36 / 94
第二章 選別の船
選択の方向
しおりを挟む
オゼ
そういうことか、合点がいった。
次の世界に連れて行くのに見合うやつかどうか、この船旅の時間で見極めているということか。
それなら俺は、別に連れて行ってもらえなくても構わない。
その時そう思った。だって、死人のおばさんやマモルはこの世界に置き去りにされることが確定している。最後だから会いに来てくれたに違いない。俺だけ次の世界に進むなんて考えられない。寂しかった俺を救ってくれた二人と、この世界に残る。
そう心に決めると酷く落ち着いて、むしろ穏やかな気持ちになった。
「選ばれなかったらどうなるんだ。残されたこの世界はどうなる」
今となっては心臓回収人兼、人間判定官が俺を泣きそうな目で見返した。
いや、こいつに限って気のせいか。午後の柔らかい日差しのせいで目が濡れているように見えるだけだ。
「月が落ちて無になる」
「ん? それポエムか何か?」
「詩じゃねえよ、事実だ。今、空に白く浮いているあの月が、明日の朝、この世界に落ちて全部無かったことになるんだよ」
「俺は残る」
きっぱりと言った。もう迷いはなかった。
「おい、お前、何言ってんだよ。ちょっと話そうぜ」
立ち上がったのはアオチだった。またこいつおせっかいの正義感か。それも何だか心にじんわり来た。
「待ってください。僕だって二人と話し合いたいのはやまやまです。でも、まず今わかっていることを整理しましょう。話はそれからです」
オオミの言葉にアオチがそのまま座った。こいつら本当に兄弟みたいで面白い。この世界が終わるなんて話が嘘なら、この旅行を機にもっと親しくなりたかった。久しく忘れていた感情だ。
「いいぞ、眼鏡。お前のまとめを話してみろよ。間違っていたら訂正してやる」
回収人はオオミに甘い。本人が気がついているか知らないが絶対にお気に入りだ。次の世界に行く時にもきっと守ってくれる。
「えっと……まず明日の朝、この世界が終わる。そして次の世界に行く人、この世界に残される人の選別は数週間前から始まっていた。何故そう思うかというと、燃える心臓が海で目撃されるようになったのがそれ位前だからです。燃える心臓は次の世界に行けない事が確定した人達のもの。もしかして選別は船とは限らないのではないですか? 飛行機とか汽車とか色んな所で行われている。やっぱりわからないのは少し遅れて現れた鳥です。鳥の群れが話題になったのは三日前からだ。しかも今朝なんて目玉を咥えた鳥まで見ました。彼らの役割は何でしょうか?」
オオミが息をついて回収人を見た。
「うーん、半分半分ってとこだな。前半は合ってるよ。後半は訂正してやる。まず、選別の場所は全て船だ。故郷に海がないとか、船が怖いとかそんなことは関係ない。みんな船に乗って故郷へ行くように仕向けられて、そこで選別される。それから鳥の役割は、次の世界への移動が滞りなく行われるための監視と調整だ。お前らが気が付かなかっただけで、ずっと前からこの世界にいる。あと、目玉か……目玉が残っていると、蘇ってしまうんだ。だから選別で連れていけないと判断されたやつらは目玉を鳥に喰われて、心臓は船の燃料になり、他の部分は塵になって終わる」
「うっ……」
鳥が怖いオオミの顔がこわばるが、必死に耐えて次のまとめへと移る。
「そうですか……ありがとうございます。それではきっと監視と調整役の鳥が、故郷の同じ人を見つけては船に誘っている。その船には一人ずつ、回収人兼選別人が乗っている。そして船は見捨てられた心臓を燃料にしてそれぞれの町へ向かう。道中、次の世界にふさわしくないものは殺される、隣の船がそうだったように――」
「お前、毎回惜しいよ。今回は三分の二位は合ってる」
