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素質

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 「行け、ウルフ!」
 『ヴォン!!』

 タイチによって指示が出されたウルフは勢いよく中央へ飛び出し、喉を唸らせ威嚇している。それなりの魔力量と攻撃力があるウルフはそこそこ経験を積めば難しくないが、初めてで契約できる人間は結構少ない。それもあって、広場の市民たちの盛り上がりは、一気に最高潮まで高まった。

 「アズマさんのとこのタイチくんはやるなぁ!」
 「まさかとは思っていたが、ウルフか……こりゃあトウドウの坊ちゃんも分からないな。」
 「あーんな小さい子じゃ太刀打ちできないんじゃなのかねぇ……」
 「しっかし、トウドウの坊ちゃんも坊ちゃんで、小さいとはいえ一気に四匹と契約かい……今年は豊作の年か?」

 裏庭という森で暮らしていたリッカは耳も多少他より優れているもので、聞き取れてしまった。やはり今の年でウルフと契約することは非凡な才であるのだと再認識する。広場の中央でさあこいと言わんばかりに待ち構えるウルフに向かって、白虎も意気揚々と歩みを進めた。まだ、解札は使わない。

 「行っておいで、シロくん。」
 『がんばっちゃうよー!』
 「ほどほどにね。」
 『それはもちろん!じゃないとままがまけちゃう!』
 『ウルフは咆哮による威嚇と鋭い爪を武器とした近接攻撃型です。白虎、万が一にもないと思いますが、気を付けてください。』
 『あいあいさー!』

 がう、と可愛く鳴いた白虎は小さい手足をぽてぽてと動かし、中央へ近づく。その光景はあまりにもかわいらしく、これから森の魔獣であるウルフと戦うとは思えなかった。いやむしろ、戦えるとは思えなかった。

 『まったく、ヤになっちゃうよね!ぼくだってやるんだから!』
 『ヴォン!ガウッ』
 『え?おまえにはむりだって?きみもそんなこというの?』
 『グルッ』
 『ふーん、こうかいしてもしらないからね!』

 急激に変わった白虎のオーラに、ウルフは警戒の音を上げると数歩下がった。そんな様子のウルフにタイチは喝を投げかけ、自身も魔法を飛ばした。
 魔法に気づいたリッカだが、何をすることもなく白虎を見守る。決して、見捨てているわけでもなく、防護魔法が使えないわけでもなく、リッカは今回の戦いを白虎に全て任せているのだ。

 「《火球ファイヤーボール》!!」
 『わっびっくりした!』
 「ちゃんとよけてね、シロくん。」
 『うん!』

 ウルフからの爪による一閃とタイチからの《火球ファイヤーボール》を危なげなく避けると、少しリッカ寄りに戻ってくる。その動きで何もできないのではない、と感じたタイチはウルフを自分の方へ呼び戻した。
 
 「ふん、少しはやるみたいだな。」
 「いちいち上からなんだよなぁ」
 「何か言ったか?」
 「いーえ、なんでも。」

 ふん、と息をついて、リッカはバッグの中に忍ばせていた解札へ手を伸ばした。そろそろいいだろうとちらりとヒイラギを見れば、読めない表情でにこりと笑っていた。

 「シロくん。」
 『お、やっちゃう?まま、やっちゃう?』
 「うん、そろそろいいと思うし。」
 『りょうかい!』

 威勢よくガウッと鳴いた白虎にタイチもウルフも身構える。ついでに言うならば、その緊張感漂う空気に市民のほとんどが息をのんで見守っていた。にやにやと笑っているのはトウドウの関係者だけである。
 取り出した解札へ筆で陣を書き込んでいく。あらかじめ書いて用意しておいてもよかったのだが、ある程度のパフォーマンスも必要だろうという父の意見を取り入れてのことである。リッカのやりだしたことにタイチは疑問を覚えながらもウルフに攻撃の指示を出しているのだが、遅い。リッカの魔法実行速度はずば抜けて早いのだ。解札へ魔力を流し込み、呟く。

 「《かい》」
 
 リッカの声と共に白虎を白煙と桃色の花びらが包んだ。何事かと周囲が騒がしくなるのだが、そんなものは関係ないと言わんばかりに白煙と花びらは増える。ウルフは嫌な予感を感じ取ったのか、唸り声を強くした。それと同時に竜巻のように巻き上がった白煙はその存在を徐々に消していき、白虎本来の姿が現れた。
 真っ白な毛並みに黒い縞模様。二本の尾に大きな、咆哮。周囲の人間たちはみな、唖然としていた。

 「派手に暴れておいで、シロくん。」
 『まかせて、リッカ!』

 前足を派手に地面に打ち付けるだけで、地響きが鳴るほど、白虎の本来の姿は大きい。威圧の籠った咆哮に、ウルフは目を回して倒れていた。完全に、気絶である。
 タイチも反撃しようとウルフへ指示を出そうとするのだが、気絶してしまっている以上どうにもならないし、こうなってしまえば戦闘不能であるために、タイチは負けを認めるしかなかった。しかし、小さな子従魔がどういう原理で大きくなったのか、疑問は残る。
 ヒイラギの勝負決着の合図の後、タイチはリッカへ詰め寄った。

 

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