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選手選抜編

一回戦

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 「まさか初っ端からルーベンと当たるとは……っていうか、ルーベンも参加するんだね……。」
 『自尊心の塊のような存在でしたからね。十中八九参加してくるだろうとは思いましたが最初から当たるとは……お母様、大丈夫ですか?』
 「大丈夫だよ。それに、これってチャンスだと思うんだよね。」

 リッカが言ったチャンス、という言葉に朱雀は首を傾げた。チャンスとは?と。リッカ的にはルーベンをぼこぼこにすることが公式的に許された場であると感じていた。オーバーアタックはダメにしろ、良い感じに実力の差を見せることができるだろう。
 実はここだけの話、ルーベンの嫌がらせはあの後も続いていた。地味なものだったのでリッカも神獣たちも、そしてフェリもなにも言わなかったが、心のどこかではうざったく感じてはいたのだ。普通の課外授業や自由時間は野良試合は禁止であるため、手の出しようがなかったのである。
 それが、今日はこうやって初戦で対戦と相成ったため、嫌な気持ちもあるがどちらかというとわくわくとした気持ちの方が勝っていた。

 「ここで実力の差を見せれば、ルーベンも流石に大人しくなると思うんだよね。」
 『流石にしつこいよなー……母さんってば相当あしらってたと思うんだけど、懲りなかったよなー!』
 「そうなんだよね。ちまちまちまちま……今もすっごく視線がうざったいんだよね。」
 『どうしてそんなにりっかにばっかり、やなことするんだろーねー?』
 『フェリは理解しなくてもいいことだよ。お母さん、とりあえず第一試合からだから定位置に行っておかないと。』

 玄武に言われ、リッカはそれもそうだと組み合わせ表を後にした。まだまだぞろぞろと他のテイマーらしき生徒たちが覗き見ている。いろいろな従魔……魔獣がいるわけで、リッカはたくさんの魔獣に目移りしそうになるが、今は本番が目の前に控えている。心を鬼にしてその場を去っているように見せているが実際のところ従魔たちにはバレバレであった。そこでわざわざリッカに突っ込むような従魔たちではないが、目は雄弁に語っていた。またリッカは気を取られているぞ、と。
 戻ってきた会場はいつの間にか綺麗に二つに分けられており、リッカ達は第一試合であるので入り口に近い方で試合を行うらしい。隣の試合に気を取られてしまったり、隣の試合の攻撃が飛んでくるのを防ぐための壁が土魔法か何かでできているようで隣の様子は確認できないが、もうすでに隣にも生徒がいる気配はした。

 「これ、よくできてるねぇ……。」
 『さっきまで何もなかったのにもう仕切られてるなんて中々やるね。それもこんな大規模。』
 『人間がやっているのであれば素晴らしいですが、おそらくこれは同胞の仕業ですね。』
 「同胞……?あっ!二号のこと??同胞って言うと神獣ってことだもんね?だと、カガチさんの二号くらいしかわかんないけど……土魔法が得意なの?」
 『まあ、カガチだし、得意でもおかしくはないかな。』

 幼体とは言え神獣であることに違いはない。可愛らしいその姿からは想像できないほどの大仕事にリッカは関心の声を上げた。
 束の間、ここ最近ずっと聞いてきた声が、リッカの耳に届く。

 「よう、まさかここで当たるとはなぁ?」
 「……。」
 「無視するなよ!俺が話しているだろうがぁ!!」
 「……いちいち叫ばないとしゃべれないの?耳が捥げるくらいうるさいからやめてくれる?」
 「大口を叩くのも今日までだ!今日こそは俺が勝ってお前の膝をつかせてやる!!!」
 「できるのならやってみればいいんじゃない?」

 売り言葉に買い言葉。まさにそんな表現が適格と言わんばかりのやりとりに周りのボルテージも上がっていく。リッカが連れている従魔が封印状態の神獣たちと小さくなったフェリということ、そしてリッカの容姿から主に女子生徒によって不満がルーベンへ投げつけられているが、そんなのは知ったこっちゃないと全て無視をしている。以前あれだけ突進牛ラッシュキャトルにぼこぼこにされたにも関わらずリッカにこんな風に突っかかれるあたり、本当にメンタルが強い。
 開始5分を切り、お互いに黙り込んだ。互いににらみ合っている状態だが、ルーベンが連れている従魔はどうにもやりたがっていないように見えた。

 「ねえ、あの子……。」
 『はい。本来であればあの魔獣は戦闘に向かないタイプですからね。嫌がっていても不思議ではありません。』
 「あいつ……なのに選抜戦に出ようとしてるの?」
 『何を思って参加しているかは分からないけど、あの子がかわいそう……ねえ、まま。』
 「ん、これは少し、許せないね。……できるだけあの子に手は出さずにルーベンを場外に出せればいいんだけど。」

 それが魔獣を傷つけず、且つ勝利を手に入れられる方法になるだろう。こそこそとリッカと従魔たちは作戦会議をし、ルーベンらを見据える。にやりと自身に満ちた笑みを浮かべているのがムカつくが、自分から声をかけるのは絶対に嫌だ。じろりと睨み返し、開始の合図を待つ。ちなみに作戦会儀をしていたリッカ達はリッカ達で自分たちなりに真面目にやっていたのだが、はたから見るとただただ小さい従魔とこそこそ話をする可愛らしい男の子、という風にしか見えなかったので、周りからは微笑ましく思われているだけに終わっていた。それがリッカに伝わることはないが。

 「それでは!これより、テイマー科の第一試合、第二試合を開始する!」

 カガチのスタートの合図とともにルーベンはリッカの方に突っ込んでくる。それをもろともせずにリッカは魔法を唱えた。そう、《標準チェック》の魔法を。
 動きが遅くなったルーベンは何とか魔法から逃れようともがくがリッカの魔法は中々外れることが無い。従魔に指示を出そうにも、肝心な従魔は委縮してしまっているのか、震えているばかりだ。ルーベンはどうすることもできずにそのままリッカの《水球ウォーターボール》によって場外へと飛ばされてしまうのだった。あっけない決着。誰が予想しただろうか。

 まさか、このか弱そうな男の子が従魔の力すら借りずに初戦を突破してしまうとは。

 「……第一試合、決着!勝者リッカ・トウドウ!」

 唱えられた勝利宣言に、リッカは満足そうに息をついた。早々の決着にどよめきがやまない。ちらりと見えたタイチはしょうがないなと言わんばかりに苦笑いをしていた。

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