「そうですか?」
何でオオミは少し嬉しそうなんだ。先生に「さっきより良くなってる」と褒められた生徒みたいな顔をしている。
「最後のは違うぞ。俺は誰も殺す気なんてない。そんなことしてもどうしようもない。連れて行けないやつはどうしたって弾かれる。世界が無になる前にどうせ消えるのに、わざわざ殺す必要なんてないだろ」
ほっとした。こいつが人を殺す姿は想像できないし、したくもない。何なら残ると立候補した俺が最初に殺されかねなかった。
「じゃあ、隣の船のあれは何だったんだ?」
俺も疑問を口にしてみた。
「それは言いたくない」
即答された。オオミとえらく対応が違うじゃないか。
「なんだよ、それ」
「あっちの船のことだから、憶測でわかったような事を言いたくない。そこの血まみれ女に聞くか、ウルウル言ってるやつに聞け。一番良いのは向こうの回収人に聞くことだ」
「どれも無理だろ。血まみれ女は一言もしゃべらないし、『ウ』と『ル』じゃ何もわからない。向こうの回収人にいたってはお前が海に落としたんだろうが」
突っ込み待ちとしか思えない。こいつは結構ふざけるタイプだ。
「うるう――」
ウルウが愛嬌のある目を一生懸命恨めしそうに歪めて抗議している。自分だって会話が出来ると言いたいらいしい。というか、死人が乗っている俺たちに言われたくないかも知れないが、そっちの船のメンバーはどうなってるんだ。一目見て危ないやつらと、殺人狂の回収人というヤバさだ。こいつらこそ、単に故郷が同じだけで集められた他人同士なのか?
「なあ、もう一ついいか」
「なんだ? 色白のっぽ」
「急にその呼び方止めろよ。――梯子は外れないんだよな。と言うことは二つの船のどちらの行先に向かうんだ?」
回収人がにやりと笑う。やっぱりこいつ遊んでる。
「どっちの故郷だろうな。思いの強い方じゃねえか」
そういうことか、合点がいった。
次の世界に連れて行くのに見合うやつかどうか、この船旅の時間で見極めているということか。
それなら俺は、別に連れて行ってもらえなくても構わない。
その時そう思った。だって、死人のおばさんやマモルはこの世界に置き去りにされることが確定している。最後だから会いに来てくれたに違いない。俺だけ次の世界に進むなんて考えられない。寂しかった俺を救ってくれた二人と、この世界に残る。
そう心に決めると酷く落ち着いて、むしろ穏やかな気持ちになった。
「選ばれなかったらどうなるんだ。残されたこの世界はどうなる」
今となっては心臓回収人兼、人間判定官が俺を泣きそうな目で見返した。
いや、こいつに限って気のせいか。午後の柔らかい日差しのせいで目が濡れているように見えるだけだ。
「月が落ちて無になる」
「ん? それポエムか何か?」
「詩じゃねえよ、事実だ。今、空に白く浮いているあの月が、明日の朝、この世界に落ちて全部無かったことになるんだよ」
「俺は残る」
きっぱりと言った。もう迷いはなかった。
「おい、お前、何言ってんだよ。ちょっと話そうぜ」
立ち上がったのはアオチだった。またこいつおせっかいの正義感か。それも何だか心にじんわり来た。
「待ってください。僕だって二人と話し合いたいのはやまやまです。でも、まず今わかっていることを整理しましょう。話はそれからです」
オオミの言葉にアオチがそのまま座った。こいつら本当に兄弟みたいで面白い。この世界が終わるなんて話が嘘なら、この旅行を機にもっと親しくなりたかった。久しく忘れていた感情だ。
「いいぞ、眼鏡。お前のまとめを話してみろよ。間違っていたら訂正してやる」
回収人はオオミに甘い。本人が気がついているか知らないが絶対にお気に入りだ。次の世界に行く時にもきっと守ってくれる。
