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第20話 男の子っぽい
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「ウィル、起きろ。そろそろ出発するぞ」
翌朝、ルドの声で目を覚ました僕は、彼の肩に頭をもたれかけたまま、眠っていたことに気づく。
「あ、ルドごめん! 重かったでしょ?」
「大丈夫だ。それより、よく眠れたか?」
「う、うん。ルドのおかげだよ。ありがとう……」
お礼を言って、慌てて頭を起こす。うっ……ちょっと涎垂れてたかも。さりげなく口元を拭った。
「おはようございます!」
ハインツさんも、元気に挨拶をしてくれる。
「あ、おはようご――」
あれ~? まだハインツさんの目がジトっとしている気が……。
ニコニコニコニコ
――なんだか無言の圧力を感じるような――あ! そういえば、僕の髪色って、今――
「ウィルの本当の髪色は、そんな色をしていたんですね!」
「うわぁっ!」
さっきまで向かいに座っていたハインツさんが、いつの間にか、僕と10cmもないくらいまで顔を近づけてきていた。
それ以上近付いてこなかったのは、ルドががっしりとハインツさんの頭を押さえているからだった。
そうか、とうとうバレてしまったか。
ハインツさんと初めて会った日は夜だったから、何とか誤魔化せた。昨夜見られていたとしても、暗かったので、今回もなんとか誤魔化せるかと思ったが、こんな明るい中で見られてしまっては、もう無理だ。
「とても珍しい色をしていますね~」
不気味がられるかと思っていたが、ハインツさんの反応をみると、そんな様子はない。
「あの、僕の髪色を見ても、気持ち悪くないんですか?」
「え? 別に、気持ち悪くなんてないですよ? どうしてですか?」
「え――? だって、有名な伝承に登場する悪魔と同じ色ですよ……?」
「え?」
「え?」
ハインツさんと見つめ合いながら、二人して『え?』を連発する。
もしかして、ハインツさんて、あの有名な伝承のこと知らないのかな?
「有名な伝承とは、どのような話なのですか?」
やっぱり。ハインツさんは知らなかったんだ。せっかく知らなかったのに、あえて教えるのは気が引けたが、促されて、伝承の内容を話すことにした。
その内容は、こうだ。
遥か太古の時代、まだこの地上に神々が住んでいた頃の話。
神々の中に、ひと際、美しい神がいた。
彼は、闇を司る神で、人々に安らぎを与えていた。
地上には、神の他にも、人間、エルフ、ドワーフ、妖精など、様々な種族が暮らしていたが、異なる種族間で交わることは禁忌とされていた。
しかし、闇の神は、ある日、一人の妖精に恋をしてしまった。
どうしても諦めることができなかった闇の神は、妖精がどこへも行かないよう閉じ込め、来る日も来る日も愛を囁いた。
しかし、妖精は次第に弱っていき、やがて死んでしまう。
愛する人を失った闇の神の心は壊れ、神の力を制御することができなくなり、その力を暴走させてしまった。
その結果、世界は暗闇に覆われ、神々以外の生命は、皆死に絶えてしまった。
闇の神は、愛する人を死なせた自分を恨み、他の種族を滅ぼした自分を恨み、絶望に打ちひしがれた果てに、全てのものを恨むようになってしまった。
そうして誕生したのが悪魔だった。
悪魔と化した闇の神は、神の心を完全に失い、破壊の限りを尽くしたが、団結した他の神々によって討ち落とされたのだった。
「そして、闇の神は、黒髪・黒目という外見だったので、それと同じ色の髪と目をした僕は、不気味がられることが多いんです」
「そうですか……。そんな伝承があったのですね」
伝承の内容を聞き終えると、ハインツさんは何やら考え込んでしまった。
「何か気になることがありましたか?」
「いえ、エルフ族に伝わる伝承とは、内容が違ったものですから……」
「え、そうなんですか? どんな話なんですか?」
「ええ、ただ、違いが多すぎるので、もしかしたら別の伝承かもしれません。それはまた次の機会にお話ししましょう」
「わかりました」
エルフ族に伝わる伝承というのが、どんなものなのか気になったけれど、今はゆっくり話している時間はない。そろそろ出発しなければ。
彼女の様子はどうだろう?
昨日は熱が高く、苦しそうにしていたけれど、少しは回復しただろうか。
「おはようございます。ボクもその話は初めて知りました」
「え!?」
あまりにも大人しいので気づかなかったが、少女は、ずっと起きて、こちらの話を聞いていたようだ。
僕とハインツさんの話が終わるのを待って、礼儀正しく挨拶してくれた。
「どういうこと……?」
状況が呑み込めず、ルドの顔を見る。
「ウィルが話し始めた直後に目を覚ました。昨日のように暴れる様子はなかったので、話が終わるまで待っていた」
「そんな……」
いや、どう考えても彼女の方が大事でしょ! もっと早く教えてよ。昨日は僕を暗殺しようとしてた子なのに、どうしてルドはこんなに落ち着いているんだろう?
