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当日 朝③
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理想通りの時間に待ち合わせ場所に戻って来た僕達は、地下のロッカーから荷物を取り、アイスアリーナ入口に向かった。
土曜日なのでと心配していたが、この時期は全然混んでいない。という前情報通り、オープン時間に合わせて来た人は僕らしか居ないみたいだ。
中に入ると、既にひんやりした空気を感じた。
なかなかお高い入場料とスケート靴代二人分、実は昨日のうちにインターネットで支払い済みだ。
「引き換え券あるから、これでチケット貰えるよ」
「えっ? お金は? ちゃんと払うよ」
「大丈夫、余ってたやつだから」
「いやいやいや、絶対ここ初めてでしょ」
「ああ、うん。ポイントとか余ってたやつで払ったから、気にしなくて大丈夫だよ」
「むぅ。本当かな? でも、ありがとう」
スマホに表示された引き換え券でチケットを貰う。
よし。今の所スマートだ。
「じゃあ、着替えて来たら靴を受け取って、スケートリンクの入口の近くに集合で」
「おっけー! なんかテンション上がってきたね!」
「うん! じゃあ、また後で!」
トイレを済ませ、暖かい格好に着替え、プロのスケーターの動きを思い出す。
何となくだけど、上手に滑れる気がする。謎の自信だ。
格好良いところ、見せたいなぁ。
そうだ! 謎の自信はあるけど、一応無料レンタルのコーナーでアレを借りとくか。朋美ちゃんの分は……スケートのレベル高そうだから、とりあえず無くて良いよね。必要なら改めて借りれば良いだけだし。
よし、準備は完璧だ。
少し緊張してきたけど、頑張れ僕。
◇◇◇
◇◇
◇
「お待た……せぷぐぐ!」
「おかえり。さぁ、滑ろう! ん?」
なんだろう。朋美ちゃん、笑いを堪えてる?
「どうしたの?」
「凄い、空いてるね。これなら周り気にしないで滑れるね」
ひんやりした空気を纏った朋美ちゃんは、凛々しさと優しさを兼ね備え、素敵に笑っている。
いや、目の端に涙を溜め、割とガチ目に笑っている。
対する僕は――なぜか、右手にしっかり握りしめた無料レンタルのコレの重みが急に心細くなる。
「……徹くん?」
「いや、その……念のために借りただけなんだけど……」
僕が差し出したのは、スケート初心者御用達の、子ども用の手押しアシスト。ペンギン型の――。
「ぷっ……あはははは!」
朋美ちゃん、腹を抱えて笑ってる。
施設全体が静かなぶん、笑い声がよく響く。
ぐぅ、恥ずかしい! 初心者用って書いてたから、初心者は当たり前に使うものかと思ったのに……!
でも、笑顔がめっちゃ可愛い……!
「徹くん、まさかとは思うけど……これで滑るつもりだったの?」
「ちがっ! いや、うん……転んだらまずいかなって」
「ふふっ。かわいいじゃん。はい、じゃあ記念に一枚」
スマホを向けられ、僕は反射的にペンギンの横でピースをしてしまった。
なんだろう。思えば、今日が始まってからずっと恥をかいている気がする。僕は大丈夫かい?
「よし、じゃあ滑ろっか!」
「あ、うん!」
気を取り直し、リンクに足を踏み入れた瞬間――
ツルッ。いきなり足が横に逃げた。
「わっ……!」
やばい、コケる!
「ほいっ」
ふわっと腰を支えられた。
驚くほど自然に僕の体を受け止める朋美ちゃん。
近い。距離が……近い。
「最初はみんなこんな感じだよ。大丈夫、ゆっくりいこ?」
「あ、ありがとう」
心臓、さっきからうるさい。
このリンクのBGMよりデカい。
そのまま手を添えられながら、僕は一歩、また一歩と氷の上を進んだ。
朋美ちゃんが軽く引っ張ってくれるから、意外と進む。
「なんか滑れてる気がする!」
「気がする、じゃなくて滑れてるよ。ほら、姿勢いいし」
「朋美ちゃんは全然ブレないんだね」
「え? ああ……ふふふ、慣れてるからね。北海道の小学校では、授業でスケートをやるのだよ」
凄いドヤ顔。可愛い。
「さっきも言ってたけど、ほんとにあるんだ、それ」
「うん! 男子が競って転んで、女子が笑うやつ」
「僕……絶対その笑われる側だ……」
そんなやり取りをしているうちに、僕の足はほんの少しだけ氷になじんできた。
でも、手はまだ離せない。
離す自信はゼロだ。
「徹くん、少しスピード上げてみる?」
「いや、あの、心の準備が……」
「大丈夫。私がいるから」
その言葉が、胸のど真ん中に刺さった。
優しい。なんでこんなに優しいんだろう。
「行くよ? ほらっ」
「うお、おお!?」
滑るというより引っ張られてる感じで、僕らはぐんと速度を上げた。
冷たい風が頬を撫でる。手を引かれているだけなのに、なんだか一緒に飛んでるみたいだ。
「徹くん、楽しい?」
「た、楽しい……! けど怖い!」
「あはは! じゃあ、ちょっと休憩しよっか」
リンク脇に寄ると、自然と手が離れた。
途端に名残惜しさが込み上げてくる。
うわ、僕、今 離したくない って思ったよね?
「ねぇ徹くん」
「ん?」
「さっきの……ペンギンのやつさ」
「それは良いって!」
「だって、可愛かったよ」
僕を覗き込む朋美ちゃんの瞳が近い。
ひゅっ、と胸の奥が鳴った。
彼女はにこっと笑って、髪を耳にかける。
その仕草ひとつで、リンクの冷気が全部、あたたかく変わる気がした。いや、変わった。というか暑い。
初めは寒いくらいだったのに、緊張と運動でこんなに暑くなるんだね。
「よし。もっと練習しよ?」
「あ、ああ。うん!」
気づけば、さっきより自然に手が伸びていた。
そっと、彼女がその手を取る。
僕の世界が一瞬だけ止まる。
「行こ、徹くん」
「はい!」
格好良くリード出来たら……なんて思ってた理想とは違うけど、これが僕なんだよなぁ。
でも朋美ちゃん楽しそうだし、良かった!
土曜日なのでと心配していたが、この時期は全然混んでいない。という前情報通り、オープン時間に合わせて来た人は僕らしか居ないみたいだ。
中に入ると、既にひんやりした空気を感じた。
なかなかお高い入場料とスケート靴代二人分、実は昨日のうちにインターネットで支払い済みだ。
「引き換え券あるから、これでチケット貰えるよ」
「えっ? お金は? ちゃんと払うよ」
「大丈夫、余ってたやつだから」
「いやいやいや、絶対ここ初めてでしょ」
「ああ、うん。ポイントとか余ってたやつで払ったから、気にしなくて大丈夫だよ」
「むぅ。本当かな? でも、ありがとう」
スマホに表示された引き換え券でチケットを貰う。
よし。今の所スマートだ。
「じゃあ、着替えて来たら靴を受け取って、スケートリンクの入口の近くに集合で」
「おっけー! なんかテンション上がってきたね!」
「うん! じゃあ、また後で!」
トイレを済ませ、暖かい格好に着替え、プロのスケーターの動きを思い出す。
何となくだけど、上手に滑れる気がする。謎の自信だ。
格好良いところ、見せたいなぁ。
そうだ! 謎の自信はあるけど、一応無料レンタルのコーナーでアレを借りとくか。朋美ちゃんの分は……スケートのレベル高そうだから、とりあえず無くて良いよね。必要なら改めて借りれば良いだけだし。
よし、準備は完璧だ。
少し緊張してきたけど、頑張れ僕。
◇◇◇
◇◇
◇
「お待た……せぷぐぐ!」
「おかえり。さぁ、滑ろう! ん?」
なんだろう。朋美ちゃん、笑いを堪えてる?
