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第一章 影走
第八話 霜灯村の灯の外側
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霜灯村の炊事の匂いは、強くなかった。
焦げた味噌の香り。
煮た根菜の甘さ。
湯気に混じる米の匂い。
派手ではない。けれど、村の中を歩くと家ごとに匂いが少しずつ違う。
鍋の火の入り方、干し菜の炙り方、味噌の寝かせ方。
それぞれの家が、同じように生きていない。
道には人がいる。
桶を抱えた女がすれ違い、子どもが走りかけて――大人の手に袖をつままれ、すぐ歩く速さに戻る。
犬が一度だけ鳴いて、尻尾を振りながら黙る。
声は大きくない。けれど、気配は確かに動いている。
――人が住んでいる。
白黎は息を吸い込む。
昼の街道では落ちてこなかった温度が、ここでは少しだけ胸の奥へ降りてくる。
降りてくる。
降りてきてしまう。
落ち着いてしまったら、次に失うものが増える気がして、怖い。
「……いい匂いだ」
自分の口から声が落ちた。驚くほど自然に。
半歩横の燕秋が、前を見たまま言う。
「腹が動いてる。――悪くない」
からかう調子じゃない。確かめるみたいな声だ。
白黎は返し方が分からず、ただ小さく頷く。
少し後ろの蘇雨は、村の空気に合わせるように息を落としている。
香は薄い。薄いのに、喉の奥のざらつきだけを少しだけ削る。
宿の帳場にいた青年――村番がこちらを見ると、顎で奥を示した。
呼び止めない。急がせない。ただ、場所だけを渡す。
通された広間には、白い灯がいくつも吊られている。
白いのに冷たくない。蝋の匂いが薄く、煤の匂いが強すぎない。
長机が並び、膳がいくつも置かれていた。
人は動いている。椀が運ばれ、湯気が揺れ、箸の先が忙しい。
笑い声は抑えめでも、暮らしの手が止まっていない。
そこへ、背筋の伸びた老人が現れた。
村長だ。胸元に白い糸で結ばれた小さな札を下げている。灯の印。
村長はまず白黎を見る。次に燕秋を見て、最後に蘇雨へ目を向ける。
視線が、数えるように丁寧だ。
「旅の方か」
燕秋が軽く頭を下げる。
「通りがかりだ。今夜、宿を借りる」
村長は頷き――頷いてから、ほんの一拍、言葉を探す顔になった。
礼のためじゃない。頼み事の前に出る躊躇いだ。
「……ひとつ、聞きたい」
村長の声は低い。広間に響かせない声。
「隣村で、妖――虚喰を斬ったのは……あんたらか」
白黎の指が、無意識に膳の端を押さえる。
隣村。思い出しが、喉の奥に触れる。
燕秋は否定もしない。肯定もしない。言い方を整えて返す。
「襲われた。追い払っただけだ。……倒せたのは、順と運だ」
村長の喉が動いた。
その動きが、「頼みたい」の前に出る重さだった。
「なら――今夜だけでいい。村の外を見てくれんか」
広間の空気がほんの少しだけ固くなる。
椀を運んでいた手が止まり、止まったのに音を立てない。
聞いている。聞いていないふりをして。
村長は続ける。
「最近、黒い者が来る。昼に見えることもある。夜は……もっと近い」
「黒い者」。名を避ける言い方。
避けながら、それでも言わなきゃいけないほど近い。
燕秋は村長の目を見て聞いた。
「玄影か」
村長は、小さく頷く。
「そう呼ぶ者もいる。わしらは名で呼びたくないが……呼ばなきゃ話が進まん」
名を出した瞬間、どこかで息が浅くなるのが分かった。
恐怖は音にならないまま伝わる。
蘇雨が一歩も前へ出ずに言う。
「……村の内へは、まだですか」
村長は首を横に振る。
「まだだ。だが、外れを歩く。灯の数を数えるように。犬の声を聞くように」
村長は、言い終えてから一拍だけ黙った。
広間の端で椀を片づけていた女の手が、ほんの少しだけ止まる。音は立てない。
村長は胸元の札――灯の印を指で押さえ、懐から紙を一枚出した。
半分に折られた護符だ。だが新しい紙じゃない。端が毛羽立ち、角が湿って柔らかくなっている。夜露の匂いがわずかに残る。貼られていた場所から剥がした跡が、指に残りそうな手触りだ。
「……これも見てくれ」
村長は広げきらず、掌の中で折り目だけを開いて見せた。
