【完結】父を探して異世界転生したら男なのに歌姫になってしまったっぽい

御堂あゆこ

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第8話 甘えてばかりいられないっぽい その1

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 僕は、ルドルフに抱えられたまま、ひたすら西へと向かっていた。
 ルドルフの温もりに、だいぶ落ち着きを取り戻したところで、城で何が起きたのか、やっと尋ねることができた。
「結論から申し上げると、ルシャード殿下がディアーク陛下を弑逆し、城に火を放ちました」
「え――――」
 城の様子から、何かとんでもないことが起きたことは覚悟していたが、まさか、殿下が、実の父である陛下を殺したなんて、想像を遥かに超えている。
「僕、陛下の発表を聞いて、気分が悪くなって、部屋に戻ろうとしたところまでは覚えてるんだけど、その後のことが思い出せないんだ」
「ウィルフォード殿下は、自室にお戻りになろうとした直後、気を失われたため、私が部屋へお運びしました。目が覚めるまで、お傍に控えていたのですが、部屋の外がにわかに騒がしくなって、様子を見に行ったところ、何者かに囲まれ、攻撃されたため、全て倒しました。その後、陛下の傍仕えの方から、陛下がルシャード殿下の手にかかったこと、このままではウィルフォード殿下のお命も危ないことを知らされました」
「なぜ、ルシャード殿下は、こんなことを……」
「真実は本人にしか知り得ませんが、直前の、陛下の発表がきっかけになった可能性は高いかと……」
「やっぱり、そう、だよね……」
 僕は、後悔した。僕が、何か行動に移していれば、このような結果にはならなかったのではないか。また前世と同じだ。
 父が死んだときのことを思い出す。僕は、誰かの人生を壊してばかりいる。
「ウィルフォード殿下、今はお辛いでしょうが、どうか気を強くお持ちください。私も微力ながら、お支えいたします」
 いつの間にか、ルドルフの腕を強くつかんでしまっていたようだ。
「あ、ごめ――」
「私はこれからも殿下と共におります」
 慌てて手を放そうとすると、逆にルドルフに手を握り返される。
「――ありがとう」
 ルドルフの力強い瞳に見つめられると、きっと大丈夫と思えるから不思議だ。
「これから、どうしようか?」
「私に考えがあります。まずは、森を抜けて、フライハルト共和国に入ろうと思います」
「フライハルト共和国? 確かに、あの国は、永世中立国だし、他国の王族が亡命しても、受け入れてくれそうだね」
 フライハルト共和国は、リヒトリーベ王国の西に位置する共和国で、いかなる国同士の争いにも加担しないことを宣言している、永世中立国だ。
 面積は、リヒトリーベの十分の一程しかないが、自然と芸術を重んじる、リヒトリーベとは真逆の国といっていい。
「いえ、亡命するのは、しばらく情勢を見てから判断すべきです。ルシャード殿下の今後の動きも不透明ですし、ウィルフォード殿下がフライハルトにいると知れると、再び命を狙われる可能性も否定できません。いくら永世中立国といえども、ルシャード殿下の出方によっては、お守りすることが難しくなることも十分に考えられます」
「そっか……」
 ルシャード殿下が僕の命を狙っているなんて、まだ実感がなかったけれど、他人に改めて言葉に出して告げられると、その事実が、ずしりと胸に突き刺さる。
 その後はひたすらフライハルト共和国を目指して歩き、明け方、やっと目的地にたどり着くことができた。
 ずっと僕をかかえて歩いてくれたルドルフに、お礼を言う。
「ルドルフ、疲れたでしょ? 今まで僕を守ってくれて、本当にありがとう。これからは、なるべく自分のことは自分でできるように頑張るから、だから、その、これからもよろしくお願いします」
「ウィルフォード殿下……」
 事実、ルドルフがいなければ、きっと僕は生きてここにいなかっただろうと思う。無事生き延びることができたのは、彼が守ってくれたおかげだ。
 しかし、今後しばらくは、身分を隠して生きていかなければならない。万が一、僕の正体がばれて、いつ、ルシャード殿下に居場所を知られるともわからないからだ。それなのに、いつまでもルドルフに頼ってばかりいられない。
「それと、これからは、僕のこと、殿下と呼ばない方がいいと思う。誰かに聞かれて、ばれてしまうかもしれないし」
「それは、確かにそうですね。しかし何とお呼びすれば……」
「ウィル、でいいよ」
「そんな! いくら何でも恐れ多いことです!」
「でも、ルドルフの方が僕よりずっと年上なのに、畏まった態度をしていると怪しまれると思うし、余計な詮索をされるかもしれないよ」
「し、しかし……」
 ルドルフは、ずっと護衛という立場だったので、僕を愛称で呼ぶことに大きな抵抗を感じているようだった。
「僕もこれからは、ルド兄様って呼ぶよ」
「なっ――!に、にぃ、さま――?」
「兄さまは嫌かな? だったら父様にする?」
「殿下! いくら何でも私は父様と呼ばれるほど歳ではありません!」
「え? 気にするとこそこなの?」
 ルドルフの斜め上の返事に、ちょっとだけ気が抜ける。
「と、とにかく父様はおやめくださいませ!」
「くすくす……わかったよ。じゃあ、ルド、って呼ばせてもらうね?」
 あ、今度は左眉をピクリと動かし、固まってしまった。
「おーい! ルド~?」
 目の前で手を動かして、反応を見るも、固まったままだ。
「おーーい! ルドってば~~!」
 流石に心配になり、軽く胸を叩いたら、やっと反応してくれた。
「わ、わかりました。私も今後は、そ、その、ウィ、ウィル様と――」
「様は変だよ? ウィル、って呼んでね」
「は、はい。善処いたします」
「あはは! 善処するって何さ。変なルド~」
 なぜ名前を呼ぶだけのことに、そんなに畏まっているのだろう。ルドってたまに、
変なところで変な反応をするから面白い。
 ずっと緊張で張りつめていたけれど、ルドのおかげで、肩の力を抜くことができた。
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