「えっと……まず明日の朝、この世界が終わる。そして次の世界に行く人、この世界に残される人の選別は数週間前から始まっていた。何故そう思うかというと、燃える心臓が海で目撃されるようになったのがそれ位前だからです。燃える心臓は次の世界に行けない事が確定した人達のもの。もしかして選別は船とは限らないのではないですか? 飛行機とか汽車とか色んな所で行われている。やっぱりわからないのは少し遅れて現れた鳥です。鳥の群れが話題になったのは三日前からだ。しかも今朝なんて目玉を咥えた鳥まで見ました。彼らの役割は何でしょうか?」
オオミが息をついて回収人を見た。
「うーん、半分半分ってとこだな。前半は合ってるよ。後半は訂正してやる。まず、選別の場所は全て船だ。故郷に海がないとか、船が怖いとかそんなことは関係ない。みんな船に乗って故郷へ行くように仕向けられて、そこで選別される。それから鳥の役割は、次の世界への移動が滞りなく行われるための監視と調整だ。お前らが気が付かなかっただけで、ずっと前からこの世界にいる。あと、目玉か……目玉が残っていると、蘇ってしまうんだ。だから選別で連れていけないと判断されたやつらは目玉を鳥に喰われて、心臓は船の燃料になり、他の部分は塵になって終わる」
「うっ……」
鳥が怖いオオミの顔がこわばるが、必死に耐えて次のまとめへと移る。
「そうですか……ありがとうございます。それではきっと監視と調整役の鳥が、故郷の同じ人を見つけては船に誘っている。その船には一人ずつ、回収人兼選別人が乗っている。そして船は見捨てられた心臓を燃料にしてそれぞれの町へ向かう。道中、次の世界にふさわしくないものは殺される、隣の船がそうだったように――」
「お前、毎回惜しいよ。今回は三分の二位は合ってる」
「そうですか?」
何でオオミは少し嬉しそうなんだ。先生に「さっきより良くなってる」と褒められた生徒みたいな顔をしている。
「最後のは違うぞ。俺は誰も殺す気なんてない。そんなことしてもどうしようもない。連れて行けないやつはどうしたって弾かれる。世界が無になる前にどうせ消えるのに、わざわざ殺す必要なんてないだろ」
ほっとした。こいつが人を殺す姿は想像できないし、したくもない。何なら残ると立候補した俺が最初に殺されかねなかった。
「じゃあ、隣の船のあれは何だったんだ?」
俺も疑問を口にしてみた。
「それは言いたくない」
即答された。オオミとえらく対応が違うじゃないか。
「なんだよ、それ」
「あっちの船のことだから、憶測でわかったような事を言いたくない。そこの血まみれ女に聞くか、ウルウル言ってるやつに聞け。一番良いのは向こうの回収人に聞くことだ」
「どれも無理だろ。血まみれ女は一言もしゃべらないし、『ウ』と『ル』じゃ何もわからない。向こうの回収人にいたってはお前が海に落としたんだろうが」
突っ込み待ちとしか思えない。こいつは結構ふざけるタイプだ。
「うるう――」
ウルウが愛嬌のある目を一生懸命恨めしそうに歪めて抗議している。自分だって会話が出来ると言いたいらいしい。というか、死人が乗っている俺たちに言われたくないかも知れないが、そっちの船のメンバーはどうなってるんだ。一目見て危ないやつらと、殺人狂の回収人というヤバさだ。こいつらこそ、単に故郷が同じだけで集められた他人同士なのか?
「なあ、もう一ついいか」
「なんだ? 色白のっぽ」
「急にその呼び方止めろよ。――梯子は外れないんだよな。と言うことは二つの船のどちらの行先に向かうんだ?」
回収人がにやりと笑う。やっぱりこいつ遊んでる。
「どっちの故郷だろうな。思いの強い方じゃねえか」
0
あなたにおすすめの小説
百合ランジェリーカフェにようこそ!
