記憶喪失の九尾狐の少女は、冒険者を目指します ~失われた記憶の先で~

いぬぬっこ

文字の大きさ
3 / 7
第一章 異世界アニマルーンの目覚め

第三話 メイク・ア・カード ―はじめてのギルド―

しおりを挟む
夜明けと共に、目が覚める。
キッチンの方から、良い匂いが漂ってきた。

「ふぁあー……」

毛繕いをして、ベッドを整える。
そのままキッチンに向かうと、もうすでにカクトさんがいた。

「おはようございます、カクトさん」
「おはよう、アミ。よく眠れたか」
「はい、とっても寝心地良かったです」
「それはよかった」

カクトさんは笑いながら、テーブルの上の皿に、とろとろチーズのパンをのせる。

ぐぎゅるるー。

「……アミのお腹も、元気そうだな」
「うう、毎度すみません……」

朝食は、とろとろチーズのパンと、昨夜のスープの残り。
うん、某アニメみたいな食事だ。



「いただきます」

ガツガツと、夢中で食べる。

「今日はギルドに行って、お前のギルドカードを作るぞ。
カードがあれば、身分を証明できるからな」

ギルドカード……!

「その後は、喫茶店で昼を食べよう。
この村名物のトルトゥールパイがある」

「トルトゥールパイ?」
「この村伝統のパイでな。中身は、食べてからのお楽しみだ」
「えぇー……」

今、教えてくれてもいいのに。

「ああ、それからだが……」
カクトさんは少し声を落とした。
「昼を食べた後、バーバリーさんの家で遊んでいてくれないか。
夕方になったら、迎えに行く」

「いいですけど……どうしてですか?」

「自警団団長として、村の見廻りをしなければならない。
危険があるから、お前を連れてはいけない」

穏やかだけど、有無を言わせない口調だった。

むぅ……仕方ないか。

「……わかりました」

渋々、そう答える。
カクトさんがいない状態で、他のアニマたちと過ごすのは、正直少し不安だ。

「大丈夫だ。バーバリーさんの家には、お前と同じくらいの子もいる。
子どもの扱いにも慣れているぞ」

そう言ってから、少しだけ意地悪そうに笑う。

「それに、他のアニマと過ごせないようでは、幼稚園にも通えないからな」

ぐっ……。
そうだった。幼稚園、行かないといけないんだった。

シュンとした私を見て、カクトさんは木のコップを差し出した。
中には、甘い匂いのする、薄紫の液体。

「飲め。スッキリするぞ」

試しに一口。

途端に、爽やかな甘さが口いっぱいに広がった。

……美味しい!!

一気に飲み干して、ほうと息をつく。

「それは、ウォルの実とルジェの実で作った、オラ特製の木の実ジュースだ」

へぇ……。
料理が上手なのは知ってたけど、こんな美味しいジュースまで作れるなんて。
お嫁さんに向いているな。

「……アミ、今、何か失礼なこと考えなかったか?」

ぶんぶん、と首を横に振る。
鋭い。カクトさん、鋭いよ。

「……まあ。元気が出たなら、それでいい」

あ。
やっぱり、元気づけようとしてくれたんだ。

カクトさんは、優しい。



食事の後、後片付けをして、家の中を軽く掃除する。
出かける前に、昨日買ってもらったポーチとハンカチを持たされた。

ボーン。
ボーン。

鐘の音が響く。

「カクトさん、この鐘の音は何ですか?
昨日も聞こえましたけど」

「ああ、時刻を知らせる鐘だ。
 朝の六時と、夕方の六時に鳴る」

「六十秒で一分。六十分で一時間。
そして二十四時間で一日だ」

ふーん。
時間の感覚は、前の世界と同じなんだ。

「ギルドは年中無休で、朝六時から夜八時までだ。
昨日行ったアンダーソンさんの店は、電光の日と水氷の日が休みになる」

「その代わり、休日でも営業する。
営業時間は、早朝から日没までだ」

それから、ふとこちらを見る。

「ちなみに、アミ。今日は何の日だ?」

ギクッ。
視線を泳がせる。

「……その様子だと、知らないな。
今日は魚群の日だ。覚えておくといい」

私はこくりと頷いた。
それを見て、カクトさんが微笑む。

「さあ、ここがギルドだ」

話に夢中で、気づかなかった。
目の前には、木と布でできた、大きなテントのような建物が建っている。

……パオみたい。

さて。
さっさとギルドカードを作って、トルトゥールパイを食べるぞ!

