ある日、友達とキスをした

Kokonuca.

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藍我 side

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「まこと……オレのこと、嫌だった のかな」
 
 あんまりにもな結果に部屋の隅で膝を抱えていたオレの携帯電話に着信が入ったのはその時だった。





 駅の出口で、まことと同じくらいの位置にある茶色い頭を見下ろしてため息を吐いた瞬間、腹にどっと衝撃を受けて倒れ込みそうになる。
 オレの腹に向かって拳を突き出して、「井上桃路」はつまらなさそうに唇を尖らせた。

「まこちゃんは?」

 ひさしぶり とも何も言わず、第一声がそれだ。

「熱」

 さっきも電話で話したし、そんな改まった仲じゃないのは重々承知だったが虫の居所が悪かった。
 一言だけ返したオレに、桃路は旅行かばんを投げて寄越す。

「えー! つまんなーい、なんか面白いことない?」
「ない」

 オレ達の会話は会話になっているのかなっていないのかさっぱり分からないようなやり取りだ。

「せっかくこっちにきたんだから、幼馴染達に会いたかったなぁ」

 まことのどんぐり目のように大きいけれど、どちらかといえば猫の目のような印象のある瞳がオレを見上げる。
 荷物を突き返し、「うるさい」の一言で収められる場面だったけれど、まことに嫌われていたって理解してしまった自分には何か集中して頭の中を空っぽにしなければならなかった。

「ほら、手続きとかもしなくちゃならないんだから、キビキビ動いてよ!」

 つん と尖らせた唇を針と糸で縫いつけてやりたいって思いながらも、オレは桃路に逆らわずに旅行かばんを肩にかけた。

「他の荷物は?」
「んー……持っていかなくてもいいでしょって言われて、持ってこれなかった。後から買い足すよ」

 自分の生活に使うものが一式あるというのに、人に言われたからそれらをすべて置いてきてしまえる桃路の考えについていけなくて、ムッと眉間に皺が寄る。

「おばあちゃんは、ものは大切にしなさいって言ってたぞ」
「夏ばぁ?」
「うん」

 許可の出た夏休みにだけこっちに来る桃路からしてみれば、オレの祖母は『夏のおばあちゃん』、略して夏ばぁになる。
 一人暮らしが怪しくなって、施設に入ってもうずいぶん経つから、こうして祖母の話ができるのは貴重だった。

「ぅわぁ……田舎ぁー……」

 感嘆と共に吐き出されたため息が田んぼを渡る風にさらわれて、あっという間にかき消されてしまう。
 目の前の首を垂れる稲穂を見て田舎と言っているが、それでも最近は家がいっぱい建ち始めて都会になってきたなって思っていた。

 でも、桃路の住んでいた辺りから見るとまだまだ田舎らしい。

「こんなところ、まこちゃんがいなかったら来ないのに」

 そう言って遠くを見る姿は昔と同じでどこか線が細い。


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