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リッカとタイチ
決意
しおりを挟む両親へ合格且つ特待生コースのことを報告すれば、それは大層喜ばれた。やはり公式にきちんと乗っていなくともそういうものがあるというのは噂で流れるらしく、誇りだとリッカは頭を撫でられるというオプション付きで褒められわたのだ。いつもよく褒めてくれる両親だったが、今回は度を越えていたと思う。
そんなリッカだが、クロスから祝いの言葉をもらい夕飯を済ませた後、裏庭にふらりと足を運んでいた。
「……こーちゃん。」
聞こえるか、聞こえないかのか細い声。だがしかし、そこに黄龍は現れた。月の光が森の中を照らし幻想的な景色を生み出している中にさらに神々しく荘厳な黄龍が現れるとさらにそこは現世離れするようなもの。リッカは小さく笑みを浮かべ、黄龍の方へ近づいた。
「聞こえたんだ?」
『ああ。私が坊の声を聞き逃すはずがないだろう?この国にいる限りはな。』
「そっか……。」
『して、どうしたのだ?』
ふんわりとした優しい瞳でリッカを見る。神獣たちは疲れてしまっているのかもうリッカの部屋のベッドで眠ってしまっているため、間を繋ぐような存在はいない。(ちなみに守るためにリッカのそばにいなくてもいいのか、と言う疑問は黄龍がいるから、という一言で片づけられる。)
なかなか口を開こうとしないリッカに黄龍は首を傾げ、リッカのその小さな身体を自身の方へ引き寄せ自分の大きな体で包むように抱きしめた。
『坊、坊……何故、そのように悲しそうな顔をしているのだ。』
「……僕は、」
長い沈黙の後の声。黄龍はその言葉を促すようにベロりと頬を舐めた。
「僕はね、こーちゃんに任されたから……あの子たちを守らなきゃって思ってたんだけど……」
『……それで?』
「同郷の感知能力が高い人にも、森人族の一族にもすぐばれちゃうし、別に大丈夫って分かっててもバレたからってすぐ精神不安定になるしで……情けないなって思って、」
『坊は情けなくなどないさ。私のお願いを聞いてくれているのだろう?』
「ん……でも、やっぱりいちいち心を乱すのはみっともないって思っちゃうんだ。」
思い出して嘲笑するように言うリッカは、小さな声を上げてくすくすと笑っている。その様子がどうにも見ていられなくて、黄龍はきゅっと抱きしめる手に力を入れた。
『坊はまだ十二。大人のようになる必要はないのだ。あまり成長を急くでない。』
「ん、分かってる。分かってるけど気持ちの問題。だからね、こーちゃん……」
『なんだ?』
頼りないような儚い声色で発されていたリッカの言葉に力が入ったように感じた黄龍は、抱きしめる手をほどき、しっかりとリッカと目線を合わせる。その目は、決意がこもり熱を帯びていた。それを見た黄龍はごくりと喉を鳴らす。
「僕ね、もっと強くなりたい。」
『……技術的には何の問題もないだろう?それに、あ奴らもいる。』
「ううん。心の強さが欲しいの。」
『それは一朝一夕では身につかないし、年単位でも身につくかどうか分からないぞ……?』
「分かってるよ。だから、心がぶれないような強さが欲しい。」
リッカが戯言を言っているような表情ではないと黄龍は分かっている。冗談で言っているのではないと、ちゃんと気づいている。黄龍は分かりやすくため息をつくと、分かった、と確かに言葉にした。
「ほんと?ありが、」
『だがな坊。』
「……なあに?」
『あ奴らは守られなければいけないほど弱くはないし、坊の心も坊が感じているほど弱くはないのだぞ。ヒイラギも、絶対にバレてはいけないと言っていたわけではないだろう?要は、ある程度隠せていればよいのだ。いろいろな種族がいる中、完璧に隠し通すのは難しいのだから。』
「……うん。ちゃんと、理解してる。」
『そうか?』
本当に、分かっているのか?とリッカに尋ねる黄龍の表情は優しいものだ。それを不思議に思っていると、不意にリッカは自分の背に衝撃を感じた。四つほどの重みは、もはやすでに慣れ親しんだ神獣たちのもの。寝ているはずのその存在に驚いて四匹を抱き留めれば神獣たちは涙を流していた。
『ままは、弱くないよ!』
『私たちはいつもお母様に守ってもらっています。十分なくらいです。だから、だから……一人で抱え込まないでください……!』
「シロくん……すーちゃん……」
きゅっとリッカに抱き着いて懇願するように言う二匹にリッカは何かに気づかされたように目を見開いた。
『お母さんは僕らのことまだ赤ん坊か何かかと思ってるでしょ?』
「いや、そんなことは……」
『少しはあるから僕らのことがバレるたびに考えこんじゃうんだよ。バレて仮に襲われたとしても僕らはお母さんのこと含めて自分たちのことを守り切れる自信がある。守ってくれようとするのは嬉しいけど、僕らにも相談してほしいな。』
「ゲンくん……」
『母さんってばいっつも一人でグルグル悩むんだから、俺らも頼ってほしいよー?だって、家族でしょ?』
「!……家族。」
神獣たちの心の内に秘めてあったものだろう。それがリッカの今考えていることを聞いて堪えられなくなり、リッカ本人にぶちまけたのだ。リッカの衝撃と言ったらないだろう。驚いた表情が全く隠せていない。そんなリッカが珍しいのか神獣たちはずいずいと顔の近くで見ようと身を乗り出すし、黄龍は面白がって止めないしでリッカはついに重さに耐えれずに尻もちをついてしまった。
情けないような、何とも言えない姿にリッカも神獣たちも目を合わせ、声をあげて笑い始めた。
「く、ふふふっ……あーあ、なんだかいっぱい考えてたのがバカみたい。」
『そうだよ!一人で考えるのはだめ!』
「んー、うん。今度からちゃんと相談する。」
『理解、できたか?』
「うん。今度こそちゃーんと、分かったよ。」
『そうか、それならよかった。ところでな、坊に教えるにちょうどいいものがあるんだが……』
尻もちをついて、四匹と一人で散々笑った後、黄龍が穏やかな表情でリッカに提案を持ち掛けてきた。リッカはその言葉にバッと顔を上げ、黄龍の瞳を見つめる。その瞳がどういうことだと、それは一体なんだとキラキラ輝いていた。
「僕に、ちょうどいい?」
『ああ、しかしそれは消失魔法と違ってそう簡単に習得できるものではないぞ?お主がここを旅立つまでの半年でどれほどの出来になるかは私ですら分からない。それでも、やるか?』
「……」
『坊?』
使えるようになるか分からないが、自分にぴったりの魔法。リッカが挑戦しないはずがなかった。
「やる。やるよ、こーちゃん。」
『これ以上に厳しくなるぞ?ついてこれるか?』
リッカは黄龍の挑戦的な視線にニッコリと笑い返した。
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