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第七話「ま、まさかのお家でご飯!?」

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「ねぇ、彩香……」
「ん? 彩芽どした?」

 心理学の講義を受けている中、右側に座る銀髪姉妹がコソコソ話をしだした。

「なんで銀治が居るのよ……」
「えっとー、まー成り行きで♪」

 こうなっているのは本当に成り行きだった。
 サークルの先輩たちを断った晩、彩香からメールが届いた。

『やっほー、今日はありがとうね!』
『こちらこそありがとうございます』
『えっとね、大学の講義ってまだ修正できるらしいんだけどさ』
『それがどうかしましたか?』
『私たちと同じ講義を受けないかなーって思って……!』

 そんなお誘いのメールに俺はすぐに返事を返す。

『ついていきます』
『え、えっと……ついて来られても困るんだけど(汗)。とりあえず受けてる講義の名前メールに送るねー』

 やはり女神様だったらしい……。俺は次の日大学の講義を全て変更した。そもそも、特にやりたいこともない。銀髪美少女を探す旅が終了した今となっては彩芽のそばに居たいというだけ。
 そうして今に至る。

「はぁ、最悪……」

 隣で机に突っ伏してぺちゃんこになった彩芽を見つめながら、可能な限り脳内カメラに保存していく。出来ることなら動画で保存したい……。

「フフフ……♪」

 その向こう側には嬉しそうに微笑む彩香の姿。
 俺は彩芽の隣に居られて幸せで満ち溢れているのだが、向こうはそうではないらしい。
 出来ることならこの幸せを分けてあげたい。

「……」

 机に伏せたままの彩芽と目が合った。青い綺麗な瞳に整った顔立ち、なのにもかからわずあどけなさが残るようなパーフェクト天使。守らなければという使命感に駆られる……。

「はぁ……なんでこんなやつ……」
「彩芽さん大丈夫ですか」
「だ、大丈夫よっ……! っていうか近付いてくんなバカ……」

 彩芽は小さく言い放つとプイッと反対を向いてしまった。彩芽を挟んだ向こう側には待ってましたと言わんばかりの彩香の姿。彩芽がナデナデされている。可能であれば俺も混ぜて欲しいが、さすがに周囲の目が怖いのでやめておこう。

 ……ん?
 彩香が指差しでジェスチャーをしてくる。彩芽の頭を指差したあとに撫でる行動を空中で行っている。
 つまり、「今なら彩芽の頭を撫でられるよ」と物語っていた。

 ごくりと自然に喉が鳴る。触っていいのか……、本当に触ってもよろしいのですか……。
 彩香はどうぞどうぞと言わんばかりに促している。
 右手をゆっくりと彩芽の頭へと持っていく。彩香の手が離れて「撫でていいよ♪」とオッケーサイン。
 だがしかし……、本当にこんな触り方をして許され――
 ぽふっ……。

「……ッ!」

 な、なん……だと……。顔を上げようとした彩芽の頭が自然と手に触れてしまった。

「ん……?」

 違和感に気付いてしまったのか、彩芽は動かない。
 早く手をどけなければならないと思いつつ、丁度いいフィット感に手が離せない……。彩香はしてやったり顔でにんまりとニヤけている。

「……」

 彩芽がそっと違和感の正体を確認するべく両手を頭の方へ動かした。小さい手が右手に触れる。小さい両手で掴まれた。
 動作がすべて可愛いのですが俺は一体どうすればいいんだろう。

「……?」

 掴まれた手が頭から離れてそのまま彩芽が顔を上げていく。彩香の手ではなく、俺の手を握っていたことに気が付いた彩芽は――

「なっ……銀っ!? ん、ん~!」

 驚いた彩芽の口を瞬く間に彩香が手で塞いだ。彩芽が口を押さえられているのを見ると何か犯罪の匂いが漂ってしまう……。
 動揺している彩芽が手を握り締めたまま目を丸くする。

「んーっ! ん~っ!?」

 彩芽の手が冷たくて気持ちがいい――が、言うと嫌われそうなのでやめておこう。


 午前の講義が終わって昼休み――俺は図書館の屋上のテラスで天国を満喫していた。正面にはサンドイッチを食べる彩香。シンプルなシャツの上から羽織ったジーンズジャケット、その閉じていない間からは大きな胸が見える。

 右手には、小動物のようにこじんまりとしながらサンドイッチを両手で食べる彩芽。この間着ていた水色のワンピースに白いカーディガン、麦わら帽子がとってもお似合いでございます。

「……」

 あの地下の図書館で過ごしていたことを想えば、本当に天と地の差だな……。

「銀治君はごはん食べないの?」

 誰かと過ごす大学ってこんなにもホッとするのか……。

「銀治くーん!」
「あ、ああ、すみません」
「ごーはーん、食べないの?」

 目の前の光景に幸福を感じていた最中、サンドイッチを頬張る彩香が俺に問いかけていた。

「今日は幸せでお腹が一杯なので大丈夫です」
「ん、どういうこと?」
「今、こうして銀髪美少女たちと昼休みを過ごせることが幸せということです」
「……?」

 彩香は「なにを言っているんだろう?」という視線を向けている気がするが、特に気にすることはないだろう。

「もう、なんであんたなんかと食べなきゃいけないのよ……」

 なぜか不機嫌な彩芽がサンドイッチを少しだけかじりながら呟いた。それに対して彩香がニヤニヤしながら――
「そんなこと言って、嬉しいくせに~♪」
 と彩芽の脇腹をつつく。なんですかねこの天国は。

「うぐっ……ゴホッゴホッ……!」
「あわわっ、彩芽ほらお茶飲んで!」
「ん……んぐっ……んぐっ……ぷはぁ!」

 ペットボトルを勢いよく机の上に置いた彩芽の口元に垂れ落ちる水滴が落ちそうになっていた。

「失礼」

 一言、声をかけてから軽く腰を浮かせて立ち上がる。ハンカチを取り出して彩芽の口元に触れて水滴を拭きとった。

「な、なにっ!?」

 彩芽があわあわとぎこちない動作をしながら言う。

「綺麗な服にお茶が零れ落ちそうだったので……、嫌でしたかね……」
「そ、その、急にそういうことされると……困るというか……なんというか……」

 俯いた彩芽が椅子ごと移動して彩香の方へと寄っていく。やはり拭かなかった方が良かったんだろうか……。男性が苦手と言っていた相手に出過ぎたことをしてしまったかもしれない。

 彩香の隣に移動した彩芽が帽子を、顔を隠すように角度を下げていく。

「ムフフ……♪」
「な、なに笑ってんのよっ!」
「照れてるな~って思っ――」

 ガタンッと椅子が後ろ向きに倒れた。立ち上がった彩芽が帽子の下で顔を赤くしている。

「う、うっさい! 照れてなんかないわよ!」
「でも、顔が真っ赤だよ~?」

 彩香は立っている彩芽をニヤニヤしながら見つめていた。
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