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おまけ 32
しおりを挟むミロクや兄、それに幼馴染であるスティオン達がもみくちゃにしてくれたおかげで寂しいや劣等感を覚えることなどはなかったけれど、親子間でのどうしても親でなければ埋められない部分はうら寂しいものが常につきまとっていた。
母は、俺を恨んでいるのだと思っていた時期もあった。
五大王国すべてから認められた剣聖でありながら、俺を産んだ際の無理が祟って騎士を引退せざるを得なくなったのだと、口さがない貴族連中の噂話で知った時は、俺を避ける理由が分かった とほっとしたものだ。
せめて剣聖である母の跡を継ぐことができれば多少は貴族の口を閉ざすこともできただろうが、それすらできない俺に、母は失望しているんじゃないかって……
「ロニフ様はクラド様のことを大切にしてらっしゃいます!」
ぴく と耳が音を拾って勝手に忙しなく震えるのが分かる。
珍しいはるひの大きな声に自然と拳に力が入った。
俺のことを思って……
俺のために……
大人になった今ならばそれなりの考えに至ることができるのだろうが、幼い頃にはそんな思いに気づくことは出来ずに、ただただ、こちらを見ない母に振り向いて欲しくて堪らなかった。
例えそれが俺のためなのだとしても、その背中を見つめ続けるのは切なくて……
俺の母への一方通行の思慕は届かないものだと思っていたけれど、はるひの言葉で補完されてしまうとなんてことはないと思えるほど呆気なく、母が何を思っていたのかが腑に落ちる気がした。
子供のことを思うなら、俺はどうだろうか?
必要ないと思っていた重苦しくて不自由な肩書きを欲して、苦手な陛下に請願しに来るくらいは簡単にできてしまうのだから、俺のためを思って距離を取ろうとした母の気持ちを鼻で笑うことはできなかった。
「 それに、ロニフ様を大切に思って」
う と思わず息が詰まる。
親として敬愛しているし尊重もしているけれど、この歳でそう言うはっきりとした言葉で母親への気持ちを言われてしまうと、尻がむずむずとするようななんとも言えない居心地の悪い気分になり……
「 愛情を感じていなければ母上なんて呼ばないと思います」
これ以上ないと言うほどきっぱりと言い切られてしまうと、なんとも言えないなんて言ってられないほどのむず痒さに思わず立ち上がった。
母を「母上」と呼んでいたのは意地のような、なんとか俺から繋ぎとめることのできる縁的なものだと思っていたけれど、それに愛情と言う名前がついてしまうと、もういい歳で子供までいるのに子供扱いされたような気分になってしまい、いたたまれずに宛がわれた客室へと駆け戻る。
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