52 / 94
第三章 神様のいない海
彼の乗客
しおりを挟む
ローヌ
下ごしらえにはかなり時間をかけた。手早くトッピングを盛り付けて来たのに、いつまでも鳥と木に見入られていたのでは作り直しだ。
「のびるって? もしかして、それラーメンか」
僕の押してきたワゴンを見てオゼくんが言った。他に何がある?
「やった――」
マモルくんは素直でかわいい。クールなカオリさんもいつになく嬉しそうだ。肝心のオゼくんだけが戸惑い顔だ。
「この近未来的な船にラーメンか。お前がラーメンを作ってる姿を想像したらシュールだな」
「せっかく作ったのに失礼だな。いいよ、じゃあ君は見ていればいいじゃん」
君が最後に食べたい物だから作ったのに。いじけやすい僕はワゴンに手を置くと、スタスタとテーブルに向かった。
こういう所をどうにかしろと、何度も彼らの回収人に注意されたのに、未だに全然治らない。
「食べるよ、俺、ラーメン大好きだし」
オゼくんが慌てて僕の後ろを追ってきた。最初から素直でいてくれれば、僕が欠点を醸すこともないのに。
思った通り、僕の料理は大好評だった。いつもこの瞬間は不覚にも得意になる。
食べている間はみんなほぼ無言だった。「美味しい」とか僕への賛辞の言葉以外は何も聞こえなった。ここからあっちの船が見えなくて良かった。ただでさえショックを受けているオゼくんが益々動揺して、せっかくの食事に集中できない。
「はい、最後に冷たいもの」
気分良くソフトクリーム立てに入れて持ってきたデザートを三人に手渡した。三角のコーンにもこだわった。
「わーい、バニラだ」
「やっぱりこれが一番だよね」
マモルくんとカオリさんは思った通りの良いリアクションだ。
で、問題のオゼくんは――
「…………」
なんで、無言なんだ。僕、間違えたか? いや、そんなはずない。マモルくんとカオリさんがその証拠だ。え? 泣いてるの?
「冷たい食べ物でも懐かしさで涙が出ることがあるんだな……何となく、そういう感傷に浸れるのは温かいものってイメージだったんだ。でもこのミックスのソフトクリームは……思い出がたくさんあって……」
何だ、感動していただけか。僕はどれだけ同じような旅を繰り返したら人の感情がわかるようになるんだろう。
何だか無性に向こうの回収人に会いたい。温かく叱って欲しい。――ああ、まだ駄目だ。もう少し、頑張るんだ。僕は今度こそ――
「なあ、どうした?」
逆にオゼくんに心配されてしまった。他の回収人で、こんな風に乗客に心配されているような、情けないやつは存在するんだろうか。恥ずかしてく何事もない顔をしているだけで、本当は僕みたく恰好悪い面を持っていたりしないのかな。
「いや、何でもない。君たちに喜んでもらえて良かった、そう思ってた。ソフトクリームを食べ終わったら、僕の話を聞いてくれるかな?」
「俺たちが、お前の話を? 何となく立場が逆の気もするけど俺はいいぞ。興味がある。マモルとおばさんは疲れているなら無理しないで部屋に戻って休んでください」
オゼくんの言葉に、口の中のソフトクリームを呑み込んでカオリさんが言う。そう言えばこの人はラーメンの食べ方も豪快だった。そしてそれが不快どころか爽快だった。
「わたし達は眠くなったりはしないんだよ。オゼくんがそうして欲しい時に寝たふりをしているだけ。だって、呼び出された死人なんだから」
結局、誰も部屋には戻らなかった。
お茶用の少し小さなテーブルに移動して、僕は目を閉じる。
僕の全部を話すなんてことは到底不可能だ。彼らにも役に立ちそうな重要なことだけを話すべきか? それとも何か感動する話か? 僕に有利になるような話をするか?
どうしよう――全然まとまらない。
「おい、お前が寝たんじゃないよな?」
オゼくんに声をかけられ、目を開けた。まずい、三人が僕の顔をまじまじと見て、話し始めるのを待っていた。
「ごめん……寝てたんじゃなくて、何から話そうかと」
「急かして悪いが、俺たち何日も一緒に旅するわけじゃないんだろ? 朝になってしまう」
「そうだね、難しく考えても駄目だ。僕が聞いて欲しい話をする。君たちと一緒に居られるのは後数時間なのに、迷う必要はないよね」
僕の一番聞いて欲しい話、それは――
下ごしらえにはかなり時間をかけた。手早くトッピングを盛り付けて来たのに、いつまでも鳥と木に見入られていたのでは作り直しだ。
「のびるって? もしかして、それラーメンか」
僕の押してきたワゴンを見てオゼくんが言った。他に何がある?