墨の線が途中で途切れている。文が「抜けた」ように見えるのに、紙は焼けても濡れてもいない。破れでもない。ただ、そこだけ欠けている。
白黎の視線が落ちる。
護符の上の方に、細い線が一本残っていた。定規で引いたように真っ直ぐで、紙の繊維を押さえつける濃さがある。字の払いも止めも揃っていて、子どもの落書きでも旅人の祈りでもない。
村長が言った。
「朝になると、こうなっとる。剥がしたわけじゃない。破ったわけでもない」
「貼ってあった護符が、夜のうちに『抜ける』。文だけが消える。残るのは線と、護符の端だけだ」
燕秋は護符を長く見ない。目を逸らしながら、村長の指先だけを見た。
村長の爪に墨は付いていない。つまり村の誰かが書き直したわけじゃない。
「これ、どこに貼ってた」
燕秋が聞くと、村長は即答した。
「井戸の近くだ。外れの柵、灯の柱、戸口の上。……外へ出る者が触るところだ」
「同じ場所の護符から、先にやられる。家の奥の護符は残ることもある」
蘇雨が一歩も前へ出ずに言う。
「人が外へ出る口を、先に塞いでいるんですね」
村長は頷いた。
「夜回りも同じだ。戻ってきても、喋らん。喋れんのじゃない」
「水は飲む。飯も食う。泣く子は泣く。だが、報告の言葉だけが出ない。口だけ動かして、声を出さない」
白黎の喉が小さく鳴る。息が詰まりかけて、飲み込む音だった。
燕秋は村長を見て、短く言った。
「護符で守りを抜いて、口を塞いで、それから入る。……手順だ」
村長は護符を折り直し、懐へ戻した。
戻す指が、さっきより速い。紙が擦れる音が、広間のざわめきの下で小さく鳴った。
白黎は護符から目を離せない。
細い一本線の角度、墨の溜まり、止めの重さ。――見た瞬間に、頭の奥へ残る。
知らないはずなのに、身体が「あの型と同じだ」と決めてしまう残り方だった。
「……頼む。今夜だけでいい」
見られている。測られている。
白黎の胸の奥が冷える。冷えるのに、目だけが冴える。
空洞が、まだ塞がっていない。
燕秋はすぐには答えない。
一拍、村長の目を見て――言葉を削った。
「夜は外へ出るな。戸を閉めろ。声を上げるな。……灯は消すな。消せば、境が薄くなる」
村長は頷いた。早い。迷いのない頷きだ。
「できる。そうして生きてきた」
燕秋は続ける。
「俺たちは、村を守る約束はしない。……だが今夜、外れを見る。入ってくるなら止める。追いはしない」
村長の肩が、目立たないほど落ちた。
「助けてくれる」と決めつけない落ち方。
それでも、その落ち方に安堵が混じっている。
「それでいい。……それで十分だ」
そこで、膳が運ばれてきた。
粥ではない。
柔らかいが、米の粒が残る炊き方。
薄い味噌汁。喉を刺さない塩気。
漬物が二切れ。
焼いた芋が半分。
それだけ。
それだけなのに、白黎の胸が小さく鳴った。
「今日を越える量」がある、という鳴り方だ。
白黎が箸を取る前に、燕秋が言う。
「白黎。食え。……腹が空いてると、余計なものを拾う。拾ったら、引かれる」
白黎は頷き、口に運ぶ。
噛む回数が多い。急がない。急げない。
熱が胸の奥へ落ちていくのを、確かめるみたいに飲み込む。
蘇雨は、箸の動きが静かだ。
量は多く取らない。けれど、汁を先に飲む。喉を整えるための順番。
香と同じ、「人を戻す側」の食べ方だ。
燕秋は逆に、必要な分だけ速い。
噛む回数を減らして、音も減らして、視線は広間の端を拾っている。
食べながら、村人の足音の癖、戸の閉め方、灯の揺れ方を見ている。
白黎はふと気づく。
燕秋は食べているのに、体の半分が外に立っている。
村の若い男が、少し離れた場所から声を落として言った。
「……あんたら、腕が立つのか」
問い方が乱暴に見えて、乱暴じゃない。
村の人間が怖さを飲み込むと、こういう声になる。
燕秋は笑みを作る。作るだけで、貼り付けない。
「立つかどうかは、相手次第だ。――だが、今夜はここで止める」
若い男は言葉を噛むみたいに続けた。
「昨夜……隣村で、虚喰が出た。倒したって話が流れた。……だから言ったんだ。霜灯村にも、来るって」
「話が流れた」。
噂はもう歩いている。
止めたいのに止められない顔が、若い男の頬に残っていた。
燕秋は余計なことを言わない。
若い男へ視線を置いて、短く言う。
「今夜は外へ出るな。……見回りは俺たちがする。約束じゃない。手順だ」
若い男は頷く。