まだ朝早いというのに、ギルドの中はすでに多くのアニマたちで賑わっていた。

「おはようございます。
カクトさん、アミちゃん」

昨日、村の入り口で出会ったケットシーの男性が、こちらに声をかけてくる。
確か、名前は――ハーマンだった気がする。

「おはよう、ハーマン。
今日の午後は、一緒に村の見廻りだからな。忘れるなよ」

「ええ、もちろん。
忘れませんよ。バーバリーとは違いますから」

ハーマンさんは、からりと笑うと、
何やらアニマたちが集まっている方へと歩いて行ってしまった。

「カクトさん、あそこにいるアニマたちは?」

「ああ。
あそこにはギルドボードっていう、村のみんなからの依頼書――クエストが貼ってある掲示板があるんだ」

「まあ、クエストを受けるには、
依頼書をカウンターまで持って行って、受注する必要があるがな」

そう言って、カクトさんはギルドの奥の方を指さした。

確かにその先には、大きなカウンターがあり、
ドライアドたちがそれぞれ受付をしているのが見える。

カクトさんは私を連れて、その中の一人の前に立った。

「おはよう、リリー。
今日はクエストじゃなくて、この子のギルドカードを作りに来た」

ドライアドの女性――リリーさんが、こちらを見る。

元人間の私は、ドライアドの美的感覚には疎いのだが、
それでも、なんとなく可愛い人なんだと感じた。

まあ、それはさておき――

「おはようございます。
アミです。よろしくお願いします」

「初めまして、アミちゃん。
私はこのギルドの受付係のリリーよ。よろしくね」

そう言って、リリーさんはにこっと微笑んだ。

……笑顔、超可愛いですね。

「アミはオラの遠い親戚の子でな。
わけあって、しばらく預かることになってな」

アリババじいさんに言った、ハデスタウンの設定は、今回は使わないんだ。

「かしこまりました。
それでは、身分を保証するギルドカードの発行ですね」

「お作り致しますので、
いくつかこちらの質問にご回答をお願い致します」

リリーさんの声で、思考が現実に引き戻される。
と言っても、質問に答えていくのは、ほとんどカクトさんなのだが。

「ご登録者様のご本名は?」

「アミ・ガーベナ」

「性別は、女の子でよろしいでしょうか?」

「ああ」

「生年月日とお歳は?」

「アニマ暦七八五年、蒼海の月十八日。
満五歳」

「ギルドカードは、
冒険者用、商業用、一般用、子ども用とございます」

「今回は、子ども用のお作りで間違いないですか?」

「ああ、子ども用で間違いない」

リリーさんは、手早く書類にペンを走らせる。

それから、丸い水色の玉を、私の前にそっと差し出した。

「アミちゃん。
顔を、この玉の前に近づけてもらえるかな?」

やっと、私の出番か。

リリーさんに言われた通り、玉の前に顔を近づける。

ピカッ!

「……な、なんだ!?」

突然、玉が強く光った。

「これで手続きは終わりです。
発行まで、しばらく時間がかかります。
あちらの席でお待ちください」

ぽかんと呆けている私の肩を、
カクトさんが軽く押し、向かいの長椅子へと連れて行く。

「カ、カクトさん。
あの玉は何ですか?
ピカッて、急に……」

「落ち着け、アミ。
あれはドグって言ってな、写真を撮る機械だ」

……写真?

「あっ、写真はわかるか?」

私はこくりと頷いた。

写真なら、知っている。
でも――あれが、カメラ?

