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第一話 転生悪役令嬢は男装の騎士となる

05-18.

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「あー。……それはそうだな」

 メルヴィンはアデラインの肩や胸元に視線を向ける。

「俺の上着を羽織るといい。少しは隠せるだろう?」

 メルヴィンはそう言いながら、上着を脱ぐ。

 過剰な防寒対策ではなく、アデラインの肌が他人の目に晒されないようにする為だけに着ていたのだろう。

 ……メルヴィン様の服を着せるのがお好きなのかしら。

 先日も冬用の上着を着せようとしていたことを思い出す。

「ありがとうございます。次回は、私も上着を持ってきますわ」

「いや。持ってこなくていい」

「ですが、毎回、メルヴィン様のものを着るわけにはいかないでしょう?」

 アデラインは困ったように頬に手を当てた。

 ……寒い時期ではないのに、過剰な格好だとは思いましたが。

 それはメルヴィンも、どの服を着ていくか、悩んだ結果だと思っていた。

 女性よりは時間がかからないかもしれないが、貴族の男性ともなれば、それなりの衣装室があるはずである。

 初めてのデートで失敗をするわけにはいかないと服装を悩むメルヴィンの姿を想像し、アデラインは頬を赤らめた。

「……独占欲といえば、伝わるだろうか」

 メルヴィンは貴族が好むような口説き文句を知らない。

 だからこそ、感情のままの言葉を口にする。

「アデラインは俺の婚約者だと周囲に知らしめるのには、俺の服を着せるのが効率的だと言われてな。なにも疑わず、実行したのだが。……不快だろうか?」

 メルヴィンは恋に疎い。

 十六年前の初恋を胸に抱え、それを叶えられると信じていた。

 初恋の相手が婚約者だと知らず、かなり遠回りをしてきたのだ。メルヴィンを慕うメイドたちの言葉に乗せられ、独占欲を公にするような真似もしてしまう。

 それほどにメルヴィンは必死だった。残念ながら、その必死さは空回りをしてしまい、アデラインの心には響かなかった。

「知らしめる必要性がありますか?」

 アデラインは渡された上着を羽織る。

 対格差がよくわかる大きめの上着によって、露出をしていた肩が隠れる。赤色のドレスを着てくることがわかっていたかのように、調和がとれており、違和感がない。

 ……大公家の密偵でもいるのかしら。

 アデラインのドレスを大公家のメイドに伝えるような人はいなかったはずだ。
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