その頷きに感謝は混じらない。混ぜないようにしている。
混ぜれば、期待が育つ。
食事が終わる頃、広間の動きが少しだけ速くなった。
椀が片づけられ、戸が一枚ずつ閉められ、子どもが奥へ引かれる。
静かなまま、村の段取りが進む。
活気は消えない。消さないまま、音だけを落としていく。
燕秋が立ち上がる。
「行くぞ。……村長、外れを案内してくれ」
村長はすぐ頷いた。
「井戸まででいいか」
「ああ。境目を見るなら、そこがいい」
白黎も立つ。剣には触れない。
触れないまま、息だけを整える。
蘇雨が後ろから言う。
「無理をしないでください。……喉が固まる前に、吐いて」
白黎は小さく頷いた。
「……はい」
三人の足音が、村の外れへ向かう。
灯は消えない。
家の中から、見えない視線がそっとついてくる。
霜灯村は暮らしている。
暮らしているからこそ、壊されるのが怖い。
その怖さが、霜の匂いに混じって薄く立っていた。
⸻
夕方。
日が傾くと、村の色が急に薄くなる。
昼の輪郭が引き、代わりに「灯の位置」だけが残る。
戸は、早い。
閉める音が立たないように閉め、鍵の重みを確かめ、声を落とす。
まだ夜じゃない。けれど、夜の準備は始まっている。
村長と燕秋が、村の外れを歩く。
白黎は少し後ろ。蘇雨はさらに後ろ。
蘇雨の香は薄い。
怖さを消すためじゃない。怖さが固く結びついて、息を詰まらせないための薄さだ。
村の外れに、井戸がある。
深い井戸。覗くと黒い。黒いのに、底に水の気配がある。
村長が、井戸の縁を指でなぞるように言った。
「霜灯村の井戸は深い。……深いから、冬でも枯れん」
燕秋が頷く。
「深いものは、影も落とす」
村長が、苦く笑う。
「そうだ。深い水には、深いものが寄る」
言葉を言い切らない。
名を出さない。
ここではそれが、暮らしの知恵になっている。
そのとき。
灯の外れで、蝶が一匹、ふっと舞った。
白い。粉雪みたいに白いのに、羽ばたきは重く、遅い。
夕方に蝶は飛ばない――この村の者なら、誰でも知っている。
蝶は井戸の口の上を一度だけ回り、ふいに羽を畳む。
落ちない。落ちずに、空中で止まるみたいに揺れて――次の瞬間、林の縁へ吸われるように消えた。
飛べたのに、飛ばない。
進めたのに、進まない。
進ませない何かが、そこにある。
白黎の視線が、村の外――林の縁へ滑った。
鳥が飛ばない。
風はあるのに、葉擦れの音が薄い。
音が薄いところだけ、空が冷たく締まっている。
燕秋が、声を落とす。
「……境がある」
村長が唾を飲む。
「昨夜の妖か?」
燕秋は首を横に振った。
「妖じゃない。……人だ。数がいる」
その瞬間、村長の肩が跳ねた。
音を立てない癖があるのに、身体が先に反応する。
村は、人の影に弱い。
村長は、声を押し殺した。
「玄影……」
燕秋は、すぐに返す。
「大丈夫だ。まだ中には入ってない。――入れるなら、もう入ってる」
白黎が、低く言った。
「……六。いや、七」
数えた。気配の数。囲む準備の数。
燕秋が息を吐く。短い吐息。
「指揮がいる。……試しだ」
指揮がいる。
つまり、衝動じゃない。
試すための動きだ。
村長の声が震える。
「どうすれば……」
燕秋は一拍だけ置いた。
村長の呼吸が落ちるのを待つための一拍。
「村人は家へ。灯は消すな。戸を閉めろ。……叫ぶな。泣かせるな」
村長は頷き、踵を返した。
走る音は最小限。それでも夕闇に薄く響く。
響いた音が、林の縁の固さを少しだけ増やした。
白黎が言う。
「……来ます」
言った瞬間、林の縁の闇が動いた。
黒い布。
黒革の匂い。
顔を隠す者。隠さない者。
数は七。動きは揃う。叫ばない。威嚇しない。
奪うだけの動き。
だが今のそれは、奪う前の動きだ。
守る側がどう動くかを、見に来ている。
燕秋が、屋根へ跳んだ。
音は小さい。
それでも霜灯村の夕闇は音に敏感だ。
白黎は息を落とし、足の裏の力を抜いたまま地に残る。
燕秋の声が、上から落ちる。
「白黎、抜くな。……まず倒せ。折るな」
白黎は即座に返した。
「……分かりました」
返答が速い。
白黎はもう、「やるべきこと」を身体で覚え始めている。
玄影の一人が、民家の方へ向かう。
そこに奪うものがあるわけではない。
怖さを作りに行く動きだ。
白黎が動く。
抜刀はしない。