「どうしたの?」
「凄い、空いてるね。これなら周り気にしないで滑れるね」
ひんやりした空気を纏った朋美ちゃんは、凛々しさと優しさを兼ね備え、素敵に笑っている。
いや、目の端に涙を溜め、割とガチ目に笑っている。
対する僕は――なぜか、右手にしっかり握りしめた無料レンタルのコレの重みが急に心細くなる。
「……徹くん?」
「いや、その……念のために借りただけなんだけど……」
僕が差し出したのは、スケート初心者御用達の、子ども用の手押しアシスト。ペンギン型の――。
「ぷっ……あはははは!」
朋美ちゃん、腹を抱えて笑ってる。
施設全体が静かなぶん、笑い声がよく響く。
ぐぅ、恥ずかしい! 初心者用って書いてたから、初心者は当たり前に使うものかと思ったのに……!
でも、笑顔がめっちゃ可愛い……!
「徹くん、まさかとは思うけど……これで滑るつもりだったの?」
「ちがっ! いや、うん……転んだらまずいかなって」
「ふふっ。かわいいじゃん。はい、じゃあ記念に一枚」
スマホを向けられ、僕は反射的にペンギンの横でピースをしてしまった。
なんだろう。思えば、今日が始まってからずっと恥をかいている気がする。僕は大丈夫かい?
「よし、じゃあ滑ろっか!」
「あ、うん!」
気を取り直し、リンクに足を踏み入れた瞬間――
ツルッ。いきなり足が横に逃げた。
「わっ……!」
やばい、コケる!
「ほいっ」
ふわっと腰を支えられた。
驚くほど自然に僕の体を受け止める朋美ちゃん。
近い。距離が……近い。
「最初はみんなこんな感じだよ。大丈夫、ゆっくりいこ?」
「あ、ありがとう」
心臓、さっきからうるさい。
このリンクのBGMよりデカい。
そのまま手を添えられながら、僕は一歩、また一歩と氷の上を進んだ。
朋美ちゃんが軽く引っ張ってくれるから、意外と進む。
「なんか滑れてる気がする!」
「気がする、じゃなくて滑れてるよ。ほら、姿勢いいし」
「朋美ちゃんは全然ブレないんだね」
「え? ああ……ふふふ、慣れてるからね。北海道の小学校では、授業でスケートをやるのだよ」
凄いドヤ顔。可愛い。
「さっきも言ってたけど、ほんとにあるんだ、それ」
「うん! 男子が競って転んで、女子が笑うやつ」
「僕……絶対その笑われる側だ……」
そんなやり取りをしているうちに、僕の足はほんの少しだけ氷になじんできた。
でも、手はまだ離せない。
離す自信はゼロだ。
「徹くん、少しスピード上げてみる?」
「いや、あの、心の準備が……」
「大丈夫。私がいるから」
その言葉が、胸のど真ん中に刺さった。
優しい。なんでこんなに優しいんだろう。
「行くよ? ほらっ」
「うお、おお!?」
滑るというより引っ張られてる感じで、僕らはぐんと速度を上げた。
冷たい風が頬を撫でる。手を引かれているだけなのに、なんだか一緒に飛んでるみたいだ。
「徹くん、楽しい?」
「た、楽しい……! けど怖い!」
「あはは! じゃあ、ちょっと休憩しよっか」
リンク脇に寄ると、自然と手が離れた。
途端に名残惜しさが込み上げてくる。
うわ、僕、今 離したくない って思ったよね?
「ねぇ徹くん」
「ん?」
「さっきの……ペンギンのやつさ」
「それは良いって!」
「だって、可愛かったよ」
僕を覗き込む朋美ちゃんの瞳が近い。
ひゅっ、と胸の奥が鳴った。
彼女はにこっと笑って、髪を耳にかける。
その仕草ひとつで、リンクの冷気が全部、あたたかく変わる気がした。いや、変わった。というか暑い。
初めは寒いくらいだったのに、緊張と運動でこんなに暑くなるんだね。
「よし。もっと練習しよ?」
「あ、ああ。うん!」
気づけば、さっきより自然に手が伸びていた。
そっと、彼女がその手を取る。
僕の世界が一瞬だけ止まる。
「行こ、徹くん」
「はい!」
格好良くリード出来たら……なんて思ってた理想とは違うけど、これが僕なんだよなぁ。
でも朋美ちゃん楽しそうだし、良かった!
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