「やった――」
マモルくんは素直でかわいい。クールなカオリさんもいつになく嬉しそうだ。肝心のオゼくんだけが戸惑い顔だ。
「この近未来的な船にラーメンか。お前がラーメンを作ってる姿を想像したらシュールだな」
「せっかく作ったのに失礼だな。いいよ、じゃあ君は見ていればいいじゃん」
君が最後に食べたい物だから作ったのに。いじけやすい僕はワゴンに手を置くと、スタスタとテーブルに向かった。
こういう所をどうにかしろと、何度も彼らの回収人に注意されたのに、未だに全然治らない。
「食べるよ、俺、ラーメン大好きだし」
オゼくんが慌てて僕の後ろを追ってきた。最初から素直でいてくれれば、僕が欠点を醸すこともないのに。
思った通り、僕の料理は大好評だった。いつもこの瞬間は不覚にも得意になる。
食べている間はみんなほぼ無言だった。「美味しい」とか僕への賛辞の言葉以外は何も聞こえなった。ここからあっちの船が見えなくて良かった。ただでさえショックを受けているオゼくんが益々動揺して、せっかくの食事に集中できない。
「はい、最後に冷たいもの」
気分良くソフトクリーム立てに入れて持ってきたデザートを三人に手渡した。三角のコーンにもこだわった。
「わーい、バニラだ」
「やっぱりこれが一番だよね」
マモルくんとカオリさんは思った通りの良いリアクションだ。
で、問題のオゼくんは――
「…………」
なんで、無言なんだ。僕、間違えたか? いや、そんなはずない。マモルくんとカオリさんがその証拠だ。え? 泣いてるの?
「冷たい食べ物でも懐かしさで涙が出ることがあるんだな……何となく、そういう感傷に浸れるのは温かいものってイメージだったんだ。でもこのミックスのソフトクリームは……思い出がたくさんあって……」
何だ、感動していただけか。僕はどれだけ同じような旅を繰り返したら人の感情がわかるようになるんだろう。
何だか無性に向こうの回収人に会いたい。温かく叱って欲しい。――ああ、まだ駄目だ。もう少し、頑張るんだ。僕は今度こそ――
「なあ、どうした?」
逆にオゼくんに心配されてしまった。他の回収人で、こんな風に乗客に心配されているような、情けないやつは存在するんだろうか。恥ずかしてく何事もない顔をしているだけで、本当は僕みたく恰好悪い面を持っていたりしないのかな。
「いや、何でもない。君たちに喜んでもらえて良かった、そう思ってた。ソフトクリームを食べ終わったら、僕の話を聞いてくれるかな?」
「俺たちが、お前の話を? 何となく立場が逆の気もするけど俺はいいぞ。興味がある。マモルとおばさんは疲れているなら無理しないで部屋に戻って休んでください」
オゼくんの言葉に、口の中のソフトクリームを呑み込んでカオリさんが言う。そう言えばこの人はラーメンの食べ方も豪快だった。そしてそれが不快どころか爽快だった。
「わたし達は眠くなったりはしないんだよ。オゼくんがそうして欲しい時に寝たふりをしているだけ。だって、呼び出された死人なんだから」
結局、誰も部屋には戻らなかった。
お茶用の少し小さなテーブルに移動して、僕は目を閉じる。
僕の全部を話すなんてことは到底不可能だ。彼らにも役に立ちそうな重要なことだけを話すべきか? それとも何か感動する話か? 僕に有利になるような話をするか?
どうしよう――全然まとまらない。
「おい、お前が寝たんじゃないよな?」
オゼくんに声をかけられ、目を開けた。まずい、三人が僕の顔をまじまじと見て、話し始めるのを待っていた。
「ごめん……寝てたんじゃなくて、何から話そうかと」
「急かして悪いが、俺たち何日も一緒に旅するわけじゃないんだろ? 朝になってしまう」
「そうだね、難しく考えても駄目だ。僕が聞いて欲しい話をする。君たちと一緒に居られるのは後数時間なのに、迷う必要はないよね」
僕の一番聞いて欲しい話、それは――
0
あなたにおすすめの小説
どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~
さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」
あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。
弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。
弟とは凄く仲が良いの!
