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第二章 アカデミー 入学編
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しおりを挟む「あ、ここみたい。」
寮にたどり着き、寮長から説明を受けやってきたのは寮の三階の角部屋だった。どうやら鍵のようなものは無く一緒に付属してある魔法具によって入れるものと入れないものと区別するシステムのようだった。魔法具に手を触れることで魔力を読み取り個々の判別をするらしい。要は入学試験の時の魔力適正検査をした魔法具と同じ仕組みのものを利用しているようである。手を置いてみると魔法陣が軽く光り、引き戸がスゥーっと音を立てて開いた。どうやらどちらかが魔力を流し込めばそれで鍵が解除されたのと同じ意味を成すらしい。
二人が入ってしまって、どう扉を閉めるのかと見つめるとその扉にはくぼみがあり、そこに手をかけ手動で閉めるらしい。そして勝手にロックがかかる、と。内側からは鍵も何もなくどっちにしろ開け閉めは手動のようである。
「どうせなら内側も魔法具使えばいいのに。」
「まあそう言うなよ……。外からならともかく内はいちいち魔法具なんて使うのは面倒だからいいだろ。」
「まあね。だけど、本当にこっちにはいろんな魔法具があるんだねぇ……。フィラノじゃ一個もみなかったけど。」
「その国々の特徴だろう。ヤマトが従魔関係に秀でているように、ロアは魔法具関連に秀でている、とか。」
そういう訳である。ちなみにヤマトは馴染みがないというよりは興味がないだけである。魔法鞄の中から日常用品を次々と取り出してそれぞれ与えられた個室にある衣装箪笥の中に突っ込み始めた。
それぞれの個室があり、リビングや洗面所、シャワー室は共有になっているようなのでとりあえずタイチと別れて荷物整理をしているわけである。神獣たちはころんころんとベッドの上で戯れている。ベッドはおそらくテイマー専用になっているのか、やけに広い。いつも一緒に寝ているのでありがたいが。タイチも同じようなベッドがあるのだろう。
『ふっかふか~~~!』
『いい寝床ですね。気に入りました。』
『これからもお母さんと寝れるってことだよね?』
『狭くても一緒に寝るけどな!』
ころころ、ころころ、ベッドの上を転がりながら話を続ける。そんな神獣たちの姿を見ながらリッカはふと筆を手に取るのだ。ここ半年、毎日毎日鍛錬として絵を描いたりはしていたが純粋にスケッチをすることはなかった。するりするりと筆は進み、あっという間に下書きを済ませてしまい、色絵具を手に取ると水バケツに魔法で水を入れ、色絵具をパレットに溶かしていく。その様子に気づいた白虎が目をキラキラさせてにこにこ笑っていた。
『お絵描き?』
「ん、ここ最近は鍛錬ばかりであんまり描けていなかったからね。みんな可愛いんだもん。」
『かっこいいじゃなくて?』
「本来の姿はね。でも今はかわいい。」
『お母さん、動かない方がいい?』
「んーん、動いていいよ。大丈夫。」
そしてもう一度戯れ始めるのだ。リッカはその光景にまんぞくするように筆を進めた。そうして半刻の半分も過ぎない時間が経ち、リッカの絵の進行度も六割を超えたというところで焦れたように部屋のドアがノックされたのだった。どうぞー、と気の抜けたリッカの声に激しく音を立てて開く扉。いるのはもちろんタイチである。
「おい、何やってるんだ。」
「何って、スケッチ?」
「夕飯の時間に遅れるんだが……」
「あ、もうそんな時間なの?」
「ああ。……夕飯、行くだろう?」
タイチの言葉にリッカは快く返事を返すと筆をおいた。今絶対に完成させなければいけないというわけではないので、すでに寝入っていた神獣たちを起こして身体に上らせた。ウルももう控えているようでタイチの後ろに見える。
二人一緒にリッカの部屋を後にし、そのままの流れで部屋を出た。寮の中は予め寮長に教えてもらっている。迷いなく食堂の方へたどり着き、扉を開けると妙に視線を感じた。が、リッカがそれを気にするわけもなくスタスタと注文をするところまで歩いていく。アカデミーの食堂と寮の食堂は分かれているようで、さまざまな容姿の生徒が揃っていた。
「何食べる?」
「あー……うん、気にしてる俺が馬鹿みたいだ。俺、このオムライスってやつ。」
「いつも言ってるでしょ、気にするだけ無駄。じゃあ僕このカルボナーラってやつにする。」
「……足りるのか?」
「足りるよ。」
料理の名前と共についている写真を見ながらタイチが訝し気に言う。何度も言うが、これでリッカの適量なのである。成長期であるタイチが異常なだけで。
二人の注文を聞いた食堂のコックのような人が、ニコリと笑って横で待つように言った。そして五分もせずにそれは用意されたのだった。
「おお、美味しそう。」
「初めて見るけど、結構いけそうだな。」
「……君の、量がおかしいけどね。」
「大盛りだからな。」
がっつり盛られたそれは信じられないほど多い。呆れながらもテイマー科、従魔持ち専用と記されている分けられた空間の空いている席に腰を落ち着けると途端に数名にわらわらと囲まれてしまう。そして、リッカたちを囲んだ彼ら彼女らのその表情は決して快く迎え入れてくれるようなものではなかった。
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