降りていくと、ようやく開けた場所に出た。
暗闇に巻かれた高い天井の下、上の物とはまるで違うガラクタを寄せ集めたような低い建物がろくな区画もなくひしめき合っていた。
木の葉を散らすようにナットやネジが転がり、氷柱から滴る水のようにドス黒い廃液が道を濡らしている。
道の隅に座るホームレスの老人や立ち尽くす子供は心なしが機械の部分が少ないように思えた。だがその目はカメラのレンズの奥底よりも深く暗い闇を湛えていた。
奇しくも俺の落ち着くような雰囲気があるな、ここ。
…おそらくだが、ここは貧民街か何かなのだろう。この世界は上層と下層に分かれていて、身体の大部分を機械に置き換えられるような資産を持つ上流階級とそうでない下流階級とで世界を二分しているのだ。
結局どの世界でも同じか、無情なもんだね。
「何してるんだい?」
「ヒェッ!?」
不意に背後から声が聞こえる。おそるおそる振り返ると、そこには呆れた顔のロキがいた。
「いや、これはその…旅人の身で金を稼ぐってどうやるのかなーって…ちょっと参考に」
「で、あわよくば自分も真似できればって?」
なんでもお見通しのようで。
「はぁ…いいよ、見せてあげるよ」
やったぁ神様仏様ロキ様ぁ!
「でも参考にならないと思うし、やり方を教えた所で君にはできないよ」
「大丈夫です!そこは自分で何とかして真似してみます!」
「…ホント図々しい事極まりないな」
同じ人間がやってるんだ。真似して出来ない事なんてありゃしない。
しめしめと思いつつ、彼の後をついて行った。
やがて、彼は一軒のボロ小屋を見つけると、戸を叩いた。いや小屋とも呼べないな。屋根は崩れ、柱は折れてる。叩いた扉も端が腐食して崩れてる。こんなところに人が?
しばらくすると、扉の向こうからビープ音が聞こえてきた。それは壊れたラジオのようにめちゃくちゃに音程を変え、一頻り耳を掻き回したかと思うとプツリと止んだ。
それに対してロキとそれを真似るかのようにウーイーウーと声を出した。
「これってもしかして…」
「そうだ、マキナ語というここの言語だ。音階の組み合わせで喋ってる」
嘘だろ…!?音階ってドレミファソラシドってあれだろ!?絶対音感がなきゃ聞き取れないじゃん!
「今の言葉わかるのか?」
「ああ。『甘い苺が二つ用意された。幽霊は君と同じだ。幽霊は君を待っている。さて君は何だ?』という質問だ」
意味が分かっても意味が分からないな!?
「答えは『体制崩壊』。合言葉だから質問に大した意味なんて無いよ。こういう質問をすれば相手が合言葉を知ってるかどうかすぐにわかるから聞いてるだけで」
あ、そうか。合言葉を知らなければ質問に答えがあると思って悩み始めるからか。面白いシステムだ。
で、合言葉が必要なボロ屋って…現世の記憶だと第二次世界大戦中のフランスレジスタンスかユダヤ人の隠れ家くらいしか無いわけだけど。
「ここから先は反デウス派レジスタンスの隠れ家だ。粗相の無いようにな」
デースーヨーネー。
やっべ。この世界の権力者も体制も知らないうちに反社会勢力から入門しちゃったよ。大丈夫かこれ。
話しているうちにドアが開いた。ドアを開けたのは髪のないボロを纏った青年。右目から顎にかけて画面の様な装備をつけている。
「ウイエーオイー」
だが口を開いても聞こえるのはやはり耳障りなビープ音。ピアノはおろか鍵盤ハーモニカすらまともに弾けなかった俺にそれらの音階が聞こえるはずもなく。
その青年は俺達を小屋の奥へと案内した。床に敷かれた鉄板を剥がし、現れた階段を下りていくと、そこは会議室の様な空間が広がっていた。
何人もの人間がビープ音を撒き散らしながら怒鳴り合い、極薄の鉄板にチョークの様な白く細長い石を擦り付けて文字を書いている。何を話しているのかは分からないが、ここのレジスタンスは体制転覆に躍起になっているようだ。
青年に招かれ、ロキが彼らの前に立つ。そして青年が警戒音のような音を張り上げる。すると白熱した論議は一斉に鎮まり返り、ロキに目が向けられた。
ロキは同じようにビープ音で身振り手振りを加えながら話し始める。おそらく自己紹介だろう。
やがて、彼は床に散らばっていた一枚の鉄板を取り上げ、机の上に置いてそれに向けて言葉をかけた。すると鉄板が一瞬光った。それ以外には何も起こっていないようにも見えるが、彼が披露するように別の鉄板の切れ端をそれに向けて落とすと、青い稲妻と共に派手に火花を散らした。
これは…鉄板に帯電させた、雷の魔法か!
