51 / 94
第三章 神様のいない海
心に飼う鳥
しおりを挟む
オゼ
マモルの背後から窓の外を見て息をのんだ。
「ノンノだ……」
マモルの飼っていた黄色の羽のあのインコ。今はウルウの背中に描かれ、そこに住んでいるはずのあの鳥が海面を舞っていた。
インコってこんな風に飛べるのか? 生前のカゴと部屋の中しか知らなかった翼を開放するように気ままに踊っている。
綺麗だ。最近色んな鳥をまじまじと眺める機会が急に増えたが、鳥は美しい。人間のフォルムの方が失敗作ではないかとすら思い始めている。でも……
「――どうして透明なんだ?」
誰にともなく尋ねた。
ノンノの身体の向こうに夜が透けて見えている。それにインコにしてはやけにデカい。
はっきりとノンノだとわかるのは、透明の身体の周囲に滲む光の色を知っているからだ。
あれはノンノの黄色だ。というか、俺はいつからこんな風に色を見分けられるようになった?
「かわいい鳥ね」
おばさんが俺の問いには答えず、静かに言う。
「心の中に飼う鳥の色は、心の中に直接見えるから、透明でいいんだよ」
急にローヌの声がして振り返る。食事を乗せたワゴンが横にあるから、これを押してきたに違いないのに、全然音がしなかった。
置いてある食事に銀色のフタがされていて、中身が見えない。
「心に飼う鳥って?」
「青い鳥の話を知っているかい?」
ローヌも窓を覗き込みながら質問に質問で返してきた。
「まあ、何となく」
正直、今ここでストーリーを言えと言われたら困る。
「あれは空想の物語にしては割と当たってるよ。君たちはみんな、心に色を変える鳥を飼っている。居る場所によって色を変える鳥だよ」
「ごめんな、全然わからない」
青い鳥ってそんな話だったのか。
得意気に話していたローヌがしゅんとしたのが気まずくて話題を変える。
「ノンノはさ、インコなんだ。こんな海の真ん中を飛び回っていたら死んでしまうかも知れない。パンくずでも持って外へ出て、船の中に呼び寄せた方が――」
矛盾だらけの自分に気がついて口をつぐんだ。
「オゼくん、あの鳥はもう死んでる」
おばさんが苦笑いで言って、マモルも丸い頬を持ち上げて笑った。そうだ、自分の殺した死人の乗る船に、死んだ鳥が心配だからと呼び寄せるなんて。何を考えてるんだ、俺は。
「ノンノが木にとまったよ」
マモルの指さした方を見て、また驚いた。
細い幹に、可憐な枝を伸ばした木が海に立っていた。スタイルの良い木だ――そう思った。木にスタイルとか、自分でもおかしいと感じるけれど、さっきからずっと、鳥や木の方が俺よりずっと主役に見える。俺の方こそ背景なんだ、そんな考えがじわじわと心を浸食していた。
「そんなことで驚いているようじゃ、夜明けまでもつのかな……それより、早く夕飯にしよう、せっかく作ったのに、のびちゃうよ」
マモルの背後から窓の外を見て息をのんだ。
「ノンノだ……」
マモルの飼っていた黄色の羽のあのインコ。今はウルウの背中に描かれ、そこに住んでいるはずのあの鳥が海面を舞っていた。
インコってこんな風に飛べるのか? 生前のカゴと部屋の中しか知らなかった翼を開放するように気ままに踊っている。
綺麗だ。最近色んな鳥をまじまじと眺める機会が急に増えたが、鳥は美しい。人間のフォルムの方が失敗作ではないかとすら思い始めている。でも……
「――どうして透明なんだ?」
誰にともなく尋ねた。
ノンノの身体の向こうに夜が透けて見えている。それにインコにしてはやけにデカい。
はっきりとノンノだとわかるのは、透明の身体の周囲に滲む光の色を知っているからだ。
あれはノンノの黄色だ。というか、俺はいつからこんな風に色を見分けられるようになった?
「かわいい鳥ね」
おばさんが俺の問いには答えず、静かに言う。
「心の中に飼う鳥の色は、心の中に直接見えるから、透明でいいんだよ」
急にローヌの声がして振り返る。食事を乗せたワゴンが横にあるから、これを押してきたに違いないのに、全然音がしなかった。
置いてある食事に銀色のフタがされていて、中身が見えない。
「心に飼う鳥って?」
「青い鳥の話を知っているかい?」
ローヌも窓を覗き込みながら質問に質問で返してきた。
「まあ、何となく」
正直、今ここでストーリーを言えと言われたら困る。
「あれは空想の物語にしては割と当たってるよ。君たちはみんな、心に色を変える鳥を飼っている。居る場所によって色を変える鳥だよ」
「ごめんな、全然わからない」
青い鳥ってそんな話だったのか。
得意気に話していたローヌがしゅんとしたのが気まずくて話題を変える。
「ノンノはさ、インコなんだ。こんな海の真ん中を飛び回っていたら死んでしまうかも知れない。パンくずでも持って外へ出て、船の中に呼び寄せた方が――」
矛盾だらけの自分に気がついて口をつぐんだ。
「オゼくん、あの鳥はもう死んでる」
おばさんが苦笑いで言って、マモルも丸い頬を持ち上げて笑った。そうだ、自分の殺した死人の乗る船に、死んだ鳥が心配だからと呼び寄せるなんて。何を考えてるんだ、俺は。
「ノンノが木にとまったよ」
マモルの指さした方を見て、また驚いた。
細い幹に、可憐な枝を伸ばした木が海に立っていた。スタイルの良い木だ――そう思った。木にスタイルとか、自分でもおかしいと感じるけれど、さっきからずっと、鳥や木の方が俺よりずっと主役に見える。俺の方こそ背景なんだ、そんな考えがじわじわと心を浸食していた。
「そんなことで驚いているようじゃ、夜明けまでもつのかな……それより、早く夕飯にしよう、せっかく作ったのに、のびちゃうよ」
0
あなたにおすすめの小説
どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~
さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」
あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。
弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。
弟とは凄く仲が良いの!
それはそれはものすごく‥‥‥
「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」
そんな関係のあたしたち。
でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥
「うそっ! お腹が出て来てる!?」
お姉ちゃんの秘密の悩みです。
ヤンデレ美少女転校生と共に体育倉庫に閉じ込められ、大問題になりましたが『結婚しています!』で乗り切った嘘のような本当の話
桜井正宗
青春
――結婚しています!
それは二人だけの秘密。
高校二年の遙と遥は結婚した。
近年法律が変わり、高校生(十六歳)からでも結婚できるようになっていた。だから、問題はなかった。
キッカケは、体育倉庫に閉じ込められた事件から始まった。校長先生に問い詰められ、とっさに誤魔化した。二人は退学の危機を乗り越える為に本当に結婚することにした。
ワケありヤンデレ美少女転校生の『小桜 遥』と”新婚生活”を開始する――。
*結婚要素あり
*ヤンデレ要素あり
むっつり金持ち高校生、巨乳美少女たちに囲まれて学園ハーレム
ピコサイクス
青春
顔は普通、性格も地味。
けれど実は金持ちな高校一年生――俺、朝倉健斗。
学校では埋もれキャラのはずなのに、なぜか周りは巨乳美女ばかり!?
大学生の家庭教師、年上メイド、同級生ギャルに清楚系美少女……。
真面目な御曹司を演じつつ、内心はむっつりスケベ。
JKメイドはご主人様のオモチャ 命令ひとつで脱がされて、触られて、好きにされて――
のぞみ
恋愛
「今日から、お前は俺のメイドだ。ベッドの上でもな」
高校二年生の蒼井ひなたは、借金に追われた家族の代わりに、ある大富豪の家で住み込みメイドとして働くことに。
そこは、まるでおとぎ話に出てきそうな大きな洋館。
でも、そこで待っていたのは、同じ高校に通うちょっと有名な男の子――完璧だけど性格が超ドSな御曹司、天城 蓮だった。
昼間は生徒会長、夜は…ご主人様?
しかも、彼の命令はちょっと普通じゃない。
「掃除だけじゃダメだろ? ご主人様の癒しも、メイドの大事な仕事だろ?」
手を握られるたび、耳元で囁かれるたび、心臓がバクバクする。
なのに、ひなたの体はどんどん反応してしまって…。
怒ったり照れたりしながらも、次第に蓮に惹かれていくひなた。
だけど、彼にはまだ知られていない秘密があって――
「…ほんとは、ずっと前から、私…」
ただのメイドなんかじゃ終わりたくない。
恋と欲望が交差する、ちょっぴり危険な主従ラブストーリー。
意味が分かると怖い話(解説付き)
彦彦炎
ホラー
一見普通のよくある話ですが、矛盾に気づけばゾッとするはずです
読みながら話に潜む違和感を探してみてください
最後に解説も載せていますので、是非読んでみてください
実話も混ざっております
百合ランジェリーカフェにようこそ!
楠富 つかさ
青春
主人公、下条藍はバイトを探すちょっと胸が大きい普通の女子大生。ある日、同じサークルの先輩からバイト先を紹介してもらうのだが、そこは男子禁制のカフェ併設ランジェリーショップで!?
ちょっとハレンチなお仕事カフェライフ、始まります!!
※この物語はフィクションであり実在の人物・団体・法律とは一切関係ありません。
表紙画像はAIイラストです。下着が生成できないのでビキニで代用しています。
【⁉】意味がわかると怖い話【解説あり】
絢郷水沙
ホラー
普通に読めばそうでもないけど、よく考えてみたらゾクッとする、そんな怖い話です。基本1ページ完結。
下にスクロールするとヒントと解説があります。何が怖いのか、ぜひ推理しながら読み進めてみてください。
※全話オリジナル作品です。
あるフィギュアスケーターの性事情
蔵屋
恋愛
この小説はフィクションです。
しかし、そのようなことが現実にあったかもしれません。
何故ならどんな人間も、悪魔や邪神や悪神に憑依された偽善者なのですから。
この物語は浅岡結衣(16才)とそのコーチ(25才)の恋の物語。
そのコーチの名前は高木文哉(25才)という。
この物語はフィクションです。
実在の人物、団体等とは、一切関係がありません。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる