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しおりを挟むラフィオはあの地方の特産物だったか?女達の間で紅としても、服の染料としても重宝されているのは疎い俺でも知っていることだ。
「テリオドスではそうやって子供を風呂に入れるのか」
「ロカシのお家ではそうするって っ」
ふいに口を衝いて出てしまった言葉なのだろう、ほんの少し明るくなりかけた顔がさっと曇って気まずいものに変わってしまった。
ふとした会話の中でその名前が出ると言うのは、その人物がどれだけ身近にいるかを表してる。
急に静まり返ったせいか、簡素な宿の部屋の中は再び振り出してきた雨の音だけが響く牢獄のようで……
「…… あの、クラド様もお湯を」
服を着せられるのをむずがる赤ん坊に視線を遣る振りをしながら、はるひはそう言って下手な笑いを見せてくる。
「いや、お前が先に 」
「ヒロがっ そろそろお腹を空かせる時間なので……」
他意はない。
ない が、つい言葉に釣られて視線がはるひの胸へと移ったのを気取られたらしい。
見えてもいないのに慌てて胸元を押さえて半身に構えると、警戒するように身を縮こめてしまう。
あの小屋ではるひが本当に子を産んだのか確認するために仕方がなかったとは言え、授乳中の抵抗できない時を狙って触れたのは確かにこちらが悪かったのは認める。けれどここで「他意はない」「仕方なく」「確認のために」を繰り返すことは逆に下心を認めてしまうような気がして、出来る限り気にしていないふりをして背を向けるしかできなかった。
「 ────っ」
体を捻った拍子に走った攣れる痛みに呻き、糠の入った袋を放り出す。
脇から腹にかけて裂けるように走るその傷跡は、ゴトゥス山脈での瘴気と魔物との決戦に近いあの戦いで負ったものだ。もっとも大きな傷がこれと言うだけで、体中は大小問わず傷塗れだった。
幾つかは時間が経てば消えるものもあるだろうが、経験則からほとんどの傷は消えずに残るだろう。
それでも、五体満足で帰ってこれたのだから良かった。
騎士学校で共に学んだ友人の幾人かは騎士を辞めざるを得なくなり、もう幾人かは体すら残らなかった。
そう言う戦いだった。
高を括っていたのかもしれないし、かすががいることによってこちらに慢心が出ていたのかもしれない。それほどあの異界から来た巫女は美しく、荘厳で、苛烈で……かすがを守れたことを誇りに死んでいった者もいるだろう。
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