その後、しばらくして彼のプレゼンが終わると、そこにいた人間は皆立ち上がり両手を上げて甲高いビープ音で彼を讃えた。
レジスタンスに雷の魔法を使ったプレゼン…そうか。
「雷の魔法の使い方を武器としてこの人達に売り込むつもりなんだな?」
「その通り。普通の武器や兵器はレジスタンスよりも良い物をデウスの正規軍は使ってる。だがここの人間は誰一人魔法を全く知らない。こういう規格外の武器は彼らとしても喉から手が出る程欲しい筈だ」
この人…顔に似合わず悪どい商売するなぁ。
現在おそらく価格相談中なのだろう、レジスタンス達は再び机を囲んで話している。
「今のうちに、ここの世界の事を少し話してあげようか。と言っても、知り合いの受け売りなんだけどね」
1000年前、別世界からその神はやってきたらしい。デウス・エクス・マキナ。不思議な箱に繋がれた人型の機械だったそれは、原始的な生活をしていたこの世界の人類に様々な知識を与えた。
最初に火、道具、次に言語。他世界の一般的な人類史の縮図のようにその神は人間達に次々と知識を与えて行った。
やがて彼は知恵を与える神として崇められるようになり、次々と勢力を伸ばしていった。
500年ほどすると与えられた技術は蒸気機関に至り、そのきょういてきな生産能力と軍事力を持って地上の全てを支配した。
しかしデウスの展開する社会は余りに厳しすぎた。「神の目」による上空からの徹底監視と、「神の手」による反社会分子の排除。仕事や資産はすべてデウスの管理下の元配分され、この世界に自由という言葉が無くなった。
勿論、それを良しとしない者も過去に出てきたが、尽くデウスに抹殺され、人間は不自由な暮らしが当たり前のものだと思わざる得なかった。
しかし、ある日転機が訪れる。
世界の狭間でその根を伸ばし続ける世界樹が、ついにこのマキナガルドにも届いたんだ。そこから流入する異世界人、そしてそこから旅に出るマキナ人。彼らは外の文化や情報をマキナガルドに広め、何人かの人々に忘れかけていた自由の二文字を思い出させたんだ。
デウスは直ちに世界樹の出入りを禁じた。しかし一度火がついた人の憧れは止まらない。こうしてデウスの監視を掻い潜って組織したのがこの反デウス派レジスタンスだ。
彼らの目的はただ一つ、デウスを破壊して人の手による自由な社会を構築する事。その為に戦う事だ。
「だから彼らは異世界人に対して優しい。こうして異世界の有益な物を与えてやれば、相応の対価をくれるはず。知人がそう言ってた」
「んー…」
「退屈しのぎにもならなかったかな?」
「いや、むしろ興味深かったよ」
まるで江戸末期の列強の存在を黒船で知った日本のようだ。経済学部生的にも、まるで共産主義の完成形のような社会の在り方にそそらざるをえない。
話を聞き終わって丁度、案内をしてくれた青年が大きな鉄の箱を抱えてやってきた。そして短いビープ音を鳴らすと、彼はロキにその箱を渡した。中を開けると、そこには石綿に包まれたガスマスクが5個と2Lほどの円筒の鉄容器が6本入っていた。
「よし、これで当面は大丈夫だな」
「うーん…雷魔法の対価にしてはなんか…安くない?」
「この世界でガスマスクを使うのも作るのも異世界人だけで貴重だし、水も地下水と異世界からの輸入だけに頼っているからとても貴重なんだ。破格といっていい対価だよ」
うちの世界ではたまたま金が価値基準になっただけで、他所様では違うのは当たり前か。
ロキは受け取った鉄箱の中身を確認すると頭を下げ、その場を後にしていった。
「世界樹を通じて色んな世界を旅する旅人はこうして自分の知識や能力、他の世界の知識や物を売って生計を立ててるんだ」
なるほど…。と彼をじっとみると、ロキは箱を身体で隠すように身動いだ。
「…いや、流石にそれを分けてくれとは言いませんよ」
「じゃあなんだっていうんだい?その目は」
んーそうだなー。
俺はこの世界に来てお決まりの神から能力を授けられるイベントにはエンカウントしてないし、別世界の物や知識と言ったって動画の見過ぎで早くも電池を切らしたスマホと講義の資料ぐらいしかない。俺に売れるものなんて無いわけで…。
「ロキ、良かったらさっきの魔法教えてもらえないかな」
「はぁ…やっぱり物乞いじゃないか」
物乞いとは失礼な。ただの知識欲。自分だって学生ですから。その後どう使うかは俺の勝手だけど。
「魔法なんかの知識だって立派に価値のある財産だ。タダでは教えられないよ。それに、おそらく君はこれを使えない」
「どうしてわかるのさ。そりゃ魔法なんて使った事ないけどさ。やってみなけりゃわからないじゃん」
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