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第三章 神様のいない海
彼の乗客
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ローヌ
下ごしらえにはかなり時間をかけた。手早くトッピングを盛り付けて来たのに、いつまでも鳥と木に見入られていたのでは作り直しだ。
「のびるって? もしかして、それラーメンか」
僕の押してきたワゴンを見てオゼくんが言った。他に何がある?
「やった――」
マモルくんは素直でかわいい。クールなカオリさんもいつになく嬉しそうだ。肝心のオゼくんだけが戸惑い顔だ。
「この近未来的な船にラーメンか。お前がラーメンを作ってる姿を想像したらシュールだな」
「せっかく作ったのに失礼だな。いいよ、じゃあ君は見ていればいいじゃん」
君が最後に食べたい物だから作ったのに。いじけやすい僕はワゴンに手を置くと、スタスタとテーブルに向かった。
こういう所をどうにかしろと、何度も彼らの回収人に注意されたのに、未だに全然治らない。
「食べるよ、俺、ラーメン大好きだし」
オゼくんが慌てて僕の後ろを追ってきた。最初から素直でいてくれれば、僕が欠点を醸すこともないのに。
思った通り、僕の料理は大好評だった。いつもこの瞬間は不覚にも得意になる。
食べている間はみんなほぼ無言だった。「美味しい」とか僕への賛辞の言葉以外は何も聞こえなった。ここからあっちの船が見えなくて良かった。ただでさえショックを受けているオゼくんが益々動揺して、せっかくの食事に集中できない。
「はい、最後に冷たいもの」
気分良くソフトクリーム立てに入れて持ってきたデザートを三人に手渡した。三角のコーンにもこだわった。
「わーい、バニラだ」
「やっぱりこれが一番だよね」
マモルくんとカオリさんは思った通りの良いリアクションだ。
で、問題のオゼくんは――
「…………」
なんで、無言なんだ。僕、間違えたか? いや、そんなはずない。マモルくんとカオリさんがその証拠だ。え? 泣いてるの?
「冷たい食べ物でも懐かしさで涙が出ることがあるんだな……何となく、そういう感傷に浸れるのは温かいものってイメージだったんだ。でもこのミックスのソフトクリームは……思い出がたくさんあって……」
何だ、感動していただけか。僕はどれだけ同じような旅を繰り返したら人の感情がわかるようになるんだろう。
何だか無性に向こうの回収人に会いたい。温かく叱って欲しい。――ああ、まだ駄目だ。もう少し、頑張るんだ。僕は今度こそ――
「なあ、どうした?」
逆にオゼくんに心配されてしまった。他の回収人で、こんな風に乗客に心配されているような、情けないやつは存在するんだろうか。恥ずかしてく何事もない顔をしているだけで、本当は僕みたく恰好悪い面を持っていたりしないのかな。
「いや、何でもない。君たちに喜んでもらえて良かった、そう思ってた。ソフトクリームを食べ終わったら、僕の話を聞いてくれるかな?」
「俺たちが、お前の話を? 何となく立場が逆の気もするけど俺はいいぞ。興味がある。マモルとおばさんは疲れているなら無理しないで部屋に戻って休んでください」
オゼくんの言葉に、口の中のソフトクリームを呑み込んでカオリさんが言う。そう言えばこの人はラーメンの食べ方も豪快だった。そしてそれが不快どころか爽快だった。
「わたし達は眠くなったりはしないんだよ。オゼくんがそうして欲しい時に寝たふりをしているだけ。だって、呼び出された死人なんだから」
結局、誰も部屋には戻らなかった。
お茶用の少し小さなテーブルに移動して、僕は目を閉じる。
僕の全部を話すなんてことは到底不可能だ。彼らにも役に立ちそうな重要なことだけを話すべきか? それとも何か感動する話か? 僕に有利になるような話をするか?
どうしよう――全然まとまらない。
「おい、お前が寝たんじゃないよな?」
オゼくんに声をかけられ、目を開けた。まずい、三人が僕の顔をまじまじと見て、話し始めるのを待っていた。
「ごめん……寝てたんじゃなくて、何から話そうかと」
「急かして悪いが、俺たち何日も一緒に旅するわけじゃないんだろ? 朝になってしまう」
「そうだね、難しく考えても駄目だ。僕が聞いて欲しい話をする。君たちと一緒に居られるのは後数時間なのに、迷う必要はないよね」
僕の一番聞いて欲しい話、それは――
下ごしらえにはかなり時間をかけた。手早くトッピングを盛り付けて来たのに、いつまでも鳥と木に見入られていたのでは作り直しだ。
「のびるって? もしかして、それラーメンか」
僕の押してきたワゴンを見てオゼくんが言った。他に何がある?