「起きると正気に戻っているようだったので、問題ないと判断した」
僕の考えていることが伝わったのか、ルドが答える。
「どうやら、昨日は、薬か何かを飲まされ、操られていたようだ」
「え、そ、そうなの……?」
にわかには信じがたく、直接少女に聞いてみることにした。
「はい、こちらのおじさんの言う通りです」
「おじさ――!?」
あ、ルドが絶句している。おじさんと言われてショックだったんだろうな。でも、この子から見たら、ルドは立派なおじさんだと思うから、仕方ない。
「ボクが覚えているのは、怪しい人たちに捕まって、無理やり何かを飲まされたところまでです。なぜ自分がここにいるのか、よくわかっていません」
「そんな……。その、怪しい人たちに捕まる前はどうしてたの?」
もし家族がいるなら、連れて行ってあげたい。
「家族はいません。父はよく知りません。母は、小さい頃に病気になって、死んでしまいました。その後は、孤児院で暮らしていました」
「そうだったんだね」
何と言うことだ。こんなに健気に生きている子供に、そんな酷いことをした奴はどこのどいつだ!
「お前に何かを飲ませた奴らの顔は覚えているか?」
「――すみません。布を被っていたので、顔まではわかりません。ただ、2人組でした」
「そうか」
今になって、思い出したのだろう。少女の身体が小刻みに震えている。
それを見て、僕は思わず、小さい体を抱きしめた。
「怖かったね。でももう大丈夫だよ。僕たちがついているからね。そうだ! 自己紹介がまだだったね。僕はウィル。それで、こっちのおじさんがルドで、あっちのエルフさんが、ハインツさん」
「おじさ――!?」
あ~うっかり失言してしまった。またルドが絶句してしまった。
「あ、ボクはエタっていいます」
「エタちゃんだね。よろしく」
安心させようと、笑いかけたのに、エタちゃんはぷくっと可愛らしいほっぺを膨らませた。
「ボクは男です!」
「え!?」
「だから、エタちゃんはやめてください!」
「え~!?」
そんな、嘘だろ!?こんなに可憐な子が男の子だって!?
僕の考えがわかったのか、さらにほっぺを膨らませる。
「エタでいいです。 それより、ボクお腹が空きました!」
なんて変わり身の早さだ……。いや、でも、腹が空いては戦はできぬというしな。
細かいことは、空腹を満たしてから考えることにしよう。
翌朝、ルドの声で目を覚ました僕は、彼の肩に頭をもたれかけたまま、眠っていたことに気づく。
「あ、ルドごめん! 重かったでしょ?」
「大丈夫だ。それより、よく眠れたか?」
「う、うん。ルドのおかげだよ。ありがとう……」
お礼を言って、慌てて頭を起こす。うっ……ちょっと涎垂れてたかも。さりげなく口元を拭った。
「おはようございます!」
ハインツさんも、元気に挨拶をしてくれる。
「あ、おはようご――」
あれ~? まだハインツさんの目がジトっとしている気が……。
ニコニコニコニコ
――なんだか無言の圧力を感じるような――あ! そういえば、僕の髪色って、今――
「ウィルの本当の髪色は、そんな色をしていたんですね!」
「うわぁっ!」
さっきまで向かいに座っていたハインツさんが、いつの間にか、僕と10cmもないくらいまで顔を近づけてきていた。
それ以上近付いてこなかったのは、ルドががっしりとハインツさんの頭を押さえているからだった。
そうか、とうとうバレてしまったか。
ハインツさんと初めて会った日は夜だったから、何とか誤魔化せた。昨夜見られていたとしても、暗かったので、今回もなんとか誤魔化せるかと思ったが、こんな明るい中で見られてしまっては、もう無理だ。
「とても珍しい色をしていますね~」
不気味がられるかと思っていたが、ハインツさんの反応をみると、そんな様子はない。
「あの、僕の髪色を見ても、気持ち悪くないんですか?」
「え? 別に、気持ち悪くなんてないですよ? どうしてですか?」
「え――? だって、有名な伝承に登場する悪魔と同じ色ですよ……?」
「え?」
「え?」
ハインツさんと見つめ合いながら、二人して『え?』を連発する。
もしかして、ハインツさんて、あの有名な伝承のこと知らないのかな?