踏み込み。重心をずらす。
足を払うのではなく、膝の角度だけを崩す。
倒すだけ。立ち上がる順を奪うだけ。
男が倒れる。土を擦る音が鳴る。
その音に、別の二人が一瞬だけ止まる。
――音で、間が切れる。
白黎が低く言う。
「退け。……戻れ」
男は答えない。だが立ち上がれない。
骨は折れていない。折らない。
折らないことで、恨みを増やさない。
別方向から三人。
燕秋が屋根上から、小石を投げた。
石が地面に当たり、乾いた音が鳴る。
鳴った音が、玄影の足を一瞬遅らせる。
遅れた半拍が、村を守る。
燕秋の声は低い。怒りではない。
「ここは村だ。……戦場にするな。外でやれ」
白黎が回る。
内功を最小限だけ流し、衝撃だけを通す。
男が壁に当たり、息を詰める。叫ばない。叫ばせない。
その瞬間、村の内側から、子どもの泣き声が漏れた。
漏れた。
漏れたのに、すぐ止まる。
泣き声を止めたのは恐怖じゃない。
母親の手だ。村を守る手だ。
その必死な静けさに、玄影の一人が足を止めた。
「……器」
白黎を見ている。
硝子みたいな目。迷いがあるのに、迷わない目。
値踏みする目だと分かる。
白黎の胸の奥が冷えるのに、目だけが冴える。
蘇雨が、後ろから一歩も前へ出ずに符を滑らせた。
霧を裂く札じゃない。
「音が立つ方向」へ薄い膜を作る札だ。
音が、少しだけ遠くなる。
遠くなったぶん、家の中の呼吸が戻る。
燕秋が、屋根の端を移る。
影みたいに動きながら、玄影の「次」を見ている。
玄影の動きが、段階を変えた。
引く。
揃って、引く。
……逃げじゃない。
数を減らしてない。配置を変えただけ。
追わせるための引きだ。
追えば、村の外で「本当に奪う」つもりだ。
燕秋の声が、すぐ落ちる。
「追うな。……村から離れるな」
白黎は即答した。
「……分かっています」
止まれた。止められた。
追えば倒せる。
倒せば片がつく。
片がついたと思った瞬間に――次が来る。
白黎はそれを、もう身体で知っている。
だから足が出ない。
白黎は足を止めた。止められた。
玄影は闇に溶け、音もなく消える。
林がまた「何もない顔」をする。
けれど白黎の胸の奥の空洞だけは、騙されない。
燕秋が、屋根から地に降りる。
白黎の横へ来る。肩には触れない。距離だけを合わせる。
蘇雨が、静かに言った。
「……村の中へ、入られませんでした」
燕秋は小さく頷いた。安堵の形にはしない。
白黎は剣の柄から指を離さないまま、力だけを抜いた。
林の縁で、黒い影がすっと退く。
逃げた、というより――形を変えた。
引く歩調が揃っている。乱れない。息も上がらない。
本気で奪いに来た連中の動きではない。
白黎は足だけを止めた。追える距離。追いつける距離。
追えば、斬れる。
その確信が胸の奥で冷たく鳴る。
鳴るのに、身体は前へ出ない。
燕秋の吐息が落ちた。短く、硬い息。
「追わない。……追わせない」
小さい言い切りなのに、白黎の内側の向きが変わる。
追う衝動の行き先が、そこで断たれる。
蘇雨が薄く香を流した。濃くしない。消さない。
ただ、固まりかける呼吸の結び目を遅らせる程度に。
林の縁はもう「何もない顔」をしている。
けれど、風があるのに葉擦れが薄い。鳥が飛ばない。虫の音が戻りきらない。
――まだ、いる。
白黎は目だけで数える。
「……六。いや、まだ、もう少し」
燕秋は白黎を見ない。見ないまま村の外周へ視線を滑らせる。
「散って見てる。……追わせるために引いた。次は、別の口から来る」
さっきの白い蝶が、もう一度だけ現れた。
羽の片端が欠けた、同じ蝶だ。
灯の輪郭に触れかけて、触れない。触れないまま、羽の粉だけを残して回る。
その粉が落ちる前に、風向きが変わった。
蝶は飛べるのに、飛ばない。
灯の縁で止められている。
止められているのに、消えない――消せない何かが、外にいる。
白黎は息を落とす。吸って、吐いて、音を立てない。
剣の柄に触れたまま、力を入れない。
蘇雨が一歩、位置を変える。
灯の届く範囲と、林の縁が同時に見える場所へ。
三人の影が、同じ外側に留まる。
風が向きを変えた。
霜の匂いの奥に、革の冷えがひとすじ混じる。
気配は出ない。
出ないまま、外だけが薄く締まっていく。
そして、夕闇が沈みきる頃――村の灯が、ひとつ、またひとつ増えた。
