4 / 71
まこと side
4
しおりを挟む窓を覗けば藍我の顔くらいは見れるだろうけど、やっぱりちょっと恥ずかしいからこれでいいんだと思う。どうせ、学校から帰ってきたらプリントとか持ってお見舞いに来てくれるだろうし……
真っ暗な中でポツンと目を開けて辺りを見回す。
常夜灯もない室内はうっすらと窓から入ってくる灯りで照らされている部分があるだけで、それ以外は真っ黒だ。
「えっ……寝ちゃ、ってた?」
時間を確認すると七時過ぎだ。
いつもなら藍我が来て、熱があるって言ってもダラダラとしていく時間帯なのに、あの中は静まり返っている。
一瞬、僕を驚かせようとしているのかもって思って「藍我?」って声をかけてみたけれど、響く音の大きさでひとりぼっちなんだったわかった。
五歳の時から十二年間で、初めて顔を合わせなかった日だった。
熱を出して二日休んだ。
その次の日も藍我は僕に会いにくることはなくて、朝に家の前で待っている間はソワソワして落ち着かなかった。
どうして見舞いに来ないのかって言ってやろうとか、あのキスのことが話題に出るかなって体を揺すりながら待って……でも、毎朝の待ち合わせ時間に、藍我は出てこなかった。
もしかしたら寝坊かな? ってチャイムを押そうとした時、藍我のお母さんがゴミ袋を持って出てくる。
「あれ? まこちゃん⁉︎ なんでまだいるの? 藍はもうとっくに学校に 」
思わずびくってなった僕に驚いたのか、「どうしたの?」って優しく問いかけてくれたのに、僕は慌てて首を振って駆け出した。
僕の走るスピードは歩くのと大差ないけれど、それでも走らないよりは断然マシだ。
藍我に言わせると「ぽてぽてぽてって音がしそう」な走りで必死に学校に辿り着いた時、下駄箱から見える職員室前の廊下に藍我の姿を見つけた。
先に行くなら一言くらい言ってくれてもいいのにって、走りながら増大した怒りをぶつけてやろうとした――――けど、できなかった。
藍我の腕にぶら下がる小さなシルエットが見えてしまったからだ。
小さなっていっても藍我と比べたらだから、僕と同じくらい?
「らーんがぁ! もう行こうよ!」
ちょっと鼻にかかるような甘えた声に、藍我は怒ることもなくちょっと顔をしかめて返しただけだった。
「もうちょっと待てよ」
職員室の前にいるんだから用事があるとしたら先生かな? いつもは先生から呼び出しがあると一目散に逃げていくというのに、反対側に体重をかけ直して動く気配はない。
そんな藍我にムッとした顔をしつつも、その子は離れずにずっと腕を絡ませたままだ。
「…………ぁ」
105
あなたにおすすめの小説
両片思いの幼馴染
kouta
BL
密かに恋をしていた幼馴染から自分が嫌われていることを知って距離を取ろうとする受けと受けの突然の変化に気づいて苛々が止まらない攻めの両片思いから始まる物語。
くっついた後も色々とすれ違いながら最終的にはいつもイチャイチャしています。
めちゃくちゃハッピーエンドです。
やっと退場できるはずだったβの悪役令息。ワンナイトしたらΩになりました。
毒島醜女
BL
目が覚めると、妻であるヒロインを虐げた挙句に彼女の運命の番である皇帝に断罪される最低最低なモラハラDV常習犯の悪役夫、イライ・ロザリンドに転生した。
そんな最期は絶対に避けたいイライはヒーローとヒロインの仲を結ばせつつ、ヒロインと円満に別れる為に策を練った。
彼の努力は実り、主人公たちは結ばれ、イライはお役御免となった。
「これでやっと安心して退場できる」
これまでの自分の努力を労うように酒場で飲んでいたイライは、いい薫りを漂わせる男と意気投合し、彼と一夜を共にしてしまう。
目が覚めると罪悪感に襲われ、すぐさま宿を去っていく。
「これじゃあ原作のイライと変わらないじゃん!」
その後体調不良を訴え、医師に診てもらうととんでもない事を言われたのだった。
「あなた……Ωになっていますよ」
「へ?」
そしてワンナイトをした男がまさかの国の英雄で、まさかまさか求愛し公開プロポーズまでして来て――
オメガバースの世界で運命に導かれる、強引な俺様α×頑張り屋な元悪役令息の元βのΩのラブストーリー。
嘘をついたのは……
hamapito
BL
――これから俺は、人生最大の嘘をつく。
幼馴染の浩輔に彼女ができたと知り、ショックを受ける悠太。
それでも想いを隠したまま、幼馴染として接する。
そんな悠太に浩輔はある「お願い」を言ってきて……。
誰がどんな嘘をついているのか。
嘘の先にあるものとはーー?
幼馴染が「お願い」って言うから
尾高志咲/しさ
BL
高2の月宮蒼斗(つきみやあおと)は幼馴染に弱い。美形で何でもできる幼馴染、上橋清良(うえはしきよら)の「お願い」に弱い。
「…だからってこの真夏の暑いさなかに、ふっかふかのパンダの着ぐるみを着ろってのは無理じゃないか?」
里見高校着ぐるみ同好会にはメンバーが3人しかいない。2年生が二人、1年生が一人だ。商店街の夏祭りに参加直前、1年生が発熱して人気のパンダ役がいなくなってしまった。あせった同好会会長の清良は蒼斗にパンダの着ぐるみを着てほしいと泣きつく。清良の「お願い」にしぶしぶ頷いた蒼斗だったが…。
★上橋清良(高2)×月宮蒼斗(高2)
☆同級生の幼馴染同士が部活(?)でわちゃわちゃしながら少しずつ近づいていきます。
☆第1回青春×BL小説カップに参加。最終45位でした。応援していただきありがとうございました!
《完結》僕の彼氏は僕のことを好きじゃないⅠ
MITARASI_
BL
彼氏に愛されているはずなのに、どうしてこんなに苦しいんだろう。
「好き」と言ってほしくて、でも返ってくるのは沈黙ばかり。
揺れる心を支えてくれたのは、ずっと隣にいた幼なじみだった――。
不器用な彼氏とのすれ違い、そして幼なじみの静かな想い。
すべてを失ったときに初めて気づく、本当に欲しかった温もりとは。
切なくて、やさしくて、最後には救いに包まれる救済BLストーリー。
毎日更新
才色兼備の幼馴染♂に振り回されるくらいなら、いっそ赤い糸で縛って欲しい。
誉コウ
BL
才色兼備で『氷の王子』と呼ばれる幼なじみ、藍と俺は気づけばいつも一緒にいた。
その関係が当たり前すぎて、壊れるなんて思ってなかった——藍が「彼女作ってもいい?」なんて言い出すまでは。
胸の奥がざわつき、藍が他の誰かに取られる想像だけで苦しくなる。
それでも「友達」のままでいられるならと思っていたのに、藍の言葉に行動に振り回されていく。
運命の赤い糸が見えていれば、この関係を紐解けるのに。
きみに会いたい、午前二時。
なつか
BL
「――もう一緒の電車に乗れないじゃん」
高校卒業を控えた智也は、これまでと同じように部活の後輩・晃成と毎朝同じ電車で登校する日々を過ごしていた。
しかし、卒業が近づくにつれ、“当たり前”だった晃成との時間に終わりが来ることを意識して眠れなくなってしまう。
この気持ちに気づいたら、今までの関係が壊れてしまうかもしれない――。
逃げるように学校に行かなくなった智也に、ある日の深夜、智也から電話がかかってくる。
眠れない冬の夜。会いたい気持ちがあふれ出す――。
まっすぐな後輩×臆病な先輩の青春ピュアBL。
☆8話完結の短編になります。
届かない手を握って
藍原こと
BL
「好きな人には、好きな人がいる」
高校生の凪(なぎ)は、幼馴染の湊人(みなと)に片想いをしている。しかし湊人には可愛くてお似合いな彼女がいる。
この気持ちを隠さなければいけないと思う凪は湊人と距離を置こうとするが、友達も彼女も大事にしたい湊人からなかなか離れることができないでいた。
そんなある日、凪は、女好きで有名な律希(りつき)に湊人への気持ち知られてしまう。黙っていてもらう代わりに律希から提案されたのは、律希と付き合うことだった───
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる