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第1話 狐塚町にはあやかしが住んでいる

04-3.

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(いや。やめておこう。現状で喰らえば、堕ちかねん)

 悲鳴に似た助けを求める魂は、あやかしや荒魂ならば、喜び喰うであろう。

 しかし、鬼でありながらも、春博は関心がなさそうである。

(半端物のままか)

 あやかしの本能がそれを欲するはずだ。

 負の感情を断ち切れずに、彷徨っている魂は、死霊とは言え美味であると感じているのならば、食欲に負け喰らうであろう。

 それは、主である旭の制止すら振り切る可能性すら秘めた“魔”の魅力が、込められている。

 しかし、あやかしとしてはそれが正しいのだ。

 その中でも鬼と呼ばれる種族は、誰にも従わない習性がある。

「でっ、でも、これは、その、旭様の御着物です!」

 考え事をしていれば、後ろから戸惑ったような声が聞こえた。

 羽織を受け取った香織は、大切そうに羽織を抱えたまま、狼狽えていたようだ。

(そうだ。香織に祓わせるか)

 香織の存在を思い出し、視線を後ろに向ける。

(練習にもなるだろう)

 相変わらず、今にも泣きだしてしまいそうな顔をしている香織は、旭に視線を向けられ肩を大きく揺らした。

 それから、震えた腕を伸ばして、羽織を前に突き出す。

(希少な才を伸ばさねばならん)

 常に怯えている香織を見る。

 才能はないのだと悲観し、自分自身の価値を下げているのは、非常に勿体ない。

 香織は、自分の才能に気付いていないだけなのだ。

 それに気づいているのは、旭と香織の両親だけだった。

「喰われたくなければ、羽織っておけ」

 羽織を返そうとする香織に声をかける。

 それから、戸惑ったように目線を泳がしながらも、小さく頷いた。恐る恐る、羽織った香織は何かに驚いたように目を見開いた。

(羽織があれば、阻害されるのか)

 霊視の力は、希少価値のある才能である。

 しかし、視え過ぎるのも問題だ。
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