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おさとうろくさじ
4.
しおりを挟む「そんときは俺も呼んでください。……男女二人だけでここの倉庫は、やっぱあんまり、外見良くないですよね? 部長」
棘のある言い方だ。
青木先輩以上の饒舌さで立ち向かう壮亮に呆然としている。
誰一人声を上げないまま、何も言わずに渡部長が踵を返したところで、ようやく詰まった息がほどけた。
壮亮の言葉は、あきらかに悪意のある返しだったと思う。苦笑していれば、「ブス、アホ」となぜかまた、暴言を吐かれてしまった。
「暴言……」
「柚、お前のオフィス戻るぞ」
「ええ? そうくんお昼……」
「買った。そこで食おうぜ」
なんだかんだと言いながらやさしい。
先に倉庫を出ていく後ろ姿に付き従って、渡部長に借りた鍵をかけなおした。
廊下には、コンビニのビニル袋が置かれていた。かなりの量が入っていそうだから、私の分も買ってきてくれたのだろう。
「柚、鍵は俺があいつにつき返すから貸せ」
「ええ?」
「いいから、黙って聞いとけ」
「うん、わかったけど」
差し出された手に引き渡して、一緒に来た道を戻る。役員室が置かれているフロアは、さっき出てきたとき以上に閑散としていた。
自室に入って、とくに断りもなく置かれているソファにどかりと座り込んだ幼馴染に苦笑してしまった。
こんなにも大胆に座り込む人も多くない。橘専務なら、いつも丁寧に座り込んでいるから、新鮮な感覚だった。
「お前も座って食え」
「うん、ありがとう。お金払う」
「いい。それよりお前、ちゃんとわかってんのか?」
ウエットティッシュで手を拭きとって、フィルムを剥がしたおにぎりに齧りついた。
同じように食べている壮亮の声で、顔が持ち上がる。何のことを言っているのかわからずに首を傾げたら、またいつものようにため息を吐かれてしまった。
「お前マジでバカだな。渡だよ」
「部長?」
「どう考えてもお前のこと見る目やべえだろ。気づかねえの?」
「やばい、というのは、どういう?」
「はあ? お前マジか? いや、そうだよな……。じゃねえとほいほい二人になんねえか」
「うん?」
「あいつ、柚に変な執着してるだろ。昼休みに倉庫呼び出してくる男、ろくなやついねえよ」
吐き捨てるような声だ。
心底気分が悪そうな壮亮の言葉で、さすがに意味がわかってしまった。
「あんまりよく思われてないのは知ってるけど、そういう変な意味は……」
「変な意味だろ、エロい目で見てんだろ。わかんねえの? お前マジでこえーわ。つーか橘は?」
「うん? 今は外勤中だよ」
「ちげえよ、あほか。……仮に契約だったとしても、一応結婚してんだろ? あいつに何とかしてもらえよ」
青木先輩も壮亮も、皆同じ意見らしい。
苦笑していれば「笑ってんなぼけ」とまた吐かれてしまった。渡部長の真意はよくわからないけれど、あまり近づかないほうがいいのは、私でもよくわかる。
近づきたくなくても近づいてくるから、困っているのだけれども。
「専務はお忙しい人だから、さすがにこんなことでは」
「あいつのわけわかんねえ事情に巻き込まれてんのにかよ? マジでさっさと別れろ」
「相変わらず過激派だなあ」
「お前がちんたらしてんだ」
「うーん?」
結婚すると報告したら、開口一番に「やめとけ」と言われた覚えがある。
家族以外では、はじめて私から報告した人なのに、かなりこっぴどく怒られた。渋々結婚式には来てくれたけれど、遼雅さんにはあまりいい印象がないらしい。
私が結婚に納得していると言ったら、さすがに引き下がってくれた。
「そんな社会貢献みたいなもんで結婚なんてすんな、別れろ」
「もうしちゃったよ」
「しちゃったよ、じゃねえよ、可愛い顔してんなボケ、ブス」
「そうくん、今日はすごく機嫌悪いね」
「お前な、せっかく週一で会ってやってんのに、すっぽかしてきたと思ったらセクハラ受けてるし、ぽやぽやしてどんくせえし、心配してんだろ、わかんねえの?」
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