それはそれはものすごく‥‥‥
「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」
そんな関係のあたしたち。
でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥
「うそっ! お腹が出て来てる!?」
お姉ちゃんの秘密の悩みです。
JKメイドはご主人様のオモチャ 命令ひとつで脱がされて、触られて、好きにされて――
のぞみ
恋愛
「今日から、お前は俺のメイドだ。ベッドの上でもな」
高校二年生の蒼井ひなたは、借金に追われた家族の代わりに、ある大富豪の家で住み込みメイドとして働くことに。
そこは、まるでおとぎ話に出てきそうな大きな洋館。
でも、そこで待っていたのは、同じ高校に通うちょっと有名な男の子――完璧だけど性格が超ドSな御曹司、天城 蓮だった。
昼間は生徒会長、夜は…ご主人様?
しかも、彼の命令はちょっと普通じゃない。
「掃除だけじゃダメだろ? ご主人様の癒しも、メイドの大事な仕事だろ?」
手を握られるたび、耳元で囁かれるたび、心臓がバクバクする。
なのに、ひなたの体はどんどん反応してしまって…。
怒ったり照れたりしながらも、次第に蓮に惹かれていくひなた。
だけど、彼にはまだ知られていない秘密があって――
「…ほんとは、ずっと前から、私…」
ただのメイドなんかじゃ終わりたくない。
恋と欲望が交差する、ちょっぴり危険な主従ラブストーリー。
百合ランジェリーカフェにようこそ!
楠富 つかさ
青春
主人公、下条藍はバイトを探すちょっと胸が大きい普通の女子大生。ある日、同じサークルの先輩からバイト先を紹介してもらうのだが、そこは男子禁制のカフェ併設ランジェリーショップで!?
ちょっとハレンチなお仕事カフェライフ、始まります!!
※この物語はフィクションであり実在の人物・団体・法律とは一切関係ありません。
表紙画像はAIイラストです。下着が生成できないのでビキニで代用しています。
セーラー服美人女子高生 ライバル同士の一騎討ち
ヒロワークス
ライト文芸
女子高の2年生まで校内一の美女でスポーツも万能だった立花美帆。しかし、3年生になってすぐ、同じ学年に、美帆と並ぶほどの美女でスポーツも万能な逢沢真凛が転校してきた。
クラスは、隣りだったが、春のスポーツ大会と夏の水泳大会でライバル関係が芽生える。
それに加えて、美帆と真凛は、隣りの男子校の俊介に恋をし、どちらが俊介と付き合えるかを競う恋敵でもあった。
そして、秋の体育祭では、美帆と真凛が走り高跳びや100メートル走、騎馬戦で対決!
その結果、放課後の体育館で一騎討ちをすることに。
敗戦国の姫は、敵国将軍に掠奪される
clayclay
恋愛
架空の国アルバ国は、ブリタニア国に侵略され、国は壊滅状態となる。
状況を打破するため、アルバ国王は娘のソフィアに、ブリタニア国使者への「接待」を命じたが……。
25階の残響(レゾナンス)
空木 輝斗
ミステリー
夜の研究都市にそびえる高層塔《アークライン・タワー》。
25年前の事故以来、存在しないはずの“25階”の噂が流れていた。
篠原悠は、亡き父が関わった最終プロジェクト《TIME-LAB 25》の真実を確かめるため、友人の高梨誠と共に塔へと向かう。
だが、エレベーターのパネルには存在しない“25”のボタンが光り、世界は静かに瞬きをする。
彼らが辿り着いたのは、時間が反転する無人の廊下――
そして、その中心に眠る「α-Layer Project」。
やがて目を覚ますのは、25年前に失われた研究者たちの記録、そして彼ら自身の過去。
父が遺した装置《RECON-25》が再起動し、“観測者”としての悠の時間が動き出す。
過去・現在・未来・虚数・零点――
五つの時間層を越えて、失われた“記録”が再び共鳴を始める。
「――25階の扉は、あと四つ。
次に見るのは、“未来”の残響だ。」
記録と記憶が交錯する、時間SFサスペンス。
誰もたどり着けなかった“25階”で、世界の因果が音を立てて共鳴する――。
中1でEカップって巨乳だから熱く甘く生きたいと思う真理(マリー)と小説家を目指す男子、光(みつ)のラブな日常物語
jun( ̄▽ ̄)ノ
大衆娯楽
中1でバスト92cmのブラはEカップというマリーと小説家を目指す男子、光の日常ラブ
★作品はマリーの語り、一人称で進行します。
旧校舎の地下室
守 秀斗
恋愛
高校のクラスでハブられている俺。この高校に友人はいない。そして、俺はクラスの美人女子高生の京野弘美に興味を持っていた。と言うか好きなんだけどな。でも、京野は美人なのに人気が無く、俺と同様ハブられていた。そして、ある日の放課後、京野に俺の恥ずかしい行為を見られてしまった。すると、京野はその事をバラさないかわりに、俺を旧校舎の地下室へ連れて行く。そこで、おかしなことを始めるのだったのだが……。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる