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第一話 脅迫された悪役令息は初恋に溺れる
01-4.
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「もちろんでございます」
セバスは迷うことなく答えた。
「一日たりとも掃除を欠かしたことはございません。いつの日か、アリシア様がお戻りになられる日のことを思い、物を一つたりとも動かしておりません」
十七年前と何もかも同じにしているのだろう。
違うのは、部屋の主が二度と戻ってこないことだけだ。
亡くなった人間は生き返らない。
それを知らない人間は侯爵邸にいない。
それなのにもかかわらず、主を失ったままの部屋は、どの部屋よりも清潔に保たれ、帰ってこない主の帰宅を待ち続けているのだろうか。
……母上はそれでいいのだろうか。
初めて疑問を抱いた。
当時、五歳だったディーンを宝物だと言っていた母親は戻ってはこない。
しかし、母親は自らを死の淵に追いやることになった元凶であるヘンリエッタのことを恨んでいたわけではない。
ヘンリエッタは望まれて生まれてきたのだ。
堕胎させなければ、母体であるアリシアの命が危険になるということを、アリシアは知っていた。
それをディーンにだけは打ち明けてくれていた。
きっと、他の家族に知られてしまえば、堕胎させられるとわかっていたからこその判断だったのだろう。
「今日の用事が終わり次第、母上の部屋を訪ねようと思っているんだが。父上の許可は下りると思うか?」
「ディーン坊ちゃまならば許可はいただけることでしょう。このセバス、責任をもって侯爵閣下に入室の許可をお取りしておきます」
「そうか。それは頼りになる」
淡々とした会話だ。
しかし、冷めきった会話というわけではない。
……母上は俺ではなく、ヘンリエッタに来てほしいと思っていそうだな。
ヘンリエッタは家族の愛を知らない。
生まれてすぐ死に別れた母親と言葉を交わしたことはなく、父親から投げかられるのは存在を否定するような言葉ばかりだ。
ブライアンもチャーリーも、ヘンリエッタのことを疎んでおり、家族らしい会話が成立したことはないだろう。
ディーンも気にはかけているものの、積極的に関わろうとしたわけではない。
セバスは迷うことなく答えた。
「一日たりとも掃除を欠かしたことはございません。いつの日か、アリシア様がお戻りになられる日のことを思い、物を一つたりとも動かしておりません」
十七年前と何もかも同じにしているのだろう。
違うのは、部屋の主が二度と戻ってこないことだけだ。
亡くなった人間は生き返らない。
それを知らない人間は侯爵邸にいない。
それなのにもかかわらず、主を失ったままの部屋は、どの部屋よりも清潔に保たれ、帰ってこない主の帰宅を待ち続けているのだろうか。
……母上はそれでいいのだろうか。
初めて疑問を抱いた。
当時、五歳だったディーンを宝物だと言っていた母親は戻ってはこない。
しかし、母親は自らを死の淵に追いやることになった元凶であるヘンリエッタのことを恨んでいたわけではない。
ヘンリエッタは望まれて生まれてきたのだ。
堕胎させなければ、母体であるアリシアの命が危険になるということを、アリシアは知っていた。
それをディーンにだけは打ち明けてくれていた。
きっと、他の家族に知られてしまえば、堕胎させられるとわかっていたからこその判断だったのだろう。
「今日の用事が終わり次第、母上の部屋を訪ねようと思っているんだが。父上の許可は下りると思うか?」
「ディーン坊ちゃまならば許可はいただけることでしょう。このセバス、責任をもって侯爵閣下に入室の許可をお取りしておきます」
「そうか。それは頼りになる」
淡々とした会話だ。
しかし、冷めきった会話というわけではない。
……母上は俺ではなく、ヘンリエッタに来てほしいと思っていそうだな。
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ディーンも気にはかけているものの、積極的に関わろうとしたわけではない。
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