「有名な伝承とは、どのような話なのですか?」
やっぱり。ハインツさんは知らなかったんだ。せっかく知らなかったのに、あえて教えるのは気が引けたが、促されて、伝承の内容を話すことにした。
その内容は、こうだ。
遥か太古の時代、まだこの地上に神々が住んでいた頃の話。
神々の中に、ひと際、美しい神がいた。
彼は、闇を司る神で、人々に安らぎを与えていた。
地上には、神の他にも、人間、エルフ、ドワーフ、妖精など、様々な種族が暮らしていたが、異なる種族間で交わることは禁忌とされていた。
しかし、闇の神は、ある日、一人の妖精に恋をしてしまった。
どうしても諦めることができなかった闇の神は、妖精がどこへも行かないよう閉じ込め、来る日も来る日も愛を囁いた。
しかし、妖精は次第に弱っていき、やがて死んでしまう。
愛する人を失った闇の神の心は壊れ、神の力を制御することができなくなり、その力を暴走させてしまった。
その結果、世界は暗闇に覆われ、神々以外の生命は、皆死に絶えてしまった。
闇の神は、愛する人を死なせた自分を恨み、他の種族を滅ぼした自分を恨み、絶望に打ちひしがれた果てに、全てのものを恨むようになってしまった。
そうして誕生したのが悪魔だった。
悪魔と化した闇の神は、神の心を完全に失い、破壊の限りを尽くしたが、団結した他の神々によって討ち落とされたのだった。
「そして、闇の神は、黒髪・黒目という外見だったので、それと同じ色の髪と目をした僕は、不気味がられることが多いんです」
「そうですか……。そんな伝承があったのですね」
伝承の内容を聞き終えると、ハインツさんは何やら考え込んでしまった。
「何か気になることがありましたか?」
「いえ、エルフ族に伝わる伝承とは、内容が違ったものですから……」
「え、そうなんですか? どんな話なんですか?」
「ええ、ただ、違いが多すぎるので、もしかしたら別の伝承かもしれません。それはまた次の機会にお話ししましょう」
「わかりました」
エルフ族に伝わる伝承というのが、どんなものなのか気になったけれど、今はゆっくり話している時間はない。そろそろ出発しなければ。
彼女の様子はどうだろう?
昨日は熱が高く、苦しそうにしていたけれど、少しは回復しただろうか。
「おはようございます。ボクもその話は初めて知りました」
「え!?」
あまりにも大人しいので気づかなかったが、少女は、ずっと起きて、こちらの話を聞いていたようだ。
僕とハインツさんの話が終わるのを待って、礼儀正しく挨拶してくれた。
「どういうこと……?」
状況が呑み込めず、ルドの顔を見る。
「ウィルが話し始めた直後に目を覚ました。昨日のように暴れる様子はなかったので、話が終わるまで待っていた」
「そんな……」
いや、どう考えても彼女の方が大事でしょ! もっと早く教えてよ。昨日は僕を暗殺しようとしてた子なのに、どうしてルドはこんなに落ち着いているんだろう?
「起きると正気に戻っているようだったので、問題ないと判断した」
僕の考えていることが伝わったのか、ルドが答える。
「どうやら、昨日は、薬か何かを飲まされ、操られていたようだ」
「え、そ、そうなの……?」
にわかには信じがたく、直接少女に聞いてみることにした。
「はい、こちらのおじさんの言う通りです」
「おじさ――!?」
あ、ルドが絶句している。おじさんと言われてショックだったんだろうな。でも、この子から見たら、ルドは立派なおじさんだと思うから、仕方ない。
「ボクが覚えているのは、怪しい人たちに捕まって、無理やり何かを飲まされたところまでです。なぜ自分がここにいるのか、よくわかっていません」
「そんな……。その、怪しい人たちに捕まる前はどうしてたの?」
もし家族がいるなら、連れて行ってあげたい。
「家族はいません。父はよく知りません。母は、小さい頃に病気になって、死んでしまいました。その後は、孤児院で暮らしていました」
「そうだったんだね」
何と言うことだ。こんなに健気に生きている子供に、そんな酷いことをした奴はどこのどいつだ!
「お前に何かを飲ませた奴らの顔は覚えているか?」
「――すみません。布を被っていたので、顔まではわかりません。ただ、2人組でした」
「そうか」
今になって、思い出したのだろう。少女の身体が小刻みに震えている。
それを見て、僕は思わず、小さい体を抱きしめた。
「怖かったね。でももう大丈夫だよ。僕たちがついているからね。そうだ! 自己紹介がまだだったね。僕はウィル。それで、こっちのおじさんがルドで、あっちのエルフさんが、ハインツさん」
「おじさ――!?」
あ~うっかり失言してしまった。またルドが絶句してしまった。
「あ、ボクはエタっていいます」
「エタちゃんだね。よろしく」
安心させようと、笑いかけたのに、エタちゃんはぷくっと可愛らしいほっぺを膨らませた。
「ボクは男です!」
「え!?」
「だから、エタちゃんはやめてください!」
「え~!?」
そんな、嘘だろ!?こんなに可憐な子が男の子だって!?
僕の考えがわかったのか、さらにほっぺを膨らませる。
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