36 / 91
リッカとタイチ
・
しおりを挟む三人の意見がまとまったのを確認してジルは話を切り替えるように声をかけた。
「さて、説明は以上だ。また相見える日は半年後だが、他の入学者と変わったことは特にないから安心してくれ。」
「あ、無いんだ……。てっきり何か面倒くさいのがあるのかと思っちゃった。」
「……ちなみに聞くが、もしあったらリッカはどうするつもりだったんだ?」
「ん?もちろんタイチに押し付けるよね!」
「だと思ったよ!」
ひどい……と肩を落とすが、それを真に受けて相手にするようなリッカではない。腕の中の神獣たちを撫でながらリッカは和やかな雰囲気になっている中退散を告げた。もうここの部屋に入って一刻は経っている。流石に長いのしすぎだろうと立ち上がった。
「じゃあ僕ら、そろそろ行きます。」
「これから半年我慢なんて、耐えられないなぁ……」
「耐えてください。僕も耐えるんで。」
「……何に耐えるんだい?」
「スケッチ。ノアさんのノーツとルキ、今度会った時にスケッチさせてくださいね。」
「この子達が嫌がらないならいいけど……絵、描くんだね?」
まるで意外だと言わんばかりの声色にリッカは分かりやすくむくれた。リッカにとってスケッチとは時に食事や睡眠よりも優先したくなるほどの趣味である。それをノアが知っているわけではないので、しょうがないのではあるが。タイチはリッカの心情に気づいているのか、こっそりとノアに耳打ちをした。
「リッカは魔獣のスケッチが大好きなんです。とてもうまいんですよ。」
「そうなの?それはぜひ見てみたいなあ。」
「そっくりですよ、本当に。リッカが見せてくれるかは分からないですけど。」
「そっか……あ、そうだ思い出した、二人とも僕に敬語は使わなくていいからね?なんだかむず痒いや。」
ぽん、と手を打ちノアは思い出したかのように告げた。その発言に慌てたのはタイチである。リッカはその言葉を聞くや否や、「あ、そう?じゃあ遠慮なく。」と躊躇いもなく敬語を外したのだが、そう簡単に行かないのがタイチである。年上は敬うべきという教育が特に厳しかったタイチには敬語を外せというのが難しいのだ。リッカにも敬う心はあるのだが、当の本人がいいと言っているのである。遠慮はいらないと思ったのだ。ちなみに余談だが、カガチは何となくムカついたので敬語を外しただけである。
「お、俺はそう簡単に敬語はとれないです……」
「そっか……ま、おいおいでいいや。じゃ、またね。」
「ん、またね。ノア……アカデミー長も、また半年後に。」
「ああ、それまで息災でな。セイイチにもよろしく頼む。」
「はい。ほら、タイチも。」
「……今日はありがとうございました。また、半年後に。」
ぺこりと頭を下げると、ジルは満足そうに手を振ってくれた。ノアに促され小部屋を出て学長室を後にする。廊下にはもう合格者は残っていないようで、シンっと静まっていた。リッカ達も泊っている宿に帰ることにして、アカデミーの門まで見送りに来てくれたノアに別れを告げる。
また、と手を振りあいたどり着いた宿では合格したというリッカ達の報告に、店主はにっこりと笑って食事をタダで振る舞ってくれた。おいしい料理に舌鼓を打ち、一晩過ごしてからの帰郷となる。店主は、また来いとリッカとタイチ二人の頭をガシガシと撫で、送り出してくれた。
「ほんと、いい人だったね。」
「ああ……。半年後、また会いに行こう。」
「うん、そうだね。」
再度、ウルに乗っての移動である。
そしてロアの王都を出たその日の夕方、リッカ達はフィラノの検問所の前にいた。遠目に見る検問所にはまだ人が残っているようでほっとする。ウルに乗ったまま検問所に近づくと、衛兵は驚いたのちリッカ達の姿を確認し、さっと通してくれた。おかえり、と言う言葉つきである。
リッカ達がウルから下りると、ウルもいつものちょうどいいサイズに変化した。
「結果はどうだった?」
「二人とも合格でした。」
「そうか、そりゃよかった。サイガ様もセイイチ様も喜ばれる。」
我関せずというリッカの代わりにタイチが答え、その場を後にする。道の途中でタイチとは別れ、また翌日会うことを約束した。神獣たちとちょこちょこ会話をしながら帰路を進む。たった数日いなかっただけでも懐かしく感じるもので、どこか新鮮さを感じた。
そこに、一匹の一角獣が現れ、リッカに笑顔が生まれた。サクラの従魔のユニである。
「ユニ、迎えに来てくれたの?」
『主の頼みだ。それに、私もお主に会いたかった。』
「僕も会いたかったよー!後でスケッチさせてくれる?」
『それくらい、造作もない。神獣様もお疲れ様でした。』
『ありがと、ユニ。』
『主ということはサクラさんにお母様のことを迎えに来るように頼まれたのですか?』
『ああ。そろそろ帰ってくる頃だと言われました。』
一つ、鳴き声を上げリッカにすり寄りユニは答えた。すべすべの毛並みが気持ちいいとばかりにリッカはユニに抱き着き、頬擦りする。いつもは嫉妬して許せないと感じてしまう神獣たちだが、ユニが主一番ということは分かっているし、幼いころからリッカと共に過ごしていることを知っているため、傍観に努めることにしている。
満足したのか、リッカがユニから離れるとまるで乗れと言わんばかりにユニは身をかがめた。リッカの中に遠慮など無い。しっかりと地面を蹴りユニの背にまたがると、ちょうどいい位置を探して身を安定させた。
「おっけー!大丈夫だよ。」
『荷物も多いようだから走りはしないが、しっかり掴まっているんだぞ。』
「ん、お願いね。」
『よろしくね、ユニさん。』
『母さんが落ちないようにしてくれよ!』
『任せてください、玄武様、青龍様。』
もう一つ鳴き、ユニは歩みを進めた。目指すはサクラとセイイチの待つ自宅である。
見慣れた従魔、ユニや景色を見て改めてリッカは自分が故郷に帰ってきたことを実感したのだった。
1
あなたにおすすめの小説
悪役令嬢に転生したので、ゲームを無視して自由に生きる。私にしか使えない植物を操る魔法で、食べ物の心配は無いのでスローライフを満喫します。
向原 行人
ファンタジー
死にかけた拍子に前世の記憶が蘇り……どハマりしていた恋愛ゲーム『ときめきメイト』の世界に居ると気付く。
それだけならまだしも、私の名前がルーシーって、思いっきり悪役令嬢じゃない!
しかもルーシーは魔法学園卒業後に、誰とも結ばれる事なく、辺境に飛ばされて孤独な上に苦労する事が分かっている。
……あ、だったら、辺境に飛ばされた後、苦労せずに生きていけるスキルを学園に居る内に習得しておけば良いじゃない。
魔法学園で起こる恋愛イベントを全て無視して、生きていく為のスキルを習得して……と思ったら、いきなりゲームに無かった魔法が使えるようになってしまった。
木から木へと瞬間移動出来るようになったので、学園に通いながら、辺境に飛ばされた後のスローライフの練習をしていたんだけど……自由なスローライフが楽し過ぎるっ!
※第○話:主人公視点
挿話○:タイトルに書かれたキャラの視点
となります。
転生美女は元おばあちゃん!同じ世界の愛し子に転生した孫を守る為、エルフ姉妹ともふもふたちと冒険者になります!《『転生初日に~』スピンオフ》
ひより のどか
ファンタジー
目が覚めたら知らない世界に。しかもここはこの世界の神様達がいる天界らしい。そこで驚くべき話を聞かされる。
私は前の世界で孫を守って死に、この世界に転生したが、ある事情で長いこと眠っていたこと。
そして、可愛い孫も、なんと隣人までもがこの世界に転生し、今は地上で暮らしていること。
早く孫たちの元へ行きたいが、そうもいかない事情が⋯
私は孫を守るため、孫に会うまでに強くなることを決意する。
『待っていて私のかわいい子⋯必ず、強くなって会いに行くから』
そのために私は⋯
『地上に降りて冒険者になる!』
これは転生して若返ったおばあちゃんが、可愛い孫を今度こそ守るため、冒険者になって活躍するお話⋯
☆。.:*・゜☆。.:*・゜
こちらは『転生初日に妖精さんと双子のドラゴンと家族になりました。もふもふとも家族になります!』の可愛いくまの編みぐるみ、おばあちゃんこと凛さんの、天界にいる本体が主人公!
が、こちらだけでも楽しんでいただけるように頑張ります。『転生初日に~』共々、よろしくお願いいたします。
また、全くの別のお話『小さな小さな花うさぎさん達に誘われて』というお話も始めました。
こちらも、よろしくお願いします。
*8/11より、なろう様、カクヨム様、ノベルアップ、ツギクルさんでも投稿始めました。アルファポリスさんが先行です。
異世界で目覚めたら、もふもふ騎士団に保護されてました ~ちびっ子だけど、獣人たちの平穏のためお世話係がんばります!!~
ありぽん
ファンタジー
神のミスで命を落とした芽依は、お詫びとして大好きな異世界へ転生させてもらえることに。だが転生の際、またしても神のミスで、森の奥地に幼女の姿で送られてしまい。転生の反動で眠っていた瞳は、気づかないうちに魔獣たちに囲まれてしまう。
しかしそんな危機的状況の中、森を巡回していた、獣人だけで構成された獣騎士団が駆け付けてくれ、芽依はどうにかこの窮地を切り抜けることができたのだった。
やがて目を覚ました芽依は、初めは混乱したものの、すぐに現状を受け入れ。またその後、同じ種族の人間側で保護する案も出たが、ある事情により、芽依はそのまま獣騎士団の宿舎で暮らすことに。
そこで芽依は、助けてくれた獣騎士たちに恩を返すため、そして日々厳しい任務に向かう獣人たちが少しでも平穏に過ごせるようにと、お世話係を買って出る。
そんな芽依に、当初は不安だった獣人たちだったが、元気で明るい瞳の存在は、次第に獣人たちの力となっていくのだった。
これはちびっ子転生者の芽依が、獣人や魔獣たちのために奮闘し、癒しとなっていく。そんな、ほっこりまったり? な物語。
転生幼子は生きのびたい
えぞぎんぎつね
ファンタジー
大貴族の次男として生まれたノエルは、生後八か月で誘拐されて、凶悪な魔物が跋扈する死の山に捨てられてしまった。
だが、ノエルには前世の記憶がある。それに優れた魔法の才能も。
神獣の猫シルヴァに拾われたノエルは、親を亡くした赤ちゃんの聖獣犬と一緒に、神獣のお乳を飲んで大きくなる。
たくましく育ったノエルはでかい赤ちゃん犬と一緒に、元気に楽しく暮らしていくのだった。
一方、ノエルの生存を信じている両親はノエルを救出するために様々な手段を講じていくのだった。
※ネオページ、カクヨムにも掲載しています
猫好きのぼっちおじさん、招かれた異世界で気ままに【亜空間倉庫】で移動販売を始める
遥風 かずら
ファンタジー
【HOTランキング1位作品(9月2週目)】
猫好きを公言する独身おじさん麦山湯治(49)は商売で使っているキッチンカーを車検に出し、常連カードの更新も兼ねていつもの猫カフェに来ていた。猫カフェの一番人気かつ美人トラ猫のコムギに特に好かれており、湯治が声をかけなくても、自発的に膝に乗ってきては抱っこを要求されるほどの猫好き上級者でもあった。
そんないつものもふもふタイム中、スタッフに信頼されている湯治は他の客がいないこともあって、数分ほど猫たちの見守りを頼まれる。二つ返事で猫たちに温かい眼差しを向ける湯治。そんな時、コムギに手招きをされた湯治は細長い廊下をついて歩く。おかしいと感じながら延々と続く長い廊下を進んだ湯治だったが、コムギが突然湯治の顔をめがけて引き返してくる。怒ることのない湯治がコムギを顔から離して目を開けると、そこは猫カフェではなくのどかな厩舎の中。
まるで招かれるように異世界に降り立った湯治は、好きな猫と一緒に生きることを目指して外に向かうのだった。
莫大な遺産を相続したら異世界でスローライフを楽しむ
翔千
ファンタジー
小鳥遊 紅音は働く28歳OL
十八歳の時に両親を事故で亡くし、引き取り手がなく天涯孤独に。
高校卒業後就職し、仕事に明け暮れる日々。
そんなある日、1人の弁護士が紅音の元を訪ねて来た。
要件は、紅音の母方の曾祖叔父が亡くなったと言うものだった。
曾祖叔父は若い頃に単身外国で会社を立ち上げ生涯独身を貫いき、血縁者が紅音だけだと知り、曾祖叔父の遺産を一部を紅音に譲ると遺言を遺した。
その額なんと、50億円。
あまりの巨額に驚くがなんとか手続きを終える事が出来たが、巨額な遺産の事を何処からか聞きつけ、金の無心に来る輩が次々に紅音の元を訪れ、疲弊した紅音は、誰も知らない土地で一人暮らしをすると決意。
だが、引っ越しを決めた直後、突然、異世界に召喚されてしまった。
だが、持っていた遺産はそのまま異世界でも使えたので、遺産を使って、スローライフを楽しむことにしました。
異世界カントリーライフ ~妖精たちと季節を楽しむ日々~
楠富 つかさ
ファンタジー
都会で忙しさに追われる日々を送っていた主人公は、ふと目を覚ますと異世界の田舎にいた。小さな家と畑、そして妖精たちに囲まれ、四季折々の自然に癒されるスローライフが始まる。時間に縛られず、野菜を育てたり、見知らぬスパイスで料理に挑戦したりと、心温まる日々を満喫する主人公。現代では得られなかった安らぎを感じながら、妖精たちと共に暮らす異世界で、新しい自分を見つける物語。
一緒に異世界転生した飼い猫のもらったチートがやばすぎた。もしかして、メインは猫の方ですか、女神様!?
たまご
ファンタジー
アラサーの相田つかさは事故により命を落とす。
最期の瞬間に頭に浮かんだのが「猫達のごはん、これからどうしよう……」だったせいか、飼っていた8匹の猫と共に異世界転生をしてしまう。
だが、つかさが目を覚ます前に女神様からとんでもチートを授かった猫達は新しい世界へと自由に飛び出して行ってしまう。
女神様に泣きつかれ、つかさは猫達を回収するために旅に出た。
猫達が、世界を滅ぼしてしまう前に!!
「私はスローライフ希望なんですけど……」
この作品は「小説家になろう」さん、「エブリスタ」さんで完結済みです。
表紙の写真は、モデルになったうちの猫様です。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる