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第三章 神様のいない海
殺人者の船
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オゼ
闇にぼんやり浮かぶ隣の船の、温もりあるクリーム色の船体を眺めていた。
あいつら、疲れているのに眠ることも出来ずにいるんだ――。
無理やりでも連れてくれば良かった。オオミに強引に部屋から押し出され、性懲りもなく目の前で閉じられたドアを再び叩こうとした所を、ローヌに呼び止められたんだ。
「そっとしておいてあげなよ。オオミくんは君よりアオチくんに近いから、離れ離れになるかも知れないなんて聞いてショックなんだ。お互い頭を冷やした方が良い。君は僕の船においで」
そう言われて、肩を落としてローヌと一緒にこっちの船に来た。
途中、自分の船で眠ると死んでしまう、とローヌから聞かされ、血の気が引いてアオチを起こしに引き返しかけたが、入れ違いに無言ちゃんが伝えに行った、と聞いてどうにか動揺を収めた。
俺なりに、アオチと別れなければならないことが悲しかった。
なのに、オオミは俺がそれを決めたように責める目をして、俺を拒絶した。それにも心を抉らせていて、ローヌの船に来たは良いが全く眠れなかった。
ラウンジで、ソファに疲れた身体と騒々しい頭を抱えて座り込んでいると、何の装飾もない銀色のドアが開き、ローヌが現れた。
「大丈夫かい? 君は傷ついている時もあまり顔に出ないから心配だよ」
そう言いながら、俺の隣に腰を下ろした。妙に密着してくるので、座り直すふりをして少し離れた。
「――俺は、悲しそうには見えないのかな」
心の声が漏れてしまう。
「僕にはとても悲しく見えるよ。だから、あの三人の中で君が一番好きだ。選ぶかどうかは別として」
「……ところで、無言ちゃんとウルウは向こうに置いてきたままで良かったのか」
何と答えて良いのか解らず話題を変えた。
「無言ちゃんはオオミくんと気が合いそうだし、ウルウはアオチくんに懐いているだろう。だから、一緒に居させてあげたい。僕の願いはあの子たちが幸せであることだよ」
そう言って、やっぱり俺たちとは違う人種の神秘的な目で笑った。
「そうか。どうせ船同士はつながっていて、はぐれることもないんだから、俺が心配し過ぎなのかもな」
「そうだよ、きっとみんな最後には君が一番辛いと理解してくれる。そうだ、お腹空いただろう? 僕、食事を作ったんだ。カフェテリアにおいでよ」
確かに腹は減っていたが、ちょっと考えた。こいつの出す料理ってどんなだろう。
この船に足を踏み入れてからしばらく経つが、この無機質な雰囲気に全然慣れない。気温が数度下がるような気持ちになる、感情のない船だ。機能以外の役目を放棄している。銀と白と少しの金しかない世界だ。せめてもう一つ色が欲しい。俺の好きな青とか。
「ねえ、君、僕の料理がまずそうだとか考えているの」
「いや、まずいとまでは。味気無さそうだとは思うけど、見た目も味も」
「君は正直だねえ」
苦笑いするローヌに思わず尋ねる。
「この船はお前の心の中を現しているのか?」
「え……?」
ローヌのきれいな目に困惑の色が浮かんだ。
「だとしたら、お前も孤独でかわいそうだな」
痛々しくて、それだけ言って目を逸らした。
「……僕のこと、そうやって言ってくれる人はいなかったから……何だか動揺しちゃったよ。君は本当に優しいね」
そう言って更にすり寄って来るのを手で制して、立ち上がる。
「おばさんとマモルは同じ部屋で寝てるんだったな」
正直、おばさんとマモルは俺についてこなくても、向こうの船で寝たって安全だった。死人に船のルールは適用されないらしい。
現に、マモルだって俺の目の前で昼寝をしていたけれど、手からナイフが突き出してくる、何て事はなかった。
「そうだね。君に言わせれば、独房みたいなキャビンで休んでいるよ」
自虐気味にローヌが言う。正直二人が俺について来てくれた時は嬉しかった。二人ともアオチと残ると言い出すかと思っていたから。
「俺、ちょっと二人の様子を見てくるよ。起きていたら夕食に誘ってみる」
二人もきっと腹が空く頃だろう。
「うん。僕は先に食堂に行って待ってるね。実は一人で夜を過ごすことになるんじゃないかと思っていたから、君たちが来てくれて本当に嬉しいんだ」
眠っていたら、そのままそっと閉めようと思い、音を立てずにドアを開いた。
「兄ちゃん……?」
青い間接照明の中、マモルがベッドの上に座り込んでいるのが見えた。今、起きた、と顔に書いてある。
「――俺の好きな青、ここにあったんだ――」
「オゼくん?」
マモルの後ろでおばさんが起き上がる。
「あ、起こしちゃったかな? ごめん」
「大丈夫、もう起きるところだった。何だかずっと昔の夢を見てた。オゼくんが中学生の頃の」
急に照れくさくなって、ドアに向き直る。
「ローヌが夕飯を用意してくれてる。二人も一緒に行こう」
「――オゼくんは覚えてないの?」
後ろからおばさんの声が追いかけてきた。
「え?」
ドアを開きかけたまま、振り返る。
「本当に忘れてしまったの? あなたが私たちを殺したことを」
闇にぼんやり浮かぶ隣の船の、温もりあるクリーム色の船体を眺めていた。
あいつら、疲れているのに眠ることも出来ずにいるんだ――。
無理やりでも連れてくれば良かった。オオミに強引に部屋から押し出され、性懲りもなく目の前で閉じられたドアを再び叩こうとした所を、ローヌに呼び止められたんだ。
「そっとしておいてあげなよ。オオミくんは君よりアオチくんに近いから、離れ離れになるかも知れないなんて聞いてショックなんだ。お互い頭を冷やした方が良い。君は僕の船においで」
そう言われて、肩を落としてローヌと一緒にこっちの船に来た。
途中、自分の船で眠ると死んでしまう、とローヌから聞かされ、血の気が引いてアオチを起こしに引き返しかけたが、入れ違いに無言ちゃんが伝えに行った、と聞いてどうにか動揺を収めた。
俺なりに、アオチと別れなければならないことが悲しかった。
なのに、オオミは俺がそれを決めたように責める目をして、俺を拒絶した。それにも心を抉らせていて、ローヌの船に来たは良いが全く眠れなかった。
ラウンジで、ソファに疲れた身体と騒々しい頭を抱えて座り込んでいると、何の装飾もない銀色のドアが開き、ローヌが現れた。
「大丈夫かい? 君は傷ついている時もあまり顔に出ないから心配だよ」
そう言いながら、俺の隣に腰を下ろした。妙に密着してくるので、座り直すふりをして少し離れた。
「――俺は、悲しそうには見えないのかな」
心の声が漏れてしまう。
「僕にはとても悲しく見えるよ。だから、あの三人の中で君が一番好きだ。選ぶかどうかは別として」
「……ところで、無言ちゃんとウルウは向こうに置いてきたままで良かったのか」
何と答えて良いのか解らず話題を変えた。
「無言ちゃんはオオミくんと気が合いそうだし、ウルウはアオチくんに懐いているだろう。だから、一緒に居させてあげたい。僕の願いはあの子たちが幸せであることだよ」
そう言って、やっぱり俺たちとは違う人種の神秘的な目で笑った。
「そうか。どうせ船同士はつながっていて、はぐれることもないんだから、俺が心配し過ぎなのかもな」
「そうだよ、きっとみんな最後には君が一番辛いと理解してくれる。そうだ、お腹空いただろう? 僕、食事を作ったんだ。カフェテリアにおいでよ」
確かに腹は減っていたが、ちょっと考えた。こいつの出す料理ってどんなだろう。
この船に足を踏み入れてからしばらく経つが、この無機質な雰囲気に全然慣れない。気温が数度下がるような気持ちになる、感情のない船だ。機能以外の役目を放棄している。銀と白と少しの金しかない世界だ。せめてもう一つ色が欲しい。俺の好きな青とか。
「ねえ、君、僕の料理がまずそうだとか考えているの」
「いや、まずいとまでは。味気無さそうだとは思うけど、見た目も味も」
「君は正直だねえ」
苦笑いするローヌに思わず尋ねる。
「この船はお前の心の中を現しているのか?」
「え……?」
ローヌのきれいな目に困惑の色が浮かんだ。
「だとしたら、お前も孤独でかわいそうだな」
痛々しくて、それだけ言って目を逸らした。
「……僕のこと、そうやって言ってくれる人はいなかったから……何だか動揺しちゃったよ。君は本当に優しいね」
そう言って更にすり寄って来るのを手で制して、立ち上がる。
「おばさんとマモルは同じ部屋で寝てるんだったな」
正直、おばさんとマモルは俺についてこなくても、向こうの船で寝たって安全だった。死人に船のルールは適用されないらしい。
現に、マモルだって俺の目の前で昼寝をしていたけれど、手からナイフが突き出してくる、何て事はなかった。
「そうだね。君に言わせれば、独房みたいなキャビンで休んでいるよ」
自虐気味にローヌが言う。正直二人が俺について来てくれた時は嬉しかった。二人ともアオチと残ると言い出すかと思っていたから。
「俺、ちょっと二人の様子を見てくるよ。起きていたら夕食に誘ってみる」
二人もきっと腹が空く頃だろう。
「うん。僕は先に食堂に行って待ってるね。実は一人で夜を過ごすことになるんじゃないかと思っていたから、君たちが来てくれて本当に嬉しいんだ」
眠っていたら、そのままそっと閉めようと思い、音を立てずにドアを開いた。
「兄ちゃん……?」
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急に照れくさくなって、ドアに向き直る。
「ローヌが夕飯を用意してくれてる。二人も一緒に行こう」
「――オゼくんは覚えてないの?」
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「え?」
ドアを開きかけたまま、振り返る。
「本当に忘れてしまったの? あなたが私たちを殺したことを」
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