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第19話 癒しの力っぽい?
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フライハルトの市街地を出た僕たちは、暗闇の中、北西へ向かって進んでいた。
「ルド、大丈夫? 疲れてない?」
ずっと、少女を抱えたまま歩いているルドを気遣う。
「いや、大丈夫だ」
僕が声をかけると、今まで無表情だったルドが、少し表情を和らげた。
「どうしたの?」
「いや、リヒトリーベから脱出して、フライハルトに向かっているときも、こうしてウィルのことを抱えていたなと思い出した」
「あ――」
そうだった。自分では立つことができず、ルドに抱えられて城を脱出した後、本当はもう自分で歩けたけれど、ルドから離れたくなくて、その後もずっと抱いてもらっていたのだった。
数か月前のことなのに、もう、ずいぶん前のことのように感じられる。
「ウィルに比べれば、軽いもんだ」
「ちょ――っ! 悪かったね、重くて……!」
珍しく、ルドが僕をからかう。きっと、彼なりに、空気を和ませようとしてくれたのだろう。
「そこ、イチャイチャしないでもらえますか?」
ルドと並んで歩いていると、ハインツさんが間にむぎゅっと入り込んできた。
「わっ!」
「鬱陶しい奴だな。もっと離れて歩け!」
「ウィルさえよければ、私もあなたを抱いて歩いて差し上げますよ?」
「え、遠慮しておきます……」
命を狙われて、町を出てきたはずなのに、あんまり緊張感がない。
きっと、ルドとハインツさんが、気遣ってくれているからだと思う。
「ところでハインツ。隠れ家に心当たりがあると言っていたな? そろそろどこへ向かっているか教えろ」
「それが人にものを頼む態度でしょうか?」
「貴様、ふざけている暇はないんだ。さっさと吐け」
「ルド、それじゃあ、ハインツさんが悪いことしてるみたいな言い方だよ」
「だが――」
「ウィル、庇ってくれてありがとうございます。流石、私のウィル」
「いつからお前のになったんだ」
「ちょっと、二人ともやめてよ」
最近は落ち着いたと思っていたのに、二人が口論を始めてしまった。
きっと疲れているんだ。少し休めば、気も落ち着くかもしれない。
「市街地からだいぶ離れましたし、今日はここで休みませんか?」
ハインツさんがどこに向かっているのかまだ分からなかったけれど、これだけ町から離れれば、ひとまず安心だろう。ハインツさんに、休憩を提案してみる。
「そうですね。この辺は、夜行性の魔物は少ないですし、いても弱いですから、休むならこの辺が最適だと思います。あの木のあたりに、幕を張りますので、少々お待ちください」
そう言うと、ハインツさんは、ちょっと見ただけではわからないように、闇魔法を使って幕を張ってくれた。
幕の中に入ると、ルドが火魔法を使って、明かりを取ってくれる。
ハインツさんの闇魔法のおかげで、中で火を焚いても、外からは見えることがない。
これで、少女を落ち着いて寝かせてあげることができる。
横たえた彼女に、持っていた毛布を掛ける。まだ具合が悪そうだ。熱も下がる気配がない。
「何かの病気かな?」
「わからない。身体の傷は言えていることを考えると、内臓に問題があるのか、または毒という可能性もある」
「毒……」
こんなに幼い子供が毒を盛られるなんて、いったいどんな事情があれば、そんなことになるというのだろう。
「うっ……うぅ……」
少女の額の汗を拭いてやっていると、次第に少女が呻きだした。
「ど、どうしよう」
助けを求めて二人を見るが、ルドもハインツさんも首を横に振っている。
僕の回復魔法も効かなかったし、このまま何もせずに、黙ってみているしかないのだろか。
そうだ! 以前、酒場で歌ったときに、お客の一人から、不思議な話をされたことを思い出す。
なんでも、魔物の討伐中、うっかり腕に怪我を負ってしまい、医者には全治2週間と言われていたのに、僕の歌を聴いた後、ふと腕を見ると、怪我がほとんど癒えていたのだそうだ。
そんなことを言う人が、一人だけではなく、わりとちらほらいるものだから、一部の人の間では、僕の歌には、癒しの力があるなんて言われていた。
単なる偶然だとは思うけれど、何もしないよりは、試してみる価値はある。
それに、苦しんでいる根本的な原因を癒せなかったとしても、少しでも安心して眠れるようにしてあげたかった。
そう考えた僕は、子守唄を歌ってみることにした。
オーストリアの有名な作曲家が作った子守唄で、日本語で訳された歌詞もある、ポピュラーな歌だ。
「ウィル?」
ルドが、どうしたのかと目で問いかけてくるが、しーっと人差し指で合図をして、さらに歌を続けた。
ハインツさんは、目を閉じて、僕の歌を聴いている。リラックスしてくれているようだ。
少女はというと、さっきまで荒かった呼吸が、大分落ち着いてきているように見える。
やがて、苦しそうだった息も、規則正しい寝息へと変わり、熱も下がりつつあるようだった。
え。もしかして、本当に僕の歌に癒しの力が……!? いや、そんなわけない。僕の魔力は人並み以下だし、回復魔法もまだ初級までしか使えないのだから。
それでも、少女の体調が大分良くなったように見え、安堵する。
しかし、今度は僕が体調を崩す番だった。子守唄のようなほんの短い歌でも、体調が悪くなってしまうのか。つくづく難儀な身体である。
「ウィル、こっちへ来い」
僕の様子に目敏く気づいたルドが、僕を引き寄せて、被っていた毛布の中に入れてくれる。
こうやってルドに触れていると、体調が良くなると、彼も知っていたので、いつしか、歌った後は、こうやってくっつくことが日課になっていた。癒しの力をもっているのはルドの方なんじゃないかとさえ思う。
「二人だけの世界に浸らないでもらえます?」
いつの間にか、ハインツさんが目を開けて、こちらを見ていた。うわ、絵にかいたようなジト目だ。
「あ、あの、これは――」
――ジト~~~
弁解しようと、ルドに触れていた身体を放そうとしたが、逆にもっと引き寄せられてしまった。
「まだ離れるな。回復するまで傍にいろ」
「うぅ……はい……」
いつもやっていることだから平気なはずなのに、こうやって他の人に見られながらすると、何でこんなに恥ずかしいんだろう。
――ジト~~~
ハインツさんももうこっち見んな!
いたたまれなくなった僕は、頭からすっぽり毛布を被って籠城することにした。
そうこうしているうちに、ルドの体温が心地よくて、そのまま眠ってしまった。どんな状況でもすぐ寝落ちしちゃう体質をなんとかしたい!
「ルド、大丈夫? 疲れてない?」
ずっと、少女を抱えたまま歩いているルドを気遣う。
「いや、大丈夫だ」
僕が声をかけると、今まで無表情だったルドが、少し表情を和らげた。
「どうしたの?」
「いや、リヒトリーベから脱出して、フライハルトに向かっているときも、こうしてウィルのことを抱えていたなと思い出した」
「あ――」
そうだった。自分では立つことができず、ルドに抱えられて城を脱出した後、本当はもう自分で歩けたけれど、ルドから離れたくなくて、その後もずっと抱いてもらっていたのだった。
数か月前のことなのに、もう、ずいぶん前のことのように感じられる。
「ウィルに比べれば、軽いもんだ」
「ちょ――っ! 悪かったね、重くて……!」
珍しく、ルドが僕をからかう。きっと、彼なりに、空気を和ませようとしてくれたのだろう。
「そこ、イチャイチャしないでもらえますか?」
ルドと並んで歩いていると、ハインツさんが間にむぎゅっと入り込んできた。
「わっ!」
「鬱陶しい奴だな。もっと離れて歩け!」
「ウィルさえよければ、私もあなたを抱いて歩いて差し上げますよ?」
「え、遠慮しておきます……」
命を狙われて、町を出てきたはずなのに、あんまり緊張感がない。
きっと、ルドとハインツさんが、気遣ってくれているからだと思う。
「ところでハインツ。隠れ家に心当たりがあると言っていたな? そろそろどこへ向かっているか教えろ」
「それが人にものを頼む態度でしょうか?」
「貴様、ふざけている暇はないんだ。さっさと吐け」
「ルド、それじゃあ、ハインツさんが悪いことしてるみたいな言い方だよ」
「だが――」
「ウィル、庇ってくれてありがとうございます。流石、私のウィル」
「いつからお前のになったんだ」
「ちょっと、二人ともやめてよ」
最近は落ち着いたと思っていたのに、二人が口論を始めてしまった。
きっと疲れているんだ。少し休めば、気も落ち着くかもしれない。
「市街地からだいぶ離れましたし、今日はここで休みませんか?」
ハインツさんがどこに向かっているのかまだ分からなかったけれど、これだけ町から離れれば、ひとまず安心だろう。ハインツさんに、休憩を提案してみる。
「そうですね。この辺は、夜行性の魔物は少ないですし、いても弱いですから、休むならこの辺が最適だと思います。あの木のあたりに、幕を張りますので、少々お待ちください」
そう言うと、ハインツさんは、ちょっと見ただけではわからないように、闇魔法を使って幕を張ってくれた。
幕の中に入ると、ルドが火魔法を使って、明かりを取ってくれる。
ハインツさんの闇魔法のおかげで、中で火を焚いても、外からは見えることがない。
これで、少女を落ち着いて寝かせてあげることができる。
横たえた彼女に、持っていた毛布を掛ける。まだ具合が悪そうだ。熱も下がる気配がない。
「何かの病気かな?」
「わからない。身体の傷は言えていることを考えると、内臓に問題があるのか、または毒という可能性もある」
「毒……」
こんなに幼い子供が毒を盛られるなんて、いったいどんな事情があれば、そんなことになるというのだろう。
「うっ……うぅ……」
少女の額の汗を拭いてやっていると、次第に少女が呻きだした。
「ど、どうしよう」
助けを求めて二人を見るが、ルドもハインツさんも首を横に振っている。
僕の回復魔法も効かなかったし、このまま何もせずに、黙ってみているしかないのだろか。
そうだ! 以前、酒場で歌ったときに、お客の一人から、不思議な話をされたことを思い出す。
なんでも、魔物の討伐中、うっかり腕に怪我を負ってしまい、医者には全治2週間と言われていたのに、僕の歌を聴いた後、ふと腕を見ると、怪我がほとんど癒えていたのだそうだ。
そんなことを言う人が、一人だけではなく、わりとちらほらいるものだから、一部の人の間では、僕の歌には、癒しの力があるなんて言われていた。
単なる偶然だとは思うけれど、何もしないよりは、試してみる価値はある。
それに、苦しんでいる根本的な原因を癒せなかったとしても、少しでも安心して眠れるようにしてあげたかった。
そう考えた僕は、子守唄を歌ってみることにした。
オーストリアの有名な作曲家が作った子守唄で、日本語で訳された歌詞もある、ポピュラーな歌だ。
「ウィル?」
ルドが、どうしたのかと目で問いかけてくるが、しーっと人差し指で合図をして、さらに歌を続けた。
ハインツさんは、目を閉じて、僕の歌を聴いている。リラックスしてくれているようだ。
少女はというと、さっきまで荒かった呼吸が、大分落ち着いてきているように見える。
やがて、苦しそうだった息も、規則正しい寝息へと変わり、熱も下がりつつあるようだった。
え。もしかして、本当に僕の歌に癒しの力が……!? いや、そんなわけない。僕の魔力は人並み以下だし、回復魔法もまだ初級までしか使えないのだから。
それでも、少女の体調が大分良くなったように見え、安堵する。
しかし、今度は僕が体調を崩す番だった。子守唄のようなほんの短い歌でも、体調が悪くなってしまうのか。つくづく難儀な身体である。
「ウィル、こっちへ来い」
僕の様子に目敏く気づいたルドが、僕を引き寄せて、被っていた毛布の中に入れてくれる。
こうやってルドに触れていると、体調が良くなると、彼も知っていたので、いつしか、歌った後は、こうやってくっつくことが日課になっていた。癒しの力をもっているのはルドの方なんじゃないかとさえ思う。
「二人だけの世界に浸らないでもらえます?」
いつの間にか、ハインツさんが目を開けて、こちらを見ていた。うわ、絵にかいたようなジト目だ。
「あ、あの、これは――」
――ジト~~~
弁解しようと、ルドに触れていた身体を放そうとしたが、逆にもっと引き寄せられてしまった。
「まだ離れるな。回復するまで傍にいろ」
「うぅ……はい……」
いつもやっていることだから平気なはずなのに、こうやって他の人に見られながらすると、何でこんなに恥ずかしいんだろう。
――ジト~~~
ハインツさんももうこっち見んな!
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