【完結】父を探して異世界転生したら男なのに歌姫になってしまったっぽい

御堂あゆこ

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第24話 詐欺っぽい

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「完売しましたよ~!!!」
一足先に部屋に戻り、ルドにひっついて体力の回復をしていたところに、ハインツさんが上機嫌で戻って来た。
「完売したって、もしかして、あの胡散臭いペンダントですか?」
「ええ。 袋に入れてどれが出るかわからなくしたのが功を奏しました! 一人五個はお買い上げくださいましたよ! 500個在庫を用意していましたが、完売しました。 売り上げは二十五万マイロです! 安い既製品のペンダントに、私の魔術でウィルの絵姿を嵌めこんだので、原価は安いんです。 純利益を見ても、二十万マイロはありますよ!」
「二十万マイロ……」
 リヒトリーベだったら、数年は働かなくても暮らしていける額だ。前世なら、肖像権の侵害で、ハインツさんを訴えるところだが、善意でやったことだろうし、これ以上突っ込むことはやめよう……。

 ――トントン
 誰かが部屋のドアをノックした。
「はい、何でしょう?」
 ドアの前に立っていたハインツさんが、応対する。
「あ、俺です」
 いや、誰だ? 一瞬オレオレ詐欺かと思ってしまった。
「今朝、一緒にウィルちゃんと食事した……」
「あぁ! こんばんは」
 よく見ると、今朝ハインツさんのカツアゲにあい、僕たち全員に朝食を奢ってくれた二人組の男たちだった。
「どうしたんですか?」
 さすがにルドにひっついたままというわけにもいかず、身体を話して、立ち上がる。
「さっきは、すっごく感動した!」
「あ、ありがとうございます」
 わざわざ、感想を伝えに来てくれたのだろうか。
「それで、今朝、エルフの里について聞いてただろ? あの後俺たちも気になって、色んな奴らに聞いてみたんだけど、やっぱり、17年前の大火で焼失した後、復興したって話を知っている奴はいなかったんだ」
「そうですか……」
 彼らは、僕たちの話を聞いた後、色んな人に聞き込みをしてくれていたようだ。どこまでも人の良い男たちだ。
「ただ、変な噂を聞いたから、一応、伝えておこうと思って」
「変な噂ですか……?」
「ああ。エルフの里が消失する原因になった火災は、自然火災が原因とされているが、実は、どこかの国が、エルフ族を滅ぼそうと、故意に火災を発生させたって話さ」
「そんな――」
「あくまで、そういう噂もあるってだけで、陰謀論の類が好きな連中が、あることないこと吹聴している可能性もあるが、エルフの里を捜してるってんなら、頭に入れておいた方がいいかと思って伝えに来た」
「そうでしたか……わざわざありがとうございます」
 驚きの情報をくれた男たちに丁寧にお礼をいうと、彼らは、僕に紙切れを渡して帰っていった。紙に書いてある文字を見ると、彼らの名前と、連絡先が書いてあった。
 この世界では、携帯電話やメールというものはもちろんないので、連絡先と言っても、彼らが登録している冒険者ギルドと、登録番号が書いてある。
 各地にある冒険者ギルドでは、冒険者登録した者に、固有の番号を付与する。その番号宛に、特殊な魔術を用いて、書面を送ることができるのだ。
 送られた書面は、各ギルドで一定期間保管され、本人が行くと、保管されていたものを受け取ることができる。特殊な魔術の内容は公開されておらず、冒険者ギルドの専売特許となっている。
 ちなみに、彼らの名前は、クシャと、トリヤだ。何となく、前世で聞いたことがあるような響きだ。
「ウィル、何を渡されたのですか?」
 ハインツさんが、覗き込んできた。
「あ、これ。彼らの名前と、冒険者ギルドの連絡先みたいです」
 受け取った紙を、ハインツさんに渡す。
「なんと……油断も隙もありませんね! ウィル、これは破棄してかまいませんね?」
「えっ――」
「下心が見え見えです! いいですね? 破棄しますよ?」
 僕が異を唱える間もなく、ハインツさんは、彼らの連絡先が書かれた紙を、燃やしてしまった。
 多分、僕から連絡することはないだろうから、別にいいんだけど、何もそこまでしなくてもいいのではと思う。

「それより、ハインツ。17年前の大火が、どこかの国の陰謀だという話は本当か?」
 クシャとトリヤが帰ったあと、ルドがハインツさんに問いかけた。
「ええ、そのような噂があるのは私も存じています。しかし、当事者の私たちでさえも、それが本当かどうかを確かめる術はありません……」
「ハインツさん……」
 火事で、住む場所を失うことだけでも、想像もできないくらい辛いことのはずだ。それなのに、その原因となった火事が、誰かの手によって、故意に引き起こされたものだっとしたら、一体どんな気持ちになるだろう。
 普段は明るいハインツさんが見せた、暗い表情が、その心中を表しているようだった。
「それよりも、明日からの行程を話し合いましょう!」
 暗い雰囲気になったのは一瞬で、ハインツさんが明るい声で、提案する。
「そうですね! さっき宿屋の店主に地図を貰って来たので、それを見ながら考えましょう」
 これ以上尋ねると、人の心に土足で踏み込むことになるような気がして、僕も明るい声で、ハインツさんの提案に応えた。
「考えたのですが、今日の稼ぎで、馬を飼うのはどうでしょう?」
「馬ですか?」
「ええ。歩いて森を歩くよりも、体力の消耗は少ないはずです」
「確かにそうですね」
「この川と崖を結んだ、丁度中間あたりにあるはずなのです。あとは、入り口を見つけるだけなのですが、なんせその入り口は、念入りに隠されているものですから……」
「この場所だったら、本当にもうすぐですね。馬があれば、半日もかからないように見えます」
 ハインツさんを中心に、明日の行程を念入りに確認した後、明日に備え、僕たちはベッドに入ることにした。
 馬かぁ! 前世では、撮影で数回乗ったことがあるが、転生してからは、移動は常に馬車だったので、本格的に馬に乗って移動するのは初めてだ。ワクワクする!
 歌を歌って疲れていたが、遠足前の子供のように興奮してしまい、すぐ寝落ちする僕にしては珍しいことに、結局、寝付いたのは、ベッドに入ってから数時間後のことだった。
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