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授業編
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しおりを挟む『……ナゼ?』
パチパチと飛竜は瞬きをし、首を傾げている。低空飛行し、突進牛を追い立てていただけに、木々に近いところでバサバサと翼をはためかせ停滞しているのでその下の木々が大変なことになっていた。樹木の精たちも悲鳴を上げているらしい。フェリからそれを聞いたリッカは慌てて神獣たちを自分から降ろすとフェリから飛び降り、《飛翔》を行使して飛竜の目の前に立ち塞がった。
飛竜はいきなり目の前に現れたリッカに、またもぱちりと瞬きをし、驚いているようだったが、それ以上に顔を青くしているのがフェリを含めた神獣たちだった。
『まま!!!!』
『お母さんはどうしてそういつも無茶するの!!!』
『これ、俺らも行くか!?』
『フェリ!お母様の元まで行けますか!?いくら玄武の防護結界があると言えど飛竜は質が悪いです!』
朱雀の言葉にフェリが返事をしようとすると、下にいるリッカから気配で制されるのが分かった。まして封印の呪を施して契約をしている神獣たちにははっきりとわかるほどに来るな、と言われている。それを察してしまっただけにぴたりと神獣たちは動きを止めてしまった。フェリもリッカのただならぬ気配に身を固めている。何が何でも自分の元へは来させないらしい。リッカの治らない猪突猛進ぶりに、神獣たちはため息をもらした。
『母さん……。』
『全く。いつになれば私たちも一緒に連れて行ってくれるのでしょうか。』
『と言うよりも、多分今回は自分で解決するって言ってたからじゃないかな。』
『にしてもだよ!連れて行ってくれてもいいのに……ひどいよまま……。』
『りっかはいつもこうなの?』
『いつもこうです。フェリもお母様に振り回される覚悟をしておいてくださいね。』
『あらー……。』
しょうがない、と言わんばかりに苦笑いをこぼしながら言う神獣たちにフェリは今までのことを嫌でも理解してしまう。今後のことに一抹の不安を感じながら飛竜と対峙するリッカを見つめた。
一方そのころ飛竜と向かい合っているリッカは余裕を感じさせる表情で、飛竜を見つめていた。中々口を開かないリッカに焦れたのか、飛竜はしぶしぶと言った様子で口を開く。
『……誰ダ?オ前。』
「僕はリッカ。キミの名前はなあに?」
『……我ハ、スカイ。力アルドラゴンニ、名ヲ連ネル者ナリ。』
「スカイ、ね。とりあえず、いったん地面に足を付けない?樹木の精たちが困ってるみたいなんだ。」
『!……人間ノクセニ、精霊タチノ言葉ガ分カルカ。……イイダロウ。』
「ま、僕が理解できるわけじゃなくて、僕の従魔がなんだけどね。」
『ソレホドノ従魔ヲモツコトハ、スナワチ力をモツコトデアル。我ハ気ニシナイ。』
「そっか。」
翼を小さく動かしながら森の開けた場所に移動すると、飛竜はゆっくりと地に足をつけたそれを見てリッカもすとんと着地して魔法を解く。リッカと飛竜が地面に着地したのを見て、神獣たちは慌てたようにリッカの横へ降り立った。
『ホウ。ソヤツラガオ前ノ従魔カ。』
「そうだよ。……全く、近寄ってこないでって言ったのに。」
『ままを一人にする訳にはいかないでしょ!』
『すぐ単独行動するんだから……。』
『心配するので一言言ってから行動してくださいませ!!!』
「ご、ごめん……。」
キャンキャンと叫ぶ神獣たちにリッカは参った、と言わんばかりに肩を竦めてしまう。それを見て飛竜は愉快そうに声を上げて笑い始めた。急に聞こえてきた笑い声にリッカはびくりと肩を揺らし、飛竜を見る。確実に、面白がっている声である。
『オ前ハ、従魔ニ愛サレテイルノダナ。ソレニコヤツラハ神獣カ……フム、』
「スカイ、面白がってるでしょ。声が笑ってるよ。」
『スマナンダ……シカモ、コレハ……』
「なに……っ!?」
『お母様!?』
考え込むように唸った飛竜はリッカの何倍もある頭をリッカの頬に近づける。何の予兆もなく行われたそれに、さーっと神獣たちの顔が青ざめた。玄武の防護結界は敵意ある攻撃を弾き返すものであり、それがなければ何の障害もなく触れるわけで、飛竜に敵意がなければそのままペロリと行かれてしまうだろう。
驚いて固まっているリッカだが、硬直が解けても身構えることなくゆったりと構えている。フェリが、リッカを守ろうと一歩を踏み出したところでリッカの右手がフェリを制止していることに気づいた。リッカは問題ないと思っているらしい。不安であるが、従魔は主人に従わねばならないのである。もどかしい気持ちで神獣たちがやきもきしていると、頭をリッカの頬に近づけていた飛竜に動きがあった。
「ん、ふはっ……くすぐったいよ。」
『ウム、オ前ハ……懐カシイ匂イガスルナ。黄龍ノ寵愛ヲ受ケテイルノカ。』
「こーちゃんを知ってるの?」
『ハハハッ……黄龍ヲコーチャント呼ブカ!実ニ愉快……我ニモ何カ、呼ビ方ヲ考エテオクレ。』
べろりとリッカの頬をその舌で舐めた飛竜は優し気な瞳でそう言う。思ってもいなかったお願いにぽかんと口を閉じることができなかったが、リッカはじとりと飛竜へ視線を向けた。
もうすでに、名前らしい名前を持っているのに何故、という問いかけである。
「スカイって名前があるじゃん。」
『ソレハ我ガタダ名乗ッテイル名ダ。我モオ前ダケノ呼ビ方ガ欲シイ。』
「どこの我がまま困ったちゃんかな?……はあ、まあいっか。でも本当に適当だよ?いいの?」
『ヨイ、ヨイ。イイカラツケロ。』
「もう……。でもまず、僕のことちゃんとリッカって名前で呼んでよね。」
『ヌ……分カッタ。リッカ、コレデイイカ?』
縋る瞳。それはリッカが一番弱いものだ。飛竜のその瞳を見て、神獣たちはああ、と諦めた目をした。いつもの展開である。リッカの魔力はどうやらドラゴンにも有効のようだ。……いろいろと偶然が重なって気に入られたようにも思えるが。
「よし、じゃあスカイは……カイくんね。」
『オオ、ヨイナ。ウム。ソノ名、確カニ受ケ取ッタ。我ハ住処ニ帰るトシヨウ。アア、ソウダ、』
「ん?」
『我モ、黄龍ト同ジ様ニ鱗ヲヤロウ。キットリッカヲ守ッテクレルハズダ。』
「え、いいの?鱗ってすごく大事なものでしょう?」
『ヨイノダ。リッカダカラナ。名ヲ呼ベバ我ハ何処ニイヨウト駆ケ付ケヨウ。我ハリッカヲ気ニ入ッタ!』
そうしてリッカへ二枚の鱗を押し付け……渡すと、飛竜は愉快そうに笑いながら翼を大きくはためかせた。勢いよく飛竜が飛び上がった影響でリッカ達のいるあたり一帯に突風が吹き、反射で目を閉じてしまう。風が落ち着き、恐る恐る目を開けると、もう飛竜は目視できないところまで行ってしまっていた。
「っていうか、なんでカイくんは突進牛を追い立ててたの?」
もはやリッカのその疑問に答えてくれるものはいない。
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