夜の帳が下りた。
三人は灯の外側に留まったまま、黙って風向きを聞いていた。
焦げた味噌の香り。
煮た根菜の甘さ。
湯気に混じる米の匂い。
派手ではない。けれど、村の中を歩くと家ごとに匂いが少しずつ違う。
鍋の火の入り方、干し菜の炙り方、味噌の寝かせ方。
それぞれの家が、同じように生きていない。
道には人がいる。
桶を抱えた女がすれ違い、子どもが走りかけて――大人の手に袖をつままれ、すぐ歩く速さに戻る。
犬が一度だけ鳴いて、尻尾を振りながら黙る。
声は大きくない。けれど、気配は確かに動いている。
――人が住んでいる。
白黎は息を吸い込む。
昼の街道では落ちてこなかった温度が、ここでは少しだけ胸の奥へ降りてくる。
降りてくる。
降りてきてしまう。
落ち着いてしまったら、次に失うものが増える気がして、怖い。
「……いい匂いだ」
自分の口から声が落ちた。驚くほど自然に。
半歩横の燕秋が、前を見たまま言う。
「腹が動いてる。――悪くない」
からかう調子じゃない。確かめるみたいな声だ。
白黎は返し方が分からず、ただ小さく頷く。
少し後ろの蘇雨は、村の空気に合わせるように息を落としている。
香は薄い。薄いのに、喉の奥のざらつきだけを少しだけ削る。
宿の帳場にいた青年――村番がこちらを見ると、顎で奥を示した。
呼び止めない。急がせない。ただ、場所だけを渡す。
通された広間には、白い灯がいくつも吊られている。
白いのに冷たくない。蝋の匂いが薄く、煤の匂いが強すぎない。
長机が並び、膳がいくつも置かれていた。
人は動いている。椀が運ばれ、湯気が揺れ、箸の先が忙しい。
笑い声は抑えめでも、暮らしの手が止まっていない。
そこへ、背筋の伸びた老人が現れた。
村長だ。胸元に白い糸で結ばれた小さな札を下げている。灯の印。
村長はまず白黎を見る。次に燕秋を見て、最後に蘇雨へ目を向ける。
視線が、数えるように丁寧だ。
「旅の方か」
燕秋が軽く頭を下げる。
「通りがかりだ。今夜、宿を借りる」
村長は頷き――頷いてから、ほんの一拍、言葉を探す顔になった。
礼のためじゃない。頼み事の前に出る躊躇いだ。
「……ひとつ、聞きたい」
村長の声は低い。広間に響かせない声。
「隣村で、妖――虚喰を斬ったのは……あんたらか」
白黎の指が、無意識に膳の端を押さえる。
隣村。思い出しが、喉の奥に触れる。
燕秋は否定もしない。肯定もしない。言い方を整えて返す。
「襲われた。追い払っただけだ。……倒せたのは、順と運だ」
村長の喉が動いた。
その動きが、「頼みたい」の前に出る重さだった。
「なら――今夜だけでいい。村の外を見てくれんか」
広間の空気がほんの少しだけ固くなる。
椀を運んでいた手が止まり、止まったのに音を立てない。
聞いている。聞いていないふりをして。
村長は続ける。
「最近、黒い者が来る。昼に見えることもある。夜は……もっと近い」
「黒い者」。名を避ける言い方。
避けながら、それでも言わなきゃいけないほど近い。
燕秋は村長の目を見て聞いた。
「玄影か」
村長は、小さく頷く。
「そう呼ぶ者もいる。わしらは名で呼びたくないが……呼ばなきゃ話が進まん」
名を出した瞬間、どこかで息が浅くなるのが分かった。
恐怖は音にならないまま伝わる。
蘇雨が一歩も前へ出ずに言う。
「……村の内へは、まだですか」
村長は首を横に振る。
「まだだ。だが、外れを歩く。灯の数を数えるように。犬の声を聞くように」
村長は、言い終えてから一拍だけ黙った。
広間の端で椀を片づけていた女の手が、ほんの少しだけ止まる。音は立てない。
村長は胸元の札――灯の印を指で押さえ、懐から紙を一枚出した。
半分に折られた護符だ。だが新しい紙じゃない。端が毛羽立ち、角が湿って柔らかくなっている。夜露の匂いがわずかに残る。貼られていた場所から剥がした跡が、指に残りそうな手触りだ。
「……これも見てくれ」
村長は広げきらず、掌の中で折り目だけを開いて見せた。
墨の線が途中で途切れている。文が「抜けた」ように見えるのに、紙は焼けても濡れてもいない。破れでもない。ただ、そこだけ欠けている。
白黎の視線が落ちる。
護符の上の方に、細い線が一本残っていた。定規で引いたように真っ直ぐで、紙の繊維を押さえつける濃さがある。字の払いも止めも揃っていて、子どもの落書きでも旅人の祈りでもない。