私の知識にあるものとは、随分違う。

「ドグは、コンピューターを搭載した機械でな。
見た目はただの玉だが、半分に割れると――」

途中で言葉を切り、カクトさんは首を振る。

「……まあ、今説明してもわからないだろう。
写真を撮る機械で、各地のギルドに最低一つは置いてある。
そう覚えておけばいい」

なるほど。
アニマルーン版のカメラーードグ、ね。

「でも、なんで写真を撮ったの?」

「ギルドカードの持ち主が、本人かどうか確認するためだ」

身分証明書の写真、みたいなものか。
それなら、納得できる。

「おっ。
できたみたいだな」

私たちは、リリーさんのもとへ戻った。

「大変お待たせ致しました。
こちらが、アミちゃんのギルドカードとなります。
ご確認ください」

差し出されたのは、薄水色のカードだった。

そこには――

名前:アミ・ガーベナ
性別:女
生年月日:アニマ暦七八五年 蒼海の月十八日
種類:子ども用
作成日:アニマ暦七九〇年 蒼海の月二十六日

そして、顔写真。

……それにしても、不思議だ。

文字も数字も、見覚えはない。
知識としても、知らないはずなのに。

意味だけが、自然と頭の中に浮かんでくる。

…………。
…………ん?

すっごく……
すっごく今さらなんだけど……。

私、アニマの言葉、喋れてる!!?

みんな、日本語に聞こえる!!!

……って、日本語って何だ!?

日本って国で使われていた言語、
という知識しかないのに。

頭がショートしそうになり、
私は考えるのを放棄した。

「ありがとうございます」

リリーさんからカードを受け取り、
そっとポーチの中へしまう。

でも――

これで私は、
アミ・ガーベナになったんだ。

その事実に、
胸の奥が、じんわりと温かくなるのを感じた。
しおりを挟む
感想 2

あなたにおすすめの小説

好きすぎます!※殿下ではなく、殿下の騎獣が

和島逆
恋愛
「ずっと……お慕い申し上げておりました」 エヴェリーナは伯爵令嬢でありながら、飛空騎士団の騎獣世話係を目指す。たとえ思いが叶わずとも、大好きな相手の側にいるために。 けれど騎士団長であり王弟でもあるジェラルドは、自他ともに認める女嫌い。エヴェリーナの告白を冷たく切り捨てる。 「エヴェリーナ嬢。あいにくだが」 「心よりお慕いしております。大好きなのです。殿下の騎獣──……ライオネル様のことが!」 ──エヴェリーナのお目当ては、ジェラルドではなく獅子の騎獣ライオネルだったのだ。

役立たずと追放された聖女は、第二の人生で薬師として静かに輝く

腐ったバナナ
ファンタジー
「お前は役立たずだ」 ――そう言われ、聖女カリナは宮廷から追放された。 癒やしの力は弱く、誰からも冷遇され続けた日々。 居場所を失った彼女は、静かな田舎の村へ向かう。 しかしそこで出会ったのは、病に苦しむ人々、薬草を必要とする生活、そして彼女をまっすぐ信じてくれる村人たちだった。 小さな治療を重ねるうちに、カリナは“ただの役立たず”ではなく「薬師」としての価値を見いだしていく。

一国一城の主を目指す!〜渇望の日々を超えて。

リョウ
ファンタジー
 何者かになりたかった。  だが現世でその願いは叶わず、男は敗北感と悲嘆を胸に沈んでいた。  そんな彼の前に現れたのは、一柱の女神。  導かれるまま異世界へ転移した男は、新たにレイと名乗り、剣も魔法も身分もない底辺から成り上がることを決意する。  冒険者として生きる術を学び、魔法を覚え、剣を磨き、人と裏社会を見極めながら、レイは少しずつ力を蓄えていく。  目指すのは、ただ生き延びることではない。  一国一城の主となり、この世界で“何者か”になること。  渇望を燃料に、知恵と執念で上へ上へと這い上がる、ファンタジー成り上がり譚。

