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第一話 転生悪役令嬢は男装の騎士となる

03-3.

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 すぐに解けないように念入りに硬く縛られているものを、解く為の時間が惜しかった。

「どうして、ここまでするんだ」

 コルセットを外す。

 その下に隠されていた大量のタオルを目の前にしてため息が零れた。

 ……アディ。

 思い返せば、おかしいところばかりだった。

 任務に厳しいことで有名なメルヴィンを慕うのは、アデラインがメルヴィンの素晴らしさを他の騎士たちに語り始めてからである。

 語り始めた頃、大量の死傷者を出した討伐任務が起きた。

 その責任問題をメルヴィンに押し付けようとする他の指揮官たちを説得し、裏に手を回していたのがアデラインだとわかったのは、数か月後の話だ。

 ……バカなやつだ。

 タオルを一枚一枚、外していく。

 ……ん?

 タオルになにか書いてあることに気づいた。

 それはエインズワース侯爵家の家紋だ。丁寧に一枚ずつ刺繍されている。万が一の事態が起きた時、身分がわかるようにエリーが仕込んでいたのだろう。


「……アデライン?」

 メルヴィンはタオルに刻まれた名を口にする。

 体を圧迫するものがなくなり、呼吸が安定しているアデラインの意識がはっきりとするのは時間の問題だ。

 今もなにも言わず、されるがままとなっているものの、失神状態から立ち直っており、なにをされているのか、わかっているだろう。

 ……アデラインだったのか。

 それは当然のように受け入れられるものだった。

 探し続けていた十六年前の初恋の相手がアディであると気づき、少々浮かれていた。拗らせた恋心を暴走させ、強引に唇を奪ってしまったことを後悔したものの、拒絶をされなかったことに安堵している自分もいた。

 婚約者の話をされても不快ではなかった。

 母や姉の日頃の言動や、大公子と関係を持とうと露骨なまでに誘惑をしかけてくる女性たちの言動に嫌気がさしていたのは事実だ。女性嫌いを拗らせたのは、周囲の影響も大きかった。

 しかし、アデラインとの婚約を白紙に戻す勇気だけはなかった。

 なぜか、わからない。それをしてしまえば、後悔をする自信だけはあった。

 すべての辻褄があってしまった。

 ……そうか。

 体の向きを正面に戻す。

 仰向けの状態が呼吸をしやすいことを知っていた。

 ……俺は、ずっと、アデラインが好きだったのか。

 恋心を自覚する。

 探し続けた初恋は身近なところに潜んでいた。それに気づけなかったことと、アデラインに対して冷遇していた自分自身の行動を思い出し、血の気が引けた。

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