村長が言った。
「朝になると、こうなっとる。剥がしたわけじゃない。破ったわけでもない」
「貼ってあった護符が、夜のうちに『抜ける』。文だけが消える。残るのは線と、護符の端だけだ」
燕秋は護符を長く見ない。目を逸らしながら、村長の指先だけを見た。
村長の爪に墨は付いていない。つまり村の誰かが書き直したわけじゃない。
「これ、どこに貼ってた」
燕秋が聞くと、村長は即答した。
「井戸の近くだ。外れの柵、灯の柱、戸口の上。……外へ出る者が触るところだ」
「同じ場所の護符から、先にやられる。家の奥の護符は残ることもある」
蘇雨が一歩も前へ出ずに言う。
「人が外へ出る口を、先に塞いでいるんですね」
村長は頷いた。
「夜回りも同じだ。戻ってきても、喋らん。喋れんのじゃない」
「水は飲む。飯も食う。泣く子は泣く。だが、報告の言葉だけが出ない。口だけ動かして、声を出さない」
白黎の喉が小さく鳴る。息が詰まりかけて、飲み込む音だった。
燕秋は村長を見て、短く言った。
「護符で守りを抜いて、口を塞いで、それから入る。……手順だ」
村長は護符を折り直し、懐へ戻した。
戻す指が、さっきより速い。紙が擦れる音が、広間のざわめきの下で小さく鳴った。
白黎は護符から目を離せない。
細い一本線の角度、墨の溜まり、止めの重さ。――見た瞬間に、頭の奥へ残る。
知らないはずなのに、身体が「あの型と同じだ」と決めてしまう残り方だった。
「……頼む。今夜だけでいい」
見られている。測られている。
白黎の胸の奥が冷える。冷えるのに、目だけが冴える。
空洞が、まだ塞がっていない。
燕秋はすぐには答えない。
一拍、村長の目を見て――言葉を削った。
「夜は外へ出るな。戸を閉めろ。声を上げるな。……灯は消すな。消せば、境が薄くなる」
村長は頷いた。早い。迷いのない頷きだ。
「できる。そうして生きてきた」
燕秋は続ける。
「俺たちは、村を守る約束はしない。……だが今夜、外れを見る。入ってくるなら止める。追いはしない」
村長の肩が、目立たないほど落ちた。
「助けてくれる」と決めつけない落ち方。
それでも、その落ち方に安堵が混じっている。
「それでいい。……それで十分だ」
そこで、膳が運ばれてきた。
粥ではない。
柔らかいが、米の粒が残る炊き方。
薄い味噌汁。喉を刺さない塩気。
漬物が二切れ。
焼いた芋が半分。
それだけ。
それだけなのに、白黎の胸が小さく鳴った。
「今日を越える量」がある、という鳴り方だ。
白黎が箸を取る前に、燕秋が言う。
「白黎。食え。……腹が空いてると、余計なものを拾う。拾ったら、引かれる」
白黎は頷き、口に運ぶ。
噛む回数が多い。急がない。急げない。
熱が胸の奥へ落ちていくのを、確かめるみたいに飲み込む。
蘇雨は、箸の動きが静かだ。
量は多く取らない。けれど、汁を先に飲む。喉を整えるための順番。
香と同じ、「人を戻す側」の食べ方だ。
燕秋は逆に、必要な分だけ速い。
噛む回数を減らして、音も減らして、視線は広間の端を拾っている。
食べながら、村人の足音の癖、戸の閉め方、灯の揺れ方を見ている。
白黎はふと気づく。
燕秋は食べているのに、体の半分が外に立っている。
村の若い男が、少し離れた場所から声を落として言った。
「……あんたら、腕が立つのか」
問い方が乱暴に見えて、乱暴じゃない。
村の人間が怖さを飲み込むと、こういう声になる。
燕秋は笑みを作る。作るだけで、貼り付けない。
「立つかどうかは、相手次第だ。――だが、今夜はここで止める」
若い男は言葉を噛むみたいに続けた。
「昨夜……隣村で、虚喰が出た。倒したって話が流れた。……だから言ったんだ。霜灯村にも、来るって」
「話が流れた」。
噂はもう歩いている。
止めたいのに止められない顔が、若い男の頬に残っていた。
燕秋は余計なことを言わない。
若い男へ視線を置いて、短く言う。
「今夜は外へ出るな。……見回りは俺たちがする。約束じゃない。手順だ」
若い男は頷く。
その頷きに感謝は混じらない。混ぜないようにしている。
混ぜれば、期待が育つ。
食事が終わる頃、広間の動きが少しだけ速くなった。
椀が片づけられ、戸が一枚ずつ閉められ、子どもが奥へ引かれる。
