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丸ニカタバミ

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対抗戦編

いつき先輩の思い

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 先輩のところにあれからなんだかんだで通い続けて気がつけば、一か月がたっていた。
通い続けて分かったことは、先輩が近い将来、拓実の義姉さんになるということや技術コースの4年生であること、名前が武山 いつきだということがわかった。
「いつき先輩、おはようございます」
おはようと言っていつもの奥の席まで案内される。この一か月、休みの日以外は常に通っていて気がつけば入部届けに判を押し、さらに先輩後輩が一気に増えた。さらに言うと数少なかった友達が人並みに増えた。
「げっ、また来てんのかよ。そんなに暇なら修行とかいろいろやることとかあんだろう」
「いいの。ここに来れば、前衛後衛の役割分担とかがわかって週末の修行に還元してるからいいんですー」
「あっそ」というと拓実はさっさと自分の作業を始めてしまった。相変わらず愛想がない。
「相変わらず愛想がないねえ。そんなんだからモテないんだよ。あんた」
「別に僕はモテなくて結構です。当分はこいつの調整でいそがしいので」
「あっそ、機械と武器に恋でもしてなオ・タ・ク」
 本当の姉弟のようなやり取りは相変わらずおもしろい。ここに来はじめてからは、さらに日常が充実してる。
「そういえば、模造刀とか一式ってもう揃えたの?」
「えっ、なにか買わなきゃいけないものってありましたっけ」
「あるよ。刃引きしてある武器に鎧も新調して出る人も多いし、防衛コース進むなら結局必要になるしね」
 知らなかった。てっきり、体操服で出場して素手で闘うのかと思っていた。
「いつも週末に修行してるって言ってたけど今週もある?」
「ええまあ、よっぽどのことがない限り大丈夫だと思いますけど・・・どうしてですか?」
「こんな私でも、将来は武器屋志望だからね。客がどういうスタイルで戦うのか知っておかないと」
 実際、いつき先輩は拓実の実家に嫁ぐことになっているし、一式そろえるとなればそこで買うのだろうけど戦闘スタイルを見て何かわかるのだろうか・・・。
「つまり、義姉さんはお前に合った武器を用意してくれるってことだよ。自分で決めたスタイルに合わせて武器を作るって人もいるけど、うちみたいな工房型の店は職人が合うって思ったものを用意するんだ。使用者によって同じ形同じ長さの武器でも成分が大きく変わるんだ」
「成分?」
 成分とはいったい何のことだろう。素材的な意味だろうかそれとも、刀を打つ時の炭素量のことだろうか。まったく見当がつかない。
「ああもう、これだからオタクは余計な言葉をはさんで混乱させる」
そういって、先輩はホワイトボードを引っ張ってくる。さすがにインクではないようだが手書きとはめずらしい。
 説明によると成分とはこういうことらしい。
異能を使うにあったって武器にどれぐらい異能を流し込めるかが重要でこれを能力伝導率というらしい。
この能力伝導率の大きさによって刀であれば刀身に込められる異能の量が変わるらしい。伝導率100パーセントの刀であれば異能をこめれば込めただけ使えるが異能を使わなければただの鉄の刀状のものになってしまう。逆に0パーセントであれば、刀としての役割は果たすが代わりに異能は発動しないので切れないとまったく役に立たない。この伝導率のバランスが本人に合っているかどうかでだいぶと変わるとのことだ。
「本当はもっと細かい違いとか種類があるんだけど基本的にはこう。拓実の言う通り、あたしはこれを調べるためと指導している人がどうしたいのかを知りたい」
「なるほど・・・・わかりました」
 前線で戦う人たちの多くはそうしているという話を思い出したのでとてもありがたいことだとは思っている。ただ、どうしてCクラスの私にそこまでしてくれるのだろう。そこだけが引っかかって、素直に「はい」とは言えない。
「どうした。もしかして迷惑だった?」
「いえ、そうではなくてどうしてそこまでしてくれるのかなって・・・」
 その一言にさっきまで和やかだった教室が凍り付いた。
「それはねえ・・・・」
「もしかして・・・」
 もしかして、いやまさかだと思うがありえないことではない。それに、いつき先輩は観念した顔をしている。ということは間違いない。
「もしかして、拓実の実家のお店つぶれそうなんですか・・・」
「へっ?」
「やっぱりそうなんですか・・・。だから、頼みやすそうな私をつかって経営を安定させるために・・・。たしかにお店も年季を通りこしてぼろくなってたし」
 まさか、そんなに経営が悪化していたなんて。拓実も少しは相談してくれればよかったのに・・・。
「はははははっ、まさかそう来るとは思ってもみなかった。たしかに、ぼろいけどそこまでひどくないって。あーっおなか痛い」
「えっ、違うんですか!」
「違う違う!むしろ、そこら辺のお店よりがっぽり儲かってるから。私も何を企んでいるんですかぐらいは聞かれると思っていたけど、まさかそう言われるとは思ってもみなかった。痛い、おなか痛い」
 そこまで、笑うことはないと思う。少なくともそうかもと思ったその時は本気で心配したのだ。
「つぶれそうなぼろい店で悪かったな」
 気がつけば鬼のような形相の拓実が後ろに立っていた。めちゃくちゃ怒っていることだけは間違いない。
「まあまあ、許してやりなよ。ぼろいのは間違ってないし。それよりも本題に入ろう」
 そうだ、この短時間で忘れそうになっていたがここまで手伝ってもらえる理由があるんだ。それを聞かないことには話が先に進まない。
「私がそこまでするのはね、純粋に期待しているから」
「期待ですか・・・」
「そう、あたしはあなたとさやちゃんの二人にクラス対抗戦にできるだけ勝ってほしいただそれだけ」
「でも、わたしたちCクラスで勝てるかどうかもわからないですよ」
 実際修行しているとはいえ、ほかのクラスが弱いわけではない、それに方法は違えどクラス対抗戦にかける思いはみんな同じのはずだ。だから、勝てる保証はどこにもない。
「いや、勝てるよ。だって、ひと月前のさやちゃんを隣の演習場まで吹っ飛ばしたあの日に私だけじゃないここにいるみんなが期待したんだよ。これなら、あの無駄に差別意識だけが強いあいつらの鼻をへし折れるんじゃないかって」
「でも、大会に出るって意味じゃ拓実もでるじゃないですか」
「拓実じゃだめなんだ」
 なぜ、だめなのだろう。AクラスやSクラスに勝てるとすればまだ拓実のほうが可能性がある。そのはずだ、なのに先輩はどうしてわたしを選ぶのだろう。
「拓実は、うちの最新鋭の装備で出るから勝とうが負けようが関係ないんだ。勝ったとしても武器のおかげだって言われるだけだ。でも君たちは違う。必死にあがいて修行して周りの誹謗中傷を無視して努力した結果が対抗戦で発揮されるんだ」
「でも・・・」
「頼む。勝手なお願いだっていうのはわかってる。それでも・・・それでもわたしたちの長年やりたくてもできなかった夢の続きを・・・その手伝いをさせてくれ」
 私は、はいもいいえも言わず週末の集合場所だけを伝えて帰った。必死に頼みながら涙をこらえる先輩の顔だけは忘れられなかった。
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