冴えない建築家いずれ巨匠へと至る

木工槍鉋
ファンタジー
「建築とは、単なる箱を作ることではない。そこに流れる『時』を設計することだ――」 かつてそう語り、伝説の巨匠と呼ばれることになる男も、かつては己の名前に怯えるだけの冴えない二級建築士だった。 安藤研吾、40代。独立したものの仕事はなく、下請けとして「情緒のない真四角な箱」の図面を引き続ける日々。そんな彼が恩師に教えられた座標の先で迷い込んだのは、昭和初期を彷彿とさせる、魔法のない異世界だった。 現代の建築知識、そして一釘一釘を大切にする頑固大工との出会い。 「便利さ」ではなく「住む人の幸せ」を求めて、研吾は廃村に時計台を建て、水路を拓き、人々の暮らしを再生していく。 異世界で「百年の計」を学んだ研吾が現実世界に戻ったとき、その設計は現代の建築界をも揺るがし始める。 これは、一人の男が仕事への誇りを取り戻し、本物の「巨匠」へと駆け上がるまでの、ひたむきな再建の記録。

私の作るおにぎりが、騎士団の士気を異常に上げています(犯人は副団長)

星乃和花
恋愛
おにぎりを配っただけで、騎士団の士気が異常値になりました。 団長は警戒、監察部は呪術検査、国まで動きかけるのに――副団長だけが平然と断言。 副団長「彼女のご飯は軍事物資です」 私「えっ重い」 胃袋で落ちた策略家副団長の“最適化溺愛”に巻き込まれ、気づけば専属補給係(=婚約)寸前!? ほのぼの爆笑&甘々の騎士団ラブコメです。 (月水金21:00更新ー本編16話+後日談6話)

聖女として召還されたのにフェンリルをテイムしたら追放されましたー腹いせに快適すぎる森に引きこもって我慢していた事色々好き放題してやります!

ふぃえま
ファンタジー
「勝手に呼び出して無茶振りしたくせに自分達に都合の悪い聖獣がでたら責任追及とか狡すぎません? せめて裏で良いから謝罪の一言くらいあるはずですよね?」 不況の中、なんとか内定をもぎ取った会社にやっと慣れたと思ったら異世界召還されて勝手に聖女にされました、佐藤です。いや、元佐藤か。 実は今日、なんか国を守る聖獣を召還せよって言われたからやったらフェンリルが出ました。 あんまりこういうの詳しくないけど確か超強いやつですよね? なのに周りの反応は正反対! なんかめっちゃ裏切り者とか怒鳴られてロープグルグル巻きにされました。 勝手にこっちに連れて来たりただでさえ難しい聖獣召喚にケチつけたり……なんかもうこの人たち助けなくてもバチ当たりませんよね?

【完結】王都一番の魔導修理屋

あめとおと
ファンタジー
魔法と魔導具が当たり前の世界。 だが、それらを扱えるのはほとんどが貴族だけだった。 王都の片隅で暮らす平民の青年 リクト は、魔力量が少なく魔法もろくに使えない。 そのせいで魔導学院を落第し、いまは貧乏な魔導具店の雑用係。 だがリクトには、誰も気づいていない才能があった。 それは―― 「魔導具の構造が、なぜか全部わかる」 壊れた魔導具を直し、 効率を上げ、 誰も作れなかった道具を作る。 やがてその技術は、王都の貴族社会や魔導師団を巻き込み、 世界の魔導理論さえ揺るがしていく。 これは―― 魔法が使えない平民が、魔導の常識を塗り替える物語。

異世界カントリーライフ ~妖精たちと季節を楽しむ日々~

楠富 つかさ
ファンタジー
 都会で忙しさに追われる日々を送っていた主人公は、ふと目を覚ますと異世界の田舎にいた。小さな家と畑、そして妖精たちに囲まれ、四季折々の自然に癒されるスローライフが始まる。時間に縛られず、野菜を育てたり、見知らぬスパイスで料理に挑戦したりと、心温まる日々を満喫する主人公。現代では得られなかった安らぎを感じながら、妖精たちと共に暮らす異世界で、新しい自分を見つける物語。

処理中です...