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第25話 もしかして暗殺者っぽい?

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 翌朝、廊下がにわかに騒がしく、目を覚ました。
「ウィル、起きろ」
 ルドに揺さぶられて目を覚ます。
「ん……おはよ。なんか騒がしいけど、どうしたの?」
「まだわからない。様子を見てくる。ウィルはここにいろ」
「わ、わかった」
 ルドの様子から、緊張感が伝わってくる。部屋の様子を見回すと、ハインツさんも起きているようだ。
「ハインツさん、おはよございます」
「おはようございます、ウィル。今日も美しいですね」
 ハインツさんがかけたくれた闇魔術は、ルドの光魔法のように、何度もかけなおす必要がないのが便利だ。おかげで、一晩眠った後でも、僕の姿は女性のままを保っている。
 エタはまだ眠っているようだった。
「何事だ」
 部屋のドアを開け、周囲を伺っていたルドが、通りかかった宿の店主を捕まえて、尋ねる。
「それが――」
「何だって!?」
 ルドが突然大声を出したので、思わずビクっとしてしまった。その声に、エタも目を覚ましたようだ。
「むにゃ……ウィル? おはよ」
「エタ、おはよう」
「どうしたの?」
「今、ルドが確認してくれてるから、大丈夫だよ」
 エタを安心させようと、抱っこしたところに、ルドが、何が起きているかを知らせてくれる。
「昨日の二人組の冒険者が、大けがを負って、発見されたらしい」
「え!?」
「発見が少しでも遅ければ、命はなかったそうだ」
「そんな……!」
「今のところは、まだ息はある。だが、この村には大きな病院もなく、医者が隣の町から来るのに2日以上はかかるらしい。それまでもつといいんだが……」
 昨日のことを思い出す。目が合って、恥ずかしそうにしていたクシャさんとトリヤさん。夜は、歌の感想と、エルフの里の情報をわざわざ教えに来てくれた。そんな、気のいい二人が、なぜ……?
「彼らは、一番奥の部屋を使っていたんだが、朝食の仕込みで、いつもより少し早く起きて作業してると、何かが割れる音が二階から聞こえたんだ。そんで、確かめに来たら、奥の部屋のドアが開いていてな。中を確認すると、彼らが血を流して倒れていたんだ」
 そう説明してくれた店主も、困惑しているようだ。
「何かが割れる音って――もしかして、誰か侵入したんでしょうか?」
「それはまだわからん。ただ、宿の入り口は一つだけだし、俺が二階に上がったときには誰もいなかったから、おそらく、その窓を割って入って、逃げたんだろう。宿泊客は全員いるのを確認したから、外から侵入した誰かにやられた可能性は高いな」
 まさか、こんなところまで、暗殺者が追ってきたのだろうか? だとしても、なぜ、彼らを狙ったのだろう?
「ルド、もしかして――」
「ああ。暗殺者の可能性も否定はできない。だが、だとすれば、ウィルじゃなく、奴らを襲ったのが説明できない」
「そうだよね……」
「とにかく今は、昨日立てた計画通りに、エルフの里を目指すのが最善だ」
 ルドの言うことは尤もだった。でも、襲われたという二人のことが心配でたまらない。
 医者が到着するのに二日はかかるというし、もし、それまでに二人の状態が悪化したら……?
 何とか自分にできることはないかと、考えて、思いついた。
「そうだ――! 僕の回復魔法を使ってみてもいいかな?」
「だが――」
「急いで出発したほうがいいのは分かってるんだけど、二人にはお世話になったし、僕にできることは、全部やりたいんだ」
「――――わかった。だが、医者の到着までは待てない。遅くても、今日の正午までにはここを出る。いいな」
「うん、わかった」
 以前のルドは、こんな風に、僕の意見を汲んでくれることはなかった。だけど、今は、安全を考えつつ、僕の意見も尊重してくれるようになった。少しずつ、僕を一人の男として認めてくれるようになった気がして、嬉しかった。
「あの、わたしは回復魔法が使えます。試してみてもいいですか?」
「何だって!? そりゃもちろん、お願いできるか!?」
 店主の案内で、彼らの部屋へ向かった。

「ひどい……」
 彼らの部屋に入ると、凄惨な光景が広がっていた。部屋は物色された後なのだろうか、荒れに荒れている。
 ベッドに横たわった彼らは、応急処置はされているが、巻かれた包帯には、血が滲んでいる。
 急いで彼らの近くに寄ると、僕は、回復魔法を発動した。
「――――っ!」
 ありったけの魔力を籠めるが、彼らの傷が癒える様子はない。やっぱり、僕の初級回復魔法じゃ助けられないのか。何もできない自分が歯がゆくて、何かないかと頭をフル回転させた。
 そういえば、以前、フライハルトの酒場で歌っていた時、僕の歌には癒しの力があるんじゃないかって言っていた人たちがいて、エタの容体がなかなか良くならなかったときに、試したことがあった。
 あの時は、歌った直後に、エタの熱が下がったけど、まさか、僕の歌の力だとは思っていなかった。
 でも、他に方法がない今、試してみる価値はあるよね!
「~~♪」
「ウィル?」
 突然歌いだした僕を、ルドが心配そうに見ている。
 迷った挙句、僕は、前世で、イタリアのテノール歌手とカナダ出身の歌手が歌っていた祈りの曲を歌うことにした。彼らが回復するよう祈りを込めて歌う。
「~♪~♪」
 二人で歌っている曲を一人で歌うので、完璧には歌えなかったが、その分、心を込めた。
「うっ……」
 曲も終盤に差し掛かった頃、今まで意識不明だった二人がわずかに動いた。
「――!?」
「大丈夫ですか!?」
「うぅ……あれ、ウィルちゃん?」
「何で……?」
 良かった! 二人とも、意識を取り戻したみたいだ。本当に良かった――
「ウィル!?」
 安心して、一気に力が抜けてしまい、僕はそのまま倒れこんだが、今回もルドが受け止めてくれたので、身体を床に打つことは避けられた。
 だけど、睡眠不足と、直前に回復魔法で大量に魔力を消費したこともあり、今回は、いつにも増して、消耗が激しい。僕はルドに抱えられたまま、気を失った。
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