静かなまま、村の段取りが進む。
活気は消えない。消さないまま、音だけを落としていく。
燕秋が立ち上がる。
「行くぞ。……村長、外れを案内してくれ」
村長はすぐ頷いた。
「井戸まででいいか」
「ああ。境目を見るなら、そこがいい」
白黎も立つ。剣には触れない。
触れないまま、息だけを整える。
蘇雨が後ろから言う。
「無理をしないでください。……喉が固まる前に、吐いて」
白黎は小さく頷いた。
「……はい」
三人の足音が、村の外れへ向かう。
灯は消えない。
家の中から、見えない視線がそっとついてくる。
霜灯村は暮らしている。
暮らしているからこそ、壊されるのが怖い。
その怖さが、霜の匂いに混じって薄く立っていた。
⸻
夕方。
日が傾くと、村の色が急に薄くなる。
昼の輪郭が引き、代わりに「灯の位置」だけが残る。
戸は、早い。
閉める音が立たないように閉め、鍵の重みを確かめ、声を落とす。
まだ夜じゃない。けれど、夜の準備は始まっている。
村長と燕秋が、村の外れを歩く。
白黎は少し後ろ。蘇雨はさらに後ろ。
蘇雨の香は薄い。
怖さを消すためじゃない。怖さが固く結びついて、息を詰まらせないための薄さだ。
村の外れに、井戸がある。
深い井戸。覗くと黒い。黒いのに、底に水の気配がある。
村長が、井戸の縁を指でなぞるように言った。
「霜灯村の井戸は深い。……深いから、冬でも枯れん」
燕秋が頷く。
「深いものは、影も落とす」
村長が、苦く笑う。
「そうだ。深い水には、深いものが寄る」
言葉を言い切らない。
名を出さない。
ここではそれが、暮らしの知恵になっている。
そのとき。
灯の外れで、蝶が一匹、ふっと舞った。
白い。粉雪みたいに白いのに、羽ばたきは重く、遅い。
夕方に蝶は飛ばない――この村の者なら、誰でも知っている。
蝶は井戸の口の上を一度だけ回り、ふいに羽を畳む。
落ちない。落ちずに、空中で止まるみたいに揺れて――次の瞬間、林の縁へ吸われるように消えた。
飛べたのに、飛ばない。
進めたのに、進まない。
進ませない何かが、そこにある。
白黎の視線が、村の外――林の縁へ滑った。
鳥が飛ばない。
風はあるのに、葉擦れの音が薄い。
音が薄いところだけ、空が冷たく締まっている。
燕秋が、声を落とす。
「……境がある」
村長が唾を飲む。
「昨夜の妖か?」
燕秋は首を横に振った。
「妖じゃない。……人だ。数がいる」
その瞬間、村長の肩が跳ねた。
音を立てない癖があるのに、身体が先に反応する。
村は、人の影に弱い。
村長は、声を押し殺した。
「玄影……」
燕秋は、すぐに返す。
「大丈夫だ。まだ中には入ってない。――入れるなら、もう入ってる」
白黎が、低く言った。
「……六。いや、七」
数えた。気配の数。囲む準備の数。
燕秋が息を吐く。短い吐息。
「指揮がいる。……試しだ」
指揮がいる。
つまり、衝動じゃない。
試すための動きだ。
村長の声が震える。
「どうすれば……」
燕秋は一拍だけ置いた。
村長の呼吸が落ちるのを待つための一拍。
「村人は家へ。灯は消すな。戸を閉めろ。……叫ぶな。泣かせるな」
村長は頷き、踵を返した。
走る音は最小限。それでも夕闇に薄く響く。
響いた音が、林の縁の固さを少しだけ増やした。
白黎が言う。
「……来ます」
言った瞬間、林の縁の闇が動いた。
黒い布。
黒革の匂い。
顔を隠す者。隠さない者。
数は七。動きは揃う。叫ばない。威嚇しない。
奪うだけの動き。
だが今のそれは、奪う前の動きだ。
守る側がどう動くかを、見に来ている。
燕秋が、屋根へ跳んだ。
音は小さい。
それでも霜灯村の夕闇は音に敏感だ。
白黎は息を落とし、足の裏の力を抜いたまま地に残る。
燕秋の声が、上から落ちる。
「白黎、抜くな。……まず倒せ。折るな」
白黎は即座に返した。
「……分かりました」
返答が速い。
白黎はもう、「やるべきこと」を身体で覚え始めている。
玄影の一人が、民家の方へ向かう。
そこに奪うものがあるわけではない。
怖さを作りに行く動きだ。
白黎が動く。
抜刀はしない。
踏み込み。重心をずらす。
足を払うのではなく、膝の角度だけを崩す。
倒すだけ。立ち上がる順を奪うだけ。
男が倒れる。土を擦る音が鳴る。
その音に、別の二人が一瞬だけ止まる。
――音で、間が切れる。
白黎が低く言う。
「退け。……戻れ」
男は答えない。だが立ち上がれない。
骨は折れていない。折らない。
折らないことで、恨みを増やさない。
別方向から三人。
燕秋が屋根上から、小石を投げた。
石が地面に当たり、乾いた音が鳴る。
鳴った音が、玄影の足を一瞬遅らせる。
遅れた半拍が、村を守る。
燕秋の声は低い。怒りではない。
「ここは村だ。……戦場にするな。外でやれ」
白黎が回る。
内功を最小限だけ流し、衝撃だけを通す。
男が壁に当たり、息を詰める。叫ばない。叫ばせない。
その瞬間、村の内側から、子どもの泣き声が漏れた。
漏れた。
漏れたのに、すぐ止まる。
泣き声を止めたのは恐怖じゃない。
母親の手だ。村を守る手だ。
その必死な静けさに、玄影の一人が足を止めた。
「……器」
白黎を見ている。
硝子みたいな目。迷いがあるのに、迷わない目。
値踏みする目だと分かる。
白黎の胸の奥が冷えるのに、目だけが冴える。
蘇雨が、後ろから一歩も前へ出ずに符を滑らせた。
霧を裂く札じゃない。
「音が立つ方向」へ薄い膜を作る札だ。
音が、少しだけ遠くなる。
遠くなったぶん、家の中の呼吸が戻る。
燕秋が、屋根の端を移る。
影みたいに動きながら、玄影の「次」を見ている。
玄影の動きが、段階を変えた。
引く。
揃って、引く。
……逃げじゃない。
数を減らしてない。配置を変えただけ。
追わせるための引きだ。
追えば、村の外で「本当に奪う」つもりだ。
燕秋の声が、すぐ落ちる。
「追うな。……村から離れるな」
白黎は即答した。
「……分かっています」
止まれた。止められた。
追えば倒せる。
倒せば片がつく。
片がついたと思った瞬間に――次が来る。
白黎はそれを、もう身体で知っている。
だから足が出ない。
白黎は足を止めた。止められた。
玄影は闇に溶け、音もなく消える。
林がまた「何もない顔」をする。
けれど白黎の胸の奥の空洞だけは、騙されない。
燕秋が、屋根から地に降りる。
白黎の横へ来る。肩には触れない。距離だけを合わせる。
蘇雨が、静かに言った。
「……村の中へ、入られませんでした」
燕秋は小さく頷いた。安堵の形にはしない。
白黎は剣の柄から指を離さないまま、力だけを抜いた。
林の縁で、黒い影がすっと退く。
逃げた、というより――形を変えた。
引く歩調が揃っている。乱れない。息も上がらない。
本気で奪いに来た連中の動きではない。
白黎は足だけを止めた。追える距離。追いつける距離。
追えば、斬れる。
その確信が胸の奥で冷たく鳴る。
鳴るのに、身体は前へ出ない。
燕秋の吐息が落ちた。短く、硬い息。
「追わない。……追わせない」
小さい言い切りなのに、白黎の内側の向きが変わる。
追う衝動の行き先が、そこで断たれる。
蘇雨が薄く香を流した。濃くしない。消さない。
ただ、固まりかける呼吸の結び目を遅らせる程度に。
林の縁はもう「何もない顔」をしている。
けれど、風があるのに葉擦れが薄い。鳥が飛ばない。虫の音が戻りきらない。
――まだ、いる。
白黎は目だけで数える。
「……六。いや、まだ、もう少し」
燕秋は白黎を見ない。見ないまま村の外周へ視線を滑らせる。
「散って見てる。……追わせるために引いた。次は、別の口から来る」
さっきの白い蝶が、もう一度だけ現れた。
羽の片端が欠けた、同じ蝶だ。
灯の輪郭に触れかけて、触れない。触れないまま、羽の粉だけを残して回る。
その粉が落ちる前に、風向きが変わった。
蝶は飛べるのに、飛ばない。
灯の縁で止められている。
止められているのに、消えない――消せない何かが、外にいる。
白黎は息を落とす。吸って、吐いて、音を立てない。
剣の柄に触れたまま、力を入れない。
蘇雨が一歩、位置を変える。
灯の届く範囲と、林の縁が同時に見える場所へ。
三人の影が、同じ外側に留まる。
風が向きを変えた。
霜の匂いの奥に、革の冷えがひとすじ混じる。
気配は出ない。
出ないまま、外だけが薄く締まっていく。
そして、夕闇が沈みきる頃――村の灯が、ひとつ、またひとつ増えた。
夜の帳が下りた。
三人は灯の外側に留まったまま、黙って風向きを聞いていた。
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