楠富 つかさ
青春
主人公、下条藍はバイトを探すちょっと胸が大きい普通の女子大生。ある日、同じサークルの先輩からバイト先を紹介してもらうのだが、そこは男子禁制のカフェ併設ランジェリーショップで!?
ちょっとハレンチなお仕事カフェライフ、始まります!!
※この物語はフィクションであり実在の人物・団体・法律とは一切関係ありません。
表紙画像はAIイラストです。下着が生成できないのでビキニで代用しています。
むっつり金持ち高校生、巨乳美少女たちに囲まれて学園ハーレム
ピコサイクス
青春
顔は普通、性格も地味。
けれど実は金持ちな高校一年生――俺、朝倉健斗。
学校では埋もれキャラのはずなのに、なぜか周りは巨乳美女ばかり!?
大学生の家庭教師、年上メイド、同級生ギャルに清楚系美少女……。
真面目な御曹司を演じつつ、内心はむっつりスケベ。
どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~
さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」
あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。
弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。
弟とは凄く仲が良いの!
それはそれはものすごく‥‥‥
「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」
そんな関係のあたしたち。
でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥
「うそっ! お腹が出て来てる!?」
お姉ちゃんの秘密の悩みです。
JKメイドはご主人様のオモチャ 命令ひとつで脱がされて、触られて、好きにされて――
のぞみ
恋愛
「今日から、お前は俺のメイドだ。ベッドの上でもな」
高校二年生の蒼井ひなたは、借金に追われた家族の代わりに、ある大富豪の家で住み込みメイドとして働くことに。
そこは、まるでおとぎ話に出てきそうな大きな洋館。
でも、そこで待っていたのは、同じ高校に通うちょっと有名な男の子――完璧だけど性格が超ドSな御曹司、天城 蓮だった。
昼間は生徒会長、夜は…ご主人様?
しかも、彼の命令はちょっと普通じゃない。
「掃除だけじゃダメだろ? ご主人様の癒しも、メイドの大事な仕事だろ?」
手を握られるたび、耳元で囁かれるたび、心臓がバクバクする。
なのに、ひなたの体はどんどん反応してしまって…。
怒ったり照れたりしながらも、次第に蓮に惹かれていくひなた。
だけど、彼にはまだ知られていない秘密があって――
「…ほんとは、ずっと前から、私…」
ただのメイドなんかじゃ終わりたくない。
恋と欲望が交差する、ちょっぴり危険な主従ラブストーリー。
ヤンデレ美少女転校生と共に体育倉庫に閉じ込められ、大問題になりましたが『結婚しています!』で乗り切った嘘のような本当の話
桜井正宗
青春
――結婚しています!
それは二人だけの秘密。
高校二年の遙と遥は結婚した。
近年法律が変わり、高校生(十六歳)からでも結婚できるようになっていた。だから、問題はなかった。
キッカケは、体育倉庫に閉じ込められた事件から始まった。校長先生に問い詰められ、とっさに誤魔化した。二人は退学の危機を乗り越える為に本当に結婚することにした。
ワケありヤンデレ美少女転校生の『小桜 遥』と”新婚生活”を開始する――。
*結婚要素あり
*ヤンデレ要素あり
意味が分かると怖い話(解説付き)
彦彦炎
ホラー
一見普通のよくある話ですが、矛盾に気づけばゾッとするはずです
読みながら話に潜む違和感を探してみてください
最後に解説も載せていますので、是非読んでみてください
実話も混ざっております
あるフィギュアスケーターの性事情
蔵屋
恋愛
この小説はフィクションです。
しかし、そのようなことが現実にあったかもしれません。
何故ならどんな人間も、悪魔や邪神や悪神に憑依された偽善者なのですから。
この物語は浅岡結衣(16才)とそのコーチ(25才)の恋の物語。
そのコーチの名前は高木文哉(25才)という。
この物語はフィクションです。
実在の人物、団体等とは、一切関係がありません。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる