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授業編
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しおりを挟む「はぁ!?」
リッカにしては珍しく声を荒げ、身を乗り出すようにジルへと詰め寄る。どういうことだとリッカの瞳がありありと語っていて分かりやすいそれに、思わずと言ったようにジルは笑い声をあげた。
「いや、笑いごとじゃなくて……クロスと師弟関係ってどういうことなんですか?」
「ああ、スマンな。……何、まだ私がこのアカデミーの長につく前の話さ。五十年も前、だな。クロスもリッカ君の家に仕えていないころの冒険者の頃の話だ。」
「クロスが、冒険者のころ……。」
「ああ。冒険者として一流だったクロスは何処に行っても名前を聞くほど有名だったんだ。」
「へぇ……。」
興味津々にジルの話を聞くリッカと、リッカ程ではないにしろ気になっているタイチ。タイチもトウドウ家にはよく行っていたので、クロスのことも知っている。そして、リッカがクロスの昔話を聞きたがっていたことも、知っていた。彼なりにクロスのことには興味があったのだ。
しかしそんなリッカとタイチとは逆に、ノアは何も知らない。困ったように笑みを浮かべながらおずおずと手を小さく上げた。
「ええっと……話の腰を折るみたいで申し訳ないんだけど、ちょっといい?」
「ん?どうかしたのか?ノア。」
「その……さっきから話題に出てるクロスさんって、誰なのかなって。いまいち話について行けてないんだけど……。」
「あ、」
申し訳なさをにじませながらそう言ったノアに、リッカは今気づいたとでもいうような反応を返す。そんなリッカに小さく笑みを返し、ノアは教えてほしいな、とただ一言そう言った。
「ごめんね、ノア。まさかアカデミー長がクロスを知ってるって思わなかったから……クロスはね、僕の家……トウドウ家に仕えている使用人たちをまとめてくれている執事なんだ。確か、オオカミの獣人族でね、加工技術がすごいの。この耳飾りもクロスがやってくれたんだよ。」
「なるほど、獣人族……だからか。」
「?……どうしたの?」
「いや、普通の人間で五十年前に一流冒険者だったのに今従者をやってるって、どれだけ長生きなんだろって思ったんだけど……獣人族なら納得だなって。」
「ああ、そういうね。」
「ん?どういうことなんだ?」
今度はタイチが理解できないとばかりに首を傾げる。そんなタイチの様子にリッカはしょうがないなとくすりと小さく笑った。あのね、と言葉を続ける。
「獣人族は人間より長生きだけど、森人族とは違って寿命がある種族なんだよ。ノアが納得したのもそこだね。一流冒険者ってことはそれなりに長い期間冒険者をしてるだろうし、そこから五十年たった今も従者をしてるって、普通の人間だったら相当長生きってことになるでしょ?」
「そうか、そういうことか。」
「理解した?じゃあこれで一通り説明も終わったしアカデミー長、話を続けてくれますか?」
「うむ。」
リッカの問いにジルは深く頷き、手元に置いていたカップを持ち上げ口に含む。喉をしっかりと潤し、ジルはまた口を開いた。
「当時テリトリーにしていた森でクロスと出会ったんだが、その時奴は重度の怪我を負っていてな。その治療を施したのが私だったのだ。」
「クロスが怪我を……」
「激しい戦いだったのだろう。もうボロボロで生きているのも不思議な程だった。それで回復した後にクロスの方から礼がしたいと申し出されて、私から加工技術を教えて欲しいと頼み込んだのだよ。」
「あ、師弟ってアカデミー長の方がお弟子さんなんですね。てっきりクロスの方かと……。」
「まあ、そこから数年師事して今に至るという訳だ。ああ、それとリッカ君もタイチ君も、ジルと呼んでくれて構わんよ。長いだろう?」
ジルからの提案にタイチは虚をつかれたように目を見開いた。礼儀に厳しいところのあるタイチには難しい提案だろうが、長いのも事実。ここは、素直に受け入れることにするようだった。
考え込んだようにリッカは顎に手を当てて唸っている。呼び方云々の前に鱗のことを考えているようだ。
「あー、でもまあ、クロスがお師匠様ってことは信頼出来るなぁ……」
「ジルさんにおまかせしていいんじゃないか?多分、ジルさん以上に適任っていないと思うが。」
「それに、僕もジルさん以上の技術師は知らないかな。」
「だーよねぇ……んー、お任せしてもいいですか?」
「ああ。期待に添えるように尽力しよう。」
巾着に入れた鱗をジルへ預け、リッカはぺこりと頭を下げた。
話に決着が着いたことを察したのだろう。朱雀はリッカの膝から下り他の神獣たちのいる所へ戻って行った。なんとかなったことにリッカは安心したように息をつき、ジルの手に握られた鱗を見つめた。
リッカの視線に気づいたジルはそういえばとリッカへ言葉を投げかける。
「この鱗はどういう風に加工すればいいんだ?」
「あーっと、耳飾りはあるから、出来ればそれ以外で首飾り……ネックレスとかブレスレットとかでお願いしてもいいですか?」
「了解した。しばらく時間を貰うが、完成したらノアに預けたらいいのか?」
「はい。お願いします。」
リッカはぺこりともう一度、お願いの意も込めて頭を下げた。
「よし、じゃあ報告終わりで疲れているところ悪いけど、明日のことについて説明したいから僕についてきてもらってもいいかい?」
パンッと手を合わせ、話に落ちを付けるようにノアは明るく言う。そんなノアの言葉にリッカとタイチは頷き、ジルに断りを入れ立ち上がった。部屋の隅で遊んでいた従魔たちに声をかけ、一緒に部屋を出る。
こうして事の顛末の報告会は終わりを迎えたのである。
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