後宮妃は木犀の下で眠りたい

佐倉海斗

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第四話 賢妃は諦めない

03-3.

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「かまわない」

 香月は責めない。
 既に敵は混乱状態に陥っている。

「情けないわね」

 美雨は笑った。

 その手には大剣が握られており、多くの侍女を武装させて控えさせていた。四夫人の中では反乱軍と戦う為に名をあげたのは美雨だけだった。

 貴妃として戦わなければならないと自ら名をあげたのだ。

「私がいこうかしら?」

「貴妃は控えていてください」

「あら、そう? ずいぶんと自信があるのね」

 美雨の提案を香月は断った。

 ……あの籠の中に父上がいるのだろうか。

 正当性を求め、反乱軍は後宮を攻めてきた。皇帝である俊熙が玄武宮にいることを知っているからだろう。

 どこからか、情報が洩れている。

 それに気づきながらも、香月たちは抗うしかない。

 ……貴妃も信用はできない。

 反乱軍が攻めてくると聞いても動揺をしなかった。

 それどころか、活躍の場を求めているようだった。

「氷の剣よ」

 香月は氷叡剣を構える。

「降り注げ」

 香月の命令に従うように現れた無数の氷柱は反乱軍に襲いかかる。

 避けられなかったものは、そのまま、凍り付き、地面に倒れ込む。

「香月」


 遠くて名を呼ばれた気がした。

 その声を聞き取ったのは香月だけだろう。

「……父上」

 香月の氷叡剣を握る手が震える。

 あの場に父がいたことが衝撃だった。

 覚悟していたはずの気持ちが揺らいでしまう。

「香月様。李浩然は敵ですわ」

 可馨は断言した。

 玄浩然ではなく、皇帝の座を狙う李浩然として名を呼んだのには意味がある。旗印は李王朝の血を継いでいなければならないからだ。
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