「やった――」
マモルくんは素直でかわいい。クールなカオリさんもいつになく嬉しそうだ。肝心のオゼくんだけが戸惑い顔だ。
「この近未来的な船にラーメンか。お前がラーメンを作ってる姿を想像したらシュールだな」
「せっかく作ったのに失礼だな。いいよ、じゃあ君は見ていればいいじゃん」
君が最後に食べたい物だから作ったのに。いじけやすい僕はワゴンに手を置くと、スタスタとテーブルに向かった。
こういう所をどうにかしろと、何度も彼らの回収人に注意されたのに、未だに全然治らない。
「食べるよ、俺、ラーメン大好きだし」
オゼくんが慌てて僕の後ろを追ってきた。最初から素直でいてくれれば、僕が欠点を醸すこともないのに。
思った通り、僕の料理は大好評だった。いつもこの瞬間は不覚にも得意になる。
食べている間はみんなほぼ無言だった。「美味しい」とか僕への賛辞の言葉以外は何も聞こえなった。ここからあっちの船が見えなくて良かった。ただでさえショックを受けているオゼくんが益々動揺して、せっかくの食事に集中できない。
「はい、最後に冷たいもの」
気分良くソフトクリーム立てに入れて持ってきたデザートを三人に手渡した。三角のコーンにもこだわった。
「わーい、バニラだ」
「やっぱりこれが一番だよね」
マモルくんとカオリさんは思った通りの良いリアクションだ。
で、問題のオゼくんは――
「…………」
なんで、無言なんだ。僕、間違えたか? いや、そんなはずない。マモルくんとカオリさんがその証拠だ。え? 泣いてるの?
「冷たい食べ物でも懐かしさで涙が出ることがあるんだな……何となく、そういう感傷に浸れるのは温かいものってイメージだったんだ。でもこのミックスのソフトクリームは……思い出がたくさんあって……」
何だ、感動していただけか。僕はどれだけ同じような旅を繰り返したら人の感情がわかるようになるんだろう。
何だか無性に向こうの回収人に会いたい。温かく叱って欲しい。――ああ、まだ駄目だ。もう少し、頑張るんだ。僕は今度こそ――
「なあ、どうした?」
逆にオゼくんに心配されてしまった。他の回収人で、こんな風に乗客に心配されているような、情けないやつは存在するんだろうか。恥ずかしてく何事もない顔をしているだけで、本当は僕みたく恰好悪い面を持っていたりしないのかな。
「いや、何でもない。君たちに喜んでもらえて良かった、そう思ってた。ソフトクリームを食べ終わったら、僕の話を聞いてくれるかな?」
「俺たちが、お前の話を? 何となく立場が逆の気もするけど俺はいいぞ。興味がある。マモルとおばさんは疲れているなら無理しないで部屋に戻って休んでください」
オゼくんの言葉に、口の中のソフトクリームを呑み込んでカオリさんが言う。そう言えばこの人はラーメンの食べ方も豪快だった。そしてそれが不快どころか爽快だった。
「わたし達は眠くなったりはしないんだよ。オゼくんがそうして欲しい時に寝たふりをしているだけ。だって、呼び出された死人なんだから」
結局、誰も部屋には戻らなかった。
お茶用の少し小さなテーブルに移動して、僕は目を閉じる。
僕の全部を話すなんてことは到底不可能だ。彼らにも役に立ちそうな重要なことだけを話すべきか? それとも何か感動する話か? 僕に有利になるような話をするか?
どうしよう――全然まとまらない。
「おい、お前が寝たんじゃないよな?」
オゼくんに声をかけられ、目を開けた。まずい、三人が僕の顔をまじまじと見て、話し始めるのを待っていた。
「ごめん……寝てたんじゃなくて、何から話そうかと」
「急かして悪いが、俺たち何日も一緒に旅するわけじゃないんだろ? 朝になってしまう」
「そうだね、難しく考えても駄目だ。僕が聞いて欲しい話をする。君たちと一緒に居られるのは後数時間なのに、迷う必要はないよね」
僕の一番聞いて欲しい話、それは――
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