ある日、友達とキスをした

Kokonuca.

文字の大きさ
15 / 71
まこと side

15

しおりを挟む


「あれ! まこの声だ!」

 気楽そうな声が不良達の頭の上を軽やかに飛び越えてくる。
 僕はまこととかまこちゃんとかいろいろ呼ばれるけれど、この二文字だけで呼ぶのは洸平ただ一人だけだ。

「あ、あま  の、せんぱぁい!」

 人垣の中で手を懸命に伸ばして振ってみるも、僕の身長では洸平に見えてるか定かじゃなかった。
 でも、隙間から洸平の長い足が見えて、それが駆け寄ってくるのがわかったからホッと胸を撫で下ろす。

「あ゙?」

 やった! 助けが来た! って思ったのも束の間の話で、よくよく考えてみたらあんな優男風の洸平がこんな状態から僕を救出できるのかって考えたら望み薄が気がして……
 結局は身を守るように鞄をギュッと抱きしめたまま萎れるしかなかった。

「君達何してんの?」
「なん  ? っ、あ、天野、さん……」
「天野さん⁉︎ な なんっ」
「その子、誰か知ってる?」
「え⁉︎ あ、天野さんのお知り合いですか⁉︎」

 諦め切った僕の耳に、呑気な洸平の声と慌てまくる他校の皆さんの声がして……まるでモーゼのように人を割って洸平が「バァ!」って登場する。

「あ! やっぱりまこだったー! 家に帰る途中?」
「は はい っ」
「あははははは!」

 洸平が笑い出した瞬間、周りにいた人たちの雰囲気が凍って……なんだか弾けば砕けちゃうんじゃないかって感じの空気になった。

 何、これ。

 そろりと見上げた洸平は大きい人だったけれど、腕が胴につけられないくらい筋肉がついているとかそんなことはない、普通の体型の人だ。
 周りを囲う人たちにはいかにもって感じの筋肉でむちむちの人もいて、そんな人から比べたらめっちゃよわよわに見えるのに……

 この場で一番の高みから支配しているのは洸平だって、肌で理解した。

「じゃあ、一緒におうち帰ろうかぁ?」
「え⁉︎ 天野先輩の家ってこっちでしたっけ?」
「違うよー」

 はっきりとはわからないけど、いつも駅の方に帰っていくような記憶があるから、僕の家の方に行こうとしたら逆方向になってしまう。

「あのっあのっ大丈夫です!」
「どこが?」
「ど……」

 洸平の視線が僕の涙の溜まった目を見て、鞄をぎゅうぎゅうに抱きしめている腕に動いて、最後はヘソ……よりも下に動いていく。
 その視線に、思わず飛び上がりそうになったけれど、僕はその理由を墓場まで持っていかなくてはならない。

 …………怖くて、ちょっと、ちょっとだけ、本当にちょびっとだけ、おしっこ漏らしちゃった なんて。

「い、急いで帰らないと だし」
「ここでオレと仲良くしているように見せると、今後、ここを通るのが楽になると思うよ?」


しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

両片思いの幼馴染

kouta
BL
密かに恋をしていた幼馴染から自分が嫌われていることを知って距離を取ろうとする受けと受けの突然の変化に気づいて苛々が止まらない攻めの両片思いから始まる物語。 くっついた後も色々とすれ違いながら最終的にはいつもイチャイチャしています。 めちゃくちゃハッピーエンドです。

やっと退場できるはずだったβの悪役令息。ワンナイトしたらΩになりました。

毒島醜女
BL
目が覚めると、妻であるヒロインを虐げた挙句に彼女の運命の番である皇帝に断罪される最低最低なモラハラDV常習犯の悪役夫、イライ・ロザリンドに転生した。 そんな最期は絶対に避けたいイライはヒーローとヒロインの仲を結ばせつつ、ヒロインと円満に別れる為に策を練った。 彼の努力は実り、主人公たちは結ばれ、イライはお役御免となった。 「これでやっと安心して退場できる」 これまでの自分の努力を労うように酒場で飲んでいたイライは、いい薫りを漂わせる男と意気投合し、彼と一夜を共にしてしまう。 目が覚めると罪悪感に襲われ、すぐさま宿を去っていく。 「これじゃあ原作のイライと変わらないじゃん!」 その後体調不良を訴え、医師に診てもらうととんでもない事を言われたのだった。 「あなた……Ωになっていますよ」 「へ?」 そしてワンナイトをした男がまさかの国の英雄で、まさかまさか求愛し公開プロポーズまでして来て―― オメガバースの世界で運命に導かれる、強引な俺様α×頑張り屋な元悪役令息の元βのΩのラブストーリー。

嘘をついたのは……

hamapito
BL
――これから俺は、人生最大の嘘をつく。 幼馴染の浩輔に彼女ができたと知り、ショックを受ける悠太。 それでも想いを隠したまま、幼馴染として接する。 そんな悠太に浩輔はある「お願い」を言ってきて……。 誰がどんな嘘をついているのか。 嘘の先にあるものとはーー?

幼馴染が「お願い」って言うから

尾高志咲/しさ
BL
高2の月宮蒼斗(つきみやあおと)は幼馴染に弱い。美形で何でもできる幼馴染、上橋清良(うえはしきよら)の「お願い」に弱い。 「…だからってこの真夏の暑いさなかに、ふっかふかのパンダの着ぐるみを着ろってのは無理じゃないか?」 里見高校着ぐるみ同好会にはメンバーが3人しかいない。2年生が二人、1年生が一人だ。商店街の夏祭りに参加直前、1年生が発熱して人気のパンダ役がいなくなってしまった。あせった同好会会長の清良は蒼斗にパンダの着ぐるみを着てほしいと泣きつく。清良の「お願い」にしぶしぶ頷いた蒼斗だったが…。 ★上橋清良(高2)×月宮蒼斗(高2) ☆同級生の幼馴染同士が部活(?)でわちゃわちゃしながら少しずつ近づいていきます。 ☆第1回青春×BL小説カップに参加。最終45位でした。応援していただきありがとうございました!

《完結》僕の彼氏は僕のことを好きじゃないⅠ

MITARASI_
BL
彼氏に愛されているはずなのに、どうしてこんなに苦しいんだろう。 「好き」と言ってほしくて、でも返ってくるのは沈黙ばかり。 揺れる心を支えてくれたのは、ずっと隣にいた幼なじみだった――。 不器用な彼氏とのすれ違い、そして幼なじみの静かな想い。 すべてを失ったときに初めて気づく、本当に欲しかった温もりとは。 切なくて、やさしくて、最後には救いに包まれる救済BLストーリー。 毎日更新

才色兼備の幼馴染♂に振り回されるくらいなら、いっそ赤い糸で縛って欲しい。

誉コウ
BL
才色兼備で『氷の王子』と呼ばれる幼なじみ、藍と俺は気づけばいつも一緒にいた。 その関係が当たり前すぎて、壊れるなんて思ってなかった——藍が「彼女作ってもいい?」なんて言い出すまでは。 胸の奥がざわつき、藍が他の誰かに取られる想像だけで苦しくなる。 それでも「友達」のままでいられるならと思っていたのに、藍の言葉に行動に振り回されていく。 運命の赤い糸が見えていれば、この関係を紐解けるのに。

きみに会いたい、午前二時。

なつか
BL
「――もう一緒の電車に乗れないじゃん」 高校卒業を控えた智也は、これまでと同じように部活の後輩・晃成と毎朝同じ電車で登校する日々を過ごしていた。 しかし、卒業が近づくにつれ、“当たり前”だった晃成との時間に終わりが来ることを意識して眠れなくなってしまう。 この気持ちに気づいたら、今までの関係が壊れてしまうかもしれない――。 逃げるように学校に行かなくなった智也に、ある日の深夜、智也から電話がかかってくる。 眠れない冬の夜。会いたい気持ちがあふれ出す――。 まっすぐな後輩×臆病な先輩の青春ピュアBL。 ☆8話完結の短編になります。

届かない手を握って

藍原こと
BL
「好きな人には、好きな人がいる」 高校生の凪(なぎ)は、幼馴染の湊人(みなと)に片想いをしている。しかし湊人には可愛くてお似合いな彼女がいる。 この気持ちを隠さなければいけないと思う凪は湊人と距離を置こうとするが、友達も彼女も大事にしたい湊人からなかなか離れることができないでいた。 そんなある日、凪は、女好きで有名な律希(りつき)に湊人への気持ち知られてしまう。黙っていてもらう代わりに律希から提案されたのは、律希と付き合うことだった───

処理中です...